ねこと一緒に転生しちゃった!?
013話 炎魔法の火っていつも赤いよな
俺がこの世界に来て約一週間が過ぎた。この一週間は片手に辞書、もう片手には絵本が常備されていた気がする。
そのおかげと言ってはなんだが、辞書があれば標準語が割と読める様になった。今後の目標としては、絵本ではなく文学の本を読める様になる事である。だから、まだまだ辞書は手放せない。
以前にも思ったが、やはり標準語は英語に良く似ている。SVOとかSVOCとかそんな並びがそっくりだ。ちなみにSは主語、Vは動詞、Oは目的語、Cは補語である。
これが大体分かれば感覚で読める。とは言っても、初めて見る単語に出くわすと途端に分からなくなる。やはりここでも辞書は必須だ。
尤も俺が出来るのは読みだけであり、聞き取りや書き取りは全く出来ないし、話す事なんて以ての外で、まだまだ外に出て生活出来るほどでは無い。
この分では、フィーの負担を軽減するのはかなり先になりそうだ。不甲斐なさ過ぎて泣けてくる。それに、こんなのを自分の家に置いておくフィーの優しさにも泣けてくる。
ちなみにカヤは自由に過ごしている。ついこないだはフィーと夜を共にしていた。フィーの部屋から嬌声が聞こえてきたのはいい思い出だ。
フィー曰く、カヤは夜寝る時に隣で寝ていると押し潰されそうになるため人の姿を取るそうだ。
やっぱりカヤは知能指数が人並みに高くなっている気がする。今度色々試験をしてみよう。鏡を目の前に持ってきたらどうなるかとか、同じ絵柄を探せとか。
ちなみにカヤの一日は殆ど睡眠で終わっている。猫だから仕方ないっちゃ仕方ないが、食っちゃ寝してたら健康に悪い。
この前、カヤに『少しは動いておかないと太っちゃうぞ〜?』ってからかい気味に言ったら、怒りを買ってしまった。結果、俺の身体中が傷だらけになり、フィーに三時間ほど正座をさせられて説教を食らった。口は災いの元とはよく言ったものだ。
ちなみに傷は一分もしない内に治っていて、フィーに不思議がられたけど、魔法って事でゴリ押しした。流石に死なないとかいう体質になった事を教えると気持ち悪がられるからな。
それで、そのフィーなのだが今日は仕事をお休みするようで、お菓子作りをするみたいだ。彼女の趣味なのだそうだ。何ともまあ女子力の高いこと。
会社に居た、市販のチョコレートを溶かして型に入れ固めたやつを『手作りチョコレート 』とか言う意識高い系女子とは全然違う。手作りって言いたいならカカオ豆からチョコレートを作れ。もしくは市販のチョコレートを使った別のスイーツを作って手作りのチョコレートスイーツですって言え。でなければ俺は認めん。
まあ俺がチョコレートなんてもの貰う機会はなかったんですけどね。……べ、別に泣いてねぇし! 心の汗だし! 勘違いすんじゃねぇし!
「〜〜♪」
キッチンの方からフィーの鼻歌が聞こえてくる。お菓子作りが出来てご機嫌のようだ。
「フィー? 何作ってるの?」
「出来てからのお楽しみですよ〜♪ ふんふふーん♪」
俺の返答に音符マークが付くくらいにはご機嫌みたいだ。何それ超ご機嫌じゃん。
取り敢えず、フィーの作っているやつが出来るまで勉強をしておこう。時間は有効に使わないとな。ただでさえ俺は三十越えてるんだ、残された時間は四十年くらいしかない。その中でも動けるのは半分くらいだ。
更にこの歳になって、新しく覚えようと思ってもなかなかどうして……。
俺は自分の歳に少し落胆しながらフィーに貰った『人間族(他)の一般常識』という冊子を開く。
『第一部 赤ちゃんでも知ってる編』
……一体何部構成なんだろうか。それより赤ちゃんでも知ってると言うのは少し無理がある様な気がするのだが、ツッコんだら負けだろうか。
まあいい。先を読めば分かる事だ。
俺は次のページを開いた。
『一年は十六ヶ月。ひと月は二十五日で、一週間は五日。一日は二十時間。春は一月から四月。夏は五月から八月。秋は九月から十二月。冬は十三月から十六月』
うーん? 本格的に地球とは別物だな。一年は通算何日だ? えっと……四百日か。三百六十五日よりは長い。ただ、一日の時間が二十時間で地球よりも短いんだよな。
さてここで問題。実際に一年が長いのはこの世界と地球どっちか? ただし、一秒の価値は同じものとする。
まあ答えは地球なんだけどね。見た感じだとこの世界の方が長く感じるけど、見た目に騙されたら駄目だ。
そこで俺はある事に気付いてしまった。
地球の方が一年が長いのであれば、この世界での俺の歳は地球での歳より上なのではないのだろうか、と。
では、いざ計算を……って段階で、めんどくさいことこの上ないことに気が付いた。もう今の歳でゴリ押ししよう。誕生日も別段変える必要ないし、今のままでオッケーって事にしよう。変に歳とるの嫌だし。
「後は火を付けてと……『ファイア』」
「おぉ、魔法か!」
フィーは窯のような所に火をつける為に魔法を発動させた。俺はその様子をしっかり目に焼き付ける。俺もいつか使える様になりたいからな。
フィーが発動させた魔法は今のところ炎魔法と呼称しよう。その炎魔法は彼女の人差し指の先で小さな赤い火を作り出した。ライターの火とさほど変わらないだろう。
そして人差し指を窯に向けると、火がひとりでに窯の方へと飛んで行く。そして窯の中で火種となって燃え広がっていった。
「よしっ。十分に温まったらこれを入れていい具合に焼けるの待てば完成!」
「出来上がるのが楽しみだな」
「ふにゃ〜ぁ」
「カヤ用のお菓子も作ってますから安心してくださいねー!」
「にゃ」
「んー。カヤがめちゃくちゃフィーに懐いてるなあ。嬉しいような悲しいような」
カヤはフィーの足に顔を擦り付けてるらしい。ここからじゃあカヤの様子は見えないが、フィーの様子を見ていれば大体分かる。あの幸せそうな顔は間違いない。
「んもうっ! カヤはどうしてこんなに可愛いんでしょう!」
んもうっ! 悶えてるフィーはどうしてこんなに可愛いんでしょう! ……キモイな。キモすぎだな。
取り敢えず、カヤ。お前ナイスだ!
「にゃ」
「はっ、そうですね。火はちゃんと見ておかないとダメですよね」
「猫に諭されるとか……」
ちょっと残念なところがあるけど、それもまた可愛い。カヤとフィーが一緒に入れば俺は眼福で、フィーは幸せになれるという一石二鳥。カヤは自由だからいつも楽しそう。
そんなカヤに諭されたフィーは窯の中の火をしっかりと見守っている。火事にでもなったら大変だしな。
俺も遠目から窯の中を見守っていた。中はピザ窯みたいな作りをしてるが、奥はそこまで深くない。
火は中でずっと燃え続け、中を温めている様だ。
「もういいくらいですね」
フィーは温まった窯の中にさっきまで作っていたものを入れた。何が出来上がるのか楽しみだ。
「後は焼き上がるのを待つだけです」
「お疲れさまー」
フィーは小休憩に入った様で、ゆったりとしながらカヤと戯れていた。美人なフィーと可愛いカヤのコンビはすごく絵になる。俺、絵下手だし誰かに描いてもらってそれを部屋に飾っておきたい。
魔法でどうにか出来ないだろうか。出来ないか。出来ないな。魔法は便利だけど、そんな絵を描く魔法なんて、そんなもの都合良くある訳ないだろう。
「俺も魔法を使える様になりたいぜ……」
「カナタさんは魔法使った事ないんですか?」
「一切ない。魔法がなかった世界から来たからな。魔法なんてテレビとか漫画の中だけだったわ」
「テレビ? マンガ? なんですかそれ?」
「気にしなくていいぞ。地球のちょっとした娯楽だと思っててくれ」
「そうですか?」
テレビとか漫画でも良く見るけど、魔法ってめちゃくちゃだよな。水を操ったり、風を起こしたり、炎を出したり、土を壁にしたり。どうやってそんな事してるんだろうな。
「そういえば、炎魔法の火っていつも赤いよな。どこを見ても赤以外を見ない。もしかしたら俺が見落としてるだけかもだけど」
「えっ? 火って赤色以外にもあるんですか?」
「ん? なんだ知らないのか?」
「知らないのって言われても困ります……。そもそも火は赤色というのが常識みたいなものですし……」
「なるほど。こういう時こそ常識をぶち壊していこう。という訳でロウソクある? あったらでいいけど持ってきてくれない?」
「分かりました。えーっと……確か非常用のものがここら辺に……」
フィーはロウソクを自分の部屋から持ってきて、机の上に置いた。もちろん燭台付きなので蝋が机の上に垂れる事はない。
そのロウソクに火を付けてもらい、淡く燃え上がる火を観察してもらう。
「このロウソクに付けた火をよーく観察してみてくれ。色の違いが分かるはずだ」
「…………? よく分かりません。別にいつもの赤い火ですけど……」
じっと火を見つめながら、分からないというフィー。恐らくは火全体を見ているのだろう。火の色が違うのは一部分で、しかも薄いのだから、全体を見ていては分からないはずだ。
「その火の外側をよーくじっくりと見てみ? 根元付近から上に青い炎が登ってるのが分かるから」
「……あっ! ありました!」
「だろ? これはな温度の違いで起こることで、青い炎は赤い炎よりも温度が高いんだ。ロウソクとかの場合、温度が高いと火の色は見づらくなっていくらしい。でもロウソクの根元が透明なのは別の理由があるってどっかで見た。確証はない。ただ、青い炎だけにする事は可能」
地球では、小学校でガスバーナーの使い方を習うからな。初めて見た時は感動したもんだ。空気調節ネジとかガス調節ネジとか覚えさせられたのを今でも思い出す。
もちろん今でも使い方は忘れていない。
「よく分かりませんけど、凄い発見ですよこれ!」
「そうか? フィーもやってみれば出来るんじゃない? 炎魔法を発動させて、大気中の酸素を取り込む量を徐々に増やしていけば青くなるし」
「……サンソってなんですか?」
「えっ、酸素知らないの?」
「サンソって言葉、今日初めて聞きました」
まさかだった。この世界では分子の構成などは学ばないようだ。割としっかりした文明を築いていたから、これくらいは知っているもんだと思ってた。
やっぱりこういう所は異世界のお約束というか、『魔法が発達したから技術は発達しにくい』みたいなそんなものがあるのだろう。
「そのサンソって言うものを教えてくれませんか?」
「いや、それは別にいいんだけど……」
教えるのは大いに構わない。寧ろ貰っててばかりの俺が提供できる数少ないものだし、教えない理由が見当たらない。
「何か教えれない事情でもあるんですか?」
「いやまあ、そんな事ないんだけど……」
ただ、フィーは大切な事を一つだけ忘れている。これを忘れたままだと、フィーは後悔するだろう。
「なんですか! はっきりしてくださいよ!」
自分で引っ張っておいてあれだけど、あんまり怒鳴らないで欲しい。この短い間での正座の記憶が蘇ってきちゃう。
まあ、ちっちゃと教えてあげますか。
「窯の方大丈夫?」
「はっ!? わ、忘れてたー!」
あわあわしながらキッチンの方へと向かうフィーはいつになく珍しい姿だ。
その姿をしっかりと脳内メモリーに保存し、保護を掛けた上で絶対に消去されないようにしておいた。なんて変態なんだろうな。自分が怖い。
「にゃ〜?」
「あんなフィー珍しいって? まあそうだな。あんな姿を俺達の前で見せれるくらいには親しくなったって考えれば嬉しいよな」
「にゃ!」
「だろ? だけど親しくなり過ぎて一線を超えないようにしないとな! ハッハッハ!」
「全部聞こえてますからね! カヤ、やってしまいなさい!」
「にゃ!」
「ぎゃー! やーめーてー!」
カヤが腕に噛み付いてきて痛みを感じながら、なおもあたふたしているフィーを眺めている変態な俺なのであった。
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