ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章6話 半年記念のアーベント
とある建物の屋根の上。
そこに片膝を立ててあくびを噛み殺しながら、男装の麗人のような女装した青年が座っていた。
ややこしいことこの上ないが、彼に背後から近付くもう1つの影。
シャノン・ヴォルフガング・シュティルナーに扮したロイだった。
「先輩、そろそろ交代の時間です」
「うわ、キモ」
「は? 斬りますよ?」
「よし、シャノンで間違いねぇな」
「と、いいますか、肉体を特に弄る必要もなく女装できる先輩に言われたくありません」
「アァ!? 殴られてェならそう言えよ、オイ!」
「よし、先輩で間違いありませんね」
「チッ、まぁ、いい。少し会話に付き合え」
多少値が張るとはいえ、服屋ならどこででも売っていそうな白い襟付きシャツの上から、誰でも見たことがありそうなワインレッドを基調としたタータンチェックのカーディガン。
そしてライトブラウンのレディーススラックスと適当な革靴。
これに長めのウィッグを被って顔の輪郭を曖昧にして、胸に詰め物をしただけで、もうレナードは美少女にしか見えなかった。
交代までまだ少し時間があったので、ロイがきてもレナードは自分の分の仕事はキチンとするつもりらしい。
結果、促されてロイはレナードの隣に座る。
それを一瞥してから、レナードはロイに語り始めた。
「ルークのヤツ、仕事場でもかなり雑に使われていたぞ」
「たらい回しにされる時限爆弾ですね」
「どういうことだ?」
「ルークくんはウソ偽りなく、人を殺せる凶器をいつも身に着けています。でも、彼が殺したい相手は複数人いるのに、1回でも犯罪なんてしてしまえば、証拠をでっち上げられて死刑が確定。わたしの故郷だと信じられないことですが、この国は、そういう国ですし」
「なるほどなァ……。逆を言えば、ルークのヤツが自分以外の誰かをストレスで殺してくれれば、単純に、面白い、と? そこまで発展しなくても、加虐行為に愉悦を覚える、と?」
「そうだと思います。それに、彼をいたぶっている人たちは、自分が被害者側に回ることなんて考えてもいないでしょう」
「まぁ、ルークは元奴隷だからな」
「可能性の話なら、奴隷でも貴族を殺すことはできますが、その発想は脳に条件付けされたここのみんなの常識が許さない。幼い頃から、服を着るのは自分に命と肉体を与えてくださった神様に文句があるということ、と、教育すればそれが常識の世界ができますし――」
「――逆に他人に裸を見せるのが恥ずかしいと思うのも、結局は教育の結果だ、っつーわけか」
「悩ましいですよね」
「そうだな」
「えぇ、本当に」
そこでロイとレナードは声を重ねて――、
「「……そう、だから自分たちの女装がキモくても、それは脳の条件付けのせいなんだ。そうに違いない……」」
割と、いや、かなりネガティブな発言だった。
そしてそれを自覚してか否か、2人は同時にうなだれて深い溜息を吐いた。
「ハァ……、シャノン、テメェ、なんか疲れてねぇか……? なにも起こらなくても任務中なんだし、テメェはもっと、時と場合を考え過ぎるバカ真面目なヤツだったろ……」
「ふぅ……、先輩だって、いつもは粗野なだけで、任務に対しては特に不平不満を言わなかったじゃないですか……」
「アァ、心がささくれているのが自覚できる……。任務とはいえ、地味にイヤだな、これ……。シャノンもだろ?」
「わかります? もう毎日12時間以上、これですからね……。しかもわたし、告白されたんですよ……」
敵地に潜る任務だから当然ではあるのだが、どこかやつれて始めているレナードがロイに問う。
対して、ロイの方も乾いた笑みでやるせなく応えてみせた。
「アァ~、そりゃ、アーニャとかには相談できねぇよなァ……」
「それも女の子に……」
「ハァ? なんで……?」
「フェロモンの影響じゃないですか……? いくら女の子の格好をしても、身体の中で作られている物質は変化していないわけですし……。そして無意識的にそういうことを理解しているのに、意識的には女の子同士だから、スキンシップもかなり近い間隔で行われますし……」
「よかったじゃねぇか……。これで男に告られたら悲惨だぞ……。正体がバレたら、よくもボクを騙したなアアアアアアアアアア! って……」
不意に、レナードは自分の傍らに置いてあったバッグに手を伸ばす。
次いで、それから取り出した夜食をロイに差し出した。
「まぁ、喰えよ。これからルークのヤツが寝るまで、一応監視だろ? きちんと腹を満たしておけ」
「えぇ……」
「今回ばかりは、私もなにも要求しねぇから……」
「ありがたいんですけど、これ、食べかけじゃないですか……」
「細けぇこといちいち気にしてんじゃねぇよ。イヤなら返せ」
「は? 先輩の手を離れた時点で、これはもうわたしのモノだと思うんですが?」
「ガキか! まったく、なんで私もこんなのと腐れ縁に突入しつつあるんだか……」
「そういえば、この前、半年突破しましたからね、わたしと先輩の付き合い」
「マジかよ……」
「マジです……」
「なんでシャノンとの半年間のシメが、2人揃って、わりかし見栄えよく女装しながら屋根の上でホットドッグなんだよ……」
「知りませんよ……」
会話に一区切り付いたので、ロイはレナードからもらったホットドッグを食べることにした。
無論、ホットドッグを半分にして、レナードが口を付けた方を本人に付き返して。
「流石に半分は先輩が食べてください」
「はいはい」
2人でルークの家を眺めながら夜食を取るロイとレナード。
ちなみに、ルークの部屋にはまだ明かりが点いていた。
「あと、他にもあるんですよ……。今日だけでも、男女別の講義とか、女の子だけのお茶会とか……」
「……トイレは?」
「……聞かないでください。わたしがしている時に、隣の個室で女の子がお花を摘み始めると、戦闘関連とは別の理由で死にたくなりますよ……」
「よくよく考えてみりゃ、テメェには物理的な攻撃よりもそっちの方がダメージ、ヤバそうだよな……。性格的に……」
「あはは……、ヤバイですよね……。弱点を克服しても、それはそれで、なにか人として大切なモノを捨てている気がしますし……。こんなの、大義名分を得た変態です……」
遠い目をするロイ。
思えば遠くまできたものだ。出発点が日本だった場合はもちろん、グーテランドの王都が出発点だったとしても。
「さて、もう時間が過ぎている。私は帰るぜ」
「奇遇ですね」
「ハァ?」
「ルークくん、今日はもう就寝するようです。今、明かりが消えました」
「…………」
「――――」
「シャノンよォ……、自分はなにも働かずに、任務中だった俺からもらって喰ったメシは美味かったかァ? アァ?」
「い、っ、いやいや、先輩! わかっていませんね! あっ、アレです、アレ。なにかを食べるため、やむを得ずみんな労働に勤しんでいるだけで、働かずに美味しい料理にありつけるなら、それに越したことはないんですよ?」
「うるさい、この似非優等生!」
「へぶ!」
瞬間、頭を叩く音がエリア20の夜空に1回だけ響いた。
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