ねこと一緒に転生しちゃった!?
030話 本当ですか!?
『ローティルの街』。それが今回、遠征で集まる街の名前である。
この街は、人間領を超え、獣人領へと入ってすぐの大きい街であり、主に人間領と獣人領を行き来する人々が利用する事が多いところだ。
また、街と言うだけあり、まあまあ大きい。私が拠点としている都市に比べればまだまだだが、ここは街の中でも大きい方だと言えるだろう。
景観もなかなかのもので、生活するなら申し分ないと思う。
そして私達は何度か魔物に襲われながらも三週間の旅を経て、無事に『ローティルの街』へ到着した。
到着後は前回の遠征同様、冒険者協会へと向かわなければならない。そういう事もあり、私達は馬車を降りて協会を探す事になった。
街中を歩いていると、行き交う冒険者の数が妙に多い事に気付いた。エルフ、獣人、人間の三種族が主に見られ、稀に竜人やドワーフを見かける。
そのほぼ全ての冒険者がピリピリとしていた。表情は固く、何か深刻な問題が自分達に取り巻いていると言っているようだ。
「うーん? なんだかみんな怖いねー」
「それはしょうがないのかもしれんな。ここにいる冒険者達は俺達と違って、既に協会から話を聞いているはずだ。今回の魔物がどれだけ危険な魔物なのかっていうのをな」
「それはそうなんだけど……それ以上に深刻っぽくて……」
私も同じ事を感じた。
冒険者として生活していく上で、強大な力を持つ魔物が現れる事は、偶にだけどある。そのせいもあって、あまり魔物の力に対する絶望感のようなものは感じない。
それは決して私だけでなく、例を挙げるならハピネスラビットの人達も同じだと言える。勿論、他の冒険者も同じだろう。
ならば、支部長から魔物の話を聞いただけで、こんなにも深刻な表情を作る訳が無いと思う。
何か他に決定的な問題があったと考えるべきだろう。
「協会に行って聞いた方が早いんとちゃう? 冒険者がここまでピリピリしてるのに、協会が把握してないって事はないと思うんやけど」
「そうだな。こいつの勘は良く当たる。もし何かあったのだとしたら早急に対応すべきだもんな」
「じゃあ、早く協会までいかなあかんな。場所分かるん?」
「大まかにだが。最悪、誰かに聞けばいいだろう」
「そやね」
そういう事で、協会へ急ぐ事となった。
協会はここから遠いのかと思いきや、割と近いところにあった。その為、見つけるのも早く大した時間を費やすことも無かった。
ただ、その協会から出てくる冒険者達は、みな一様にピリピリと深刻な顔をして出てくるのだ。その雰囲気は凄まじいもので、今まで感じた事のないようなものだった。
「一体何が――」
私が『あったのでしょうか?』そう続けようとした時だった。協会の中から大きな音と怒号とも呼べる声が聞こえてきた。
「何かが起きてるようだ! 行くぞ!」
私達は中の様子を見るために、急ぎ協会の入口をくぐった。
そして、私の目に飛び込んで来たのは、机や椅子がひっくり返り、時には壊れてバラバラになっている、荒れた協会だった。
――おい! それ以上はやめろ!
――うるさい! 俺はやめねぇぞ! こいつらの軽薄な行動のせいでどれだけ危険な状況になったと思ってんだ!
――それはそうだが……
そんなやり取りをしている方を見ると、大勢の冒険者が一ヶ所を取り囲んでいた。その中心で何かが起きているようだ。
「俺達も行ってみるか……」
何が起きているのかを確認する為に、騒動が起きている方へと足を運ぶ。
「すいません……ごめんなさい……許してください……」
一番最初に見たものは痣だらけになり、地面に伏して涙を流しながらずっと謝り続ける男性だった。
そして次に見たものはその男性に向かって、敵意を向ける男性だった。
周りの冒険者達はその謝っている男性を蔑んだ目で見ている。誰が悪事を働いたかなんて火を見るより明らかだ。
「謝ってどうにかなる問題じゃねぇんだよ! お前達の行動で何人が死んだと思ってる! 貴重な戦力をここで削いだんだぞ! そうなるとは思わなかったのか!」
「…………」
「なんか言えやッ!!」
「もう、やめてやれ。こいつだって反省はしているはずだ」
「反省? 反省したら死んだ奴は戻ってくんのかよ。反省したらなんでも許されんのかよ。俺は許さねえ。反省してようがしてまいが、こいつらのした事は冒険者としての自覚が欠けてた事なんだからよ」
「だからと言って、ここまでする事じゃないだろ」
「こいつらの行動は人を殺した。それ相応の報いを受けるべきだ。みんなもそう思うよなー?」
「あぁ、そうだ!」「お前らのせいで!」「なんて事をしてくれた!」「許さねぇ、絶対許さねぇ!」
周りの冒険者達が一斉に声を張り上げた。今まで溜まっていた鬱憤を晴らすように、恨み辛みをぶつけるように、ただ、ひたすらに声を張り上げる。
「…………」
「お前らのした事はこれだけ恨まれるような事だ。『俺達だけでも勝てる』、『俺達が一番強い』そういう慢心が仲間を殺し、他人を殺し、そして自分を殺すんだよ」
「っ!」
「俺はお前らのような奴一番嫌いだ。冒険者の自覚もなく、ただ、楽しんでるだけの奴がな」
その言葉に何も言い返さずに俯く男性。静かに涙を流し、自分の今までが言われた通りで納得したんだろう。
「チッ。おい、行くぞ」
「なんだよいきなり」
「こんな所で油を売ってる暇なんてねえ。これからどうすればいいか話し合うぞ。奴らはまたすぐに攻めてくる。それを何としても食い止めるんだ」
「あぁ分かった」
怒号を飛ばしていた男性は足早に協会から立ち去って行った。周りの冒険者達はそれを見届けると、さっきの男性と同じ様に話し合いをする為だと言って何人かのグループに別れて、この場から離れて行った。
「今のなんだったの?」
「さあな……ただ、話の内容から何があったのかは察したが。詳しい事は協会の人に聞こう」
私達は詳しい話を聞く為に受付に向かう。ついでに、到着したという報告もする為に。
「すいません」
「はい、どうかなされましたか?」
「パーティ、ハピネスラビットなんですけど……」
「遠征でおこしの方ですね。……えっと、六人ですか?」
「私はハピネスラビットではなくソロのフィーです」
「失礼しました。ハピネスラビット御一行とフィー様ですね。長旅お疲れ様でした。こちらの方で宿は取ってありますので、そちらでおやすみ頂ければと思います」
「ありがとうございます。それと、話は変わるんですが、先程の揉め事は一体何が?」
「簡潔に話しますと、先日、先程責め立てられていた男性のパーティが無謀にも単体で今回の目的である魔物達と交戦し、怒らせてしまったのです。そのせいで、この街の近くまでその魔物達が攻めてきて、準備の整っていなかった冒険者達が駆り出され、そして何人もの方が亡くなったのです」
それを聞いた私達は唖然とした。私達がこの街に辿り着く前にそんな事件があったとは思わなかったのもあるけど、それ以上に、パーティ単体で勝負を挑んたという事に驚いている。
今回の遠征で集められる冒険者達は、例の魔物を倒す為に呼ばれている。逆に言えば、例の魔物を倒すには、腕の立つ冒険者を世界各地から集めなければならないという事だ。
この事くらい誰が考えても分かるはずなのに、そのパーティは単体で勝負を挑み、負けて、あまつさえその尻拭いを他の人に頼るしかなかったなんて聞けば誰でも唖然とする。
そしてその尻拭いをしたせいで何人もの冒険者が亡くなったとあれば大問題だ。先程の男性冒険者はただ、怒っていただけでなく、これからどうするかにイライラしていたのだろう。
「怒らせた魔物の名は、ウルフテンペスタ。上級以上の風魔法を扱う危険な魔物、だそうです」
「なっ!? 魔法を扱う!? それも上級以上のだだって!?」
「はい。あの魔物達は危険すぎるため、冒険者の方が集まるまで放置している予定だったのですが、完全に予定が崩れました。協会としましてもどうしたものかと議論中です」
ちょっと危険すぎる魔物だ。今まで出会ってきた魔物の中で魔法を扱うものなんていなかった。その為、基本は接近して物理攻撃が主流であり、魔法を使う者相手での戦い方なんて殆どの者が知らない。
また、扱う魔法が上級以上となれば、軽く数人を殺す事が出来る。そんなものを魔物が扱うのならとんでもない脅威となる。
「魔法の上級って何の事なの? 私、魔法について全然知らない」
「お前……それくらい常識だろうが……まあ、うちのパーティで魔法を扱う奴は居ないからな」
「私でもいいのなら、ある程度説明出来ますよ」
「本当ですかフィーさん。よろしくお願いしてもいいですか?」
「はい、任せてください」
魔法を主体として戦う私にはどうしても必要な者だった為、魔法についてはある程度勉強をしている。詳しいところまでは流石に分からないが、魔法の級の説明なら出来るだろう。
「えー、まず魔法には主に火、水、土、風の四つの属性があります。扱える属性は人によって違いますが、殆どの場合はこれらの魔法に落ち着きます。そして、それぞれの魔法には、強さの指針となる級が設定されています」
「級って言うのが、さっきの上級とか言うやつ?」
「そうです。級は下級、中級、上級、極級、神級の五つに別れてます。大体の魔法使いは上級までならある程度は使えますが、それ以上となると、その人の資質と弛まぬ努力が必要です」
「じゃあ、ウルフテンペスタって魔物が上級以上を扱うってやばい感じ?」
「はい。相当な脅威でしょう」
とりあえず、今の説明である程度の理解は出来たみたいで良かった。上級以上の魔法と聞いて脅威だって分かれば上々だと思う。
「……私達じゃ足引っ張るだけじゃないかな?」
「うちも同じ事思った。魔法を使う相手と戦うなんてやったことないやん? 普通の魔物ならまだしも今回の魔物は無理やと思うんやけど」
「いえ、それは大丈夫ですよ」
横から今までの話を聞いた受付の人がそれは心配ないと言う。
「今回の魔物が脅威なのは魔法が使えるだけでなく、その配下が多くいる為なのです。その配下は魔法を使いませんが数が多く、統率もとれているので一筋縄ではいきません。先日の戦闘ではそれが脅威となって、亡くなった方が多かったのですから……。皆様にはその配下との戦闘に加わって貰えればと思います」
「それなら私達でも役に立てそう!」
「そやね。うちらはうちらの出来る事をするだけやね」
「私はウルフテンペスタの方ですかね? ただ、配下の方も一気に殲滅する事が出来ると思いますけど……」
「えっと……フィー様に限っては支部長より伝言を預かってまして、『ソロでパーティ何隊分かの戦力になるって聞いた。それ程の力があるなら思う存分かましてこい。それで他の冒険者の負担が減るなら御の字だ』との事です」
「「「えっ……それはヤバいやつ……」」」
「本当ですか!? 好きにしていいって支部長からの了承を得てるって事でいいんですよね!?」
「は、はい。その通りです」
「ふふふ……久しぶりに全力で魔法を撃てる……」
全力で魔法を撃つなんて、スライムを蒸発させた時以来。あの時の爽快感と言ったら言葉では表せない程のもの。それを今回もやっていいと言われたらやるしかない。むしろやらないと言う選択肢自体がないと言える。
「やべぇぞこれは……」
「ええ、やばいですね。支部長自ら獅子を起こすなんて思ってもなかったですよ」
「だが、それだけ切羽詰まっているということなのだろう。俺達は巻き込まれないように後方で待機していよう」
「つっても、巻き込まれる可能性は充分にあるじゃねぇか。あの規模の魔法放たれたら幾ら後方っていっても、熱量ハンパねぇよ」
「最悪、フィーさんだけで雑魚殲滅する可能性もありますし」
「「それがあるんだよな」」
「あんたらフィーさんが可哀想やろ、って言いたいところやけど、その通りになりそうで怒るに怒れないやん」
「あのー、支部長も言っていましたが、フィー様ってそんなにお強いんですか?」
「フィーさんはね! スライムを蒸発させたんだよ! あれ凄かったんだよね! ぐわぁーってなって、もわぁーってなったと思ったら、しゅーんってなったんだもん!」
「……??」
「要するにやね、フィーさんが魔法を放って、スライムに当たったら、みるみるうちに小さくなって、最後には核だけ残った、って言ってるんよ」
「そ、そんな事が?」
「うちら直で見てるし、間違いないよ」
「それは逆に大丈夫なんでしょうか……」
「それがうちらも分からへんのよ。今までフィーさんに力抑えてって言ってたんやけど、こうなったらもうどうしようもないんよ」
「そのようですね……」
そんな事を言われているなんて知らない私は、尚も自分の世界に入り込んで配下の群れをどう殲滅しようか考えていた。
「火を雨のように降らせてもいいし、火の天井をを作って押しつぶしてもいいかも。それとも普通に火を飛ばして目の前の魔物から消していこうかな……あぁ、力を解放するのが楽しみ過ぎる!」
これを聞いていたハピネスラビットのみんなが呆れて物が言えなくなっているなんて事に気付かず、それから十分弱のあいだ、これからの戦闘に思いを馳せるのであった。
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