ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章1話 群像劇場のオープニング(1)
魔族領というのは厳密に言えば国家ではなく、複数の国家の共同体に近い。ロイとイヴの前世で言うところのEU、欧州共同体をイメージしてもらえばわかりやすいだろう。
先のブラッディダイヤモンドで事実が確定したとある魔王軍の内情。即ち、魔王軍の最上層部には2つの派閥、革命執行派閥である悪十字と、純血遵守派閥である黒天蓋が存在しているという情報について。
悪十字の構成員は推定5人。そのうちの2人こそ序列第1位、【水辺のオーディン】こと魔王、ラグナ・アドヴェント・フォン・トーデストリープと、王国側に未だスパイとして潜伏中の序列第5位、【土葬のサトゥルヌス】である。
翻り黒天蓋の構成員は推定6人。そのうちの1人は言わずもがな、ロイの左腕で眠りに就いていた闇を暴走させた張本人、序列第6位、【霧】のゲハイムニスで相違ない。
悪十字も黒天蓋もあわせて、全員が全員というわけではないが、それでも、魔王軍最上層部の合計11人の中には、領土ではなく国家を持っている者もいた。
そして、魔王軍というのはその複数ある国家にまたがって存在している、いわば国境を越えた軍隊。なぜ軍隊が国境さえ越えることができるのか? 七星団には推測までしかできることがなかったが――少なくとも、そこから察することができるように、基本的には魔王軍の防衛ライン=魔族領という認識で、特に問題、支障はなかった。彼らを討とうとしている七星団側からしても、無論、魔王軍側からとしても。事実、魔王軍側は魔王軍の防衛ライン=魔族領、防衛ラインよりも先=進攻予定地域と定義した上で、全ての作戦を立案、決行しているのだから。
自明、そのトップが魔王であり、魔王であるラグナ自身も1つの国を治めている。
では必然、黒天蓋はともかく悪十字の他の構成員が統治する国家はどうなっているのか?
流石に傀儡国家、ということはなかった。ラグナと【土葬のサトゥルヌス】を除いた他の3名も、みなすべからく一騎当千の猛者であると同時に、国家を超越する軍隊の最上層部に名を連ねる天才であるがゆえに。
しかし、やはり他国の王、ラグナの影響、干渉を、絶対に受けていないと断言することも難しい。支配はされておらず友好的な関係を結べているが、パワーバランスは存在する、という感じか。
一方、悪十字の構成員が統治している国家は、合計で3つ。
そのうちの1つ、グロースロートにて――、
――とある学生は複数人から暴行を受けていた。
「ルーク、金と酒はどうした!?」
グーテランドの暦で言うと1年が始まって5番目の月。エメラルドの月の21日、水曜日。
夕暮れ時さえ終わりを迎え始め、もう少しで場所によっては子供どころか騎士志望か魔術師志望の学生でも危ないところが出てくる時間帯。
紺色の学生服を身にまとった青年3人組のうちの1人、赤毛で短髪のそいつがルークとやらを路地裏の壁に突き飛ばす。背中に硬質な衝撃を覚えるルーク。次いで、そのルークとやらの左右を残りの2人が完璧に塞いでみせた。
彼らが身にまとっているのはただの学生服ではない。高価で上級な炭化アイロンを使っているのか、シワ1つないホワイトの襟付きシャツ。同じくジャケットにもシワは1つもなく、靴も汚れらしい汚れなんて皆無で新品同然の代物だった。
ここは路地裏といっても大通りから1つしか外れていない。
だが逆を言えば、1つ外れた時点で人目に付く大通りではないのだ。
誰かがここを通ることなんて滅多にないし、仮に誰かが通ったとしても、その人が面倒事に首を突っ込んでルークを助けるなんてもっとありえない。
「…………っ、お、お金なんてもうないし、だからお酒を買うことも……、っっ」
小鳥がさえずるように可憐で、だが、やはり逆を言えばあまりにも小さい声でルークは言い訳を始めようとした。
しかし、搾取される者の声に耳を傾けるほど、この社会水準の国家で存在を主張している搾取する側が、優しく思慮深いわけがなかった。
「アァ!? なんのために俺の母上のおさがりを投資してやったと思ってんだ!? このウジムシ! 自分の身体を貴族に使ってもらい、スッキリしてもらえるのは光栄なことって教えただろうがァァァ!!!」
「上品な服を恵んでやったんだ! 物好きの変わったオッサンに脚を開いて、寂しさを埋めてもらえって言ってんだよ、この貧民め!!!」
「テメェの身体、なんのためにあると思ってんだ!? 貴族のために下級国民がご奉仕するのは当たり前だろ!? 貧民に人権はねぇんだよ!」
ルークと呼ばれた学生は途轍もなく綺麗であったが、しかし、それと同時に奴隷階級一歩手前の貧民でもあった。
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