ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章30話 禁断恋慕のマチネ


「お姉ちゃん、これ、わたしが作ったマジックドラッグ」
「――ミネラルロータス」

 頷くと、イヴはそれをとりあえず3錠だけロイに手渡した。
 そしてそのロイはすでに、シャノンとして女の子の制服を着終わっている。

 だからこそ、今はお兄ちゃんという呼び方よりも、お姉ちゃんと呼ばざるを得ない。
 それに加えて、ここは学院の敷地内なのだから。

「こんなに小さくても、アーティファクトの一種なんだよ。大切に使ってね?」
「うん、気を付けるよ」

 少し背伸びをするように、イヴはめっ、と、細くて白い人差し指をロイに向けた。
 次いで可愛らしくはにかむと、男の娘状態のロイの唇をぐっ、と、押して、言外に念押ししてみせる。

「アーティファクト、か」
「ティナのおじいちゃんも、この発想に行き着いていたのかな?」

「思い付いていても不思議ではない、かな? 魔術は魔力を振動させないと発動しない。そして魔力は周波数を保有するなにかを利用しないと振動しない。そして、詠唱の向かう先は流体でなければならない」
「その制限を逆手に取って、超高温で液体にした金属に術式を刻んで、凝固させた物質がアーティファクトなんだよ。つまり、アーティファクトだって素材を選んで分量さえ計算すれば――」

「――以前、わたしが言ったとおり、例えばナトリウムやリンで作られていれば、約3000mgまで、カルシウムで作られていれば、約2500mgまで、食べて消化することができる」
「結果、そのアーティファクトが保有する魔術は、使い手の体内でその効果を発揮するんだよ」

 バルバナスたちがすでに退院していることを、ロイたちは以前から知っていた。
 そうでなくとも、息の根を止めていないのだから、いずれ退院することを予想できないわけがない。

 その彼らとの決闘に必要な物を渡しにきたイヴが、微妙にロイに対して引いていた。
 そしてロイもその理由がわかっていたため、苦笑いすることしかできないでいる。

「うん、アーティファクトを食べるなんて、専門家でもないのに、よくこんなこと思い付くんだよ……」
「いやいや、アリーセさんがあの剣を飲め! って以前仰ったから、そこから派生させただけだよ」

「普通の人はあれを聞いて、消化させる対象は剣じゃなくてもいいはずなんだよ! なんて思わないと思うんだよ……」
「ま、まぁ、やむを得ない事情があるわけだし……」

 ふと、ロイは自分の左腕を一瞥した。
 そこでイヴが心配そうに――、

「お姉ちゃん、左腕の闇の封印を解除する時には――」
「大丈夫。それに、今日に限っていえば、殺し合う前に更衣室、兼、控え室で投薬する時間が間違いなくあるはずだし」

「それと、今後改良を進めていくけど、現時点では、ミネラルロータスは1日3錠までだよ?」
「1日、たったの3錠か……」

「具体的には消化が終了する時間とは別に、魔術の持続時間は1錠につき最大約3時間。わたしとアリーセさんが施した封印を第二領域まで解除したら約2時間で――」
「――第三領域まで解除したら、最悪、1時間さえ保たないこともある?」

「うん。あと一応、これは科学の薬じゃなくて、魔術的な飲めるアーティファクトだから、複数摂取することによって、効果を倍にすることはできるんだよ」
「普通の魔術で言うところのダブルキャスト、トリプルキャストみたいな感じか」

「でも、当たり前だけどオススメはしないよ」
「持続時間じゃなくて、効力の話、だよね?」

「そうだね。例えば3錠を1回で飲み込んでも、最長3時間までしか効果は持続しない。けど、第三領域まで闇を開放しても、最長3時間、効果を発揮することもあるんだよ」
「最大理論値が3時間、まぁ、うん、わかった」

「とはいえ、その値はあくまでも、あらゆる要素に対して万全を期して、それで初めて実現できる値だよ。だから、お姉ちゃんにあえて言う必要はないけど――」
「――実戦では、1錠につき、50分前後、効果が持続する、って認識していればいいのかな?」

「う~ん、アリーセさんとも相談したけど、40分程度の方がいいかも……」
「了解」

「最後に、これはお姉ちゃんを強くするアーティファクトじゃなくて、むしろ、弱くするアーティファクトだから、それも気を付けてね?」
「まぁ、そうだよね。これの中に入っているのは闇に対する掌握、制御の術式だし」

 とりあえず、これで密会は終了の予定だった。
 が――、

「それでね、お姉ちゃん?」
「なにかな?」

「…………」
「エヴァ?」

「なんでわたしと落ち合う場所が、よりにもよって『女子トレイ』なの……?」
「人目に付かないし、女子トイレを盗聴、盗撮しようとする魔術師がいたら、本来敵である警邏兵の皆さんが味方になってくれるから」

「そうだけど~、そうなんだけど~っ!」

 駄々をこねるように身体を揺らして、イヴは不満をアピールした。

「言っておくけど! お姉ちゃんが妹と女子トイレで2人きりなんて、ホントはとってもイケナイコトなんだよ? 誰も許してはくれないことなんだよ?」
「ご、ゴメン……。任務とはいえ、イヤ、だったよね?」

「えっ?」
「えっ?」

「…………」
「エヴァ?」

「―――、だ、誰もイヤとまでは言っていない、んだよ。うん、うん」
「でも、理由が存在することと、変態的であることは、矛盾しないし」

「ぐぬぬ……、そう言われると、お姉ちゃんに処女を捧げたわたしまで責められているような気になるんだよ……。最初は血縁関係なかったのに……」
「う、うぅ……」

 大好きな女の子であるイヴにそのようなことを言われて、流石にロイも、任務だから、と、この状況を割り切ることが難しくなってしまう。
 シャノンとしての姿のまま、頬を赤らめイヴから目を逸らしてしまった。

「んっ? あれ? お姉ちゃん? もしかして照れているの?」
「照れているって言うか、理屈で割り切れなくなって、急に恥ずかしくなってきたと言うか……」

「そ、そう言われると、わたしまで、変な気分になってきちゃうんだよ……」
「ま、待って……っっ、恥ずかしがるのは正常だけど、今、変な気分になっちゃうのは……」

 恐らく、地球にいた時は普通の女の子だったとしても、長年、兄になってしまった初恋の相手、異性の幼馴染を愛し続けていたせいだろう。
 なんとなく、ロイが記憶している頃の逢坂あいさか聖理ひじりより、禁断の恋とか、イケナイコトに、イヴはやたら興味を持つようになっていた。

 イメージとしては、ロイに対してだけではなく、自分は兄と愛し合っている、というシチュエーション自体にも、同じようにドキドキしている感じ。
 その兄とかなりマニアックな状況になっても、それはむしろ、個人的には嬉しいと思っている、そんな自分を心の底からは否定できない感じ。

 が、それに対してモヤモヤしっぱなしのお姉ちゃんは――、
 女子トイレのドアを少しだけ開けて――、

「エヴァちゃん? わたしはいつまで見張りを続ければいいんですかねぇ?」
「ひぅ!? マリーお姉ちゃんが怒ったよ!?」

「怒って当然です! うぅ~、わたしだって、ホントはぁ……。でも、今さら前例ができたって……。理由がなくなったってぇ……。うぅ~、」
「と、とにかく! わたしはもう帰るから、お姉ちゃん、ファイト! だよ♡」


コメント

  • ノベルバユーザー601714

    ランキングから拝見しました。庶民にも苗字や家名が付いているのは珍しいです。

    0
  • ノベルバユーザー531655

    面白いです!

    1
  • ノベルバユーザー353764

    はやく続きがみたい!

    0
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