ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章14話 イヴ、初めてを捧げる――
ブラッディダイヤモンドから7日後――、
ロイの体調がかなりよくなってきた日の夜のことだ。
しつこいほどの繰り返しになるが――、
悪いことをしてしまったけれど、愛されたい。
愛されたまま、罪を償っていきたい。
――それこそがブラッディダイヤモンドを経て、そしてそれが終わって、ロイが辿り着いた答えだった。
つまり、それらは並行して進むべき行為。
愛されることも、罪を償うことも、1つの心と身体で同時進行すべきモノなのだ。
「お兄ちゃん――、キス、しよ?」
「――――イヴ――」
2人だけのロイの自室。
そのベッドの上で、ロイに覆い被さる下着姿のイヴ。
ロイはイヴの名前を呼んだだけだ。返事はしていない。
なのに、イヴはロイにそっと、まるで天使の羽根のようにふわっとした口付けを送る。
舌を入れたりとか、絡ませたりとか、そういう情熱的なキスではない。
本当に、互いの唇と唇が触れ合うだけのプラトニックなキスだった。
でも、だからだろうか。
ロイも、イヴも、肉体的な快楽なんてどうでもよく思えてしまうほど、まるで天国にいるような多幸感を覚えてしまう。
そして、イヴは息苦しくなって、ロイから唇を離すと――、
クスッ、と、イタズラっぽく微笑んで――、
「――――お兄ちゃん、今からすることを、いけないことだと思う?」
「…………心に、引っかかりがないと言えば、ウソに、なるかな」
「うん――、兄と妹だからじゃないよね? 幸い、この国では、条件付きだけど血縁者と結婚することも、子供を生むことも、許されているし」
「――――」
「今――、王都は破滅的な状況だよ。そして、悲しいことだけど、死んでしまった住民もいるよ。本当に、たくさん……」
「――――」
「だから、お兄ちゃんの悩み、ううん、そんな軽い言葉じゃなくて、葛藤も、当然理解できるよ。悪いことをしてしまったけれど、愛されたい。確かにそう答えを出して、みんなの前で言い切ったけど、こんな時に、こんなことをしていいのかな、って――」
「そう、だね――」
「――でもね、お兄ちゃん? 少なくともわたしはこう思うよ。――破滅的な状況だからこういうことをしちゃいけない、って、本当は間違っていることなんじゃないかな、って。――こんな絶望的で、すぐ身近に死が潜んでいる世界だからこそ、生きることを、人としての営みを、頑張らないといけないんじゃないかな、って」
「――――そうだね、なかなか変えられない価値観かもしれないけど、本当は、イヴの言うことの方が正しいのかもしれない。絶望しているからって、絶望している人たちに相応しいことしかしなかったら、きっと、人はとっくの昔に滅んでいるから――」
すると、イヴはそっと、慈しむようにロイの頬を指でなぞる。
別に理由なんてなかったが、好きな人の頬だから、どうしても触りたくなって。
「――――お兄ちゃん、わたしね? お兄ちゃんに、抱かれたいよ――」
ロイの瞳に映るイヴは、本当に綺麗だった。
いや、こんな妹の姿、他の誰にも見せるわけにはいかないが、きっと、今のイヴを見たら世界中の誰だって見惚れてしまうだろう。
普段、可愛くて稚い女の子が、この瞬間だけは、美しくて大人びた、まるで同年代どころか年上のような女の子になってしまう。
そしてその姿を自分だけに見せてくれると思うと、すごく、すごく、幸せで、尊かった。
レースのカーテンによってボカされた月の光。
それが淡く照らす、イヴの珠のように白い肌。
呼吸を忘れるぐらい綺麗だった。
ほんのり乙女色に染まった頬も。
微熱によって潤んだあどけない瞳も。
キスの跡を残すためにそうしたら、たったそれだけで折れてしまう、そう思えてしまうほど華奢で滑らかな首も。
まるで芸術品、いや、人ではなく神様でさえ本気を出して作った芸術品、そう言われても信じてしまうような、やはり細くて、やはり滑らかで、やはり色白な腕と脚も。
まだ下着を着けているとはいえ、スレンダーで、正直、イケナイコトをしている気分になってしまう胸も。
胸と同じく、まだ下着を着けているが、小ぶりで、愛くるしくて、まるでお人形のようなお尻も。
「――――イヴ」
「――――っ、ん♡」
ロイはイヴに覆い被されたまま、彼女の顔を引き寄せて、口付けを交わした。
生まれて初めてイヴに対し、ロイの方から恋人としてのキスをしたのだ。
やわらかい、気持ちいい。やわらかい、気持ちいい。
そして――、
唇を離すと――、
「えへへ――、溶けちゃうかと思ったよ♡」
と、イヴは目尻に嬉し涙を浮かばせながら微笑んだ。
それは、まるで、天使のように。
愛おしかった。
たまらなく愛おしかった。
頭も身体も心も、どうにかなってしまう、それほどまでに愛おしかった。
それこそイヴが言うように、全てが蕩けて、溶けてしまうと思えるほど愛おしかった。
だから、もう、躊躇わない。
ロイの方も早く、イヴと結ばれたかった。
「――お兄ちゃん、わたしの初めて、あげるね?」
「ん?」
「ぅん?」
「初めて?」
「うん!」
「この世界で?」
「全ての世界で!」
「10万年以上?」
「10万年以上!」
「………………」
「? お兄ちゃん?」
「いや、ゴメン……。すごく嬉しい。っていうか、これで嬉しくない男の人なんていないと思う。でも……、まぁ……、規模が大きすぎて適切な言葉が出てこない……。こんな経験初めてだから、どんな反応をしたらいいかわらかない……」
「えへへ♡ こんな経験が2回目とかだったらビックリだよ! 確かに、通算30歳とか50歳を超えたあたりに、流石にそろそろマズイかもしれないよ! って思ったんだよ?」
「うん、それで?」
「でも、お兄ちゃん、前世で、某魔法先生が戦うマンガの吸血鬼さんとか、某東の方の幻想の郷土を舞台にしたゲームの、やっぱり吸血鬼さんとか、好きだったよね~?」
「…………っ、なっ、えっ、ちょ……っ!?」
「あ~、お兄ちゃん、顔、真っ赤~~」
こんなところで、ロイは前世の性癖とまではいかないが、好きなヒロインの属性の1つを指摘されてしまう。
ニヤニヤしながらイヴはロイの頬を指でツンツンしてきた。
本当にじゃれ合っている恋人同士そのものである。
「ふふっ、正直、かなり本質から逸れたことだなぁ、とは思ったんだよ? でも、お兄ちゃんのために1000年とか1万年単位で純潔を守ってきたよ、って、そう言ったらお兄ちゃん、どういう反応するかなぁ、って♡ 絶対にビックリするよねぇ、って♡ なんか、通算100年を超えたあたりから、なんだか夢中になってきちゃって」
「――えっ、っと、一瞬戸惑ったけど、すごく嬉しいのは間違いないよ」
それがいいか悪いかは、それを聞いた人によるとしか言えないが、明らかにとんでもない発言に対して、「すごく嬉しい」の一言ですませるロイ。
世界で一番の似た者兄妹だった。
たとえ神様の女の子に確認を取ったとしても、絶対にそのように答えを返してくれる。
が……、たぶんこの2人には常識が通用しない……。
善悪の分別は狂っていないかもしれないが、規模とか感覚はたぶん狂っている。
この2人にとって、10万年越しに初めてを捧げること、そしてそれを受け入れることは、すごくすごく、嬉しいことなのだろう。
「そういえば、その……、えっと……」
「ん? イヴ、どうしたの?」
「お、っ、おお、お兄ちゃん、~~~~っっ、シーリーンさんと、アリスさんと、ヴィキーさんとは、~~~~ッッ、~~~~ッッ、ど、どど、どんな、っ、初めてをしたの?」
「えっ?」
「~~~~~~っっ」
今度はイヴの方が赤面する。
そしてプイっ、と、恥ずかしくなってロイから顔を背けると――、
「うぅ~~、やっぱり気になるんだよ……。好きな男の子がこれまでに、その……、どんな、その……、アレをしたのか……」
と、いつもお兄ちゃんにあまあまなイヴにしては珍しく、少し拗ねたように呟いた。
で、ロイは(イヴは可愛いなぁ)と温かい気持ちになりながら、彼女の頭をなでなでしてあげる。
そしてそのなでなでタイムが終わると――、
「むぅ~~、お兄ちゃんに初体験をさせてあげるのは、わたしの予定だったんだよ……?」
「ご、ゴメン……」
「で、そ、そのぉ……、どう、だった、の?」
「~~~~っっ、えぇ、っと……、まぁ、シィはフーリーで、〈永遠の処女〉ってスキルを持っているから……」
「うぐ、毎日が痛そうなんだよ……」
「えっ?」
「んっ?」
「シィ、あの痛み、気持ちいいらしいよ。フーリーだから」
「えぇ!? じゃ、じゃあ! アリスさんは!?」
「アリスは、実は家に代々伝わっている【夢のような愛の繋がり】っていう感度を高める魔術があるから……」
「うぐ、今度こそ初めての瞬間が痛そうなんだよ……。きっと初めての痛みが数倍に……」
「えっ?」
「んっ?」
「アリス、初めての瞬間だけ、その魔術をデフォルト設定からカスタム設定にしたから……、その……、シィと同じっていうか……」
「なにその魔術!?」
「まぁ、その魔術についてはだいたい『推測』し終わっているけど、藪蛇だから、まだ探りを入れるのは早いかな、って……」
「そ、それで! ヴィキーさんは!?」
「ヴィキーは……、えっと……、その……、なんていうか……、言葉を選ぶ必要があるっていうか……」
「うんうん!」
「ヴィキーはね? 単純に3人の中で一番エッチなんだ……」
「…………んんっ?」
「ヴィキーはね? 単純に3人の中で一番エッチなんだ……」
「いやいや、聞こえているよ、お兄ちゃん!?」
「…………、…………、…………、つまり……、スキルとか……、魔術とか……、そういうの一切なしで……、うん、そういうこと」
すると、イヴは少し呆然としてしまう。
一方、ロイは当然のように反省した。
確かにこれらはイヴの方から訊いてきたことの答えだ。
そして好きな人のそういう経験を知っておきたい、っていう気持ちも健全だ。
が、伝え方を選ぶべきだった。
そのようにロイは自分を責めるが――、
「じゃあ、お兄ちゃん、実質、初めてらしい初めてはわたしが最初だね♡」
「――――ゴメン、キチンと謝る。伝え方を選ぶべきだった……。デリカシーがなかった……。女性に対してかなり失礼なことを言ってしまった……」
「もう、全然気にしていないのに。他の女の子は絶対に違う反応するけど、わたしにとっては嬉しいことだったんだよ?」
「う、うん……」
流石に落ち込んでしまうロイ。
こういうことに対して感覚とかデリカシーが麻痺していた、と。
まるで子犬のように落ち込む彼に、イヴは(お兄ちゃんはしょうがないなぁ)と再度、先ほどとはニュアンスも笑い方も違うが、優しさだけは一緒の微笑みを浮かべると――、
「お兄ちゃん? もし、わたしに悪いことを言っちゃったなぁ、って思うなら――ねっ? 早くほしいよ♡」
「…………っ」
実の妹が愛をねだってきて、ドキッ、と、するロイ。
初恋を捧げた幼馴染が身体を許してくれる、と、改めて認識して、ロイの心臓はバクバクとうるさかった。
「約束だよっ、お兄ちゃん♡ わたし、絶対に痛がるし、暴れるし、もしかしたら泣くと思うけど、きちんと、最後までしてね♡♡♡」
「――うん、約束する」
「――――――んっ、っ、はぁ、んぅ♡♡♡」
そして再びキスを交わすロイとイヴ。
兄と妹。
幼馴染と幼馴染。
夢のような月夜だった。
初恋の相手と結ばれる、そんな夢が叶ったのが、この月夜だったから。
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