ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章15話 心証固定のペルソナ(1)
騎士と魔術師。男性と女性。
少なくとも軍立第35騎士及び魔術師育成学院において、基本的に女性は騎士ではなく魔術師を志望する傾向が強かった。
肉体強化の魔術なんて代物が存在、普及している以上、男性と女性の間に存在する腕力の差、加えて体格の差はほぼ考慮するに値しないわずかな誤差として認識される。それを計算に入れる場合といえば、主にその戦う男女の魔術の技量が拮抗している時のみだろう。
元も子もないことを言えば、騎士と魔術師の差異とは即ち――剣や槍をメインに据えつつも、近距離で、例え肉体強化だろうと魔術を使うか否か。あるいは後方に徹し、遠距離からなにかしらの魔術を撃つか否か――そう主張する学者だって皆無というわけではない。
しかし、それでも女性が魔術師を志望しやすい傾向にあるのはなぜか?
簡単なことだ。顔と身体に傷跡を残さないためである。
いくら治癒魔術で完治が容易いといっても、敵兵が剣や槍になんらかの魔術、あるいはもっと単純に毒を付与している可能性だって、戦場では充分にある。
それが目立ってしまえば婚姻は難しい。最悪、生涯未婚ということもかなりありえる。
では、ならばそもそも軍立の学院に入学させるのはおかしいのではないか、という疑問が湧いてくるだろう。
そこが魔王軍の運営方針の巧妙なところで、1つの国家より、複数の国家の共同体の方が物理的に規模も戦力も大きい。そして、魔族領=魔王軍の勢力図という大前提。畢竟、魔王軍に入り武勲を立てれば、自分の家の拡大にも繋がりやすい、という構図をしているのである。
具体的に目立った特典といえば、単純に資産、地位、コネクションの増強。そして領地の境目どころか国境さえ越える大なり小なりの影響力。魔王軍に存在する他の貴族や他国の情報に対するアクセス権限。そして――、魔王軍に属しており、私兵扱いできないとはいえ、自分の息子や娘が管理することになる数十名、場合によっては3桁にも届くかもしれない部下の存在。
中には間違いなく職権乱用に抵触するモノもあるが、そのようなこと、全てはやり方、及びそれをする時の建前次第だ。
気にしないわけではない。都合が悪いから見て見ぬふりをするわけでもない。
充分に理解した上で、罪に問えない方法で利用していく。
最後に――、
――当然の保険として、軍人になるのはその貴族の長男、長女ではなく、次男や次女、そしてそれ以降に生まれてくる子供たちだ。
親からしてもそちらの方が理に適っているし、次男次女以降の子供から見ても、長男長女に勝る富と名声を得るためには、リスクは付き物だが一番手っ取り早い。
だというのに――、
貴族ではないかもしれないが――、
シャノン・ヴォルフガング・シュティルナーは――、
「勝てない……」
「つ、強すぎる……」
「10連戦10連勝って、何者だよ……」
「…………しかも、魔術師じゃなくて騎士志望って……」
午後の1コマ目、実践演習の時間――、
中等教育の学舎の北側、学院のグラウンドにて――、
シャノンはまるで明鏡止水さながら、10連戦して10連勝しても、息ひとつ乱さず、汗ひとつ垂らさず、静かに木陰のベンチで休憩を取っていた。雲がないわけではないが、どこからどう見ても完璧な晴天。早朝でも夕方でもない、むしろ一日の中で最も気温が高くなる時間帯。10連戦自体はともかく、初戦を始める前と5戦目を始める前に2回、各々たった一口しか水分補給をしないなんて、果たして余程のバカか至上の天才か。そんなシャノンを一瞥し、キミ、休憩の必要なんてあるの? というツッコミをルークはグッと堪える。
男子相手に圧勝を続けたシャノンの周りには今、ぜひともお近付きになりたい! と、瞳を爛々と輝かせた女子学生がかなり多く、具体的には10人も集まっている。
5~6人掛けのベンチが2脚しかなかったので、都合よく人数分あった、というより、会話の最中に立っている姿を見せたくなかった女子学生が、定員になった時点で合流を諦めたのかな、と、ルークは推測した。
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