ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章2話 群像劇場のオープニング(2)



 とある下劣な事情により、貧民なのに、貴族の夫人や娘相手にも引けを取らないほど、入念な手入れをされた亜麻色のセミロング。それはゴミクズしか集まらない路地裏に咲いた一輪の花のようでさえある。
 背丈は160cm台後半で、肌の色は病的なまでに白い。手首も脚も細く、育った環境ゆえに自信がないのか(相手が貴族の上にイジメの加害者ということもあるが)、常に相手から目を逸らして、前髪で目元が隠れそうなほど俯いてしまっている。

 だが先刻、貴族の子息と思しき青年が言ったとおり、服装は実に立派な物であるし、身体を石鹸まで使って洗い、さらに香水までしているのか、やたらと鼻腔を切なくして胸を締め付けるような、柑橘系の果物の匂いがした。
 必然、イジメられっ子の学生、即ちルークは、見方を変えれば華奢で、色白で、恵まれない薄幸な美少女のようにも見えるのである。

 ホワイトのロングワンピースも。その上からフワッと、ゆったりと羽織っている乙女色のストールも。中古品とはいえ丁寧に磨かれていて、例え淑女が履いても品格を落とすことなどありえない革靴も。ルークを飾る全てがまるでフェミニンのイデアのようでさえあった。
 それはもう、身分がもう少し高ければ、例えルーク本人が貴族でなくとも、その美貌で貴族相手から一生の寵愛と裕福な生活の保障を受けられるかもしれないほど。

「オイ、ルーク、知っているか?」
「な……なにを、ですか…………?」

「人間は2種類に分けることができる。勝ち組と負け組だ、って割とよく聞く言い回しだよな?」
「う…………うん」

「でもなァ!?」
「………………、ッッ、お、ェ、……」

 瞬間、赤毛で短髪の貴族の息子が、ルークの両肩をガッシリ抑えて腹部に膝蹴りを喰らわせた。無論、肉体強化の魔術をキャストした上で。
 思わず嘔吐えづいてしまうルーク。大粒の涙が零れそうなほどプラチナように綺麗な瞳が潤んで、端麗な顔が苦悶に歪む。呼吸が一瞬詰まり、口元からは唾液が少し垂れてしまった。顔面を殴らなかったのは十中八九、春を売る時の金額に影響が出てしまうからだろう。

「人間は人間なんだから2種類にわけられるわけねぇよなぁ? 差別はよくない! 人間=人間だ! それ以上でも以下でもねぇ! そして――、そもそもテメェは人間じゃねぇだろォが! なァァァに負け組を名乗って、しれっと俺たちと同じ舞台には立つことができましたアピールしてんだ!!!」

 今度は直径10cm程度の【魔弾ヘクセレイ・クーゲル】を撃ち込まれるルーク。
 下腹部から不吉な音がして、もしかしたらどこかの内臓が傷付いた可能性さえあった。

「痛い……、痛いよぉ…………」

「いいか? 勝負っていうのはな? 攻撃があって、反撃があって、さらにその反撃があってな? それで初めて成立するんだよ?」
「つまり負け組になりたかったらせめて反撃ぐらいしてみせろ、って話だな!」
「できるもんならな! アッハッハッ!」

 3人組の哄笑が路地裏に響いた。

 下級国民であるルークを見下して、蔑んで、憐れんで、精神的な絶頂を楽しむ。
 彼らからすれば、下級国民など自分で移動する見世物小屋そのものでさえあった。

 が、彼らに屈辱的なほど馬鹿にされて、ルークは一言だけ、普通に考えたら非現実的なことを呟いた。

「だ、ダメ、だよ……」

 なにかを怖がって、ルークは自分の身体を抱くように縮こまる。
 次いで、後ろの壁に背中が着くまで後退し、表情かおに陰りを作って、視線を相手ではなく薄汚れた地面に向かって彷徨さまよわせた。
 その姿はもはや、強姦寸前で、そのあとに売り払われることが確定している少女さえ連想せざるをえない。

「アァ? オイ、なにがダメなんだ? おら、言ってみろ!」
「…………っ、わたしが反撃したら……、みんな、簡単に、し、死んじゃう、から……」

 一瞬、なにも言えなかった3人組。
 静寂に包まれる路地裏。
 しかし次の瞬間にはせきを切ったように――、

「アァァッッ!!!!??」
「リンチするぞ、リンチ!」
「そのあとは売春宿に売ってやる! お前を使ってくれる奇特なヤツもいるだろうよ!」


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