ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章30話 再会約束のパーティー(3)



「お前らはなにもわかっていない!」
「…………え、エルヴィス、さん……」

 いくら室内だとしても、空間全域を余すことなく震わせ、骨身にズシンッッ、と、響くようなエルヴィスの声。それがロイたちの会話を強制的に中断に追い込む。
 ロイが(流石に少し、任務の前に気を緩めすぎたかな……?)と怒られるのを覚悟すると――、

「王女殿下がいらっしゃるとはいえ、お前たちのような新兵だけで、本物の焼肉を楽しめると思っているのか!? お前らのような新兵ごときが買った肉が美味いなんて、本気で思っているのか!?」

「まさか、エルヴィスさん!」
「俺たちの焼肉パーティーに……ッッ」

「出そう、金貨30枚を。無論、アリシアと、シャーリーも、だ」

「まぁ、その代わり、私たちも参加させていただきますが」
「確認――エリハルト様が先ほど言ったとおり、遅刻も、欠席も、許されはしない。みんなで揃って焼肉を食べる。それが特務十二星座部隊の3人が、合計金貨90枚――いえ、キリよく金貨100枚を出す条件です」

 一気に沸き立つ新兵たち。
 それを見ながらエルヴィスは――、

「外見で誤解されがちだが、こういうの、キャラじゃないんだがな……」
「ふふっ、エルヴィスさんが仰ってくれた方が、一番見栄えがよろしいと思ったので♪」

「刻限――流石にそろそろ移動を開始する時間では?」
「――、そう、ですね。こういう時間を、いつまでも楽しめる未来が早く訪れてほしいものですが」

 言うと、アリシアはパチン、っと指を鳴らし、ロイの自室の壁面に幾何学きかがく模様の円陣を構築した。

「時間です。そろそろ空間転移の魔術で、まずはツァールトクヴェレまで移動します。そして第562特殊諜報作戦実行分隊が出国するポイントから、偶然ロイさんも国外追放されることになりましたが、全ては、計画のとおりに」
「「「「「「了解!」」」」」」

 全員の荷物はすでに、例のアーティファクトによって空間を拡張したポケットに収納済みだ。しかも自分でチェックしたあとに他の隊員にチェックしてもらい、最後にはアリシアにもチェックしてもらう三段構え。
 ロイ、シーリーン、アリス、イヴ、マリア、レナード、アリシアがツァールトクヴェレまでのゲートの役割を果たす壁の前に立ち、一度、最後にもう1回振り返ると――、

「ロイ様!」
「ヴィキー……っ」

 ロイが最後になにかを言うよりも早く、ヴィクトリアが最愛の男性の名前を呼びながら、その本人の胸の中に飛び込んだ。
 ロイが彼女を優しく受け止めると、わずかに、彼女の口から嗚咽が漏れる。

「絶対に……、っっ、戻ってきてくださいまし……っ!」
「ヴィキー、泣いて……」
「泣いていませんわ! 泣かないでお見送りする、って……、そう、決めておりましたもの……」

「――そっか。そう、だよね――」
「ゴメンなさい、ロイ様……、こんな形でしか、ロイ様の懲役刑を回避できなくて……。わたくしに、もっと政治力があれば……」

「ううん、むしろ、ヴィキーはすごく頑張ったよ。あんな一矢の報い方、他の誰にも考え付かないと思う。ヴィキーがボクの仲間で、本当によかった。でなければきっと、ボクは今頃、牢屋の中だったし……」

 ヴィクトリアのことを抱きしめるロイ。
 やわらかくて、あたたかくて、愛おしい。自分のことを愛してくれている愛すべき女性の感触を、向こうでも忘れないように。

 そのヴィクトリアの方も、任務前、最愛の人の最後の温もりを確認する。
 シーリーンやアリスやイヴには申し訳ないと思ったが、それでも、衝動的に身体がロイに向かって突き動かされてしまったのだ。

 しかし、シーリーンにも、アリスにも、イヴやマリアにも、2人の抱擁を邪魔しようという気持ちはなかった。いや、逆に、今だけはヴィクトリアにロイの感触を譲ってあげよう、と。

 そして、恐らく、ちょうど30秒ぐらい経った時だろう。
 アリシアも叶うなら2人の邪魔なんて、心の底からしたくなかったのだが、ロイにアイコンタクトを送る。それに気付いたロイは最後に、一番強くヴィクトリアのことを抱きしめると、彼女の肩に両手を置いて、身体を離し――、

「クリス」
「はい、ご主人様」

「命令だ」
「はい。して、どのような?」

「ヴィキーのサポートをお願いするよ。そして、七星団の内部にはまだ、恐らくあいつがいるから、100%安全だ、って断言することはできない。危険は身近にある。でも、その上で、ヴィキーのサポートと並びに、万一の時でも、キミが死ぬことを禁ずる」
「かしこまりました、ご主人様」

 恭しくクリスティーナは頭を下げる。
 そして彼女が頭を上げたタイミングで――、

「それでは、出発しましょう! 各員、ゲートをくぐってください!」

 一人ひとり、みんな正真正銘、最後の言葉を残しながらゲートを潜っていく。
 そしてみんなの帰還を待つ側の少女たちも、一人ひとり、その言葉を噛み締めていた。

「ヴィキーちゃん! リタちゃん! ティナちゃん! クリスさん! 必ず、美味しい焼肉屋さんで、また! レアさんも、今度絶対、シィとロイくんについて語り合おうね!」
「ヴィキーっ、政治、頑張りなさいよ! 私も向こうで戦っているから! そして、必ず全員で帰ってきてみせるって約束してあげる!」

「リタ! ティナ! 行ってくるんだよ! お兄ちゃんはわたしが守ってみせるから、ヴィキーさんと話し合って、お店を予約しておいてね? 絶対だよ! レアさんも、焼肉の席で禁断の恋について語ろうね!」
「ヴィキーさん、弟くんの件、改めてありがとうございました。けど、なのにヴィキーさん……、いえ、ヴィキーのことをこっちに1人にしてゴメンね。必ず、戻ってきますから。クリスさん、弟くんの部屋、いつでも帰ってこられるように、どうか、守っていてくださいね?」

「レア! 帰還したら、溜まっているはずの家事の当番、俺にやらせろ! テメェに借りを作っておくと、休日に買い物の荷物持ちされられっからなァ!」
「行ってくるよ、みんな! リタ、今度こそ遅刻はしないよ! ティナちゃん、わかっているから、安心してね! クリス、ヴィキーのことをよろしくね! シャーリーさん、エルヴィスさん、必ず任務を成功させて帰ってきます! 最後に……っっ、ヴィキーっ!」

 つい先ほど、ヴィクトリアの前で平静な自分を維持してみせたのに、瞬間、ロイの声にも震えが混じり始める。
 泣いてはダメだ。理屈ではない。大した理由もない。ただ、カッコつけたかっただけだとしても。

「ロイ様……っ」
「ヴィキー、ボクは、キミのことを愛している! 必ず、また、みんなで、笑い合えるように頑張るから!」

 アリシア、シーリーン、アリス、イヴ、マリア、レナード。そして、最後に、ロイがゲートの向こう側に全身を潜らせ、光に包まれたタイミングで――、
 ヴィクトリアは服の袖で目尻に浮かんだ涙を拭い――、

「~~~~ッッ、はい! わたくしも……っ、わたくしも! ロイ様のこと! …………っ、ダーリンのことを! 世界で、っっ、一番お慕いしております! 行ってらっしゃい! ご武運を!」

「ファイトだぜ~~っ、イヴ! 先輩! あと、先輩に言っておくけど! ドタキャンは『人として誇らしいことじゃないこと』だから、まさか先輩が破るわけないよな!」
「が、っ、頑張って! く、ださい! みんな、で、待っていますから!」

「行ってらっしゃいませ、ご主人様! お嬢様がた! シーリーンさま、アリスさま、アリシアさま、レナードさまも!」
「おにぃ! 貸しには利子があるって知らないわけ? 帰ってきたら当然、結局1日中、買い物に付き合ってもらうっつーの!」

「祈願――こちらのことは任せてください! ロイ様は、ぜひ、生還を!」
「レナード、任務だから仕方がないとはいえ、帰還したら、流石にそろそろ修行を再開するぞ! だから、帰還したらまず、先約のご要望にきっちり応えて満足していただけ! でないと修行が始められない!」

 空間が繋がっているということは、声がゲートの向こう側にも届くということだ。
 ヴィクトリアとクリスティーナも、リタとティナも、シャーリーとエルヴィスとレアも、壁面の幾何学模様の円陣が消えるまで、声をかけ続ける。

 そしてツァールトクヴェレに全員が転移完了したのを、向こうで点呼を取って確認し終わったのか、その円陣は淡くて、儚くて、美しい光として霧散しながら消滅する。
 こうして第562特殊諜報作戦実行分隊――勇者パーティーの魔族領での戦いが始まるのだった。


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く