ねこと一緒に転生しちゃった!?

十六夜 九十九

001話 知らない天井ならぬ知らない天(そら)


 数ある宇宙の無数な星々。数え切ることが不可能に近いその星々中には、生命体と呼べるものが誕生した星がいくつかある。
 生命体は有機生命体として生まれ、水中に適した形状を成した者から、陸上に対応し四速歩行を始めた者もいる。
 しかし、その殆どが知性と呼べるものを持っていなかった。

 生命体誕生から何万年という歳月が過ぎても、生命体を取り巻く環境は一向に改善されず、生命活動を続けることが困難であった。
 弱肉強食の世界で、己が生き残る為の進化をする者がいた。食物連鎖の頂点に君臨し、強者としての風格を持つ者もいた。
 だが、環境の変化に対応する即応性を兼ね備えた生命体は存在しなかった。その為、知性を持つ者は誕生せず、死滅していく生命体が後を絶たなかったのである。
 生命体を携えた星は死に行き、新たに生命体を誕生させた星もまた、同じ運命を辿っていく。

 そんな星々の中にたった一つ特殊な星が生まれる。後に"地球"と命名されるその星は、天文学的数字である"生命体が活動するのに最適な環境"を作り出したのである。
 そんな特殊な星では、他の星に類を見ない進化を遂げる生命体が誕生する。それが"人類"であり"人間"である。

 彼等は今までの生命体にはなかった知性を持ち始めた。それ故、弱肉強食や食物連鎖の枠から外れ、独自の生態を築き始める。
 知性を持った彼等が行った事は、刻一刻と変化する環境に対応する為の策を練り、それを実行に移す能力を手に入れる事だった。彼等はそれを成す為に、己の生命活動を快適かつ最適に送る事を重視し、文明を発展させ、文化を作り出し、社会を形成した。そして、彼等は知恵を絞り、技術を編み出し、過酷な環境に対応する。
 それを無限とも言える時間の中、たった数千年という時間で成し遂げた"人類"。

 だが、この話は三次元の中だけで成り立ったものある。

 次元というのは、己が存在する次元の下の次元までは観測する事が出来る。逆説的に言えば、上の次元は観測する事は出来ないのである。
 例えるならば、人類の文化の一つである"漫画"が理解しやすいだろう。
 漫画というのは、二次元である。それを三次元に存在する"人類"は観測し、それを"読む"と唱する。しかし、漫画が三次元に物理的に干渉する事は不可能である。
 また、次元はそれぞれ表すものが違ってくる。
 一次元では、"線"。二次元では、"平面"。三次元では"立体"を表す。人類の中で、四次元は"時間"を表すという者がいる。

 そんな三次元に存在する"人類"。そんな彼等に興味を持ち、今までずっと観察を続けてきた者がいる。
 それは"高次元生命体"。又の名を"神"という。

 彼等"高次元生命体"は、時間の流れの枠外にいる為、"人類"のように寿命で死ぬ事はない。また、生殖行為も不要である。そもそも"高次元生命体"に生死の概念はなく、宇宙が誕生する以前からそこに有る者である。

 ではなぜ、"高次元生命体"が"人類"に興味を持ったか。一言で言うなら、暇だったからである。
 時間の概念がなく、生と死もない彼等はただ存在するだけで何もする事がなかった。ただそこにいることが全てであり、完全な存在だった。
 そんな時に地球が誕生し、"人類"が生まれ、彼等が神という存在を認識し始めたのだ。"高次元生命体"は"人類"が崇める"神"という存在が自分達であり、"人類"が自分達を"神"として崇める為、"人類"を観察出来ることを知った。

 "高次元生命体"にとって"人類"とは、言わば漫画の登場人物である。
 彼等にとって"人類"とは不完全であった。それが彼等には、とてつもなく面白いものに見えたのである。完全な存在故に不完全を求める。だが手に入る事はない。だから、観察して楽しむ。
 そしていつしか"高次元生命体"にも規則が出来た。それはたった一つ。"人類に干渉しない"というものだった。ただ見て楽しむ。それだけに徹する事になった。

 "人類"の時間の中で長い間守られてきたその規則。しかし、一柱の"高次元生命体"がそれを破る。
 その"高次元生命体"は"人類"の中からたった一人を選び、干渉を始めたのだ。

「あはっ! この人間、楽しみだなっ!」

 "人類"と同じ姿で、中性的な声、十二歳程度の身長、男とも女とも言える顔をしているその一柱の"高次元生命体"は、純粋無垢な笑みを浮かべる。

「いっぱい、いーっぱい遊んでね! ボクはキミに期待してるんだから!」

 そうして、一人の人間の運命が狂う。その人間の名は"神谷(かみや) 奏陽(かなた)"。この先、予想だにしない出来事を体験する人間である。



   ◇◆◇◆◇



 ある街の一角で倒れている男がいた。その男は石畳の上であるはずなのに、陽の光を浴びて気持ちよさそうに寝息を立てている。
 そこに、この世界には存在するはずのない一匹の真っ黒な生き物が近付く。その様子を見ていた住民は恐れ戦き、誰も近寄ろうとしない。
 未知の生物であるその生き物は、寝ていた男の顔に擦り寄る。そして――

 ペロッ。

 その様子を見てしまった住民は、誰もが悲鳴あげ、酷いものになると腰を抜かしてしまう。

 ペロペロッ。

 その生き物は周りなど気にせずに、なおも舐め続ける。住民にとってその様は、人間を味見している悪魔のように見えた。
 しかしその生き物は、そんな事など知らぬ顔でひたすら舐め続ける。

 ペロペロペロペロペロペロぺ――

「んぁ……?」

 その生き物に舐められ続けた男は、少し唸ってから、目を覚ます――。



   ◇◆◇◆◇




「……これは知らない天井ならぬ、知らない天(そら)だな」

 目を覚ました俺の第一声がそれだった。
 だが聞いて欲しい。俺が見た空は今まで見てきた空とは大きく違っている点があったのだ。それを見たら、くだらない事の一つや二つ言っておかなければ正気が保てない。

 俺が目を覚まして初めに見た空とは、光輝く太陽に、澄み渡る青い空、そこにゆったりと漂う白い雲。そこまではまあ良かった。今まで幾度となく見てきたから。
 だがしかし! なんで漆黒の月まで浮いてんだよ! 俺には理解不能だってばよ!

「おっと……いかんいかん……」

 俺は一旦気を落ち着かせ、上体を起こした。
 こういう時は何があったかを思い出して順を追っていった方がいい。遠回りに感じるがそれが一番早いのだ。要するに"急がば回れ"だ。

 俺は少しずつ思い起こしていく。
 少なくともここで寝る前は、佐倉と一緒だった。ちょっと怒らせてはいたが、まぁ大丈夫だろう。確かその時、黒猫が車道で怪我しててトラックに轢かれそうになったから、助けに行ったんだった。それで間に合わず、俺もトラックに撥ねられたところは覚えてる。
 何それ笑えない。第一、あの時に俺死んだっぽくない? なんで生きてんの? そもそもここどこよ?

 色々な疑問が頭の中を駆け回る。
 いやはや、これは俺の手に負えん。唯一思い付いたのが『ここが天国なんじゃね?』ってくらいだが、どう見ても天国じゃない。天国見たことないから分からけども。

 俺は再び石畳の上に寝転がり、腕で目を覆った。

「一体何がどうなってんだよ……」

 この何も分からない状況に完全にお手上げ状態で、頭が混乱し始めた時だった。

 ペロッ。

 少しざらっとしたものが俺の指に触れたような気がした。

 ペロペロッ。

 今度は気のせいではなく、ざらっとした何かが確実に俺の指に触れている事が分かる。

 ペロペロペロペロぺ――

「はっ! まさか!」

 俺は飛び起きて、さっきまで俺の指を舐めていたやつ・・・・・・・が居たであろう所に目を向けた。
 すると、そこには真っ黒で見慣れた姿をした生き物がいた。

「お前……。もしかして俺が助けようとして失敗したあの黒猫か?」

「にゃ~ん」

 どうやらそうらしい。

 ちゃんとと返事を返すとかしっかり躾られてるな! ってそうじゃない。
 この黒猫も俺と同じく、意味不明な所に送られて来たんだ。これは重要な事だ。……かなり……ある程度……ちょこっとだけ……。
 いや、そんなことは今はどうでもいい。知ってるやつがいるだけで心細さは全然違うからな。

「こっちにおいで」

「にゃあ〜」

 俺が呼び掛けると足元にテトテトと寄ってきて、顔を擦り付けてくる。
 な、なんという可愛さ……! これはもうペットを飼うなら猫一択になっちゃうレベル。こんな状況でペットを飼えるならだが。

「そういえばお前、怪我治ってるみたいだな? あの傷がどうやって……?」

「にゃん?」

 撫でて欲しそうに目を潤めて、可愛く鳴く黒猫。喉もゴロゴロ鳴らし始めた。

「おー! よしよし! お前はいい子だなー!」

 俺は黒猫を撫でて撫でて撫でまくった。
 だって可愛いもん。こんなの我慢出来るはずがない。やめようと思っても無意識で手が伸びるんだから、仕方のないことだよね!

 それはともあれ、撫でて確認もしたが、この黒猫の傷が綺麗に治っている。それは俺にも言えたことなのだが、トラックに撥ねられて目を覚ましたら傷一つないのはおかしい事なのである。
 と、なるとやっぱりここは天国? でも周りの状況を見る限り、全然天国じゃないはず。どっちかって言うと地獄だ。喚いてたり、慌てふためいてたりするし、泣いてる奴もいる。こんな所が天国なはずがない。
 じゃあ、ここはどこなんだという話になるわけで……。

『あー、あー。テステス、テステス。聞こえるー? 聞こえるよねー? ……大丈夫かな?』

 不意に頭の中に声が響く。今まで味わった事のない感覚に少し不快感を感じる。
 しかし、それ以外の要因により、それを差し置いても有り余るほどの強い印象を受けた。
 中性的であるその声からは、純粋であり無邪気さが伝わって来た。これだけでも相当印象に残るのだが、俺が言いたいのはこの事ではない。
 では何を言いたいのかと言うと"声がデカい!"って事だ。

 頭の中に直接響いてるから、鼓膜とかの心配はないだろう。しかし声が大きいと頭が締め付けられるように痛くなる。答えたいのは山々だが、頭痛の中で答えるのは至難の技だ。

『……あれ? 聞こえてない? なんでだろ? あっ! もしかして答え方が分からないとか?』

『違う違う! お前の声がデカくて答えたくても答えられないの!』

『あ、そうなの? ごめんごめんっ! だったら……こんな感じで……どうかな? いい感じになった?』

 声の大きさを調節した後は、ちょうどいい感じになり、俺も受け答えしやすくなった。

『バッチリだ。問題無い』

『じゃあ、改めて!』

 今こうして会話をしている声の主とは、今後、黒猫と共にずっと付き合っていくことになる奴である。
 その存在が今後どう関わってくるのかなど、今の俺に知る由もないのだが、直感的に悪い奴ではないなと感じた。
 そして声の主は楽しそうに、こう続ける。

『始めまして、"神谷(かみや) 奏陽(かなた)"! 『エクスウェルト』へようこそ! ボクの呼び方はキミの好きにしていいからね!』

 ――この瞬間から俺と黒猫の物語が始まった。

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