ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章16話 解答保留のプロブレム(7)
「コホン――、改めて破壊工作についてですが、こちらにも各々、役割分担が存在します。まず私とロイさん、破壊力が高い私たちはそれぞれ、手分けして必要なモノを奪っては施設を壊し、奪っては壊し、これを繰り返します。とはいえ、ある程度奪い尽くして、それから施設を破壊した方が得られるモノが多いので、当然ですがいきなり外から攻撃をぶっ放すのではなく、まずは正体を隠して侵入する、ということも理解しておいてください」
「ただの犯罪者のような気が……」
「事実、向こうから見たら私たちは犯罪者ですもの」
「ま、まぁ……、戦争ですからね……」
とはいえ、ロイはこの時、微かな違和感を覚えていた。
アリシアは強い。これに間違いはないし、翻りロイの方、彼本人にだって同年代が相手なら99%の敵に負けない確信、慢心皆無の自負があった。が、アリシアはともかく自分は同年代最強クラスなのであって、七星団なり魔王軍の最強クラスというわけではない。
無論、当該施設にもロイより格上な騎士や魔術師がいるはずだ。警邏兵の中にはもちろん、研究員の中にさえきっと。
だというのに、アリシアはロイに単独行動を命じている。明らかに、何かしらの策が彼女にはあるのだろう。
「次にレナードさん」
「はい」
「破壊工作をする数日前の段階で、私がどの脱出ルートを採用するか通達しておきます」
「っていうことは、つまり――」
「脱出ルートの確保、見張りをお願いします」
「了解しました」
ふと、レナードはロイにアイコンタクトをしてきた。
それに対してロイは静かに頷く。
恐らくレナードもロイと同様の違和感に辿り着いたのだろう。
今回は敵国に潜入するという任務の性質上、どうしても少数精鋭になりやすい。それそのものは任務の性質に合致しているからむしろ合理的なのだが、とはいえ今のアリシアの説明には部下といえども許容できない部分があった。
破壊工作という言葉を聞いて、ロイとレナードが真っ先に連想したのは爆弾だ。用事が終わったら秘密裏にそれを仕掛けて、自分たちの存在を気取られないうちに爆破させる。この作戦を2人は一番に思い付いていた。
が、アリシアの今の説明を受ける分に、どこからどう考えてもロイが敵にバレることは確定だし、シーリーン、アリス、イヴ、マリアの任務は次の説明次第だが、最低限、その単独で敵に捕捉されている状態の彼を、レナードの方も単独で脱出させなければならない。
端的に言えば、無理、無謀、それに尽きた。
「続いてアリス、シーリーンさん、マリアさん」
「「「はい!」」」
「ここは研究施設ではありますが、当然、警備員がいて然るべきです。最初は3人1組で行動して、敵が騒ぎ出したら各々、単独行動をし始めて、できる限り敵の注目を集めてください。言ってしまえばオトリということになるかもしれませんが、大切な役割です」
「「「了解です」」」
これに関して言えば違和感どころの騒ぎではない。確実に頭がおかしい、と、隊長が相手でも異議を
唱えるレベルだ。
ロイとレナードが見た感じ、今の3人も不可解さを強く抱いたようである。
敵の領土に潜入して、さらにその中でも軍事施設に潜入して、戦闘員か研究員かは問わないにしても、相手は明らかに3桁や4桁にも達するのに、そこで1人でオトリをする。
それを実行する者がいるとすれば、確かにアリシアやシャーリークラスの実力があれば話は変わってくるが、基本的にはただの自殺志願者か、自信過剰で英雄になろうとする現実が見えていないバカだけだろう。
「最後に、イヴさん」
「はい!」
「あなたが魔族領に潜伏しているとなると、魔王軍はなにを思うでしょう?」
「? 討伐しなければ、とか?」
「そのとおり。まさに牛がバターを乗せてやってきた状態です」
「う、うん、です!」
「そこであなたには、討伐隊を返り討ちにしてもらいます」
「なっ……!?」「えっ……!?」
驚きのあまり、ロイはソファから腰を上げてしまう。無論、イヴ本人も同様に。今、現時点の戦況を考慮すればありえないレベルの判断だった。非常識、異常と言われても反論不可能なレベルの作戦である。
顔をしかめたのはロイとイヴ本人だけではない。シーリーン、アリス、マリア、ヴィクトリア……いや、ここにいる全員がかなり良くない反応しかしていない。
イヴの兄としてロイがアリシア、上官に進言しようとすると――、
「わかっておりますとも、イヴさんは1対1なら99%以上の相手に勝てるでしょうが、逆を言えば、数を揃えられたら殺される、ということも。並びに、今までの私が説明した作戦が、明らかに現実的ではなかったことも」
「なら――ッッ」
「そこで私は今回、イヴさんだけではなく、『他の全員にも準備していただき、準備が完璧ならやっていただいても、いただかなくても、どちらでも大丈夫なこと』が1つだけあります。もちろん、私も準備を手伝い、最終チェックの方も私がさせていただきますが……ひとまず、資料のイヴさんに関するページをご覧ください」
全員が目次を確認して、イヴに与えられる作戦の詳細、それが載っているページを把握したあと、実際に当該ページを開いてみる。
瞬間、ロイも、シーリーンも、アリスも、イヴとマリアも、ヴィクトリアとレナードも、アリシアの考えた作戦に感嘆する。
シャーリーとエルヴィスの2人でさえ、感心して口元を満足げに緩めたぐらいだ。
『これ』が上手くいけば、今後の戦争でかなりのアドバンテージを維持することができる、と。
そして――、
「いかがですか?」
「うん、やってみせるよ。わたしに任せて」
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