ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章5話 金色一対のデートタイム(2)



「あっ、すみません。カボチャはさっき見付けたんですけど、スイートシスリーとフェネル、あとニンニクってありますか?」
「あるともあるとも! 今日はニンニクを売ってもいい日だからねぇ」

「ちなみに、ここの青果店のニンニク解禁日は――」
「――今年は毎週、月曜日と火曜日に決まったよ。まっ、吸血鬼がエリア20の領主様だからしゃーないね」

「あとは――アーニャ、家に塩と胡椒、あとはバターとミルクもあったよね?」
「ええ、あったわよ」

「なら、今の3つってどこにありますか?」
「こっちだよ、ついておいで。にしてもカボチャのスープかい?」

「はいっ、冷え性のどこかの誰かさんに、って」
「むっ」

 言うと、明らかに意図してシーリーンはアリスのことをチラ見する。先祖は天女のはずなのに、小悪魔的な流し目だった。
 妙に気恥ずかしくなって、アリスは本当に久しぶりにツンデレのような一面を発揮してしまう。シーリーンとは決して目をあわそうとしないのに、満更でもなさそうな顔をしながら、アリスは彼女のあとをしっかり追った。

「青果店だしパンはあまり売っていないけど、キャベツやレタスはいいのかい?」
「先ほど見付けましたので♪」

「そういえば店員さん、あれっていいんですか?」
「あれってどれだい、お姉ちゃんの方?」

「陳列棚がストリートまで……」
「アッハッハッ、お姉ちゃんの方は真面目だねぇ! 敷地からはみ出して物を売ったら違反にカウントされるけど、あそこでやっているのはただの試食会だからねぇ! まぁ? サルじゃないんだ! 仮になぜか集客率が上がっても、餌に釣られてくるわけがない! 別の理由だよ、別の理由っ」

 年相応よりも快活に笑うドワーフの女性。
 そんな彼女を視界に収め、シーリーンも、アリスも、魔族領に暮らす住民にも、それぞれの生活があって、それぞれの工夫があるのだな、と、妙に感慨に値するなにかが胸に宿った気がした。

 自分たちはこれを破壊するのだ。そのための七星団だ。仮にエリア20を焦土にしろ、という命令が下りれば、実力の如何は問わず、命をして一帯を焦土にすることさえ厭《いと》わない。直接的か間接的かは問わず、もしかしたらこのドワーフの親族を殺すことだってあるし、巡り合わせによっては目の前の本人さえ、あるいは……。
 ロイとイヴの故郷、日本には『いただきます』という神道に由来する食前の挨拶がある、と、シーリーンとアリスは聞いていたし、自分たちだって食前には神様に祈りを捧げる。結局、自分たちの生きる都合で行動を起こすということは、自分たち以外の生きる都合を無下にしてしまう、ということなのだろう。

「はい、まずはニンニクだ! 良いのが減る前に選んじまいな」

「わっ、入口に一番近いところにあった……」
「シェリー、西側の入口を見ていなかったのね……、南側から入ったから……」

「ウチは角地だからねぇ、不作でもないのに販売制限がかかっているからこそ、ニンニクは目玉商品だし、あまり日光に当てたくないのさ」

 そして数分後――、
 シーリーンとアリスが会計を終わらせると――、

「はいっ、2人共、持っていきな!」
「わぁ! ハンバーガーっ」

「いいんですか?」
「肉とチーズはないけど、ウチで収穫したトマト、レタス、そして分解したブロッコリーに、塩、胡椒、ゴマ、黄身だけを溶いた溶き卵、油を少々、あとは営業秘密の香辛料で作った特製ソースをペーストして作った至高の一品だ! バンズの粗っぽさは青果店だからご愛嬌だけど――美味いよ? マジで美味だよ?」

「ありがとうございます!」
「家に帰ったら食べましょうか?」

「えぇ……、帰りながらは?」
「仕方がないわね……、マナー悪いけど、なるべく見栄えまで悪くならないなら」

「うんっ、ありがとう、アーニャ」
「気を付けて帰りな! 今後ともご贔屓に!」

 店を出て、流石にそろそろ帰路に就くシーリーンとアリス。
 マイバッグの片方の取っ手をシーリーンの左手が、もう片方の取っ手をアリスの右手が持ちながら、両者、残った方の手でハンバーガーを持っていた。

 が、2人共、持っているだけで一口も食べていない。
 一応、毒殺の可能性を考えて魔術的毒性調査液体(支給品)の反応を待っているが――、

「よしっ、それじゃあ食べましょうか、シェリー」
「うん、いただきます!」
「いただきます」

 シーリーンとアリスの花の蕾のような薄桃色の唇。それがいよいよハンバーガーの一口目を捉えた。
 確かに従業員の言っていたとおり、バンズは許容範囲内とはいえ割と粗い。が、だからこそ逆に特製ソースが染み込んでおり、栄養バランスの良さを犠牲にして、割と濃い目の味が本来、そこまで味がしないバンズにまで、食べる楽しみを与えていた。ある意味では、何気にファストフードらしいファストフードだ。地球の日本ならいざ知らず、グーテランドと魔族領のパン生地は割と硬い。それを逆手に取ってある程度、濃厚ソースを侵食させることを良しとしたのだろう。

 バンズの内側はレタス、ブロッコリー、トマト、ブロッコリー、レタスの順番になっていた。粗くても普通にやわらかいバンズを歯で噛み終えると、突如、そこにはレタスの壁が出現する。それさえも噛もうとするとシャキ、っという瑞々しさが弾けるような音さえ聞こえ、癖になる噛み心地の良さを覚えたあとは、特製ソースを絡ませるためにあえて挟まれたブロッコリーの出番だった。わずかにプチプチした食感がシーリーンとアリスの舌の上に広がり、しかし、試行錯誤の結果、量を調節しているのかモッサリした感じは一切しない。否、むしろ芯の部分はかなり薄くスライスされて、特製ソースも併せればチーズの味と食感にも負けずとも劣らない。それさえも突破すると果汁たっぷりの新鮮なトマトが歯にぶつかり、咀嚼のたびにわずかな苦みと、それを踏み台にして存在を強調された甘みが、2人の小さな口の中いっぱいに広がった。

 咀嚼のたびに野菜、果実の甘みと、ほんの少しの苦み。塩、胡椒、ゴマ、黄身だけを溶いた溶き卵と少々の油で調合したソースの塩味と旨み。そして香辛料にはピリ辛要素がある物を選んでいるのだろう。一見、味の整合性なんか適当に無視したようにしか思えないのに、その実、きちんと計算されているであろう渾然一体の美味が、シーリーンはもちろん、貴族令嬢のアリスにさえ唾液、積極的な消化を誘ってくる。

 特にソースは絶品だった。塩分によって少し食べれば少し水分が欲しくなるのだが、2人の目の前には、果汁とソースが溢れて零れんばかりのハンバーガー。噛む、咀嚼、嚥下、噛む、咀嚼、嚥下を繰り返す行為からは、砂漠で海水、塩水を飲む行為さえ連想できる。そもそも、この戦時中に黄身だけの溶き卵なんて反則だ。しかも磨り潰したゴマを気持ち多めに投入していて、味が濃いのにまろやかという贅沢っぷり。香辛料が舌の表面を刺激してピリピリするも、激辛というわけでもなく女の子でも難なく食が進み、むしろ食欲増進さえ自覚できるぐらいだ。

「ちょっと、シェリー、口元にソース付いているわよ?」
「ほぇ? ど、どうしよう……。地味に両手が塞がっているし……」

「はぁ……、取ってあげるからジッとしていなさい?」
「っっ!? だ、ダメだよ!? 流石に舌は!」

「手の甲で拭うのよ! いくらシェリーが相手でも、直接舐めるわけがないでしょう!?」
「うぅ……」

「ほら、取ってあげたから」
「ありがと……、って、なんで最終的には舐めちゃうの!?」

「手の甲にいつまでもソースを付けたままにできないでしょう!? 女の子同士なんだし、あと……、その……、夜に……、その……、えぇ、っと……、っっ、3人とか4人とか5人でしたことあるんだし! ~~~~ッッ、いまさら間接キスでそんなこと言わないでよ!」
「っっ、アーニャ、少し声が大きいと思います」

 そのようなやり取りをしたあと、食べるのが遅いシーリーンと、いつも上品に食事するように心がけているアリス。彼女たちでさえ、2分もかからずその全てをお腹の中に入れてしまった。

「ふぅ、すごく美味しかったわね! 毎日はご遠慮したいけど、逆を言えば、定期的にはどうしても食べたくなるような味だったわ!」

「うんうん! すごく美味しかったよね! って……アーニャ、これこれ!」

「? どうしたの?」

 ふと、なにかに気付いたシーリーンがアリスに包み紙の底を見せてみる。
 そこには魔族領の文字で――、

『美味しかったかい? 次回からは500マドカ! またのご来店をお待ちしております』
「あっ、私の方にも書いてあったわ」

「商売上手だね」
「クス、働かないと、生きていけないものね。私たちも、彼女たちも」


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