ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章23話 原因不明のスキル(1)
「それで、聖剣とか魔剣に込められているスキルって……シィの〈永遠の処女〉とか、クリスさんの〈使用人の嗜み〉とか、そういうのが生物じゃなくて武器に宿っている、ってこと?」
「うん、それについては今のシィの解釈で間違いないよ」
「じゃあ、そもそもスキルってなんなのかなぁ?」
「…………」
瞬間、シーリーンがあどけなくて純粋な瞳を向けると、スッ、と、ロイはその「ロイくんならなんでも知っているよね!?」とキラキラした視線から顔を背けてしまう。
別に質問の答えを知らなくても、ロイが申し訳なさや恥ずかしさを覚える必要なんてない。むしろ、シーリーンは勉強不足の自分の方こそ、申し訳なさや恥ずかしさを覚えて当然で、今後はもっと頑張るべき、と、考えていた。
とはいえ、だからこそスキルについてこの際、きちんと学んでおこうと思うシーリーン。
なので、視線をロイからまずはアリスに――、
「――――(スッ)」
次にマリアに――、
「――――(スッ)」
続いてヴィクトリアに――、
「――――(スッ)」
最後に少し苦手でもレナードに――、
「――――(スッ)」
「えぇ……」
全滅だった。
自分のことを空よりも高く棚に上げているのは理解していたが、それでもシーリーンは困惑した声を出してしまう。
が、ここで彼女は勇気を出すことを決める。
例え少しビクビクしてしまったとしても、特務十二星座部隊のみなさんに訊いてみよう、と。
「あのっ、アリシア分隊長に、お聞きしたことがあるのですが……」
「…………ぇ」
「アリシア、ご指名だぞ?」
「応援――頑張って答えてみてください。正直、『私たちめには無理』ですが」
動揺するアリシアに対し、エルヴィスは腕を組んで瞑目しながら、自分に質問がこなかったことに静かに安堵し、シャーリーは微妙に、彼女と親しい人にのみ、ギリギリわかるレベルでアリシアのことを煽っていた。
エルヴィスはともかく、どうやらシャーリーはプライベートではだいぶ子供っぽい性格をしているらしい。
「い、っ、いいでしょう! アンサーを出すことは無理でも、隊長してきちんと応対はしてみせます」
「コホン、それでアリシア分隊長、スキルとはなんなのでしょうか? いったい、どういった原理で……」
恐る恐るといった様子でシーリーンはアリシアに問う。
次いで、アリシアの方は少しだけ深い息を吸って、吐いて、気持ちを落ち着かせると――、
「先刻から、私はロイさんに知識量で負けているので、正直、ここで挽回したい気持ちはかなり強いです。――が、それでも、『わからない』というのが暫定的な答えになります。私にはわかりません。いえ、私だけではなく、ロイさんも、シャーリーさんも、エルヴィスさんも、他の魔術学者の方だって」
「ほぇ?」
「つまり、通算で5桁とか、もしかしたら6桁の超一流な魔術師たちが、古代から現在まで、途絶えることなく研究対象にしていたのにも関わらず、未だ入口にさえ立てていない。そういうことです」
「そ、っ、そうだったんですか……」
「ですので私はシーリーンさんに、スキルについてどのようなことであれ、情報、答えを断言するということはありませんので、それを踏まえて、これからの聞いてくだされば幸いです」
「わ、わかりました!」
先刻、自分で自分のことを強いだけの無能と自虐したアリシアであったが、こういうところは組織の上に立つ者としてしっかりしていた。
上官や、教師や、学者でも、どうしてもわからないことはある。それをまずは自分で認めた上で、相手にも認識してもらい、そこでようやく、答えではないが仮説を話し始めてくれる。もしかしたら、彼女には七星団の団員よりも教師や学者の方が向いている可能性さえあった。
「さて――、今しがた、未だ入口にさえ立てていない、と言いましたが、それでも、なにも成果がないというわけではありません。代表的な例として、統計学とポピュラーなアンケートを採用したスキルホルダーの全国調査、なんてモノもあります」
「えぇ、っと……、少しずつ答えに近付くのではなく、答えを集めまくって傾向を調べる、ということですか……?」
シーリーンは統計学という言葉を聞いたことがなかったので、文脈から推測して確認してみることに。
結果、アリシアから返ってきた答えは――、
「えぇ、その通りです。その調査の結果、スキルを保有するには一定の条件があることが判明しました。けれど、これが実に抽象的で、感覚的で、厄介極まりなく……」
「抽象的?」
「――――『現実を壊してでも叶えたい願望』があること。シーリーンさんの〈永遠の処女〉やクリスティーナさんの〈使用人の嗜み〉なら、フーリーやブラウニーという種族単位でそれがあったということになります。それと、かれこれ数ヶ月ぶりに口に出すことになりましたが、ロイさんの〈零から始める無限の修練〉は個人単位でそれがあったということになるでしょう。とはいえ、ロイさんのそれはスキルではなく、さらに希少価値の高いゴスペルになりますが」
流石にシーリーンでもゴスペルという名称の概念は知っていたし、そもそも、以前にもロイとゴスペルの話をしたことがあったが、こちらもスキルと同様、どういう原理かは全く勉強できていなかった。
ゆえに、シーリーンは今度――、
「それじゃあ、あの……、スキルとゴスペルの違いって……」
「それに関して言えば、願いの強さ、現状はその一言しか説明できません」
「――――」
「考えてもみてください、シーリーンさん。願いの強さで現実が上書きされる。直感には明らかに反しますが、仮にこれが世界の法則に反していない現象だとしましょう」
「は、はいっ」
「だとしても、フーリーやブラウニーという種族の願いを束ねてたった1つ、〈永遠の処女〉なり〈使用人の嗜み〉というスキルが宿ったのに対し、ロイさんや、あとは特務十二星座部隊、星の序列第1位、【白羊】のエドワードさんなんかは、たった1人分の願望で現実の上書きに成功しています。まぁ、ロイさんは今のところ正直、検査の結果、ゴスペルホルダーということがわかっただけで、本当に能力が発揮されているのか否か、明確になる戦闘が訪れませんが」
「うぐ……、面目ないです……」
明らかに蚊帳の外にいたはずなのに、予期せぬ流れ弾が飛んできてロイは少しだけショックを受ける。
「つまり、総量は同じでも願望の密度が違う、ということですか?」
「えぇ、それが真実かどうかはわかりませんが、少なくとも現時点で、学者たちの間ではその解釈が主流になっております。そして一部の学者たちは、ゴスペルホルダーの中でもさらに上位の者のことを――」
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