ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章14話 閑話休題のコメディ(3)



「――――ぁ」
「この時代、どんなに素晴らしい作品でも、作者が女性というだけで評価されないことも多々ありますが――それでも、物語に好みか否かはあっても、貴賤だけはないと思います」

 生まれて初めてだった。
 初対面に等しい人に、女性であろうと小説を書くことを肯定されたのは。

 価値観と常識を理由に、父にも母にも、あくまでも趣味に留めておけと釘を刺され。
 ツェツィーリアとアメリアにも、時間をかけてゆっくりと、数ある趣味の1つとして認識させたのに。

(あ、あれ……? おかしいな。わたくし、シャノンさんにドキドキしているの? ……って、だ、ダメ! メリッサ・グランツ・フォン・クリーク伯爵家令嬢が禁断の恋に落ちるなんて許されない! だって、女の子同士なんて――。貴族として生を受けたからには、分家であろうと子孫だって――)

 不意に、メリッサはロイの首筋をさり気なく視界に収める。
 そして美少女(本当は男の娘)の綺麗な首に己が牙を突き立てて、その血で喉を潤し恍惚として満たされた自分と、色白な肌に一筋の深紅を零して喘ぐシャノン(本当はロイ)を想像して、箱入り娘だったメリッサは完熟した果実のように顔を真っ赤に染めるのだった。

「あとは、そうですね――学院の勉強も嫌いというわけではありませんが、興味関心を持ったものをとことん自由に調べるのも好きですよ?」
「ちなみに、幼少期はどのような感じでした?」

 少しプライベートに踏み込んだテーマをアメリアは持ち出した。
 無論、これについてもロイの予習は完璧である。

「そうですね。庶民のテンプレートのような子供でした。ただ、当時はかなりヤンチャで、実は親に習わされるよりも早く、自分から剣を振っていたそうです」

「ほぅほぅ、ちなみに、お父様とおじい様が芸術家だったと思いますが、その類のエピソードとかは――」

「やはり、女性には向いていない、と。そもそも、評価対象外だ、と。もちろん、趣味でなにかを創作するぶんには褒めてくれましたし、わたし自身、早々に剣の稽古をすることになりましたので」

 なんとなくロイにもお喋りをメインに食事をするコツがわかってきた。
 あくまでもロイに限定すれば、パーティーや身内同士の飲み会の下位互換を毎回やるような感覚だった。あれらも、基本的には歓談がメインで、酒は基本的にそのアシスタントであるのだから。

「アメリアさんは、普段どのような音楽をお聞きになられるのですか?」
「音色、雰囲気が好きですので、主にピアノ協奏曲とオルガン協奏曲を。交響曲の方は、鑑賞するならいっそのこと、劇場まで足を運ぶことが多いです。それと、最近では既存のシンコペーションの理論体系にブルー・ノート・スケールを併せたジャンルにも興味がありまして」

「わぁ、それって外国の音楽を文化輸入したヤツですよね?」
「えっ、知っているんですか!? 同級生で知っている人、初めてですっ!」

「わたしも初めてお会いできました!」
「でも、まぁ、あれですよね? シャノンさんも芸術家のご家庭に生まれたなら言われたでしょうけれど、ブルー・ノート・スケールはノイズとか異分子とか……っ、伝統が汚れるとか壊れるとか……ッッ、先人たちの傑作を踏襲して、そこから外れたら、そもそも作品としてさえ認められないとか!」

「あ、アミー? 落ち着いて、落ち着いて」
「あっ、し、失礼しました。ですが、とにもかくにも、それにつきまして根本的に、好みではありますけど楽曲を収集できない現状が続いていますね。はぁ……」

「そうでしたか……。それとやはり、お父様がご在宅の時に聞くのは……」
「えぇ、怒られるというほどではありませんが、どうも呆れられてはしまうので、賢明とは言えないです。うぅ、同好の士ということですので、本当は一緒に鑑賞したかったのですが……」

 瞬間、アメリアの表情《かお》に陰りが差す。
 が、いささか落ち込んでいる様子の彼女にロイは――、

「なら、鑑賞しましょう」
「えっ?」

「もちろん、わたしの方から貴族の御方に提案するのは差し出がましいことですから、本当は、それでも鑑賞したいと考えます、そのように進言する方が適切なのでしょう。それでも、わたしはアミーと並んで音楽を聴きたいな、って」
「ふふっ、ありがとう。シャノンさんって、本当にいろんな分野に対して柔軟だねっ」

「どういたしまして。でも、もしお父様の目が厳しいようであれば――」
「あれば?」

「お父様が外出為されている時に、密やかに、音楽鑑賞した方がよろしいのでしょうか、って」
「あ、ぅ、~~~~っ、は、はぃ」

 最終的にはアメリアまで顔を赤らめて少々俯いてしまう。
 なかなかに業の深い愛のラブ喜劇コメディだった。

「さて、これを食べ終えたらなにをしましょう? 個人的には、ここでもう少し、みなさんとお喋りしていたいのですが」

 別に長居したわけではないが、メリッサも、ツェツィーリアも、アメリアも量が少なかったし、ロイに至っては会話にある程度集中していようと、量が多くても食べるのが早い。
 10分を少し過ぎたあたりで、4人とも、サンドイッチはほとんど食べ終えてしまっている。

 結果、あくまでも自分はみんなと一緒にいたいとアピールしつつ、ロイは3人に意見を伺った。
 しかし、3人の反応は芳しくなく――、

「あっ、えっと……」
「す、すみません! 次の予定が……」
「こちらから誘ったのに、本当に恐縮で、恐縮で……」

「いえ、構いませんよ。身分ゆえにご多忙だと思いますが、僭越ながら、無理はしすぎないでくださいね?」

「その……、わたくしたちではなく……」
「えぇ……、まぁ、シャノンさんも万一、かなり疲れてしまいましたら」
「そ、そうだね。うん、休むことを忘れないでくださいね?」

「? は、はい……」

「向こうも、決して悪意があるわけではないですから……」
「そうですそうです、わたくしたちの親とも、全然不仲というわけでもないですけど、親密というわけでもなく、なんて言いますか……、その……」
「距離感がこう……、あれで、どのように接したらいいかわからない、的な?」

「はぁ……」

 どうにもこうにも歯切れが悪いメリッサたち。
 彼女たちから生命的な危機感や不穏な感じは伝わってこない。

 が、どうも命のやり取りとは別のモノだろうが、なにかを曖昧にしている雰囲気がすごく伝わってきた。
 残念ながらロイにそれを察するスキルなり魔術はなく、彼が彼女たちの反応の意味に気付くのは、ここから約5分後のことだった。


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