ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章20話 胸中秘匿のイレギュラー(4)
「それで、だいぶ僕が話してしまいましたけど、シャノンさんの方の用件は?」
「あっ、そうですね!」
と、両手の指先をあわせてはにかむシャノン。
「差し出がましいお願いではありますが、ルークくん」
「は、はい……」
「昨日のことは、できれば他言無用でお願いします。できれば、その……、2人だけの秘密ということに……」
はにかんだと思ったら、シャノンは今度、俯いてモジモジし始めた。
「………………」
「あ、あのぉ……」
「2つ」
「えっ?」
「2つ、言っておきたいことがあります」
「ど、どうぞ!」
生真面目+変なところでズレているのであろう。
シャノンは改まる必要なんて皆無なのに、姿勢を正して緊張と真剣さが入り混じった表情をする。
「誰かに情報を開示した時点で、僕の生活はますます苦しくなります。実は僕、戸籍をゲットできたので放課後、パン屋で働いているんですけど、事情聴取とか任意同行とか、そういうので仕事に支障が出たら、まぁ、破滅です」
「は、はい……」
「そして、こちらは損得勘定の結果ではなく、純粋な心の問題なんですが……」
「惚れてしまいましたか?」
「いえ、まだ付き合っていませんが、僕には好きな幼馴染の女の子がいますので」
「そうなんですか!? 頑張ってください! 応援しています!」
なんなんですか、この人……、と、ルークは微妙に頭痛さえ覚えた。
思いっきりペースを乱されまくりである。
「――――コホン、とにかくっ、僕は命の恩人を売るようなことはしません!」
「そうですか――、えぇ、ありがとうございます」
すると、それでシャノンは満足したのだろう。
精一杯の約束をしてくれたルークに対し、最後にもう一度だけ微笑んでみせて、踵を返し始めた。
が、少しだけ歩いたあとに――、
立ち止まって――、
振り返って――、
「ルークくん、少しアドバイスしてあげます」
「アドバイス、ですか?」
「レーヴァテインを使うのが怖いんですよね?」
「はい……、当然のことだと思いますが……」
「でしたら、手加減をしていても相手を圧倒できるまで自分が強くなるか、自分が全力を振り絞っても届かない相手と巡り合えばいいんです!」
「は、はぁ……」
だいぶ荒唐無稽なアドバイスだった。
答えだけ渡してきて、辿り着く方法は自分で考えろと言わんばかりの具体性のなさである。
「そしてもう1つ」
「――――――」
「ムカつく相手をぶちのめしますと、想像以上にスカっとしますよ?」
「えぇ……、てっきり、意味深なことを言われると身構えていたんですけど……」
「ふふっ、それでは、また明日、教室で」
「は、はい……、また明日。シャノンさん、お気を付けて。僕は時間をズラして下校しますので」
ルークがシャノンに手を振ると、シャノンもそれに応えて手をパタパタと、まるで子犬の尻尾のように振り返す。
それはまさに、男子が考えた理想の女性像のように。
そして、廊下、昇降口、中庭、校門と進み、シャノンは――
――真っすぐに帰宅、否、帰還せず、学院の近くの路地裏に入り込んだ。
ティナの厚意で拝借させてもらった彼女の祖父の遺品、深静奏界というアーティファクトは異常なく作動中。無論、先刻、ルークと会話していた時も。ついでに言えば、昨夜の襲撃の時も。
次いで、シャノンは一応、誰かに見付かるなどの異常事態が発生する前に、アリシアが製作した空間転移のアーティファクトを制服の内ポケットに入れたまま起動する。
そして――、
ほんの一瞬後――、
シャノンが転移した先は――、
「ただいま、姉さん」
「おかえりなさい、ご無事のようでなによりですね」
「とりあえず、レーヴァテインとその持ち主、ルーク・ノルトヴェスト・アハトドライノインの両手を魔王軍に献上しようとしたヤツらの計画、これは昨夜の段階でいったん阻止に成功。さらに、学内でも多数の貴族の子女と接点を持ち、入手した情報から推測される状況証拠のみだけど、その確認にも成功。で、そのルークくん本人も比較的落ち着いていたよ。あと、レーヴァテインの能力も少しは聞き出せた。クラスメイトとも、コミュニケーションに問題はないかな」
構造そのものはありふれた民家の一室。だいたい広さはこの転移先の一室だけで16m^2程度だろうか。天井までの高さも恐らく2.5m前後だろう。
床には新品とも使い古しとも判断が難しい木目があり、壁はいたって平凡、特筆に値する点などなにもない乳白色だった。窓にはレースのカーテンが引かれており、部屋の中央には片側2人掛けのテーブルと4脚の椅子が。
「お疲れさまでした。あとはもう、夕食までゆっくり休んでくださいね? あぁ、でも――」
「んっ? なにかな?」
「――――う~ん」
「ね、姉さん……?」
「――まぁ、バレませんよね、その完成度なら、弟ちゃんの女装と女声」
「やめてよ……。ボクはまだ本気で王族に復帰する気なのに、任務とはいえ女装していたことがバレたら……。っていうか、本当にエクスカリバーに『こんな狂気的な応用の仕方』があったなんて……」
椅子に座って『なにかの写真』をテーブルに広げていたマリア。
そんな実の姉に女装を褒められてシャノン――――ではなく、ロイは泣きたくなるほど内心嘆きつつ、他の仲間に見られる前にあてがわれた自室に戻り、いつもの私服、男性らしい服装に着替えるのだった。
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