ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章8話 真偽錯綜のプレリュード(6)
「ハァ……、咄嗟に重力操作を攻略できなかったから、少し屈んだだけじゃないですか」
バルバナスたちは化物を見るような視線を屈んでいるシャノンに送った。翻り、その化物扱いされている本人は嘆息を以って呆れを呈す。穏やかな口調なのに、どこか冷たい侮蔑と憎悪の眼差しを以って、差し当たり、眼前、ほぼ真正面にて戦意喪失寸前のディルクを見遣った。
動体視力を桁違いに超越える一撃を意図的に回避するなんて、少なくとも今の自分たちには絶対にできない芸当、戦術である。しかもそれを一度ならず二度。そしてその2度目は重力操作の魔術により、動作に絶望的な制限をかけられている状態で成功した回避行動である。
上から下にしか動けないから屈めばいい?
嗚呼、物理的にはその通りだ。物理法則に反しているわけではない。
だが畢竟、それこそ物理法則、全宇宙の法理を持ち出すなら、先刻の彼我の距離と【雷穿の槍】の速度を考慮するに、重力を操作されたあと、1秒――訂正――刹那より疾い虚空にも到達しない間隙しか、状況把握と判断、それに基づいた実行が可能な時間はない。判断だけで1秒でなければ、実行だけで1秒でもない。その全部を冷静に、的確に、淀みも滞りもなく虚空より疾く、だ。
それにはもう、そもそも敵兵の攻撃を先読みするか、想定しうる全ての戦況のシミュレーションをしておくしかありえない。
とどめと言わんばかりに、以上の理論はシャノンが『雑魚相手だろうと殺人魔術に恐怖を覚えないこと』を前提としており、微塵でもシャノンが臆していれば、当然、シャノンは……。
「こいつ……っ、動揺が生まれないのか……!?」
「では、まず1人」
「は――――?」
恐怖心ゆえか、焦燥感ゆえか、非現実的ゆえか。愚問、無知蒙昧。どれにせよ3人組が瞬きをしたら、その瞬間、なぜか、シャノンは妖刀の刃を自分に、峰を相手に向けるように持ち替えていた。
わざわざ両手を使って持ち替えたのではない。そんな愚図を晒した場合、バルバナスたちに瞬きどころか反撃の好機さえ与えてしまうから。
だが、ルークは見ていた。認識して、理解することに成功できた。宙に置くように柄を放し、ほんの数cm落下し半回転したタイミングで持ち直して、結果、刃と峰が入れ替わった。それも、常日頃よりも絶望的なほど重力を強化された状況下にて。
まるで川の流水のように欠片の滞留、無駄さえなく、自然体で行われた意味不明、理解不能な挙動。
続いて、宙に浮く虫を払うように、シャノンが妖刀を素振りすると――、
「――ぁ――――…… 」
「ディルク!?」
骨を数本砕くような重厚な破砕音が響き、なぜか、明らかに妖刀の間合いから脱出できていたディルクが真横に吹っ飛ばされた。まるで大型の馬車に撥ねられたかのように。1秒後には壁に頭をぶつけ、もたれかかるように崩れ落ち気絶してしまう。
慢心か、単純な手元、剣先の狂いか、敵を前に手加減か。不幸中の幸い、彼の頭から流血はなかった。が、ほんの数秒前まで自分の足で立っていた味方が白目を剥いて口を半開きにするという貴族、上級国民に許されない醜態を晒している。嗚呼、次に無様、生き恥を晒すのは自分かもしれない。
本能的、根源的に抵抗不可能な不安、不調を誘発する。そんな不規則で、超高速な光の点滅、光信号に類似する断続的な被害妄想。いうなれば未来に起こりうる惨劇に対するフラッシュバックの贋作。脳裏にその思考、その光景、その可能性が胎動を始め、烙印、刻印のように、その存在を無視することも否定もすることもできなくなったのと同時、バルバナスもマルコも、無自覚のまま脚を少しずつ震わせ始めてしまう。
その震えに、一度でも気付けばもう止まらない。止められない。
恐怖も涙も絶望も、悉く、須く、総じて加速度的に歯車を廻していく。
よくよく常識を思い返せば当たり前のこと。
雷を撃ってもそれを余裕で回避するような化物が、刀を手に持って眼前に控えている。
斬首、死体弄りさえ覚悟するのは理不尽と同時に条理としか表現しようがない。
「1つ、あなたたちにアドバイスをしてあげます」
「ひ、ひぃ……!?」
「確かに【雷穿の槍】は威力、速度ともに充分な魔術で、単純にカッコいいから愛用されがちです。けど、あくまでも点の攻撃であって、剣のように線の攻撃でも、ハンマーのように面の攻撃でもありません。【黒より黒い星の力】が決まったなら、そこは頭上からの【風打の槌】がオススメですね」
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