ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章13話 閑話休題のコメディ(2)



(とりあえず、彼女たちが意識しているか否かを問わず、心理的な貸し借りをなしにしよう)
「実は分不相応ではありますが、せめて一度ぐらい、わたしもAの学生食堂に足を運んでみようと思っておりまして」

(これで向こうも、そちらにあわせてお弁当にしたんですよ、と、直接的にはもちろん、間接的にも言いづらくなる。なおかつ、わたしはあなたたちの世界に憧れています、ともアピールできた!)
「本当ですか? でしたら、ご都合さえあえば、明日にでもどうでしょう?」

(早っ!? 明日!?)
「はい、大丈夫です! もしご都合がよろしければ、明後日も、明々後日も」

「ふぁ!?」「ひぇ!?」「あば……」
(いけない! なにかミスった!)

「あ、明後日も、明々後日も、そして1ヶ月後も1年後も、ぜひぜひ、みんなで昼食をいただけるお友達になれたらなぁ、って」
「あっ、そういう……。わ……したちより、……持ちとかじゃ……」

「まーまー、明日のことは明日すればよろしいので、そろそろランチに」
「そ、っ、そうですよね。なるべく長くお喋りしたいですし」

 というわけでオープンされる4人のランチボックス。
 エリア20では白米が主食ということはなかったので、当人たちからすれば奇遇でもなんでもなく、全員がサンドイッチと少々のサラダとフルーツだった。

(気を付けるんだ、ボク。この世界でも昔の名残で、男性は傾向的に問題解決能力が高く、女性は傾向的に共感能力が高い。転じて、食事中、男性は黙々と食べる印象が強いが、女性はあくまでもコミュニケーションの機会として、お喋りしながら食べ進める。そこを間違えるわけにはいかない)

 なんてロイが考えているうちに、全員サンドイッチに口を付け始めた。
 そして早速、一口目を嚥下し終えると――、

「ところで、シャノンさん?」
「はい、なんでしょう?」

「ありきたりな質問ですけど、なにか好きな本や、ゲームや、スポーツはありますか?」
(これは――、ボクの教養を、試している?)

 いや、それは早計だとロイはいったん、結論を先延ばしにした。
 次いで、彼はこれが牽制の可能性に行き当たる。要は、互いに地雷を踏まないように、探り探りで無難な話題から始めていく、ということだ。

 続いて、彼が考えたのは、そもそもなぜメリッサがこの質問をしたのか、というあまりにも見当外れなことだった。
 彼の自分を過小評価して、基本的に敵であろうとなかろうと、他人を、自分にはないモノをなんであろうと持っている人、そう認識している思考回路が完璧に裏目に出てしまっている。

(あまり俗っぽい答えでも舐められてしまう可能性があるし、かといって、マイナーすぎて理解、共感されない答えも、相手を気まずくさせてしまう。内容に興味を持ってもらい、その上で、自分が一方的に喋ることにならず、相手にも発言の機会を与える答えがベストのはずだ)

 前世の記憶があるからみんなの人気者としてやり直せていただけで、久しぶりにロイの陰キャな部分が顔を出してきた。
 そもそも、メリッサたちは心理戦をしたいわけではなく、ウソ偽りなく、ロイと仲良くなりたいだけだったのに……。

「シャノンさん?」
「あっ、すみません。少し答えに迷ってしまいまして」

「クスッ、そんなに緊張する必要ないのに」
「そーそー、メリーなんて、もうみんなにバレているのに、創作が趣味なのを隠していますし」

「チェリー? メイドに進言されても、サバイバルゲームで服を頻繫にダメにするのは、どこのどなたですか?」
「で、わたしは音楽鑑賞が趣味なんですけど、改めて、シャノンさんは?」

「そうですね。やはり、読書やゲームの類でしょうか」
「ゲームって、チェスとかトランプとかでしょうか? サバイバルゲームとかは……」

「えぇ、頻繁にやるのはチェスやトランプです。けれど、休日など、時間が余っている時には、サバイバルゲームをしたこともあります」

 瞬間、ツェツィーリアの表情かおに、晴れ渡る空のように笑みが浮かぶ。
 そしてそっと、シャノンの右手を、自身の両手で包むと願う。

「シャノンさん、わたくしの親友になってくださいませ」
「はい、喜んで。チェリー」

「――――っ、そ、即決? こちらから誘いかけておいてもどかしいけど、サバゲーって、あまり女の子向きじゃ……」
「女の子だから向いていない、という諦めよりも、チェリーが、自分は女の子である前に、ツェツィーリア・シュネー・フォン・シュティレだからやりたいんだ! という熱意を優先する方が、心を持つ者として健全ですよ? むしろ、自分の感情を抑圧する方が、精神の健康が損なわれてしまいます」

「――――ぁ、っ、うぅ……」
「あっ、ゴメンなさい。伯爵家の方に対して、その……」

「う、ううん……、大丈夫……、もう、親友だから……」
「そっか、ありがとう」

 おかしかった。
 なぜか同性のはずのシャノンが、ツェツィーリアには白馬の王子様のようなイケメンに見えてしまう。

 その勘違いのはずの胸の高鳴りを誤魔化すために、ツェツィーリアは改めて、会話よりもサンドイッチを食べることを優先した。
 で、続いて反応したのはメリッサである。

「読書と言いますと、やはり本を読むだけで、書く方は……」
「いえ、読むがメインというだけで、以前、わたしも小説を書いたことはありますよ?」

「そうなんですか! その……、えっと……」
「? なんでしょうか?」

「シャノンさんさえかまわなければ、いつか、作品交換会でもできたら嬉しいと思いまして……」
「えぇ、大丈夫ですよ」

「その……笑いませんか? 女性が書いた作品ですよ?」
「はい、誰かが一生懸命に作ったモノを、わたしは笑いません」

「絵画じゃなくて小説ですよ? 男性じゃなくて、女性が書いた作品ですよ?」
「絵画でも小説でも、作者が男性でも女性でも、素晴らしいモノは素晴らしいのが当然です」

「わたくし、貴族ですよ? 貧民が不平不満を口にするのは正直なところ、イメージどおりとは思いますが、貴族の娘が家に不満を覚えるなんて……」
「安心してください。おかしくありませんから。貴族であろうと庶民であろうと、悩みがない民なんていません」


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