ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章26話 情報応用のメドレー



 数分後、グランツ・フォン・クリーク伯爵の物でも、ハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵の物でもないとある屋敷にて、女装したレナードはその屋敷の主と向かい合っていた。

 立っているレナードに対して、椅子に座り続ける屋敷の主。
 例に漏れず、レナードが今、取引を行おうとしている男性もまた、貴族、伯爵であった。

 彼の名前はベルンハルト・シュネー・フォン・シュティレ。
 現在、ロイと一緒にグランツ・フォン・クリーク伯爵の屋敷で遊んでいるツェツィーリアの実の父親だった。

「なるほど。つまり君の言いたいことをまとめると――、
 1つ、自分たちはクリーク伯爵に仕掛けようとしたシュタイルハング侯爵の非公式魔術師を始末した。

 2つ、それを私たちがやったことにして、クリーク伯爵に恩を着せることもできる。
 3つ、これの方針を決定するのは本番が終わったあとでかまわない。

 4つ、本番とはシュタイルハング侯爵をなにかしらの方法で潰す戦いのことを意味する。
 5つ、君たちが勝利した時のみ、彼らの退路を塞いでおいて、敗北した時はそのまま見捨ててくれてかまわない。このような感じか」

「はい、それであっています」
「確かに、これはこちらにとって都合がいい取引だ。特に、5つ目の要点はこちらが貴族でそちらが庶民だとしても、過剰なまでの献身、忠義と言っていいだろう」

「ありがとうございます」
「それで?」

「なにか、ご不明な点でもありましたか?」
「なぜ、こちらにとってこんなにも都合が良すぎる取引を提案する? 君は頭が良さそうだ。気付いているだろう? 自分が疑われていることに」

 ツェツィーリアと同様に、ベルンハルトも人狼である。狼の耳も尻尾もレナードの位置から見て取れた。
 彼はその人の理性と獣の獰猛さを併せて込めた双眸で、鋭くレナードのことを睨み付ける。

「シュタイルハング侯爵家には裁きが必要です」
「私自身がなにかを明言することはないが、確かに、私以外の誰かが、彼らに対して相当な恨みを抱いているのは事実だろう。しかし、それでは納得できない」

「こちらとしてもご納得いただけるように最善を尽くしますが、いったい、具体的にはどのような点が?」
「察するに、君も彼らに対して恨みを抱えている1人なのだろう。が、気持ちそのものには共感できるが、行動が理解できない。5つ目の要点は私にとってみればご都合主義の塊だが、君の立場だと、逆に不都合の塊だろう? 自暴自棄になっている、というわけでもなさそうだ。それなのに自ら積極的に捨て駒になろうとするなんて、彼らになにをされた?」

 一瞬だけ、プライドが邪魔して誤魔化そうとするレナード。
 が、ここで恥を捨てないと仲間にまで迷惑がかかるのだ。

 ゆえに、彼は人生で一番の屈辱を我慢しながら――、
 ウソ偽りなく美少女にしか認識できない顔を真っ赤に染めて――、

「~~~~ッッ、くっ、今、ここで、っっ、確認することもできますが、っ!」
「? なんだろうか?」

「くぅ……っっ、私は、っ、男、です」
「……あっ」

「…………~~~~っっっ」
「……すまなかった」

「…………いえ」
「今まで、吐き気を催すような苦労を、劣悪な環境で労働をしてきたのだろう。コーヒーぐらい、飲んでいきたまえ」

「……はぃ、ありがとう、ございます。それと、こちらの都合ではありますが、このことは……」
「自分の家の全てに懸けて、他言無用を約束しよう」

「重ね重ね、ありがとう、ございます……」
「いや、こちらこそすまなかった」

 ベルンハルトはメイドを呼ぶと、レナードにコーヒーを配膳するように命令する。
 確実に元・男娼と勘違いされたが、任務のためにやむを得ないことだと、なんとかレナードは割り切れそうだった。

「まぁ、うん、そうだな。ソファにでも座ってくれ」
「はい、失礼します」

 提案に従うレナード。
 少しするとメイドが2人分のコーヒーを運んできて、配膳する前にベルンハルトが執務机からレナードの対面のソファに座り直した。結果、2人は割とリラックスしているというほどではないが、先ほどよりは打ち解けた感じで取引を再開する。

「とりあえず、君、あるいは君たちが本気でシュタイルハングの一族を打倒しようとしていることは理解した」

「つきましては、なにか改めて、ご不明点などありましたら……」
「いや、こちらとしてもシュタイルハングのヤツらは厄介だった。君は先ほど、仲間がハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵にも飛び込み営業の真似事をしたと言っていたが――」

「はい、仰る通りです」
「私はあのサキュバスほど優しいわけではない。シュタイルハングのヤツらが犯罪者だとしても、しかもそのやり方が頭の悪いモノだったとしても、個人的には正直、どうでもいい」

「シワ寄せがくるかもしれなくても、でしょうか?」
「そうだ。問題がないわけではないが、我々の一族は別に、性的な事柄を生業《なりわい》としているわけではないからだ。しかし、それ以外の理由なら、協力に値する」

「それはいったいどのような……」
「ヤツらは侯爵だから、周囲からの恨み、貴族としての能力と評価に反して、特権のようなモノはいくつも保有している。詳しく説明することは難しいが、とにかく、私が求めているとあるモノさえ、今はヤツらが持っていて、もし、君たちが積極的に動いてくれるなら、それに乗じて得をしておきたい、という気持ちはある」

「わかりました。詳細は徐々に詰めていきますが、ひとまず、交渉は成立ということで、よろしいでしょうか?」
「あぁ、かまわない。よろしく頼む」

 そして、流れるようにいろいろ決まっていき、約2時間後。
 第562特殊諜報作戦実行分隊A班の拠点にて。

「わかるかァ、ロイ!? ヒック! こっちは男娼と勘違いされたんだぞ!?」
「ケフ! ハァ!? それは男娼に対する差別ですか~!?」

「違ぇよ! 他のヤツらは知らねぇけど、少なくとも俺に限れば、その扱いが嫌だったって話だ! まァ? 乙女のお茶会に紛れ込んでいる、どっかの誰かには無縁の話だろうがなァ!」
「こっちにもこっち特有の苦労があるんですぅ! 罪悪感とか? 気まずさとか? 人として誇らしくなくなったような悩みとか? 端的に言えば、ボクは今、変態みたいなことをしちゃっている、って! 先輩にわかります、この後ろめたさ?」

「アァ!? テメェ! こっちに着いてから一番得してるクセに、贅沢な悩みじゃねぇか! 大義名分があるんだから、思い切って女子としての生活を楽しめばいいじゃねぇか! つーか、嫌なら変われ! そっちの生活、聞いているぶんにはかなり羨ましそうだしよォ!」
「なにを今さら! どこかの誰かは、出発前に女装を嫌がっていた気がするんですけどねぇ!? っていうか、任務なのに嫌だから変わってほしい、なんてワガママが通じるわけないでしょう!」

「ンだと、クソ真面目!? ワガママじゃなくて臨機応変な適材適所を提案してんだよ!」
「インテリ問題児は言うことだけ立派ですね!? 先輩は堪えられるんですか? 例えば戦闘実技の前に、たくさんの女の子と一緒に着替えるとか!」

「バカか、テメェ! 堪える必要ねぇだろ! どうせバレたら終わりなんだし、バレない程度に見るべきモノを見ておけっつーの!」
「じゃあ訊きますけど! それを網膜に焼き付けた上で、堪えられるんですか!?」

「…………」
「…………」

「無理、か?」
「難しそう、ですよね?」

「…………」
「…………」

「はい、お酒は回収します。レナードさんは先にシャワーを浴びておいてください。私は一応、ロイさんをB班の拠点にお送りしますので。ハイ! 解散! お疲れ様でした~」
「「……オツカレサマデシタ~」」


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