ねこと一緒に転生しちゃった!?
011話 今日は皆さん変ですね?
私は家を出てから直行で冒険者協会へと向かった。冒険者協会は、"協会"と言うだけあって、ある目的の為に存在している。
ただ、その目的というものはもう少し階級が高くなければならない。だけど、他の冒険者曰く、その目的の先には楽園があるらしい。
楽園が何なのかは固く口止めされているらしい。もし話した場合は、話した人も聞いた人も確実に闇に葬り去られるらしい。
いつか知る事が出来るのにそんなリスクを負う理由がないので、未だに情報が漏れる事はないらしい。
冒険者協会へ着くと、いつもの様に受付の窓口へと向かう。
「あっ、おはようございます!」
「おはようございます」
「そういえば昨日はフィーさんを見かけませんでしたね。お休みか何かを取られていたんですか?」
彼女は"エレナ"と言って、この街の協会の受付を仕事としている。
私の様な街に定住する冒険者にとっては受付の人達との交流は図らずも多くなる。その為、同性であれば仲の良い友達の様になったり、異性の場合はいくところまでいく事があるらしい。
私の場合は前者で、冒険者になったばかりの頃からエレナさんにお世話になっている。
「それが聞いてくださいよ……。昨日のお休みで本当はお菓子作りをしようと思ってたんです。でも、ちょっとした不思議な体験のせいでそれも出来ずじまいで……」
「不思議な体験ですか? 妖精の悪戯みたいな感じなんですか?」
「妖精の悪戯だったらどれだけ良かった事か……。実は私、異国の男性と出会ったんですよ……。しかも、成り行きで一緒に住むことになったんですが――」
ガタガタッ!
協会の中にある飲食スペースにいた、他の冒険者の人達が一斉に立ち上がった。そして一切微動だにせず、何か信じられないものでも見たかの様な顔をしていた。
立ち上がっていたのは殆どが男性の冒険者で、女性の冒険者の人達は、その様子を呆れた様な感じで放置している。
「――? 皆さん、いきなり立ち上がってどうしたんですか?」
私がそう問いかけると、何かを思い出したかのように動き始めて、立ち上がる以前の感じに戻っていった。だけど、少しだけよそよそしい感じがする。一体何なんだろう?
「今日は皆さん変ですね?」
「…………」
「……? エレナさん?」
「……あ! はいっ! なんでしょうか!?」
しっかり者のエレナさんがぼーっとしているのは珍しい。やっぱり今日はエレナさんも含めて、協会にいる人達全員が変だ。
「今日はエレナさんも含めて皆さん変じゃないですか? 何ていうか落ち着きがないというか、と未知のものに遭遇した時みたいな感じというか……」
「フィーさんとその男性が一緒に暮らす事になったなんて聞けば、皆さんも固まりますよ。私ですら少し受け止めるのに時間がかかったのですから。それで、いつ挙式するのですか?」
ガタガタッ!!
先程よりも大きな音が協会に響いた。飲食スペースの方を見ると、男性だけではなく女性までもが椅子から立っていた。
今度はみんな青い顔をしていた。青い顔なんて何か気分が悪いんだろうか? お医者さんにでも見てもらった方がいいと思う。
私は冒険者の人達から目を逸らして、エレナさんに向かい直す。
「挙式なんてしませんよ。次いでに言えば恋人でもないですし、そんな関係になる事もないと思いますよ?」
「えっ、そうなんですか? 一緒に暮らすなんて言うからてっきり……」
「話を最後まで聞かないからですよ……」
「「「ほっ……」」」
「……うん? 何か周りから不快な安堵を感じたんですが……」
「き、気のせいですよ! そんな事よりも依頼を受けに来たんですよね! 今、フィーさんが受ける事が出来る依頼はこれらです!」
上手く流された気がしなくもないけど、エレナさんの言う通り、お金を稼ぐ為に依頼を受けにきたのだからそちらを優先しないといけない。
エレナさんから提示された依頼は三つ。
一つ目は、調査依頼。この街周辺に生息いている魔物達に異常がないかを調査する仕事。時間がかかる上にあまり報奨金が良くない。
二つ目が、討伐依頼。魔物達は放っておくとすぐに繁殖する為、定期的に駆除しなければならない。倒した魔物の数だけ報奨金が貰える為、頑張り次第で多くのお金を稼げる。
三つ目が、遠征依頼。人で不足である他の街へ赴き、そこで一定期間依頼をこなして帰って来るというもの。二、三週間程この街を離れるが、報奨金は高い。
この三つの中からなら、二つ目の討伐依頼をこなした方がいい。
一つ目は私一人だったなら金銭的に大丈夫だったと思うけど、カナタさんがいるともう少しお金が必要になる。
三つ目に関しては、カナタさんを放置する事は出来ないから当然パスしなければならない。
「じゃあ、討伐依頼を受けます」
「かしこまりました。今はこれと言った魔物の討伐指定はありませんので、自由に討伐しても構いません。それではご武運を」
「はい、ありがとうごさいます」
エレナさんに軽く会釈をしてから、協会を後にする。
今回は討伐指定がないらしいから、出会った魔物を倒していく事にしよう。討伐指定されると、そっちが優先になって、思った様にお金が稼げなくなる。
でも、偶に例外があって、異常に増殖した魔物がいた場合は逆に沢山稼げる。もっとも、そこまでの規模になれば、緊急依頼になって街の冒険者が殆ど駆り出される事になる訳だけど。
「よし。じゃあ今日も頑張っていこう」
私今日はどれくらいの魔物を狩ることが出来るのか、そんな事を考えながら街の外へと繰り出した。
◇◆◇◆◇
フィーさんが依頼を受け、協会から出て行った直後のことです。協会内にいた冒険者の方々の気が一気に緩みました。やっぱり、フィーさんのあの話が衝撃的だったのだと思います。
「まさか、あのフィーが男と同棲するとはなあ!」
「全くだぜ! 並み居る男が話しかけようとも一切見向きもしなかったあのフィーが男とは!」
「ほんとよ〜。あのフィーに先を越されたかと思ってヒヤヒヤしたわ〜」
「おい、お前ら。フィーに失礼だぞ。それも本人の居ない所で悪口とは感心せんな」
「そう言えばお前、フィーに惚れてたもんな。……すぐに玉砕してたけど」
「あれは酷かったわね〜。『私、貴方には興味ありません』って面と向かって直接言われてさ〜」
「う、うるさい! その話をほじくり返すな!」
冒険者の方々には、フィーさんと何かしらのエピソードがあったりします。
一年前、ふらりと現れた美人のフィーさんに声をかける男性の冒険者は少なくなかったのですが、あのストレートな物言いで再起不能になった人が大勢いるのです。
決して悪い人ではないのですが、如何せんあの性格なので誰かに好かれる事がなかったので、今回の同棲する事になった男性には感謝します。
これで彼女の人との接し方が柔らかいものに変わればいいなと思います。
「エレナー。交代の時間だよー」
受付の奥――私の背後――から声をかけられました。私達、受付嬢は二時間置きに交代をして、受付と雑務を交互に行っています。
こんな制度が出来たのも『雑務だけでは退屈。だけど受付をずっとするのもしんどい』という意見が出た事で、時間を決めて交代しましょうとなったからです。
「はーい! 今戻りまーす!」
フィーさんは大丈夫でしょうか。今日の彼女はいつもよりもお疲れのようでした。
もしかすると、同棲する事になって夜更かしをしたのかも知れません。男女が同じ屋根の下で一緒に過ごすならばありえないことではありません。
「今ここまでやってるから、ここのところからお願い。……エレナー、聞いてるのー?」
「聞いてますよー。ここからですよね?」
「そうそう。大丈夫みたいね。じゃあ後は任せたから」
「はい。そちらも頑張ってください」
私の目の前には山積みになった書類が並んでいます。
これらは、各依頼と報告書、それに加えて素材回収リストに予算と今月の収支状況等の様々な書類になります。
重要な情報を扱っている事もあるので、情報漏洩しない様に注意が必要です。
「さ、私も頑張らないと」
私は目の前の書類を片付けながら、次の交代時間を待つ事にしました。
◇◆◇◆◇
「今日はこれくらいで充分かな。協会に戻って査定してもらおう」
日が傾き始め空を赤く染め上げだした。いつもはもう少し魔物を狩っていくのだけど、今日からはカナタさんを待たせているから、早めに戻らないといけない。
私は少し急いで街の方に戻る事にした。
素材の査定や討伐した魔物の数を数えるのに時間がかかる。報奨金を貰うのはその後。だから早くに戻らないと報奨金を貰った時には、もう日が暮れて遅い時間になっている事もある。
今日はいつもより魔物と遭遇出来たから査定にも時間がかかるはず。そういうのを見越して行動する事をこの一年で学んだ。
そうこうしている内に、協会へと着いた。
査定の窓口の方はまだ空いている。時間的に考えればそんなものだろう。恐らくはこれから混む。
早めに帰ってきて良かったと安堵しつつ、窓口へと足を向けた。
ちなみにここは査定の窓口なので、受付の窓口担当のエレナさんは居ない。
「えっと、討伐依頼の報告と素材の査定をお願いします」
私は協会の会員カードと魔物の素材を窓口の方へ差し出した。
会員カードを提示するのにはいくつか理由がある。本人確認の為だとか、どんな依頼を受けたのかとか、討伐した魔物の種類と数を把握したりだとか、一切不正が出来ないようになってる。
「かしこまりました。査定終了までお待ちください」
こういう待たされる状況になった場合は、どこかの席に座って査定が終わるのを待つ事にしている。
基本的にどの冒険者も私と同じように待つ時はどこかの席について、誰かと談笑したり食事をしたりしている事が多い。
例外的に明日受け取りに来ますと言ってそのまま帰る人がいる。こういう時は大抵、近しい人が亡くなった時である為、協会側も無理強いはしてない。
この世の死は絶対的なものだ。死神という御伽噺の中の存在以外では誰も死者を蘇生なんて出来ない。出来てしまったらそれこそ神だと思ってしまいそうになる。
私も直接の関わりはなかったにせよ何人か亡くなっていった人達を知っている。そういうのを聞いた時はやっぱり心が苦しくなる。
「フィーさーん、査定が終了致しましたのでこちらへお越しください」
「あ、はーい!」
私は落ち込んだ気持ちを切り替えて、窓口の方へと向かった。
「こちらがフィーさんにお持ち頂いた素材の査定額と報奨金でごさいます。ご確認ください」
そうして手元に渡されたのが約5000Gとその内訳表。
内訳表を見ると報奨金が四割、素材が六割と言った感じだった。協会は嘘を吐かないので、査定の仕方が間違っていない限りはこれで合っているのだろう。報奨金額も内訳表通りだ。
私にとってみれば今日はまあまあ稼げた方。これよりももっと稼ぐ人もいるけど、それと同じくらい稼げない人もいるから贅沢は言わない。
「はい、大丈夫です」
「では、お疲れ様でした。次もよろしくお願いします」
私はいつも通りの会釈をして協会を後にする。
この後はちょっと買い物をしてから家に帰る。今日貰ったお金があれば大抵のものは買えるため、何の心配もない。
今日の夜は何を作ろう。昨日の夜はカヤの食事に関してカナタさんに怒られたから、慎重にならないと。カナタさんはともかく、カヤになにかあったら生きる意味を失いそう。
そんな事を考えつつも二人の栄養バランスを加味して食材を買い、二人が待つ我が家の帰路に着いたのだった。
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