ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章11話 交際破滅のフェイト(2)
恩人相手からそこまで言われ、ここでようやくルークは顔を上げる。
思えば、初対面からもうすぐで10分は経過するはずなのに、ここでようやく、ルークはシャノンのルビーのような瞳を、シャノンはルークのプラチナのような瞳を、互いにあわせることができた。
「じゃあ、その……、なんで、貴族を相手にケンカを……。それも、3つの家に対して……」
「言ったはずです。理由がある、と」
「自らの名前を広めたいんだとしても、もっと別のやり方があるはずじゃ……」
「過激な方が目立ちやすいじゃないですか」
流石にこの発言には、助けてもらったルークでさえ呆れてしまう。
この人は貴族を敵に回すことの怖さを理解していないのではないだろうか、と。
シャノン自身が名家の生まれである可能性も否定できないが、それでも、今夜だけでケンカを売った貴族は侯爵家1つに伯爵家2つだ。
正気の沙汰ではない。初対面の人、かつ、恩人を相手に失礼だとは思ったが、ハッキリ言って、頭のネジが何本か外れているようにしか、ルークには思えなかった。
「明日から、わたしはどうすればいいと思いますか……?」
「この3人が退院したあと、過剰なまでの八つ当たりをされたくないし、かといって、別の勢力の被害者にもなりたくないし、どう立ち回ればいいかわからない、と?」
小さく、コク、っと、ルークは頷く。
「安心してください。改めて明言しますが、近日中にわたしも復学いたします。ですので、あなたに怒りの矛先が向くことは……、まぁ、残念ながらないわけではないでしょうが、それでも、だいぶ少なくなるとは思いますよ」
嗚呼――、この人には物理的な目標の他に、なにか精神的な夢でもあるのだろうか。
特に根拠もないのに、ルークは漠然とそのようなことを思った。強いて根拠を挙げるならば、割と自己犠牲に近い形で見ず知らずの自分を救ったことによる、この人に対する自分自身の心証だろうか。
「あっ、そうです」
「な、なんでしょう……?」
「あそこの壁面にアーティファクトがありますよね?」
と、シャノンはそれがある場所を指差してみせる。
遅れてルークが視線をそちらにやると、確かにそこにはアーティファクトが存在していた。
「? えぇ……」
「あれは……、えっと……、その……、コホン、イケナイコトをする時、大声を出しても周りが気付かなくなるアーティファクトです。客引きだったマルコさんからはそのような説明を受けました」
「だからこんな場所で派手な戦闘をしても……」
「策士策に溺れる、ってヤツですね。わたしが魔術防壁を展開していたので、戦闘中、壊したくても壊せなかったでしょうが。ですが――」
ふいに、シャノンはパチンッ、と、指を鳴らした。
ルークの推測だが、恐らく魔術防壁を解除したのだろう。
そして――、
「――――【魔弾】――」
躊躇いもなく防音のアーティファクトを破壊してみせた。
「器物損壊では?」
「通報すればこの場所で行われていたことが明るみに出ますし」
それだけを言い残すと、今度こそシャノンは退散するようだった。
アーティファクトを破壊したことで、誰かがこの路地裏にやってくる可能性が跳ね上がったからだろう。
けれど――、
まだ――、
――ルークは大切な恩人に、
――ありがとうございました、と、そのたった一言が言えていない。
「あっ、ま、待って……っ」
背を向けて大通りに出ようとするシャノンの手袋をはめた右手。
そこに自分の右手を伸ばし――、
指先が触れると――、
「わっ」
「きゃっ!」
いくら謎めいた強さを誇るシャノンであっても、敵意もない相手に背後から触れられたことに驚いたのか、思わずルークのことを振り払ってしまった。いや、敵意がなかったからこそ、シャノンでさえルークの接近を察知できなかったのかもしれない。
ともかく、結果、まさか自分を助けてくれたシャノンに振り払われるとは露にも思わず、ルークの方もシャノンと同じぐらい驚いて尻餅を付いてしまった。
「あっ、ご、ゴメンなさい! わたし、急に触られてビックリしちゃって……、っっ、あの! えっと! そ……その、ケガはないですか? 痛いところは?」
「いえ! 大丈夫です! わたしの方こそ背後から近付いて、その……」
「…………、…………、ッッ!?」
「? どうかされましたか?」
どうもシャノンの様子がおかしい。
流石というべきかなんと言うべきか、確かに落ち着いていて優しげな微笑みは現在進行形で浮かべている最中なのだが、それは、端的に言えば固まった。いわゆるフリーズ状態である。
シャノンの視線は尻餅を付いたルークのスカートの中、即ち純白の下着――、
――ではなく、そこに存在する不自然な――……、
「きゃっ!」
慌ててルークはスカートの裾を手で引っ張った。
今まで肉体ではなく精神が強姦されたようにどこかダウナーだったルークだが、この時、シャノンの前で初めて可愛らしい小さな悲鳴を上げて、初心な少女のように顔を羞恥心で真っ赤に染めてみせる。
あどけないプラチナのような瞳を潤ませ、目尻いっぱいに雫を溜めたいじらしい男の娘。
このように表現すればコメディチックな聞こえ心地にはなる。
しかし――、
(骨格とかで確信は得ていたけど……、けれど、それでも流石に信じたくはなかったけど……、ッッ! ここまで腐っているのか、この国は……ッッ!)
金がなくて、あるいは持っていても満足できなくて、女も用意できないから、あるいは用意できても別の玩具の方が見ていて面白いから、男、それも学生に女装させて身体を売らせる。
これがまかり通り、あまつさえ貴族の火遊びと化しているなんて、言語道断もいいところだ。
無意識のうちに、シャノンは強く奥歯を軋ませてしまう。
「あ、あの!」
「っ、な、なんですか?」
シャノンが怖い表情をしていることに気付かなかったのだろうか。
ともかく、ルークは自分の気持ちを伝えるのが難しい少年であったが、それでも、精一杯の勇気を振り絞って想いを告白する。
「――――ありがとうございました」
と、ルーク自身、戸籍を得てから一番上手く笑えた。
そこまで思ってしまう、初恋さえ知らない幼女のように、純情可憐な微笑みで。
「っっ」
「わたしの人生は明日破滅するかもしれませんけど、それでも、今日は破滅しないですみました。シャノンさんが学院でなにをしたいのかは知りませんが――、手伝えることなんてなくて、あっても怖くて手伝えないかもしれませんが――、せめて、お礼は言わせてください」
「………………」
「ありがとうございました、あなたに、魔王様の祝福を」
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