ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章11話 ヴィクトリア、国外追放を企む。(1)
ロイがレナードに殴られたのが5日前の午前で、レナードが義妹のレアに罵倒されたのが、その同日の昼過ぎ。
逆に、その日から見た場合の5日後、ヴィクトリアは七星団本部の最上級会議室にて、とある決断を伝えようとしていた。誰に、と、訊かれれば、それは無論、全てが起きた夜にアルバートがちょうどここで行っていた会議、それに参加していたメンバーの全員に、である。
七星団本部の最上級会議室はその名称から察せられるとおり、繊細で、なのに複雑で、高度に軍事的、そして政治的な会議をする場であり、基本、国を左右するほどの会議は全てここで行われ、かつ、ここで行う会議のメンバーは数年単位で代わり映えしない。ゆえに、アルバートが会議を行っていたこの会議室でヴィクトリアが今から決断の発表を行うのも、そこに集まっているメンバーが同一なのも、偶然ではなく、必然の結果でしかなかった。例外といえば、アルバートではなくヴィクトリアの方の専属メイドとしてついてきたクリスティーナぐらいか。本来、彼女はロイのメイドのはずだったのに……。
おさらいとして――、ヴィクトリアは普段なら父上、つまり国王陛下が腰を下ろしている逆U字型のデスクの中央、会議室を俯瞰した場合、頂点に相当する席に座る。そして自分以外の参加者といえば、まず、アルバート、つまり国王陛下本人、加えて彼を守るロイヤルガードである特務十二星座部隊、星の序列第1位の【白羊】、エドワード・ノーブ・ル・ニューエイジと、王国七星団の団長、アルドヘルム・アーク・ラ・イトオルター、並びに彼の尚書官、執事。次いで、様々な分野の大臣と副大臣、国王陛下補佐官と大臣補佐官。続いて、ファンタジア教や竜の聖書教の各々の枢機卿が2名ずつ、そして七星団の上位の騎士や魔術師たち。
詳しい数をヴィクトリアは知らなかったが、だいたい45~55人程度、と、認識しておけば問題はなさそうだった。
また、ここに集まった全員が当然のことながら正装であり、ヴィクトリアも例に漏れず一国の姫としての正装でこの場にきている。会議に、臨もうとしている。
少しだけ、ロイがこの場にいないことをヴィクトリアは寂しく思う。どのような理由であれ、女の子がめかしこんだのだから、好きな男の子に見てもらいたいというのが乙女心なのである。
が、ヴィクトリアは少しだけ、軽く頭を振ると、一度深呼吸して、そして姿勢を正し、顔を引き締め、自分なりのやり方でロイを救う、そんな自分の戦いをしようとしていた。
「本日は王女とはいえ、現場未経験のわたくしのためにご参集くださり、誠にありがとうございますわ。身分の高低など関係なく、政治、及び戦争の諸先輩方に敬意を払い、慣れないかもしれませんが、少なくとも今回は、わたくしも敬語を使わせていただきます」
「「「「「――――――」」」」」
「事前に通達させていただいたとおり、本日はわたくしの夫、エクスカリバーの使い手、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク。彼が、ダイヤモンドの月に起きた凄惨な事件、敵襲ということで、ブラッディダイヤモンドと呼ばれるようになった2日間で働いた悪行に対する処遇――、言い換えれば、どのような罪こそ彼に相応しいか、という議題について話し合います」
ひとまず一度だけ、ヴィクトリアがそこで区切ると、鼻で笑う音や舌打ちの音さえ聞こえなかったが、だが確かに、子供を侮るような眼が彼女に向けられる。
即ち、気持ちは充分に理解できるが、自分の好きな男の子の減刑を押しとおすために、この最上級会議室にまできたのか……、と。
正直、あまり気持ちのいい視線ではなかったが、ヴィクトリアはそれを意に介さず、クリスティーナと練習したとおりに、手順を1つ1つ思い返しながら会議を進行させ始めるのだった。
そう、全ては、眼前の彼らに侮られない方法で、大好きな男の子を救うために。
「では、法務大臣、仮にロイ様が王族ではなく、聖剣使いでもなく、つまり政治的にも戦争的にも利用価値がない殿方だった場合、平均してどの程度の罰が下されますか?」
すると、ヴィクトリアに指名された法務大臣が椅子から立ち上がる。
「王女殿下もご存じでしょうが、まず、罰には2種類あります。刑事罰と民事罰です。少なくとも現在の我が国におきまして、前者が七星団の警邏兵などに法を犯した者が捕まり、個人ではなく王国に対して社会秩序を乱した罰金や懲役を科すこと。一方、後者は王国ではなく個人の規模で、加害者が被害者に損害賠償や慰謝料を払う罰のこと。例として、王国のどこかで詐欺が発生したとします。その場合、詐欺は当然、違法行為ですので、王国により懲役刑や罰金刑が科せられるわけです。ですが罰金刑の場合だとしても、犯人が王国に支払った罰金は、1%さえ被害者に戻ってくることはありません。ゆえに、大半の被害者は民事裁判を起こし、裁判所によって正式な賠償金、慰謝料が決まった時、初めて罰金とは別個に被害者に金銭が返ってきて、こちらこそが民事罰に相当するわけです」
「そして当然、ブラッディダイヤモンドのロイ様は刑事罰に相当する、と。その上で、民事裁判の多発も予期される、と」
「えぇ、そして刑事罰にも罪の重さにあわせた罰の重さが存在します。重い方から順に、死刑、国外追放、懲役、禁錮、罰金、拘留、という並びです。補足説明として、3点ほど。なぜ国外追放、つまり犯罪者を野に放つことが、懲役や禁錮よりも重い罰として位置するのかについてですが、多少の例外はありますが、9割以上、国外追放は国内への帰還が発覚した場合に死刑になってしまうからです。次いで、懲役と禁錮の違いですが、前者が刑務所、つまり限りなく自由がない場所で所定の作業を行わせる刑なのに対し、禁錮は確かに牢屋の中に入れられてしまいますが、特別、なにかの作業をする必要がない刑のことを指します。そして最後に、『有期の懲役』と『無期の禁錮』、並びに『有期の懲役』と『その2倍以上の刑期の禁錮』、この2パターンの場合には、禁錮の方が懲役よりも重い罰として法的に解釈されます」
「では、そろそろ結論を」
「率直に、懲役100年を上回るかと」
それはどこからどう考えても、人間の平均的な寿命よりも10年20年単位で長い刑期である。
誇張抜きに、仮にロイが今から100年程度、ありえないぐらい長生きしたとしても、100年も経ってしまえば、魔王軍との戦争さえ終わってしまう可能性もあるのだ。
「詳細は?」
「まず前提として、もはや奇跡としか言いようがありませんが、ロイ殿下は今回、ケガを負わせた人はいましたが、だれ1人として死傷者を出しませんでした。まさに不幸中の幸いとはこのことでしょう。それを踏まえた上で、実は規模が大きいだけであり傷害罪、建造物等損壊罪、魔術聖剣魔剣及びアーティファクト悪用罪、この3つしか、まず間違いなく適用されないと考えられます。反逆罪を免れた理由としては、暴走によって破壊活動をしたエリアが星下王礼宮城から離れていたから。そして当該エリアにたまたま王族が歩いているなど、そのようなありえない不幸が起きていないから。内乱罪を免れた理由としては、理性の剥奪を受けていたから。次いで、内乱と呼ぶには人員が少なく、それ以前に殿下の単独犯行だったから。そして一番重要な理由として、王国領土に存在する統治機構――、即ち星下王礼宮城、七星団の本部、及びそれに連なる全ての基地、最後に裁判所、これのうち、ただ1つにさえ傷が付かなかったから」
なぜ理性の剥奪を受けていると内乱罪を免れるのか?
少なくともグーテランドは現在進行形で戦争中だし、敵も味方も魔術を使える。許されない事態ではあるが、もし、敵の洗脳魔術によって団員に限らない国民のほんの1割とか2割とかだとしても、無意識のうちに、ブラッディダイヤモンドでのロイのような行いをしてしまったら?
もしここでこれを理由にロイに内乱罪を適用することになると、今後、大規模な洗脳なり死霊術による霊魂の掌握なりで、農村規模どころか地方都市規模の仲間割れが起きた場合、洗脳の類の魔術の解除に成功しても、当該人物たちを全員、基本的には死刑か無期懲役に科さないといけなくなってしまう。
ウソ偽りなく、そのようなことが起きたら国家崩壊も視野に入れないといけなくなる。
では、なぜ単独犯だと内乱罪を免れるのか?
まず常識でモノを考えれば、本来、単独で内乱なんて起こせるわけがないし、今回の一件を鑑みても、同時多発的に騒乱が起きていないのだ。シャーリーと【土葬のサトゥルヌス】の死闘は停止した世界で行われていたし、エルヴィス&フィル対ゲハイムニスは凄絶さの割に広範囲に及ぶ死闘ではなかった。死神だけがロイとほぼ同時に暴れていたが、あれに関して言えば、例えるなら自然災害のようなモノなので、無論、優秀な弁護士を付けることは必至だが、ロイと死神の関連性を否定することは難しくない。もっと言うなら、対処に困ったというだけであり、あの暴走状態のロイであっても、極論、特務十二星座部隊の誰かを派遣させておけば、後味は悪いが始末することそのものは簡単だったから。
法律と、裁判の判例に、ケース・バイ・ケースが通用しないことなんて、どうやらそれなりの文明、文化を誇る人間が住んでいる国においては、惑星どころか銀河さえ飛び越える常識だったらしい。
「結果、死神や火災による負傷者を含めない、純粋な殿下の被害者は105名、内訳として、重傷者が14名、残りが全員、軽傷者。定義としては命に別状はありませんが、全治までに1ヶ月以上かかる負傷を重傷、それ未満の場合を軽傷としています。新聞などでよく使われる重体という区分は重傷のさらに上、脳や臓器をやられて命の危険がある場合に使い、今回、内訳のとおり、重体者は0人です」
「――――」
「次に建造物等損壊罪についてですが、殿下と第1特務執行隠密分隊の戦闘で破壊された建造物は全壊が10棟、屋根に亀裂が残ったとか、魔術や斬撃の跡が付いているなど、部分的損壊建造物が67棟です」
「――――」
「もちろん、人道的といいますか、人権や憲法の観点で言えば、殿下に情状酌量の余地はかなりあります。と、いいますか、情状酌量の余地しかない、と、私は法務大臣としてではなく、個人的には考えています。端的に、あれは魔王軍の仕業だ、と」
「そう仰るということは?」
「傷害罪は15年以下の懲役、建造物等損壊罪は高さ10mを超える建造物の全壊が15年以上の懲役、10m未満の建造物の全壊が10年以上の懲役、それ以外の場合、半壊や、人為的な罅割れや、他にはブラッディダイヤモンドには無関係ですが、例えば落書きでさえ、5年以下の懲役。そして殿下はそれを複数人、複数個所――。そして残りの魔術聖剣魔剣及びアーティファクト悪用罪――。総括として、ある程度の減刑はあると断言できますが、僭越ながら、それでも懲役100年以上かと」
懲役が最低でも100年なんて、実質、死刑宣告となにも変わらない。
だが、それを憂う必要はない。それを覆すために、やるべきことはやってきたのだから。ロイを愛しているヴィクトリアや、ロイの義理に父親であるアルバートは、かなりの冷静さを保っていた。
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