ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章11話 解答保留のプロブレム(2)



 上官と一緒に過ごすだけならまだ大丈夫だ。許容範囲内というか想定範囲内だから。厳しい生活になるのは当然だろうが、入団した以上、そういう事態も想定しており、覚悟していたことだから。

 が、アリシアはただの上官ではない。以前好きだった女の子の姉だ。
 絶対に気まずくなる。なるに決まっている。それもレナードの方だけ一方的に。

 だが彼は必死にその感情を押し殺し――、
 部下が上官にする手本のような顔つきで――、

「――こ、こちらこそ、よろしく、お願いいたします」
「あらあら? どうしたんですかぁ? そんなに強張った顔をして」

「――粗相をしでかさないように、と、自分を今のうちに戒めておりました」
「緊張しているようですねぇ……。向こうに着いたら緊張をほぐしてあげましょうか?」

「…………ど、っ、どのように?」
「プライベートな話をすれば、上官が相手でも親近感を覚えるはずです。例えば、恋バナとか」

「………………」

 無表情のまま、額にダラダラと冷や汗を流しまくるレナード。
 流石にアリシアも弄りすぎた自覚があったのか、ひとまず彼に対してはもうやめることにした。

「それと次に、アリス、シーリーンさん」
「「はい」」

「なにかしらの緊急時を除き、原則としてお泊りは禁止です」
「「…………えっ?」」

「拠点を分割する意味がなくなりますもの」
「「…………」」

「――――」
「「…………」」

「あらぁ? 返事は?」
「「っっ、了解いたしました!」」

 いい返事が聞けて満足げに微笑むアリシア。
 次いで自分で再確認するためか、テーブルの上にあった資料を手に持ち直す。

「それで向こうに到着し次第、各々にやってもらう任務ですが――まず、ロイさん」
「はい」

「詳しいことは資料に書いてありますが、摘要と、他の隊員にも絶対に知っていただきたいことを、この場で説明させていただきます」
「わかりました!」

「当然ですが、ロイさんの顔は向こうにも割れていると断定した上で、今回の任務に臨んでください。一般市民が知っているかどうかは不透明な部分も多いですが、間違いなく魔王軍の軍人、警邏けいら兵は知っているでしょう。つまり、見付かった時点で応援を呼ばれ、包囲され、一発アウトです」
「はい!」

「ロイさんは元王族で、しかも聖剣使い。自分たちの領土内にいるなら、是が非でも討伐しにくるでしょう。当方の分隊は戦力としてかなり上澄みです。が、相手からすれば重要人物を複数人、圧倒的低コストで処理するまたとない機会。そこで、これを効果的に、そして魔力反応を出さずにクリアするには物理的な変装が一番です」
「はい!」

「というわけで、女装してください」
「はい! …………えっ?」

 女装? 誰が? 自分? 本当に?
 瞬間、ロイは今、自分はとんでもないことを了承してしまったのではないか、と、先刻のどこかの誰かと同じように、大量の冷や汗を流し始める。

「レナードさん」
「なんですか?」

「聞きましたよね、あなたのライバルが今、なんて返事したのかを」
「もちろんです。それにロイ、男に二言はないはずだよなァ?」

 まるで天使のような微笑みを浮かべるアリシア。
 そして最高に愉快そうな悪い笑みをロイに向けるレナード。

 どうするどうするどうするどうするッッ!?
 ロイは必死に女装を回避するすべを考えるが、無理だ。理由として、これは任務で、上官の命令は絶対だから。それにそもそも、変装そのものがダメというわけではないから。

 が――、
 それでも――、

「確かに、女装に成功した時の効果は絶大です。魔術を使わずに性別を偽れるわけですから」
「はい、敵に捕捉される可能性もかなり低くなります」

「でも、それは違和感なく女装できたらの話です」
「と、言いますと?」

「ボクは女顔どころか、割と筋肉が付いていますし、あと、童顔でもないんです。それこそ――」

 そこで一度だけ区切るロイ。
 次にアリシアからレナードに視線を移すと――、

「先輩の方こそ女装するのに向いていると思います! 先輩も聖剣使いですし、なにかしらの変装は必要のはずです!」

 声高らかに主張するロイ。
 翻り、レナードはその主張を鼻で笑い――、

「オイオイ、ロイ、寝言は寝て言えよ。ナァ、アリス?」

 賛同を求め、レナードはアリスにそれを促す。
 が、しかし――、

「……そうなのよね。意外なことに、先輩の方が女装、似合いそうなのよね」
「…………はぁ?」

 ――意外にも、返ってきたのはロイの主張に対する賛同だった。

「うん、シィもそう思う! 初めて見た時、なんて言うのかな? 男装の麗人みたいな男子学生、って思ったもん。ちょ、ちょっぴり怖かったけど……」

「ぶっちゃけ女顔だよ!」
「コメントは控えさせていただきますね」

「同じくノーコメントですわ♪」
「レナードさま。もしよろしければわたくしに、レナードさまは女顔ではありません! と言え! と、そのようにご命令くださいませっ」

「回答――事実を正しく認識するのは七星団の団員でなくても大切なこと。会議終了後、鏡を見ることを強くオススメする」
「レナード……、その……、なんだ……、それもお前の長所だと思えばいい。それこそロイの言うように、魔術を使わずに性別を偽れたら、自分に可能な任務の幅が広がるぞ……」

 味方なんてどこにもいなかった。

「ですがロイさん、現実問題、レナードさんの方が女顔ということと、ロイさんが変装しなくても問題ないということは、同義ではありません。それに、私も無策でロイさんに女装をさせようなんて思っていませんので」
「と、言いますと……」

 ロイは自分で自分の身体を、かなり筋肉質な方と認識していた。
 それはアリシアだって理解しているはずなのに、その彼女が無策ではないと言う。
 思わず、ロイは生唾を呑んで嫌な予感を誤魔化した。


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