ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章23話 情報活用のメドレー(1)



(さてさて、上手いことアリスから見取り図を、複数枚、書かせていたそれの1枚を受け取ることはできました。自分で言うのもアレですが、私たちはもとから侯爵家の娘ですし、ロイさんもいつの間にか王女殿下の夫。ですが、感覚がマヒしかけているとはいえ、伯爵も一般大衆から見れば立派な貴族。利用しない手はありません)

 魔王、ラグナと殺し合った時に受けた実力の封印。
 それによってアリシアは今、アリスの血縁者とは想像し難い幼女の姿を常日頃からしていた。

 確かに瞳は蒼いものの、髪は金色ではなくダークブラウン、そしてエルフ特有の長くて尖った耳も人間のそれに。
 そう、身長のせいでアリスの姉であるとイメージできないのではない。より根本的に、今の彼女はアリスと血縁関係にあるとさえ、初対面の相手なら認識できるはずがないだろう。

 ゆえに、それを今回は利用する。
 魔王に受けた封印で、エリア20を乱してみせる。

「ここ、ですわねぇ」

 幼女状態のアリシアが辿り着いた場所には、グランツ・フォン・クリーク伯爵の屋敷とは別の豪邸が建っていた。
 そしてアリシアがその敷地に一歩、足を踏み入れると――、

「そこの少女、ここはハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵家の別荘だ。どのような用件で敷地に足を踏み入れた?」
「あらあら、私は正真正銘の客人ですのに、メイドがそのような口を利いていいんですか?」

「……君が?」
「少々、急ぎのお使いを依頼されたため、身なりを整えるよりも報告を優先したのですが?」

 名も知れぬメイドはアリシアに対し、頭の上から爪先まで視線を下ろす。
 衣類は確かに良質なモノを持っているようだが、微妙に汚れが着いていたり、生地自体が痛んでいたりしていた。

 無論、それはアリシアが意図的に演出してみせたモノなのだが、眼前の使用人はそれを視界に収め、1つの結論を出してみせる。
 即ち、自分の主人に『優秀である』と認識され、積極的に使われている幼女なのだろう、と。

「……失礼いたしました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「名前というよりは、そちらが私に付けた番号ですが――749です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「えぇ、ご理解いただけたようでなによりです」

 メイドに案内されてアリシアは屋敷の中へ。
 そしてその廊下を歩いている最中――、

「ラウラ、そちらの方は誰ッスか?」
「エルゼお嬢様、彼女はご主人様の使いの御方です」

「そうなんッスね! ご苦労様ッス」
「ありがとうございます。エルゼ様」

 この前、ロイの匂いを嗅いで学院のトイレで性的に大暴走をしてしまったエルゼ。
 流石に男性が近くにいないなら我を忘れて発情することもないらしく、アリシアを上から目線とはいえ労うと、すぐにどこへ行ってしまった。

 エルゼの気配が消えるのを待ってから、アリシアたちはキチンと下げていた頭を上げると、再び廊下を進みだす。
 そして――、

「待っていましたよ、749。例の物は?」
「こちらに」

「そう、ありがとう。あと、ラウラはもう下がってちょうだい」
「かしこまりました。失礼いたします」

 ――数分後、アリシアはマルガレーテ・ハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵と、彼女の自室で相対する。

 娘のエルゼと同様、褐色肌に、空色と銀色を混ぜて水で薄めたような色彩のセミロング。
 また、明らかに出産経験があるはずなのに、身体はまるで初等教育の低学年の子供並に小さかった。エルゼでさえ130cm程度の身長があるはずなのに、これでは彼女の妹にしか見えない。

 そして身長だけが幼女のように見えるわけではない。淫魔ゆえに、他の種族と比較して若さを保てるのか、あるいは自分の好きな容姿になれるスキルでもあるのだろう。
 要するに、顔の方もまさに幼女のようなそれだった。

「では、こちらへ」
「失礼いたします」

 ラウラと呼ばれたメイドが退室したことにより、そこは完璧に2人だけの空間になっていた。
 アリシアは静かに歩み寄り、サキュバスの尻尾と羽を何気なしに揺らすマルガレーテ、彼女と執務机越しに向かい合うと、先刻、例の物と表現された紙を手渡す。
 続いて、マルガレーテが椅子に座りながらそれに目を通すと――、

「749、あなた、番号じゃなくて名前は?」
「アリーセです」

 マルガレーテが問う。
 それにアリシアは簡潔に答えた。

「正直、信じられません」
「と、仰いますと?」

「いえ、あなたの仕事に文句があるわけではなく、あなたほど優秀な女児がいることに驚いているだけです」
「お褒めいただき、大変光栄です」

「と、いうことで、今よりあなたのことを、番号ではなく、名前で呼びます。かまいませんね?」
「もちろんです。どうぞ、マルガレーテ・ハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵の意のままに」

 軽く、しかし見たらわかる程度に、アリシアは首《こうべ》を垂れた。
 そしてマルガレーテが「よろしい」と頭を上げることを許すと、アリシアはそのとおりに。

「ひとまずこれで、グランツ・フォン・クリーク伯爵の屋敷への侵入が容易《たやす》くなり、繋がりが持てる、ということでよろしいでしょうか? 政治的にも、肉体的にも」
「えぇ……、いえ、淫魔で貴族のこちらが、児童で下請けのあなたに言うことではありませんが、そういうことを覚えるの、早くない?」

「決してそのようなことはないかと。妹なんてもう、いいところの殿方に嫁ぎましたので」
「えぇ……、いえ、これも子供に危険なことをやらせているこちらが言うことではありませんが、そうね……、まぁ、悔しいわよね……」

「はい、全くです」

 なぜまだ20歳にもなっていないアリスが、イチャイチャまっしぐらな性活を送っているのに、私にはカレシができる気配さえないのか! と、アリシアは内心、全力で嘆いていた。


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