ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章26話 絶対領域のパーソナリティ(2)
「既知――言わずもがな、その2つはピース・ド・アー様が得意とする錬金術。とはいえ、だからこそピース・ド・アー様が【土葬のサトゥルヌス】とは考えづらく、結局、あいつは誰だ、という謎が深まってしまうわけですが……」
「そして、なぜそいつがフィルの錬金術を使えたのか、それについても話し合わなければな……」
「そうですよね……。スパイが自分の正体に繋がりそうな魔術を使うとは思えませんし」
「そもそも、オレが黒天蓋の序列第6位、【霧】のゲハイムニスと交戦している時、フィルはオレのアシストをしてくれていた。シャーリーと殺し合ったあとでも、味方同士なら手加減し合えるとはいえ、そのような疲労にオレが気付かないわけないし、時間的にも間に合わない。いや、それ以前に、フィルがスパイならあの夜、オレは間違いなく死んでいたぞ」
特務十二星座部隊の一員が死ぬような事態。
過ぎた可能性の話だったとはいえ、このような事実、絶対に公にしてはならないだろう。噂話だとしても吹聴をはばかられるレベルだ。
確かに、特務十二星座部隊は七星団の参謀、頭脳というわけではない。彼らの中から戦死者が出たとしても、戦争の継続は特に問題なく可能である。が、王国最強の戦闘集団の12人は各々、それこそデュランダルの使い手であるエルヴィスなんかは一騎当千の猛者なのだ。
物理的に考えても戦力の激減に値するし、そこに精神的な士気と入団希望者の低下まで加わったら目も当てられない。
「なら、シャーリーさん、エルヴィスさん。私たちが留守の間に――」
「了解――できる限り調査を進めておく」
「まずは完全に潔白のロバートと、潔白を証明でき次第、占星術師のイザベルをこちら側に迎えておきたいところだな」
「あぁ、イザベルさんの件についてはこちらがきっと役に立つかと」
アリシアはシャーリーに右手を、エルヴィスに左手を差し出してみせる。
わずかとはいえ逡巡のあと、2人がアリシアの手に触れると――、
ブラッディダイヤモンドよりもかなり前――、
アクアマリンの月の下旬――、
中央司令部の屋上で――、
――そこで行われた会話の記憶が、
「流石――ルスフィア様に対して、すでにコンタクトを取っていたとは」
「一気に開示できる手札が増え、交渉しやすくなったな。とはいえアリシア、なぜこの段階でイザベルに事情を話しておかなかった?」
怒っているわけではない。ただ単純に疑問だった。
アリシアならウソを見破れる魔術を使えるはずだし、逆にイザベルはその魔術を無効化する魔術を使えない。やましいことがあると疑われてしまうから。この前提は間違いないはずで、その状況下でイザベルが過程はともかく、結果的にはロイやアリシアに恩恵をもたらすような行動に出ており、それの説明を行っている。
そもそも、アリシアがこの状況で使った魔術はウソを見破る魔術に限らない。
映像と音声だけはわからなかったが、他にも適切な魔術をいくつか使っていたはずなのに、この時点でイザベルに事情を明かし仲間として勧誘しないのは、なにか考えがあってのことに他ならないはずだった。少なくとも、エルヴィスはそう結論付ける。
「確かにエルヴィスさんなら事後報告でも、正当な理由があれば許してくれるとは思いましたが、懸念事項がありまして」
「「懸念事項?」」
「正直、私はもうイザベルさんのことを疑っていません。あの時でさえ白にかなり近いグレーでしたが、ブラッディダイヤモンドの件で、王女殿下がロイさんを愛していて、彼が王族になっていてよかったと、心底実感しました。逆に王女殿下とロイさんが普通の友達だったなら、今、彼がどうなっていたかはわかりません。とはいえ、今回のロイさんの国外追放が神様の狙った本命か否か、もっと別の意味があるか否かは、私でもわかりませんが」
「そこまで思っているなら、なぜ?」
「イザベルさんが王国随一の占星術師ということは周知の事実です。絶対に【土葬のサトゥルヌス】も知っています。ですが、アカシックレコードに単独で接続できる才女だとしても、いえ、だからこそ、彼女を処理するのは困難を極めます。彼女が特務十二星座部隊に相応しい実力者という意味でも、仮に殺せても目立ちすぎてしまうという意味でも。それでも彼女をマークせざるを得ないとしたら、私なら――」
「誘導――ルスフィア様を餌として扱う。それも、彼女本人に気付かれないまま。ただシンプルに、彼女に神様なり異世界なりについて質問してきた相手をブラックリストに載せておく、という魔術さえ使わない方法で。…………って、あれ?」
ふと、とあることに気付くシャーリー。
張り詰めていた緊張が少しとはいえ弛緩し、稚い少女のように小首を傾げて先刻、アリシアから受け取った記憶、ビジョンをよくよく思い返してみることに。
そして同時にエルヴィスも察した。
アリシアがどれぐらい上手くイザベルとの会話を行っていたのかを。
「――なるほど、アリシア、そういうことか?」
「気付いたようですね。そう、私は中央司令部の屋上でした会話で、イザベルさんの方が神様とかアカシックレコードとか言い始めるよりも前、自分からは一度も神様関連の単語を口にしていません。あくまでも自分の無能っぷりの原因がイザベルさんにあった、ということ。そして、その目的がロイさんを王族にすることだと推測できたこと。この2つを突き止めて、その説明を要求して、それに応えてもらっただけです。つまり――」
ニッ、と、好戦的にアリシアは笑う。
最近は頭が痛くなるような出来事ばかりではあったが、これには達成感を覚えずにはいられない、と言わんばかりに。
幼女の姿であることも相まって、今の彼女はどこか毎日ケンカをしていて、勝負事が得意でボーイッシュな少女さえ連想できた。
以前の死霊術師との殺し合いでもその傾向が見受けられたが、幼い頃から貴族の令嬢に相応しい立ち居振る舞いを求められてきて、今も【金牛】としてみんなの期待を背負っており、何気に普段は抑圧気味の生活を送っているのだろう。結果、それから解放される時はレナードほどではないが、乱暴な一面が顔を覗かせる、と。
「――アリシアは【土葬のサトゥルヌス】に強敵であるとは流石に認識されているはずだが、まさか、ここまで異世界事情に深く関わっているとは思われていない?」
「えぇ、ロイさんに箝口令を敷いたのに自分がペラペラ語るわけにはいきませんから。その相手が誰であろうと。とりあえず、少なくともエルヴィスさんと共にロイさんの過去を知った夜から、今宵のこの瞬間まで、イザベルさんとの会話で自分から神様について切り出したことは一度もありません」
「道理――敵が仕掛けたと推測される餌が事前にわかっていれば、そこをピンポイントで回避することが可能。ロイ様とアリシア様が部下と上官の間柄であるにもかかわらず、ある程度の仲良しなのは露見していると考えるのが妥当だが、それでも、致命的な関係まではバレていないことになる」
「そして今回、私は王都を留守にします。私は私が、向こうの警戒対象だと推測しておりますし、恐らくそれに間違いはないと考えますが、なのに、敵からしたら私よりも警戒レベルが上のシャーリーさんが残る。となると必然、私のマークが任務の間は外れ――」
「自明――【土葬のサトゥルヌス】の意識が集中する餌がいるとすれば私め。そしてライツライト様が持つ釣り竿は、アリシア様が任務に行くから私め1本に専念可能。私めにあいつが喰い付けば、正体を少なからず暴けるはずだし。あいつがこちらに喰い付かず、ルスフィア様という餌が付いた釣り竿から意識を手放さないなら、その間にライツライト様がルディ・セント様に。可能性の話だが、ルディ・セント様に対してアクションを起こすようならルスフィア様に。そして、あいつが徹底した潜伏を選択したら――」
「オレがシャーリーを遠くから把握しつつ、矢面に立ってもらうことになるが、シャーリーがロバートとイザベルに勧誘を試みる。あるいはオレが2人に勧誘を試みて、その様子をシャーリーが日常生活を送りながら把握する、というやり方でもいいな」
「トドメに私は向こうで、異世界についてロイさんからいろいろ教えてもらい、保有している情報を敵と対等に近付ける。――これで、少しは名誉挽回できることを願います♪」
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