ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章9話 真偽錯綜のプレリュード(7)



 静謐にまぶたを伏せ、残心を構えつつ一呼吸だけ吸って、吐き――――改めて目を開けたシャノンは意図的に重力を増幅された領域に対し、雨が降っていたから屋内に入った、その程度の気持ちで脱出をしてみせた。
 別に魔術無効化魔術を発動したわけでも、術者であるマルコが恐怖して術式構築が疎かになったわけでもない。単純に、それゆえに強力無比に、肉体強化魔術を追加で己が肉体に付与しただけである。

「なっ!? なんだ……、こいつ……」
「こんなの……、学生のレベルじゃない…………」

「安心してください。わたし、【零の境地ジィロ・イミネンス】が使えないので、だから肉体強化魔術で力押ししただけですよ。――っていうか、いくら少し脳筋な方法で重力操作を打破したからと言いまして、そこまで化物扱いされるのは心外極まりないですね」

 バルバナスに一歩、また一歩、精神的にも動きにも余裕を持ってシャノンは近付く。
 端的に言えば、その余裕は強者のみに許された特有のそれだった。

 絶望によって正気が削られていくバルバナス。
 ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ…………、と、上下の歯が噛み合わない。まるで全裸で真冬の雪山に放置されたみたいに。呼吸さえ上手くできなくなって、意識的に呼吸の回数を増やしているのに、それに比例して全身が苦しくなり、視界さえ霞み始める。胸に手を当てなくても鼓動の回数を自覚でき、その感覚は足の爪先まで鮮明に伝わってきた。

 これが搾取される側の見ていた世界なのか、と、バルバナスは発狂に一歩ずつ、しかし確実に、それも徐々に早く近付いてしまう。
 だが、逆に一定以上正気が削られたことにより――、

「く、――、――、くるなァアアアアアアアッッ!!!!!」

 ヒステリックに喉を絞り、声帯が傷付くほどバルバナスは絶叫する。
 バルバナスは【強さを求める願い人クラフトズィーガー】をフィフスキャストして、正体不明、理解不能、浮遊感や孤独感にも酷似した名状しがたい根源的恐怖に対し、競い合うように後方に跳躍を繰り返す。逃げろ、逃げろ、1分1秒でも逃げに徹しろ。恥や外聞を気にして撤退を惜しむな。自己暗示のように内心、繰り返し、繰り返し、何回も、何回も、幾度も、幾度も、何重に、何重に、無力な青年は本能から溢れ出る警告を噛み締める。そして並行して、【魔弾】を自分でも何発かを認識できないほど無我夢中で撃ちまくった。

【魔弾】も【雷穿の槍】と同様に点の攻撃でしかない?
 しかも【雷穿の槍】の威力と速度には遠く及ばない?

 なるほど、確かにそういう側面もある。
 だが――、

「魔力消費量の少なさと手数の多さで掃討だァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッッッッ!!!!!!!」

 魔力燃焼の燐光による疑似的な発火炎マズルフラッシュにより、ルークは思わず瞼を強く閉じる。しかし数秒後、嵐が過ぎ去ったあとのような静寂を感じ、決意を固めて目を開き直すと――、――、路地裏そのものが蜂の巣状態――訂正――小規模ながらも爆心地に成り果てていた。
 魔術的弾痕、加えて高速で飛散したあらゆる破片が突き刺さった傷跡。壁面のあらゆる箇所に戦闘の苛烈さの証明が無数に残り、1階と2階に相当するだろう壁面において、ひび割れが奔っている箇所より、奔っていない箇所を探す方が難しかった。

 そして――、


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