ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章4話 金色一対のデートタイム(1)



 同時刻――、
 グロースロートのエリア20のサブストリートにて――、

「やること終わったねぇ……、アーニャ」
「そうね……、油断は大敵だけど、シャノンが作ったあれをあれするだけでいいなんて……」

「門限まであとどのくらい?」
「19時までに家に帰れば怒らない、って姉さんも言っていたわ、シェリー」

 片や身長が低いのにかなりの巨乳で、お日様のように輝く金髪を、2つの三つ編みのお下げにしている美少女。
 赤いふちの眼鏡越しに黒目がちな大きな瞳、そして長くて繊細なまつげをいたずらに閉じて、何気なく開ける。神話の時代に美しい女性天使のみで成立していた種族の末裔にしてみれば、無自覚だとしても、瞬きのひとつにさえ愛くるしい女性らしさを宿してしまうのが道理なのだろう。

 片や身長も高く、胸も前者ほどではないが女性らしく膨らんでいて、お月様のように瞬く金髪をツインテールにしており、銀色のふちの眼鏡をかけているやはり美少女。
 かなり長いはずの髪は森を吹き抜ける爽やかな風のようにサラサラで、瞳はサファイアのように蒼く、捉えた光さえ瞳と同じ色彩に染め上げるような言葉にできない本能的な魅力があった。

 前者はアイボリー、ニット生地、そしてミモレ丈のワンピースを身にまとっており、さらにその上から空色のストールを羽織っていた。もしかしたら、本人としては第二次性徴の女性として発育良好すぎる豊満な胸を隠しているのだろう。
 が、ニットの生地は確かにゆったりしていて胸のラインを誤魔化していたが、所詮、それで隠れたのは正確なラインのみ。大きさはやわらかい生地の服を着ているからこそ、それにあわせ服の方が勝手にシワになったり張ったりして、結論を言えば、生地の種類でどうにかできる大きさの胸ではなかった。

 どこからどう見ても胸が服の生地を押し上げて山を作っている。
 それどころか、胸の正確なラインがわからなくなったことにより、胸が実際よりもさらに視覚的にやわらかそうに見え、異性はもちろん、同性でさえこの金髪の美少女を視界に収めるだけでわずかに顔を赤らめてしまうぐらいだ。

 次いで、靴は革製で、その革靴とミモレ丈のスカートの隙間に生じた疑似絶対領域、そこからは目が眩むほど色白な、童顔低身長巨乳金髪美少女の生ふくらはぎが覗けてしまっていた。
 10m以上離れて通り過ぎても網膜に灼き付くほど、瑞々しそうで、やわらかそうで、途轍もなく美しくて、常世全てのありとあらゆる老い、未来永劫に進み続ける時の流れさえ拒絶し、凍結し、前人未到の聖域にのみ深々と積もり、一抹の灰色さえありえない初雪のみで成立する雪原さえ、彼女の柔肌は連想させた。

 一方、もう1人の美少女はハイウエストで紺色のサーキュラースカート、後者は穿いていたそれのコルセットの部分に襟付きのブラウスをインしており、いわゆるロイの前世において、童貞を殺す服に相当するファッションをしていた。
 スカートの紺色のニーソックスの黒色の間。そこに存在する真正絶対領域には、初雪のように潔癖な純白の代わりに、もはや純水さえイメージするガラスのような透明感があった。

 色白ではある。とはいえ、エルフの皮膚が透明なわけがない。
 なのに彼女の珠玉しゅぎょくのような色白な柔肌は、森の泉の澄んだ湧水に匹敵するぐらい透明だった。とどのつまり、視覚による情報と脳が抱く感想に齟齬が発生するレベル。それほどでに彼女の太ももは水晶のようでもあったのだが、強く掴んだら折れてしまいそうな手首、繊細で一本一本がアートレベルの白い指、そして例えば吸血鬼なら、どこの誰であろうと吸血さえしなくていいから、それでも牙を突き立ててみたいと胸を焦がす華奢な首筋も、ただの神秘クラスの美しさであった。

 変装しているものの、2人はシーリーンとアリスだった。
 C班は今、なんと呑気なことか、敵軍の領土の中でも比較的大きめな都市、そのサブストリートを普通に歩いていた。いや、本当にこんな感じでいいのだろうか……、という懸念は当然のように両者、抱いていたのだが……。

「よしっ」
「シェリー?」

「アーニャ、もう一度『デート』しよう?」
「そうね。ふふっ、今度はどこに行く?」

「う~ん、市場マーケットに買い物? 夕食の材料を買わなくちゃ♡」
「了解よ、じゃあ、行きましょうか?」

 と、アリスはシーリーンに手を差し出した。
 すると、シーリーンは一瞬、少し驚いたような表情《かお》をしたが、すぐに嬉しそうな微笑んで、同性が相手でも頬に乙女色を差して、その手をそっと取ってみせた。

市場マーケットはここから西だから……」
「そこの十字路を左だね♪」

 意外にもアリスの方がシーリーンにエスコートされながら、2人はデート――敵地調査をもう一度することに。
 結論から言えばシーリーンとアリスもマリアと似たような感じで、この2人の場合は実際に地図の修正に取りかかったのだが、蓋を開けてみれば、先行部隊から引き継いだ地図に特に修正箇所がなかったのだ。

 アリシアは今回、感情的になっているというわけではないが、名誉挽回のためにいつも以上に慎重に、合理的に任務に臨んでいるようだった。無論、慎重になりすぎて任務に遅れが生じる、ということはなかったが――、とどのつまり、いつも以上に慎重になった【金牛】がコッソリ魔術を使っても、先行部隊が洗脳や、それに類似するなにかを受けている痕跡はなかったのである。

 よってアリシアは「これは前振り? それとも任務が順調であることの証明? 私のいつものポンコツが発揮させて、なにかを見落としたパターンでしょうか? それとも存在しないモノを証明しようとして、逆にポンコツしているパターンでしょうか? 果たして、自分の実力を信用できなくなっているのか、はたまた、先行部隊のことを信用できなくなっているのか。あらあら……、だいぶマズイ精神状態な気が……」と上官特有の悩みをブツブツ言っていた。

 と、いうわけで、ウソ偽りなく地図に修正を加える必要はなかった上に、ロイの秘密道具によって諜報活動も予定より早く進んでいたので、2人はより正確に、このエリアの構造を理解できる余裕があった。
 今ではもう、リスク回避の必要性がなければ、というありえない仮定の話ではあるが、2人がこの街で路地裏などを通っても、迷子になる可能性は限りなく低くなっていたのである。

「着いた!」
「えぇ、それで、今夜はなにを作ってくれるのかしら?」

「とりあえず、値段を見て決めようかなぁ、って」
「シェリーは良妻賢母になりそうね」

 石造りの建物に石畳の地面。率直に言うとグーテランドの王都のような西洋の街並みを進みながら、シーリーンは2人分の献立を考える。
 この一帯は民家の1階部分が肉屋なり、魚屋なり、果物屋なりになっていて、2階や3階はその店の経営者の民家になっているようだった。稀に4階建てや5階建ての店もあり、さらには2階部分も表から通じている階段から行けるカフェやレストランを構え、1階で売っている食材を使って作った料理を振舞う、なんて建物もあった。

 そしてシーリーンとアリスが再度、十字路に差し当たると――、

「チェス盤みたいに区画整理されているからわかりやすいね」
「そう? 私は初見だったら、何回同じような十字路にぶつかって、何回同じような建物の前を通るのよ……、って嘆くけれど」

「えへへ、ならシェリーがエスコートしてあげるね?」
「えぇ、お手柔らかに」

 はにかみながらシーリーンは上目遣いでアリスに訊き、アリスは静かに、穏やかに微笑みながら、親友の手を握る手に、少し力を入れて、言葉以外でもそれに応える。
 先刻から今、この瞬間まで、2人は手を繋ぎ続けていたのだが、再度、シーリーンがアリスの手を引っ張って、彼女のことを先導し始めた。

(私、最近冷え性だけど――、シィの手って、私よりもやわらかいし、温かくて落ち着くわね。こっちにきてから常時、緊張しっぱなしだし、少し眠気まで出てきちゃった――)
(アリスの手――、ひんやりしていて少し気持ちいいかも。それに、実はシィよりも華奢で――、いつか――、シィの方がアリスのことを守れたらいいな)

 無言状態。けれど居心地が悪いというわけではない。
 少し会話が続かないぐらいで気まずくなってしまう段階を、とっくに2人は通り過ぎているのだから。

 ふと、シーリーンが、アリスにはなにか、身体が温まるような料理を作ってあげようかな、と、思ったその時――、
 ――シーリーンの稚い黒目がちな瞳にとある食材が映った。

「あっ、アーニャ、あのお店っ」
「なにかいい物でもあったのかしら?」

「うん!」
「なら、行きましょう」

 東西南北に道が伸びる十字路の北東に位置する建物。
 そこはどうやら青果店のようで、シェードを展開してストリートに割とはみ出している陳列棚には、ニンジン、ダイコン、キャベツ、レタス、ブロッコリー、カブ、トマト、キュウリ、カボチャなどなど、多種多様な売り物の試食ができるようになっていた。

 が、そこを通り過ぎてシーリーンは店の奥に入っていく。
 割と普通の店内――どころか清潔で、明るくて、売り場面積も予想以上に広く、なんならどこかに設置されているアーティファクトから嬉遊曲ディヴェルティメントまで聞こえてきた。

「あら! 姉妹かい? 綺麗な金髪だねぇ!」

 どうやら、と、いうより、確実にここの従業員だろう。
 年齢は恐らく(種族を考慮しても)60代前半で、シワがだいぶ目立っている初老の女性だったが、わりかし元気そうで、初対面の相手にも臆せずかなり笑うドワーフだった。


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く