ねこと一緒に転生しちゃった!?

十六夜 九十九

018話 俺にかかればこんなもの


「出来ました! やっと……やっと出来ましたよ! 青い炎を作れました! 出来た時はこの時の為に生きてたって感じましたよ! やったー!」

「そこまで言っちゃうのか。でもまあ、おめでとう」

 さて、『エクスウェルト』に飛ばされて一ヶ月が過ぎた今日。
 俺がいつもの様に勉強をしていると、昼前に仕事からフィーが帰ってきた。いつもならこの時間には戻って来ないはずなのだが、今日がフィーの青い炎発動記念日になりそうなくらいに感極まって帰ってきた。
 生きてると感じるくらいに喜んで、美しい顔に満面の笑みを浮かべて報告をしてくるフィーが可愛い。ついでに年不相応なくらいに喜びを体で表してるのが微笑ましい。

「カナタさんのおかげです! 青い炎の存在と作り方を教えてくれたからこうやって出来たんです! ありがとうございます!」

「おう、いつもお世話になってるからな。少しでも恩返ししておかないと俺の気が済まないし」

「やっぱり、カナタさんは頭がいいです。あんな方法で青い炎を作ってしまうなんて」

「それほどでもあるかな、なんちゃって。今回に限っては閃きが多いから、あんまり俺の実力とは言えないんだよなー」

 青い炎の作り方。これは中学校時代のガスバーナーで火を青に変える方法から考えついた。
 ガスバーナーはガスと空気を混在させ、そこに火を着ける。要するに燃えるのに必要なものと燃えるのを助けるものが混在しているのだ。
 ではロウソクはどうかと言うと、ガスバーナーとは違って燃えるの助ける空気は燃えている外から供給している。だからこそロウソクの火は赤くなり、ほんの一部だけが青くなっているわけだ。
 これを踏まえた上で、魔法で作った炎がガスバーナーとロウソクのどっちよりかと言えば、ロウソクよりにほかならない。
 となれば簡単な話で、イメージでどうにか出来てしまうこの世界の魔法で火の中に空気を作ってしまえば早いのではないかと。そんな事が出来るのかは分からないが、魔法なら出来るんじゃねという俺の軽い考えだった。

 そしてそれを教えたのは、俺が魔力切れで倒れた日から一週間後のフィーが無詠唱を使えるようになった日だ。その日も今日と同じように大喜びをしていたが、目的は青い炎だという事で、すぐに次を目指し始めたので助言程度にと教えてみたのだ。
 すると目を輝かせて『それ、やってみせます!』と言うので、無碍にも出来ずに今日まで来たと言うわけだ。
 慣れない無詠唱を使いこなし、この世界にはない知識を振るい、自分の感性を信じたフィーの努力が実って良かったと心底思う。

 現実では、努力は報われる方が少ないかもしれない。結果が残せず、何が間違っていたかなんてその時点で分からないのだから正すことも出来ず。自分の不甲斐なさにただ胸を打ちひしがれて。マジなんなん、と悪態を吐くのだ。
 なにそれ俺じゃんと思ったのは秘密にしておいて、フィーの努力はそんなこと無く報われたので一安心だ。
 フィーの可愛い顔が泣き顔になったら俺の胸は痛むからな。ついでに俺の顔まで泣き顔になるレベル。……うわー需要ないわー。

「カナタさんの方はどうですか?」

「ん? これか? ふっ。俺にかかればこんなもの余裕で読める様になったぞ。と言うか、毎日六時間以上も読んでれば、一ヶ月である程度読める様になるもんだな。自分で書けって言われたらまだ無理かもしれないが」

 そもそも、辞書があったから読める様になっただけで、未だに読めない単語はいくつかある。それなのに書けと言われても無理だと言う他ないだろう。

「では次の段階に登って、聞き取りの練習をしましょう。カナタさんなら発音が分かるようになれば、書く事もなんとなくでいけるようになると思うんですけど」

「そりゃ買い被り過ぎだと思うぞ。だが、聞き取りというのはいいかもな。今まで単語の発音が分からなかったからほぼ文字の形で覚えてた様なものだし」

 まさに俺のセンスが光ったところだろう。俺自身形で覚えるという暴挙で読める様になるとは思わなかった。
 別に書いてある文字を対応するアルファベットに直して無理矢理読んでも良かった。でも、それをすると次の聞き取りの際にそれと混ざってしまうと思ったのだ。
 相当無茶をしたと思うが、まあ俺のセンスがあれば余裕みたいな? ごめんなさい調子乗りました。

「それで、フィーは今日のこのあと何するつもりなんだ? また仕事に行くのか?」

「いえ、本来なら今日はおやすみでしたので、もう仕事には行きません。でも、特に何かをしようと思ってるわけでもないです」

 これは丁度いいかもしれない。前々から作ろうと思っていたものを今日作って見よう。

「んじゃ、一緒に日時計でも作るか?」

「ヒドケイ?」

「フィーはどれだけ時間が経ったとか、今何時とかそういうの分からないの不便って思ったことない?」

「ありますけど、大体なら日の高さで分かりますよ?」

「まあそうなんだが、時間と言うのは割と曖昧なものでな。人の感じ方次第で、早くなったり遅くなったりする。フィーも経験あると思うが、退屈な時は時間の進みが遅いし、楽しい時は早い。そうすると時間とか分からなくなるかもしれないだろ?」

「そうですね。確かに、そういう事はあるかも知れません」

「だろ? 他にもずっと家の中に居て、これくらいの時間になったらこんな事しようとかも思える訳だ。無くてもいいけど、あった方が便利なら作っておけば無駄にはならないだろ?」

 色々御託を並べたが、要するに時計が欲しいだけだ。それにフィーと一緒に工作が出来るならそれはそれで楽しそうだしな。

「という事で、早速作ろう! エイエイオー!」

「お、おー!」

 そういう訳で、日時計を作る事になった。
 準備する物は、ハサミ、土台になる平たくて硬いもの、紙、棒、ペン。これくらいあれば十分だろう。
 それらがどこにあるあるのかをフィーに聞き、家の中から持ち出す。

「じゃあ作り始めるか。フィーにはこの紙に大きな円を書いてもらって十等分にしてもらいたい。十等分にした時の線は、短くていいからな」

「分かりました。頑張ります」

 さて、俺は土台を作る訳だが。この土台となる硬いものはどうしたものか。
 目の前にあるものは、ちょっと厚みのある大きな木の板だ。こんなのハサミではどうにもならない。切れるとしたら最低でもノコギリくらいだろう。
 しかも、この板は一枚しかないから無駄使いは出来ない。

「んー……どうすっかなあ……」

「にゃ」

 カヤが俺が悩んでいるのを察知したようで『私に任せて!』と言ってきた。顔の変化はないのだが、どこかドヤ顔をしている様な気がしなくもない。

「どうするつもりなんだ?」

「にゃ」

 シャキン、と音がなりそうなくらいに爪を光らせて見せるカヤ。どうやって光らせているかなんて聞くのは愚問だろう。どうせカヤの能力に決まってる。

「まさか、能力を使ったその爪で引っ掻くと木の板すらも切れるとか?」

「にゃん」

 そのまさかだった。流石カヤ。何でも出来てしまう。

「じゃあ切るのはカヤに任せる。俺がけがきをしたところを切ってくれ。頼んだぞ」

「にゃ!」

 『任せて!』と言ってくれるカヤを撫でながら、大体の形を頭の中で組み立てていく。形は折りたたみ式の手鏡のようになる予定だ。折りたたみにするには少し加工をしなくてはいけないので、開いた状態で固定する様にしよう。
 形はとりあえず決まったので、今度は寸法を決めていく。
 紙の大きさと、置く場所、使いやすさを考慮し、次々に寸法を決めていく。
 寸法決めが終われば最後のけがきだけなのだが、この世界に定規なんて殊勝なものがあるわけでもない。俺の勘だけが頼りだ。まあ、何とかなるだろう。
 というわけで、適当な長さの線を引いていく。俺の勘で引いているので少しズレたりするがそこは何とか修正をした。後はその線をカヤにシャっとしてもらうだけだ。

「さあカヤ! やぁっておしまいッ!」

「にゃー!」

 目にも止まらぬ早さで爪をシャシャっとしていくカヤ。というかマジで見えん。もう終わったし。

「にゃにゃー」

 『ドヤァ』いただきました。正確で早いとか職人技過ぎて俺いらない説。

「流石っす。マジパネェっす。先輩しか出来ねぇっす。ちょーリスペクトっす」

「にゃ」

「そっち楽しそうでいいなー……」

 二人して楽しく遊んでいると、隣から羨ましがる様な声が聞こえてきた。俺とカヤはその声を聞いただけで何かやばい事が起きる予感がし、恐る恐るフィーの顔を見ると目のハイライトが完全に消えていた。俺とカヤは恐怖に震えた。
 マ、マジパネェ……っす。

「カヤ! 俺の事はいいから早くフィーのところに行ってこい! 後は俺がやっておくから!」

「にゃ!」

 カヤも俺の狙いが分かったようで、いつものゆったりとした歩調では無く、素早い移動だった。
 フィーの元に着くと早速甘え始める。頬をすり、顔を舐め、肉球でぺたぺたし、尻尾を振りまくる。
 最後のやつは犬の喜びの表現だと思うが、そんな事すらも頭にないカヤは相当焦っているのだろう。こんなカヤを見るのは珍しいと言うより初めてだ。
 今後、フィーを放ってカヤと二人で遊ぶのはやめよう。そう心に誓った。

 さて、そんな起こるはずのない危険が起きながらも完成させた日時計。カヤの手によって改良を加えられたこの日時計は角度を調節可能になり、ほぼ完璧な十等分がされた物へと進化を遂げた。マジで俺いらねえ。
 カヤのお陰もあって早く終わり、今は丁度昼時だ。一番設置しやすい時間だ。

「よし、今から外に設置するぞ。と言っても窓の外だけど」

 この窓とはリビングにある窓を指している。この窓の外はベランダみたいになっている為設置するにはピッタリなのだ。

「設置の仕方は簡単で、真ん中に突き立ててある棒を太陽に向けて、棒の影が一番小さくなる角度にするだけだ。これは丁度真昼だから出来る事なんだぞ」

 角度の調節が可能であるから、最も簡単なやり方が出来る。本来なら、ここから見える太陽の角度を調べて、その角度にしてから設置しなければならないのだ。

「言われた通りに設置しました。……でもこれって中からじゃ確認出来ませんよ?」

「……はっ!」

 よく考えれば分かったことなのに失念していた。窓から光が差しているならば向く方角としては窓の外側に決まっている。なぜそんな簡単な事が分からなかったのだろうか。

「にゃ?」

「『鏡を使ったら?』って、日時計の対面に置くって意味? それだと左右反対になるだろ?」

「にゃ」

「そりゃあ仕方ないけどさ。でも、カヤが言う以外に方法もないもんな……今はそれでどうにかしておいて、今度どうにか出来ないか考えておこう」

「じゃあ使ってない鏡持ってきますね」

「すまん、俺が考えなしだったばっかりに」

「いえ、貴重な体験が出来たから何も謝る必要はないですよ」

 フィーは心からの言葉だと言わんばかりに慈しみを持った笑みを俺に送ってくれた。
 その笑みは、俺が即落ちして忠誠を誓うという幻覚まで見せたほど。どんだけだよ。

 フィーの鏡を設置した後からは、いつも通りの日を過ごした。ただ、いつもと違っていたのはカヤがいつもよりフィーと遊んでいたくらいだろう。
 カヤにとっては、フィーの目のハイライトが消えたのは余程怖かったようで。そんな事、一切知らないフィーは心底楽しそうで。
 そんな二人を微笑ましく思いがら、次に三人で出来る事がないかを探すのだった。

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