ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章12話 ヴィクトリア、国外追放を企む。(2)
「ですが――、まぁ、起こりましたわね、奇跡」
「そのようだな、ヴィクトリア」
と、厳かにアルバートがヴィクトリアの発言に同調する。
「2日前の未明、目撃者はいないが、おおよそ午前2時~3時の時間帯において、突如、ロイくんが破壊した建造物、その全壊も半壊も問わない全ての破壊が回復した」
「加えて、ロイ様がケガを負わせてしまった王都の住民、その全員が、すでに回復しており、なんなら肩こりや頭痛さえおまけで治ったという報告もあるぐらいですわ。そしてこちらも同様、目撃者がおらず、負傷者は睡眠中に回復したとのこと。眉唾物ではありますが、夢の中で天使と会った、という報告も上がっておりますが、まぁ、こちらは夢とか幻覚の類でしょう」
ヴィクトリアはウソを吐いた。
恐らく、否、100%、ここにいる全員が破壊された建造物の回復、それをシャーリーの仕業だと確信している。ヒーリングに分類される魔術で生物以外の物を回復させることはできず、傷を負った建造物の類に、生物でいうところのヒーリングをするとしたら、錬金術か局所的時間遡行しか思い浮かばないから。そして錬金術だとしたら、100%元通りに戻すことはできないし、そもそも散らばった瓦礫などの建造物の残骸を全て拾い集めるなんて不可能だから。畢竟、遅かれ早かれ裏を取られたら、ただの確信が、他人にまで言いふらすことができる確信にまで成長してしまう。
が、それは本当に裏が取れて始めて成立する話だ。
確信に至っていても、なんらかの都合でそれを他者に伝える時、その場合には必ず物理的な証拠が必要になり、それがなければ自分は確信しているのに相手にはそれが理解されない、という状況が、いとも簡単に成立してしまう。
自明、一国の姫として、ヴィクトリアだって優秀な女の子なのだ。
すでに『シャーリーとレナードが繋がっていること』などお見通し。
ヴィクトリアはレナードと交わしたツァールトクヴェレ、死体安置所でのやり取り、そのタイミングで――「『彼女』に言わせると、内政チートって言うんだったか?」――という発言をまずは耳にしていた。しかし、みんなから少し遅れてヴィクトリアもロイが異世界人ということを知らされたが、どこからどう考えてもロイは男性だ。彼女、という代名詞は適切ではない。
それに違和感を覚えたヴィクトリアは推測を開始する。が、そんなモノは一瞬で終わった。確証があったわけではないが、暫定的とはいえ、彼女はたった1回の推測でシャーリーの存在に辿り着くことに成功する。
なぜ気付いたのかといえば――シャーリーはロイとガクトの殺し合いのあと、ヒーリングという名目でロイのことを自室に寝かしていたからだ。レナードを使いロイの蘇生を計画したことから味方であることは確実で、その上で、そこしかロイ、具体的に言うなら彼の脳が無防備になった瞬間はない。最初の1回のヒーリングが純粋な優しさの表れだったとしても、3日間もロイを自室に寝かして、聞いた話ではあるが、誰にも昏睡状態のロイの姿を見せなかったのは、どこからどう考えてもおかしすぎる。
まだ事態が、異世界にまつわる事情が、連鎖的に加速し始めていないか、あるいは本当に加速し始めたばかりというタイミングだったので、反論の余地は確かにあるが、しかし、それでもシャーリーはミスをした。
だが逆に、そのミスがあったからこそ、ヴィクトリアはシャーリーに辿り着き、ブラッディダイヤモンドの最中、クリスティーナを連れてロイの自室を出たあと、シャーリーに接触を図ったのだ。
具体的に接触に成功したのは、シャーリーがイヴの前世の記憶を解き放つ前だ。事実、イヴの治療室に向かっている途中、シャーリーは――「早急――『1つ目の用事』は終わった。早く2つめの用事を終わらせないと……」――という独り言を呟いている。
発見の方法は単純明快――、シャーリーがレナードと繋がっていることは明白だが、その繋がりが『ロイという英雄が持つ秘匿すべき前世』である以上、その繋がりをレナード以外に増やすわけにはいかない。つまり、シャーリーがこれ関連で誰かになにかを指示したい時には、レナードしか動かせる部下がいないのだ。それさえわかれば、シャーリーとレナードの合流地点に自分たちも集まってしまえばいい。そしてその合流地点は、レナードに事情を、全部でなくともある程度だけ話せば、彼本人が教えて、そして同行してくれるだろう、と。
また、なぜヴィクトリアがブラッディダイヤモンド=ロイの前世が関係している敵襲、と、理解できたかというと、クリスティーナに教えてもらったからだ。クリスティーナの方はロイが飛び出していったほんの数分前に、彼の口から前世のなにかが原因でイヴが狙われている可能性が高い、と、そう直接聞いているのだから。
余談だが、レナードの時間遡行だって消費する魔力がゼロだったわけではない。むしろ莫大な魔力を消費するし、術者であるシャーリーはあの時、魔術的にボロボロだった。結果、少しでも跳躍する時間を短くするために、シャーリーは先にレナードを過去に跳躍させ、そのあとに、実に狂気的なことに、時間節約のため、クリスティーナさえ含め3人分の時流を加速させた状態で打ち合わせをしたのだ。
で、それが何を意味しているのかというと――、
――少なくともブラッディダイヤモンド当日は打ち合わせ、ただの考えていることの説明で終わったが、後日再び集合して、レナードに協力を願い、アスカロンのスキルを使い、【限定的な虚数時間】のキャストに際して『シャーリーがそれをキャストした』という事実を発生させないようにしてもらった。
証拠を隠滅したのではなく、そもそも証拠なんて生まれないようにする細工。
本人が言うには――「ハッ、シャーリーさんが魔術をキャストするという現象に対して、シャーリーさんを少しだけ斬らせてもらい、『彼女の魔術だから彼女の魔力反応が検出される』という結果を最下位に、『彼女の魔術なのに彼女の魔力反応が検出されない』という結果を最上位にしただけだ。あいにく、アスカロンのスキルは永続キャストではないが、スキルを使い世界に刻んだ痕跡は、まぁ、工事とか整備用錬金術を使われちゃ話は別だが、それでもスキルの制限時間よりも長く残る」――とのことだった。要するに、レナードは以前、ロイに水蒸気爆発を喰らわせたことがあったが、爆発がすぐに終わるとしても、もしヒーリングしていなければ当然、ロイのダメージは長らく残り続けていた、と、それと一緒だろう。
一方、負傷者の夢の中に現れた天使とはもちろんイヴなのだが、こちらに至ってはまるでなにも心配していない。イヴの正体を知っているのはロイ、シーリーン、アリス、マリア、ティナ、シャーリー、レナード、そして自分と、どうやらゲハイムニスという魔王軍最上層部の一員だけ。
最後の1人がかなり大きな懸念事項として存在するが、魔王軍は皮肉にも味方の足を味方が引っ張ってしまったようだ。そう、ロイの腹部に【土葬のサトゥルヌス】が闇の長槍を刺したその瞬間、彼本人が――「七星団に紛れ込んでいる最後のスパイとは、おれのことだ」――と、言ってしまっている。しかもそれは、ロイの死亡を確信して、言ってしまえば情けで教えてくれた情報である。
つまり、もちろん本格的に探りを入れていく必要性は健在だが、高確率で、ゲハイムニスは七星団の内部に紛れ込んでいない、と、主張することができるのだ。
「さて、それを踏まえた場合、改めてロイ様の刑期はどのように変化するのですの?」
「恐縮ですが――誰にもわからない、その一言に尽きます。少なくともこの段階では。まず時間の巻き戻しによる現場や凶器、被害者の負傷の再生は、現在のそれらが出来上がった瞬間よりも前に戻してしまうと、証拠隠滅罪に分類されます。ですが、それは時間の巻き戻しに関する魔術が使われたことを証明できればの話です。証明できるか否か、証拠が存在するか否か、現時点ではどちらの可能性も残っているでしょうが、仮に証明できなかった場合、当然ですが証拠隠滅罪は適用されません。証拠隠滅罪の証拠がないのですから。また、時間の巻き戻しという魔術はその性質上、『破壊した物を新たに造り直した』のではなく、『物を破壊した事実をなったことにしている』のです。死亡者が出ていない以上、ロイ殿下に親愛を覚えている国民によっては、それで罪はなかったことになったんだ! なんて主張する人も多数出てくるかもしれませんね。言わずもがな、完璧に無罪になるなんて口が裂けても言えませんが、判決の予想がかなり不透明になると見て間違いないでしょう」
嗚呼、知っているとも。
流石に法務大臣に法律の知識で敵うと己惚れているわけではないし、こうなった以上、論理的にロイの裁判がどのように進行するのかなんて、予想できるわけもないが、それでも、ヴィクトリアは幼い頃から法律の勉強を続けてきたのだ。証拠隠滅罪についても、その証明がされなかった場合の結果についても、当然、学び終えている。だからこそ、そういう意味、狙いも含めてレナードに協力してもらったのだ。
「次に負傷者が受けたヒーリングですが、こちらはそもそも証拠隠滅罪には該当しません。誰がキャストしたのかは依然、なに1つとして判明しておりませんが、これを違法行為にしてしまうと、事件や事故の際、医者や医療魔術師たちの医療行為さえ証拠の隠滅になってしまうからです」
「えぇ、そうですわね」
「ですが、重要な点を1つだけ――、結果が不透明になると、確かに私は申しました。ですが同時に、無罪になるなんて口が裂けても言えません、とも、申し上げたはずです」
「当然、理解しておりますわ」
すると、ヴィクトリアは背後に控えていたクリスティーナから、1枚の紙を受け取る。
そして一度、息を吸って、吐くと――、
「――個人的には、わたくしはロイ様に、懲役よりも国外追放の方を科したいですわね」
「「「「「…………、…………は?」」」」」
そこにいたクリスティーナ、アルバート、エドワード、最後にアルドヘルムを除いた全員が、声を出す者はほんの数人だったが、それでも割と間抜けな反応をしてしまう。
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