ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章13話 ヴィクトリア、国外追放を企む。(3)



 クリスティーナは最初からヴィクトリアの作戦を知っていたため、動揺なんてモノはなかったが、メイドの身分でかなり失礼とは承知の上で、間抜けな反応をする王国の重鎮たちがちょっぴりおかしかった。無論、他人にわかるほど笑うなんてありえないが……。
 翻り、全てを察したアルバート、エドワード、アルドヘルムの3人。

 が、答えに到達できない他の参加者、まずは今まで立っていた法務大臣が、ヴィクトリアのあまりの発言にドサッ……と椅子に腰を下ろし、次いで、ファンタジア教の枢機卿の1人から、彼女に対して質問が飛ぶ。

「僭越ながら質問がございます……。王女殿下はロイ殿下の減刑を望んでいたのでは……?」
「あら? いつわたくしがそのようなことを申しました? あっ、そうそう、裁判はサッサと終わらせてしまいましょう。わたくしがロイ様に懲役ではなく国外追放を選んでくださいまし、と、そう提案すれば、ロイ様、及び彼を弁護することになる弁護士は、きっとわたくしを信じてそうしてくださるはずですわ」

「え、えっ!?」
「はぁ!?」

「お、王女殿下……?」
「しょ、正気ですか……?」

「法的には可能なはずですわよ? 基本、被告人側はより軽い罰を、検察官側はより重い罰を裁判官に求めますわよね? わたくしもこの会議のため、一通り様々なケースの裁判とその判例を調べてみましたが、その全てがその基本に沿っていましたわ。つまり、ロイ様にやっていただくことはウソ偽りなく前代未聞。ですが、前例がないというだけであり、別に最低基準さえ下回る罰にしてください、ということではなく、むしろその逆。ならば、なにを以って不可能にしますか? このグーテランドに、被告人側が検察官側よりも重い罰を望んだ場合、それは違法になる、と、そういう法律はありますの?」

「な、な、っ、なにを言って……」
「それはいくらなんでも……」

「確かに……、そのような法律は……、ありませんが……」
「……え、えぇ……、本人が望むわけないのに、それは流石に人道的に……」

 困惑が会議室全体に充満する。
 間違いなく、ここに集まった全員は王国の中で上位数%に入れる優秀な人材たちだ。動揺なんて滅多にしないし、ブラッディダイヤモンドの時はかなり動揺していたが、それは死神の出現、王族の暴走、魔王軍最上層部の強敵が同時に2人も王都に侵入し、この3つがほんの数時間の間に連続して起きてしまったからだ。

 だが、ヴィクトリアのこれはある意味、それよりもたちが悪かった。なぜなら、常識が通用しないから。死神の出現も、王族の暴走も、魔王軍最上層部の強敵が同時に2人も王都に侵入することも、看過できない事態ではあるが、戦時中である以上、敵の立場に立ったらむしろ効果的とも呼べる一手である。

 しかし、もはやヴィクトリアの提案は常識の埒外であり、法的な観点から見たらそうかもしれないが、人として、しかも一国の姫としてどうなのか、というレベルだ。
 姫がご乱心なされた、と、小説でも滅多に見ない感想を覚え、中には場違いな感動さえ覚える参加者もいたぐらいである。

「さて――、ついでに話しておきたいことがありますわ。まず、今回のロイ様の国外追放について、国民にはロイ様本人が、懲役じゃボクの罪は拭えない。ボクは自ら進んで国外追放を選ぶ――、と、そのように偽りの報道をしてくださいまし。さすれば、国民はさぞかしいろいろと腑に落ち、人によってはロイ様に類稀な高潔さを見出し、そしてほとんどの人からロイ様に対するマイナスな感情を、大なり小なり拭えるでしょう」
「~~~~ッッ、王女殿下! それはあんまりですぞ!」

 と、大臣のうちの1人が叫ぶ。
 この大臣、彼にも彼なりの思惑やら計画が存在し、心の中で、自分の立場なら、自分はロイをどうするべきか、ということを緻密に考えていたのだが、流石に今のヴィクトリアの発言には、身分を忘れて激怒してしまう。

 そして彼以外にも、ヴィクトリアに厳しい視線、王族としての品格を疑うような眼差しを向ける者は多かった。
 もはや、会議が始まった直後に彼女に向けられていた視線より、軽蔑に酷似した感情で溢れている。

「話は最後まできちんと聞いてくださいまし。――で、わたくしはこれに、国外追放を解除する条件を付与したいと思います。ステレオタイプからは圧倒的にかけ離れておりますが、それでも司法取引、という形式で。建前としては、ロイ様が自ら進んで従来よりも重い罰を選んだため、その罰の過払い分を相殺するなにかを設けるべき、と、そのように国の上層部にて決定したから。事実、わたくしはそのようにするつもりですし、大枠が決まり次第、やはりこのことも国民に報道しましょう。ただし――」

「――ただし?」
「ロイ様が自ら進んで国外追放を選んだ以上、その相殺は彼本人の意思を汲み、選択制であるべきだと、わたくし個人は考えております。この場合の選択制というのは、複数個ある相殺方法の中から1つを選べ、という意味ではなく、国外追放を解除する条件を満たすか否か、解除を目指して努力をするか否か、どうぞご自分のお好きになさってください、と、その判断をロイ様にゆだねる、という意味ですわ」

「はっ……っ!?」
「なんと白々しい……っ!」

「……本当……イ殿……自由意……尊重され…………」
「…………明ら……条件を満た……いように誘導……」

「コホンっ、それで、その条件の内容とは?」

 すると、ヴィクトリアは白百合のように可憐に、ニッコリ、と、微笑む。
 まるで姫が国民に向ける親愛の微笑みの手本である。

 だからこそ、大臣たちはイヤな予感を覚えた。
 そして――、

「――その条件とは、魔王軍の領土内で、今回王都が被った実害、それさえ超える被害を敵に与えてくること。これを果たしてくれれば、ほとんどの国民が手の平を返すでしょう」

 瞬間、一瞬とはいえ数人の大臣たちは呼吸さえ忘れた。
 そして我に返ると、まるで集中砲火のように――、

「バカな!? たった1人で魔王軍の領土に行かせる気ですか!? 正気じゃない!」
「魔王軍の領土への潜入、仮に1人でこれを行うことが絶対なのでしたら、特務十二星座部隊の隊員でも、入念な準備が必要だというのに……っ!」

「ロイ殿下が条件を満たすために尽力する場合、孤立無援ですぞ!? 飛んで火にいる夏の虫だ!」
「最初から条件をクリアさせる気などないのでしょう!? いくら王女殿下といえども、その判断はあまりに……っ!」

「そもそも、人としてではなく、政治家や七星団の上層部の観点からしても、ロイ殿下が拷問でもされたらどうするおつもりですか!?」
「ロイ殿下はまだ新兵ではありますが、七星団の情報をなに1つとして知らない、というわけではないのですぞ! しかも殿下の場合、星下王礼宮城の構造を他の団員よりも遥かに知っております!」

 矢継ぎ早に飛んでくる反論。
 が、これは想定の範囲内であるし、今後、充分にこの時の発言を利用することもできる。
 ゆえに、ヴィクトリアはそれに対し、別段、気にした様子もなく話を続けた。

「あっ、ところで――」
「今度はなんです!?」

「1年が始まって5番目の月、エメラルドの月に入ると、魔王軍側がこちらにスパイを送り込んできたように、こちらも魔王軍側にスパイを送り込む、そうですわよね? しかもこれはかなり前々から計画されていたことで、準備に関しましても、なに1つとして支障はありません」
「…………っっ、まさか!?」

 そう、それはブラッディダイヤモンドの数日前、七星団の中央司令部のとある一室にて、ロイがアリシアに包帯を巻いてもらっていたその最中第282話に、彼女が彼に伝えていたことだ。

 確かにそれは一部の団員や大臣たちしか知らない情報ではあるが、立場、言い換えれば身分上、ヴィクトリアもそれを知っている一部に含まれる。基本、ヴィクトリアはまだ本格的に政治や七星団に関与し始めていないため、そのような作戦を逐一報告されることはないが、彼女本人が積極的に情報の開示を求めた時、それにアクセスできる権限はすでに持っていた。

 敵国にスパイを送る、という作戦の決行が、秘密裏にではあるが、かなり前から進められていた以上、そしてその作戦の重要度が高い以上、例えブラッディダイヤモンドのあとでもそれは決行される。

 無論、敵襲からの復興も大切な国家としての営みだが、それでも、全ての王族、大臣、七星団の団員がそれに携わるわけではない。優先順位を一番にするだけであり、一例として、復興の最中に再び不測の事態が発生してしまっても対処できるように、他には火事場泥棒のような悪人が出てきても対処できるように、それ以前に復興に集中するための警備員を配置するために、ある程度の余力は残しておいて然るべきだ。

「――計画書によりますと、ロイ様ご本人、第1特務執行隠密分隊、次いでレナード・ハイインテンス・ルートライン様、そして合計6人の隊長として、特務十二星座部隊の【金牛】、オーバーメイジのアリシア様も、スパイ任務の候補に挙がっていたとのことでしたが? 相違ありませんこと、七星団、団長、アルドヘルム・アーク・ラ・イトオルター様?」
「肯定です、相違ありません」

 事もなげに、アルドヘルムは静かに肯定した。
 すでにみな一様に察している。ヴィクトリアがクリスティーナから受け取った1枚の紙、自分たちの椅子から中身は見えないが、あれはその計画書の、この会議で必要な情報の摘要だ、と。

「この計画におけるグループごとの団員の配分、親密な団員たちをひとまとめにしてしまうのは、どのような作戦であれ、メンバー同士のコミュニケーションが必須、大切になってくるから基本でしょう。――ですが、それにしたって男女混合の編成というのは実に珍しいですわ」

「「「「「――――」」」」」

「それにも関わらず男女混合の編成になったのは、王族であると同時に聖剣使いであるロイ様、王族ではありませんが、同じく聖剣使いのレナード様、そして七星団でも【処女】の枢機卿、セシリア様を超える才能を持つイヴ様。この3人を戦力として充分に活かしつつ、その上で3人に必要最低限のリスクしか負わせない指揮官が、アリシア様しかいなかったから。シャーリー様は時を司る魔術の天才ですが、計画書にはメンバーとのコミュニケーションに差し支えが出る可能性が高い、と、そう書いてあります。ユニークな方ですものね。これは本当にただの想像ですが、アリス様とマリア様、真面目な優等生タイプの2人とは、衝突することはなくても、微妙にピントがあわないコミュニケーションが多発するかもしれません。加えて、後付けの理由ですが、ブラッディダイヤモンドでシャーリー様はかなり消耗しました。流石に少しは休養を取らせるべきでしょう。また、エルヴィス様は人格者としても実力者としても申し分ありませんが、魔術師ではなく騎士ですもの。ゆえに構成員の別行動時の点呼、生存確認、意思疎通には、率直に申し上げて適しておりません」

「「「「「――――」」」」」

「勘違い防止のために明言しておきますと、ロイ様は別に王族だから戦闘を禁止されているわけではありません。わたくし自身、彼に何度も申しましたし、逆にたくさんの人からお伺いしましたが、わたくしやお父様が実務的な王族なのに対し、ロイ様は戦争の象徴、勝利をもたらす英雄としての王族ですわ。むしろたくさん戦って、たくさん勝利を持ち帰ってくる方が望ましい。あくまでも、この度のロイ様の行いが問題視されているのは、敵と交戦して敗北したからではありません。それもそれで由々しき事態ではありますが、ロイ様が敵の手によって王都で暴走してしまったことこそ、一番本質に近い問題点のはずですわよね?」

「「「「「――――」」」」

「あとは一応……、その……、コホン、男女の間違いのような問題も、アリシア様であれば気にする必要皆無ですわ。いくらロイ様とレナード様だとしても、彼女には絶対に勝てませんもの」

 もう、ヴィクトリアに対し、大臣も、枢機卿も、七星団の上層部の団員も、なにも反論することができなかった。

 再三になるが、彼らは優秀だ。
 ゆえに気付いた。ヴィクトリアの計画に。そして、もちろん自分たちは仲間同士ではあるが、ヴィクトリアに『彼女には彼女なりの考えがあったのに、その全てを聞かず、反論ですらなく否定をしてしまった』という弱みを握られたことに。

「ロイ様の国外追放につきましては、第1特務執行隠密分隊、レナード様、そしてアリシア様が任務を果たすために王国を発つ日に、なるべくあわせましょう。そして、まだ正式名称は決まっていないようですが、便宜上、このアリシアグループに課せられている任務は諜報活動と、それをすませたあとに、魔王軍のとある研究施設を破壊すること。ですが、皆様にご留意していただきたい点が2つほど」

 ヴィクトリアはそこで一拍置いた。

「1つはこれが諜報活動である以上、どこからどう考えても監視役を付けることができないこと。これからこの7名に、敵の統治下で隠密行動を取っていただくのに、例え監視のためとはいえ派遣する人員を増やすのは、常識的に考えて本末転倒。最後の破壊工作を決行する前に、このグループが敵国領土に侵入していることが露見してしまうリスクを高めるだけです。そもそも、仮にグループの監視が絶対なら、いえ、本当は確かに絶対なのですが、それならそれで、それはグループ以外の誰かではなく、アリシア様の役目ですわ」

「「「「「…………」」」」」

「もう1つは結果が全て、ということ。もちろん、これは諜報活動と破壊工作に成功すればなにをしてもかまわない、という意味ではございません。敵に有利ななにかを残してしまうことを、好ましい結果とは認められないでしょう。任務達成後、アリシア様が提出するレポートを熟読し、それで始めて結果が好ましいか否か、その判断が下されます」

「「「「「…………」」」」」

「ですがこの度、厳密にはロイ様は国外追放のため、この任務から外されますわ。当然ですわよね? 国外追放を受けた人間が七星団に所属し続けるわけがありませんもの。同時に、ロイ様は国外追放されただけであり、敵に寝返ったわけではありません。あとは、おわかりですわよね?」

「つ、つまり……、たまたま利害の一致で、アリシアグループと同行することになったロイ殿下が……」

「…………条件を満たすためにアリシアグループと共闘……。敵に利益を与えないのが当該任務の唯一の制限であり、これさえ守れば、誰が誰と協力して、あるいは誰が誰に命令して、任務を遂行するかは問わず…………」

「…………極論、全ての手柄をロイ殿下に、と……?」

「はい、なんのルールにも抵触していないはずですわ♪」

 再度、白百合のようにヴィクトリアは微笑んだ。
 完璧にやられた。ヴィクトリアは王族として正当な政治や駆け引きを学んでいて、もちろん、相手の裏をかくようなそれも、充分に学んできたのだが、だとしても、ここまで表か裏かで言えば、まさに裏に全ての努力と才能をつぎ込んだ駆け引きをしてくるとは……。

 しかも、これはヴィクトリアにとって初陣。
 だがそれを『相手は誰も自分のやり方、手の内を知らない』と解釈して、加えて、好きな男の子を救うために減刑を望む女の子さえ、会議の最初の方は演じてみせた。武力を用いた戦争でも、心理戦のような政治でも、相手のことを知らないということは不利を招く。

 先ほども大臣たちは思い知ったが、ヴィクトリアは常識に囚われない。
 小説や演劇では奇策や妙策こそ好まれて、物語として映えるが、現実問題、定石や基本に忠実な方が戦争ではより多くの勝利を飾る。そもそも、奇策や妙策は定石や基本が存在して、始めてそのアンチテーゼとして成立する戦術だ。

 けれど『この会議』はどうか?
 もしかしたら今回に限った話で、次回以降はかなり頭を捻ることになるかもしれないが、それでもヴィクトリアが参加者の裏をかく環境がかなり整っていた。自分の実力のおかげにしても、運がよかっただけにしても、これを利用しない手なんてあるわけがない。

「質問、よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」

 大臣の1人が挙手したので、ヴィクトリアはそれを許可する。

「ハッキリ申し上げて、感服いたしました。先刻、私も王女殿下に対し非礼に値する発言をしてしまい、のちほど、正式に謝罪、かつ、なんらかの罰を甘んじて受ける所存ですが、まずはこの場にて簡易的ではありますが、せめてもの謝罪をさせていただきます」

 言うと、その男性は静かに、しかし深々と頭を下げる。
 数秒をかけて下げ続けていた頭を、ヴィクトリアに「もうけっこうですわ」と言われ元に戻すと、それでようやく彼は質問とやらを彼女にぶつけた。

「王女殿下の作戦を実行に移すならば、ロイ殿下に『魔王軍の領土内で、今回王都が被った実害、それさえ超える被害を敵に与えてくる』という条件を課すことになる。これに間違いはございませんか?」

「はい、ありません」

「では、誰がそれを言い出したことにするのでしょうか?」

 すると、ヴィクトリアは下を向いてしまった。

 まさかここまで語っておいて、こんな重要で根本的なことを考えていなかったのか?
 今さらそんなふうに訝しむ愚者が、こんなところにいるはずがなかった。

 ヴィクトリアは返答に詰まったのではない。
 思い返していたのである。

 この度の屈辱を。
 この度の憤りを。

「わたくしはブラッディダイヤモンドに関して、どうしても許せない人物が2人いますの。片方はロイ様に闇を移植したゲハイムニス。そしてもう片方は――『未だ七星団のどこかに潜んでいる』、そんな可能性が非常に高い【土葬のサトゥルヌス】ですわ」

「「「「「…………っ!?」」」」」

「ほぅ」

 大方の予想は付けていたが、あのアルバートでさえ、身内贔屓びいきなしでヴィクトリアに感心した。

 味方にとっての不利さえ利用するか、と。
 スパイの存在さえ逆手に取るか、と。
 しかもスパイに偽物の情報を流すという真っ先に思い付く逆手ではなく、政治上の汚点を全て押し付ける、という逆手で。

 いや、アルバートだけではない。エドワードも、アルドヘルムも、そしてこの3人以外、結局はここに集まった全ての重鎮たちがヴィクトリアに一目を置いた。
 政治家としての初陣、そしてそれが重要度の低い会議ではなく、最上級会議室で行われた会議。だというのに全ての参加者から一目を置かれる。

 ロイやイヴでさえ敵わない。
 2人には前世が存在しているからこそ、この異世界で反則級の発想なり魔術の行使が可能なのだ。

 翻り、ヴィクトリアに前世なんてない。あるかもしれないが、少なくともその記憶は存在しない。
 必然、ヴィクトリアこそが政治に関して言えば、同年代最強、場合によっては大人顔負けの反則級の存在チートクラスだったのである。

「この際ですわ! 国外追放の解除の条件、これの言い出しっぺの他に! 懲役よりも国外追放を選ぶべきとロイ様をそそのかした犯人! 国民に対し、ロイ様が、懲役じゃボクの罪は拭えない。ボクは自ら進んで国外追放を選ぶ――、と、そのように偽りの報道をするように仕組んだ黒幕! ロイ様が自ら進んで国外追放を選んだ以上、その相殺は彼本人の意思を汲み、選択制であるべきだ、なんて言いながら無理難題を押し付けた詐欺師! この全ての悪を【土葬のサトゥルヌス】ということにするのはいかがでしょう!?」

 この豪華絢爛で、巨人さえ座れば収まるほど広く高い会議室、その全体に大きく響くほど、ヴィクトリアは開戦の号砲を叫ぶ。
 まさにそれは演説さえ彷彿とさせた。
 その勢いのまま、ヴィクトリアは椅子から立ち上がると――、


「――【土葬のサトゥルヌス】は七星団の上層部にまで到達している可能性が非常に高いですわ! もし、すでにこの会議にあなたがいらっしゃるというのであれば、宣戦布告して差し上げます!」


 ヴィクトリアは会議の参加者全員を、一度見回す。
 そこにはもう、彼女を子供だと侮る大人は1人もいなかった。
 中には彼女に王女としてではなく、政治家として敬意を払っている重鎮さえ見受けられた。


「このヴィクトリア・グーテランド・リーリ・エヴァイスは、政治にも、あなたにも、ロイ様を奪われることはありません! そしてこれを聞いて、わたくしを殺せるモノなら殺してみなさい! もちろん死ぬのは怖いですわ。しかし! わたくしに限らず誰かを殺すとなれば、絶対にあなたは必要以上の痕跡を残してしまうはずですわよね!? いえ、それ以前に! あなたは長らく七星団の上層部に隠れているはずなのに、なぜかわたくしやお父様が暗殺されていないことを考慮すると、あなたにはわたくしたちをどうしても殺せない理由がある! 覚悟してくださいまし! わたくしのダーリンを窮地に追いやった罪、必ず償ってもらいます! さぁ――ッッ」



 ヴィクトリアだって理解している。
 今回、ヴィクトリア、シャーリー、レナードの3人は、ロイの罪を誤魔化すために、追加の罪を犯してしまった。

 そんなこと、ロイは望んでいないだろう。

 だが、それには応用が存在することに気付かねばならない。
 罰の序列において、軽い罰を与えることになり、ロイに最低でも100年の刑期を科してしまう、なんて深刻な事態を招いてはいけない。罰の序列において、むしろ重い罰を意図的に与えて、それを駆使する形で、刑期が最低100年なんてふざけた懲役刑より、本人的にも戦争的にも、数十倍も上等な結果を叩き出す。

 いくら看破される恐れがないとはいえ、3人が犯した証拠の隠滅。
 3人が犯した罪ゆえに、ロイの罪として扱われることは絶対にないが、仮に、例えこれをロイの罪に加算することになっても、国外追放にまで相当することはありえない。

 そしてすでに、この駆け引きをすることをロイに明かしていたわけではないが、彼にまだ、魔王軍と戦う意志があることは確認済みだ。

 ゆえに、主張しよう。
 最後に勝つのは王国七星団だと!



「――――この瞬間、この場所から、わたくしの反撃を開始いたしますわ!!!」


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コメント

  • HARO

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