ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章10話 交際破滅のフェイト(1)
――ルークが目を瞑っているほんの数秒で、戦闘、否、一方的な蹂躙、暴虐、条理ではあるが理不尽の体現者は終戦を迎えていたようである。
「怖い思いをさせてゴメンなさい。今、鎖を斬ってあげますから」
パチン――っ、と、シャノンが指を鳴らすと、ルークを守るようにいつの間にか展開されていた半ドーム型の結界、透明な【必要悪の黒壁】が解除された。
信じられないことに、あの弾幕のど真ん中にいたはずなのに、非戦闘員を守る余力さえあったようである。
一方的とはいえあれだけ瞬間的に激しく動いたのに、服装に特に目立った汚れも乱れもなく、シャノンは落ち着いた様子で未だ鎖に繋がれたルークに接近し始めた。
淑やかなシャノンの微笑み。そこには確かに、相手が悪党であろうと負傷させてしまった罪悪感が見受けられた。が、表情と雰囲気から察するに、シャノンはすでにそれを割り切れている。別段、微塵すら気に病んでいない。ゴメンなさい。でもそのままそこで眠っていて。その思考の切り替えに、この妖刀使いは1秒さえ要さないというのか。
「あの……、いったいどうやって……」
ルークは意識的にシャノンの雰囲気に関することより、戦闘の顛末を訊くことにした。
物理的な話題よりも精神的な話題の方が、どこかシャノンの闇を垣間見てしまう気がしたから。
「錯乱した敵が乱射に逃げるのはよくあることです。だから、わたしは跳躍し、マルコさんの背後に着地、彼の身体を盾にしました。錯乱状態で行う乱射を急に止めることは難しいですからね」
「まさか、死んだんですか……?」
「いえ、マルコさんの身体に【強さを求める願い人】を付与してあげましたので、単純に気絶しただけです。打撲のような痣は残りますが、魔術の弾丸が貫通していることはありません。断言できます」
「…………」
「ですが、バルバナスさんは相当驚いたでしょう。軽い意味ではなく、正真正銘のパニックだったはずです。ゆえに、その隙に背後に回り、峰打ちをさせていただきました」
そこで丁度よく、シャノンがルークのもとに辿り着いた。
有言実行。まるで夏の日に放置したバターを割くように、音もなく、特に力を入れることもなく、右手、左手、右足、左足、4つに繋がっていた鎖を全て切断してみせる。
一瞥しただけではあるが、鎖の切断面に凹凸は皆無だった。少なくとも肉眼で確認できる分には、であるが……、否、そもそも、肉眼であろうがなかろうが、鎖を絶つのに特別、腕力を使わない時点で異常である。
だが――、
ルークがそれを言葉にするどころか、表情にさえ反映する前に――、
「――――そういえば、肉体強化の魔術は使えますか? ここにくる前、客引きだったマルコさんにお伺いしたところ、あなたが肉体強化を使っても、自分たちが無効化するからと仰っていたので――」
「えぇ、その……、使えます」
その証明をするように、ルークは自らに肉体強化魔術を施して、合計4つの手枷と足枷を破壊してみせる。
それを見て満足げに微笑むと、シャノンは妖刀を魔力粒子化して自分の内側にしまい、ルークに背を向け、当然のことながら早々にここから立ち去ろうとした。
しかし、ルークはそれを許さない。
悪い意味ではなく、良い意味で。
「~~~~っっ、あの!」
この日、いや、この1ヶ月の間で、初めてルークは大きな声を出した。
それはもう、他人からしたら、大きいとはいえ許容できる声量だとしても、いつも息を殺して目立たないように身を屈めていたルークの場合、自分の声に驚いてしまうぐらい。
一方、シャノンはそれに中途半端に応じる。
歩みは止めたが、振り返りはしない。
「はい?」
「――、怒らないんですか?」
「なにに対してです?」
「肉体強化の魔術を使えるのに、参戦しなかったことを……」
すると、シャノンは身体ごと振り返り、ルークと真正面から向き合った。
だというのに、むしろルークの方が顔を俯かせてシャノンから目を逸らしてしまう。
「賢い選択だと思いました。糾弾すべき点はなにもありません」
「…………」
「あなたがわたしの助力に入っていれば、明日以降、あなた自身の不利益になっていたでしょう。貴族に歯向かったことになるのですから」
「まぁ、それは……」
「同時に、だいぶ早い段階でわたしと彼らの力量の差はハッキリしていたはずです。ですから、戦わなかった自分を責めることはありません。耐えること、物理的な攻撃に打って出ないという判断を下すことも、また一種の戦いですから」
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