ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章5話 真偽錯綜のプレリュード(3)
「おう、遅いぞ」
「客はどこだ? 路地の入り口か?」
「あぁ……、いや……、その……」
ここに戻ってきた以上、客は捕まえてきたはずなのに、どうも歯切れが悪い客引き役の青年。どうも困っているようではあるが、別段、誰かの縄張りを荒らしたとか、捕まえた客が別の勢力の一員だったとか、そういう感じ特有の焦燥感は見受けられない。
恐らく、別に悪いことはなに1つ起きていないが、事情を説明するのが難しいだけだろう。
訝しみ、こちらのそれを理解していても客引き役の青年がなにも言わなかったため、内心、ヤレヤレと肩をすくめながら、赤毛で短髪の青年は発言を促すために質問をくれてやった。
「どうした? なにがあったのか言ってみろ。客がドラッグ中毒だったのか? それともツケ払いを希望したか?」
「いや……、その……、別に都合の悪いことは起きていないんだが……、俺には判断が下せない客が寄ってきて……」
「どんな客だ?」
「じょ……」
「「じょ?」」
「…………じょ、女性、なんだが……」
「「ハァ!?」」
「――――えっ」
流石にこれにはルークも反応してしまう。
男性が誰かの春を買うのはよくわかる。それが高級ソープであろうと、野外売春であろうと。
しかし女性の場合、誰かの春を買うにしても、まず屋内でそれを行うはずだ。理由は単純明快、野外で性の売買なんてしようものなら、搾取する側の女性本人まで誰かに誘拐なり強姦をされてしまうから。
その時、ルークが覚えた感情は、羞恥心ではなくその女性に対する心配だった。
誰かを買うぐらい金を持っている女性が、わざわざ野外でやっている売春に興味を持つなんて、と。
「と、年は……?」
「たぶん……、17か18ぐらい、か?」
「じゃ、じゃあ……、女装している男性の可能性は?」
「声は間違いなく女性のモノだった。ここに連れてきて直接聞いてもらってもかまわない。顔も普通に女性のそれだし、むしろかなり美人の部類に入ると思うぞ……」
それを聞くと、赤毛で短髪の青年はニヤっと、いやらしい笑みを浮かべた。
「そいつの身なり、かなり整っていただろ?」
「えっ、あぁ」
「わかったわかった。あれだよ、あれ。どっかの箱入り娘が火遊びをしたくなったんだろ? いいよ、迎えてやろうぜ。当然、アーティファクトを使って盗撮するけど、な」
あぁ、愚かな女性だな、と、ルークはその人の未来を諦める。その人に盗撮のことを教えてあげる気はない。仮に自分の安否を度外視したとしても、教えれば女性の方こそ3人に強姦され、教えなければそのまま弱みを握られる。
自ら人目に付かない場所に行こうとする女性の末路なんて、だいたい似たような感じなのだ。
そして――、
ほんの十数秒後――、
「――――客引きさんにお伺いしましたが、この一角は防音、耐衝撃、そして人払いの結界。三拍子揃っているとてもいい場所のようですね。どんなに激しいダンスをしても誰にも気付かれないなんて、とっても都合がいいです」
「こ……この人だ」
「は?」「マジかよ……」
「えっ?」
そこにいたのは宝石さえ装飾品として見劣りするような、きっと笑えば可愛く澄ませば美しい、どこまでもどこまでも可憐な、本当に年頃の学生だった。どうも夜遊びする割には少し真面目な子らしく、外套には学生であることの証明である記章が付いている。
魔族領では、そしてグーテランドでも、高い身分の美少女は文字通り高嶺の花だ。基本的には親が同じ爵位で友好的でないと親密になることは不可能。逆に貧民の美少女の場合、雑に扱うことは非常に容易ではあるが、かといって恋愛に発展するなんてありえない。自分の社会的ステータスを落とすことになるから。どこまで行ってもストレス発散が関係の限界だろう。
が、この人はどうか。
明らかに育ちがいいはずなのに、プライドの高さも強気な雰囲気も特になく、ありえないぐらい接しやすそうなのだ。いうなれば自分の恋人にしやすい、美少女なのに手が届きやすい、美少女な上にコミュニケーションも簡単で弾みそう、真偽はともかくそのようなイメージを膨らませやすい美貌。
明るい栗色の腰まで届く長髪からは石鹸の香りさえ漂ってくる。赤い瞳はルビーの輝きさえ連想し、肌は白磁のように白かった。
天使の羽のようにそっと袖が揺れる、上品で淑やかな白い長袖の襟付きブラウス。そしてその上に薄手でベージュの外套。下は心地よい静けさと涼しさを連想するような紺青のロングスカートで、そして腰にはくびれを細く見せるための努力なのか、ホワイトよりのグレーのリボンが。首には厚さ5cm以上の黒いチョーカーを着けており、ブーツの編み込みのようなホワイトのリボンで締め付けの度合いを調節しているのだろう。両手には嗜みとして手袋をハメており、靴は革靴で、そして、身長は女性では珍しく170cm近く。
「初めまして、わたしはシャノン・ヴォルフガング・シュティルナーといいます。早速ですが――」
刹那、清く麗しげに微笑みながらシャノンと名乗った客の右手、そこに一振りの剣――否――異国に伝わる刀と形容すべき刃物が顕現する。
純潔の乙女の唇のような薄桃色、夕焼けのような朱色、炎のような赤、鮮血のような深紅、熟した葡萄のような紫。赤系の色彩を基調としたグラデーションを妖しく煌めかせるそれを、ルークはいわゆる妖刀ということを情報として知っていた。無論、実物を見るのは初めてである。
魅せてくる。
魅せられてしまう。
注目を集めるなんてレベルではない。その妖刀にはありとあらゆる人を魅了する呪いさえかかっているのかもしれなかった。
シャノンは持ち心地を試すように一度、その妖刀と空振りしてみせると――、
「――――とりあえず、ダンスといきましょうか?」
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