ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章22話 情報利用のメドレー(3)



「聞こえたか?」
「一応、かまわない、けれど――」

「へぇ? かまわないのか、意外だな」
「個人的には交渉をしておきたいわね」

「多勢に無勢じゃ勝ち目ないから、か?」
「えぇ、そのとおりよ」

 リーダー格のダークエルフが素直に感心して口笛を吹く。

「予想以上に冷静な判断ができるようで驚いているが、残念だったな。こっちがなにかを対価にして目当ての物を買うぐらいなら、楽しい拷問をして全てを奪う方が、少ない情報の損失で済む」
「見取り図なんて所詮は紙よ? 魔術を使えば一瞬で燃やせるし、私たちだって、完全にその内容を記憶しているわけじゃない。【想い出のゲデヒトニス蓄音器レコーダー】で記憶を覗こうとしても限界がある」

「――へぇ?」
「どう?」

 すでにこの時、アリスも、ダークエルフの男性も、互いに互いに対してウソを見破る魔術をキャストし合っていた。
 つまり、ここから先は相手にウソを吐かずに、それを前提に相手を誘導する取引しかできないということだった。

「予習は完璧、ってことか?」
「あいにく、準備万端の状態に至っていないと、私にできることなんて、たかが知れているわ」

「OK、わかった。取引といこう」
「感謝するわ。それで、確認だけれども、改めてそちらの目的は?」

「とりあえずこっちは伯爵家の見取り図がほしいだけだ。そっちは?」
「こっちなんて、普通に生還することだけが目的よ。焼肉パーティーする予定も入っているし」

 ここから生還するためならなんでもする。
 実際にそんなことはありえないが、少なくともそういう感じで、アリスは吐き捨てるように質問に答える。

「なら、さっきも言っただろう? 見取り図さえ渡してくれれば、気持ち悪いことは……」
「――それって、私たちを犯してから殺すか、犯さないで即行で殺すかの違いでしょう?」

「ほぉ?」
「ウソはよくないけれど、大切なことを黙っておくのもよくないわ」

「女の子が、やけにバッサリ犯すとか犯さないとか言うじゃねぇか……」
「そうね、なら、こういうのはどうかしら?」

「言ってみろ」
「あなたたちのような輩がいることは理解した。けれど、そんなことは最初から想定済みだし、そしてその類の輩があなたたちだけではない、ということも当然理解している。その上で、あなたたちの所属については質問なんてしない」

「だから自分たちを生きて帰せ、と? 存在を知りつつも、詳細は知らないままにしておくから?」
「肯定よ」

「なら、見取り図はどうやってこっちにくれる? それはお前たちの生命線だ。それがないとお前たちは生きて帰れないし。かといって、お前たちに生還されたら、俺たちも結局、暴力的な方法でそれを奪うしかない」
「簡単よ、人目に付く場所まで行きましょう? そこで私たちがゴネたら周りから注目されるけれど、実はそれで困るのって、あなたたちだけだと思う?」

「誘導が上手いじゃねぇか」
「なら、決定ということでいいかしら?」

「あぁ、派手な戦闘をしたかったヤツもこっちにはいるが、まぁ、いい。交渉はお前たちの勝ちだ。欲に目を眩ませない。譲れない勝利と譲れる勝利の線引きを弁えておく。社会の基本だ」

「なら、シィ、索敵魔術をキャストして。安全圏に行くまでに不意打ちされると困るから」
「う、うん!」

 結果、シーリーンとアリスは12人もの襲撃者と一緒に市街地まで行くことに。
 不思議なことに、シーリーンとアリスは背後から攻撃されないために、男性たちの方は逃亡を許さないために、なぜか並んで夜でも賑わっている市街地に行くことになってしまったが……。

「リーダー、いいんですか、本当に? こんなメスガキ2人に丸め込まれて……ッッ!」
「バカか、お前は? 察するにお前なんかより、よっぽどこの2人の方が場数を踏んでいるぞ? それに、だ。もう魔術をキャストするには、充分な時間が経ちすぎている」

「は?」
「私たちのどちらかの心音が停止したら、自動的に屋敷の見取り図が燃えるかもしれない、って、リーダーのダークエルフさんは言っているのよ」

「チッ」
 舌打ちする人狼の男性。
 で、数分後――、

「はい、これ。中に魔術なんて仕掛けていないから、安心して頂戴?」
「あぁ、確かに受け取った」

「そして、ここまで来てしまえば――」
「――あぁ、戦闘なんてできるわけがない」

 市街地にて、シーリーンとアリスは謎の男性たちと対面しながら、見取り図を封筒ごと渡して取引を終わらせる。

「ウソは吐いていないようだが、お前の目の前で開封させてもらうぞ?」
「当然の措置ね。どうぞご自由に」

 封筒を開けるリーダーの男性。

「ところで、あなたたちには私たちのこと、どのような女の子だ、って伝わっていたのかしら?」
「少なくとも俺は、貴族に雇われた貴族殺し、って聞いている」

「そう、教えてくれてありがとう」
「――確認した。これで解散だ」

「なら、またどこかで会うことがあるなら、その時もいい取引をしたいものね」
「俺たちは暴力担当だから、取引はまた別の連中になるが、個人的にはお前とは今後もよろしくやりたいな。男だろうと女だろうと、理知的に会話できるってだけで重宝に値する」

 シーリーンとアリスに背を向けて去る男性たち。
 そして彼らが曲がり角に消えたことを確認すると――、

「それじゃあ、シェリー、作戦を続けましょうか?」
「そうだね、予定より少し早く終われたし」

 男性たちとは逆方向に歩き始めるシーリーンとアリス。
 そして十字路を曲がると――、

「きゃああああああああああ! 人が! 人がアアアアアアアアアア!」
「誰か! 警邏兵を呼んでやれエエエエエエエエエエ!」

 ――先ほどまで取引をしていた座標、恐らくさらにそこから進んだ座標から聞こえてくる爆発音。次いで、女性の悲鳴と、男性の怒号のような助けを求める絶叫。
 日の出にはまだ10時間前後あるのに、夜空を赤らめさせる炎の光。

「えぇ、取引は、またどこかで会うことがあるなら、ね」
「アーニャ……、作戦を聞いた時にも思ったけど、準備万端すぎ……。封筒のボタンを意図的に鉄製にして、それが炎の魔術のアーティファクトになっているなんて……。初見じゃ絶対に見破れないよ……」

「ウソは吐いていないわよ? ボタンは封筒の中、内部には仕掛けていないもの」
「シェリーたちの前で偽物のカップルを演じて、でも当然、罪悪感に苦しんでいた去年のアーニャはどこに行っちゃったの……?」

「仕方がないわ、これ、戦争だもの。私たちが意図的に情報を、自分たちでも殺せる相手を厳選してリークした。なんて気付けていれば、あのダークエルフたちも、もしかしたら死なずにすんだのに」
「早く戦争が終わるといいんだけどね……。でも、まずはこれでシュタイルハング侯爵家の非公式所属魔術師は倒せたね」

「えぇ、となると、あとはお姉様と先輩のターンね」

 と、その時だった。
 アリスが前方不注意でもしていたような通行人、小さな女の子にぶつかったのは。

「あっ、う、ぅ、す、すみません……」
「いえ、こちらこそ少しボーっとしていたから」

 それだけのやり取りを済ませると、シーリーンもアリスも、先に進み始めた。
 一方で、アリスにぶつかった幼女のポケットの中には――、


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