ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章3話 真偽錯綜のプレリュード(1)



 数時間後――、
 月が昇って陽は沈み――、

 路地裏ではあるが先刻とは危険度が打って変わり、酒場街パブストリート風俗街ソープタウンの一角に属しているそこ。
 時折、ネズミや野良猫が通り過ぎるほど不気味で、薄暗くて、そこにある光源といえば建物の隙間から見える月と、表の娼館と酒場の裏口、その扉の上に付いているガス燈だけだ。まるで黄昏のような橙色の光。しかし、それは夕陽に届くほど眩しくも、温もりを感じるようなモノでもない。

 ここはあくまでも路地裏であり、抜け道ではなかった。つまり袋小路である。出入り口を1ヶ所に限定しているのは、不要な人物が紛れ込む可能性、物理的な道を最低限にするため。そしてそれ以上に、例え万が一の時に自分たちの逃走経路を絞ることになっても、商売道具を逃がさないためである。確かに、万が一の事態が発生する確率と商売道具が逃亡を試みる確率ならば、後者の方が高いだろう。ゆえに、そちらを重視した露店というわけだ。
 出入り口から見て、右が酒場で左が娼館、そして正面は店ではなくその2つの事務所、兼、倉庫とのこと。表から見た外観はだいぶ異なっていたが、酒場も、娼館も、裏側は揃って塗装されていない石造りだった。酒場も娼館もそれらの事務所も、全て3階以上であることは容易に想像でき、誰かがどこかの宿の窓から、ここで行われることを通報してくれる、なんて奇跡は皆無に等しい。

 そして、トドメを言わんばかりに壁面に打ち込まれているプレートこそ、この一角に防音、耐衝撃、最後に人払いの結界を展開するアーティファクトだ。
 あれを破壊しない限り、ここで行われることが明るみに出ることは絶対にないだろう。

(わたしは――、ここで――、物であることに徹するんだ……。今から――、自分の感情を――、表に出しちゃいけないんだ……)

 その袋小路の壁際にて――、力を込めて絞めたら簡単に折れそうなほど華奢で、月の光に儚く照らされ、ともすれば淡く燐光を放っているとさえ見間違えるほど白い首。そこから魔族領の共通言語で『1回1000マドカ』と書かれた板を、ルークは紐でくくって無様にぶら下げていた。
 無論、亜麻色の髪は流水のようにサラサラで、服装も改めて整え、花唇のあどけなさをさらに際立たせるために薄桃色のルージュを引いている。それもこれも、全ては倒錯的性癖の相手の男に興奮してもらうためだろう。

 当然、ルークの近くには2人の不良貴族、否、腐敗貴族の子息がおり、残りの1人は客引きに行ったのである。

 ちなみにこの行いは縄張り荒らしには該当しないとのこと。
 それもそのはずで、曰く、そもそもこの風俗街の一角、表立って明かされている情報ではないが、ここの裏の管理者が赤毛の短髪の父親であるから。

 右の手首も、左の手首も、右の足首も、左の足首も。意味不明なところに打ち込まれている手すり、あるいは取っ手と鎖で繋がれている。足枷は比較的軽い物を使っているようだったが、手枷の方はかなり重量がある代物で、それに加えてさらにキツイ。もし手が自由になる展開になったとしても、鬱血うっけつは確実と考えていた方が心の準備は進むだろう。
 建物の裏口も収納棚もないところにその手すり、取っ手が自分を繋ぐ4つだけではなく、目算で20個以上存在することからして、ここではすでに、何十人もが何十日以上、何十回も強制的に春を売らされていたに違いない。それも、屋内よりも圧倒的な格安で、本人たちに還元されることもなく。


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