ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章10話 レナード、報酬を求める。
「おにぃ、この女性、誰なわけ?」
と、赤毛をポニーテールにしていて、ツリ目で、どこか声も表情もツンツンしている少女がレナードに訊く。
年齢はロイたちと同じか、少し下ぐらいだろう。少なくともイヴ、リタ、ティナの3人よりは年上のはずである。
しかし、確かに少し幼い&小さいけれど、充分に顔と身長は年相応の範疇なのだが……、……、……、薄いのだ、胸が。ぺったんこもぺったんこで需要が、いや、特定の層からはむしろ巨乳よりも絶大な支持を得ているのだが、この少女の場合、別にぺったんこというわけでもなく、だいたいBカップの大きさだった。ちなみに本人がそのことをコンプレックスに感じ、毎朝毎晩、牛乳をきちんと飲んでいるのに一向に恵まれない、そんな不憫な努力家な女の子であることも一応補足しておく。
また、他に特筆すべき特徴といえば、種族や民族的に褐色というわけではないが、いわゆる健康的な日焼けっ娘だった。
彼女の服装はスカートではなくショートパンツであり、健康的で若さに溢れている太ももが目に眩しい。加えて、ここが自宅ということもあり、上は非常にラフスタイルな、ともすればいろいろと無防備にさえ思えてしまうノースリーブである。
ともかく、その少女はリビングのテーブル、それを挟んで座るレナードと、彼の客人にコーヒーを出してあげることに。
少女の目が、その空色の髪をした女性、彼女の豊満な胸を恨めしそうに見ていたことには、レナードはもちろん、客人本人でさえ気が付かなかったが……。
「制服を見りゃわかるだろうが、直接的じゃねぇが、俺の上官だ。失礼のないようにしろ」
「は? 上官が目の前にいるのに? 制服を着ているとはいえ首元を緩めて? 椅子にもたれかかって座っているおにぃに? 言われなくないんですけど?」
「紹介――初めまして、私めはシャーリー・ドーンダス・クシィ・ズンと申します。所属は特務十二星座部隊、星の序列は第4位です。以後、お見知りおきを」
「ハァ!? おにぃ、特務十二星座部隊の人と知り合いだったわけ!? 生意気!」
「アァ? 相手が自己紹介してんだからレアも自己紹介しやがれ!」
「――チッ、――コホン、大変お見苦しいところを見せてしまい、失礼しました。こちらこそ初めまして。兄がいつもお世話になっております。レナード・ハイインテンス・ルートラインの妹、レア・ハイインテンス・ルートラインです」
流石にレナードだけに対して反抗的なだけであり、レアはシャーリーにまるで初対面の挨拶のお手本のようなセリフ、声音、表情で対応してみせる。
無論、表面上はにこやかだが、心の中では毒づいているとか、そういうこともない。
「まったく、誰に似てこんなクソ生意気なヤツに育ったんだか……」
「結論――貴方様では?」
「な……っ!?」
「ぷっ、アッハッハッ! シャーリーさんはあたしの味方みたいだね! おにぃ、ぐぅの音も出ないわけ?」
「アァ? いいからリビングから出ていけ!」
「それ、反論じゃないよ~? あっ、反論できないのかな~?」
「言い直し――一応、これから私めと貴方様のお兄様はかなり重要な話をする。そしてそれはどうしても七星団の本部の会議室などではできない話だった。差し支えなければ、客人の分際で無礼だと、重々承知の上でお願いするが、少しだけ、席を外してほしいです」
「えぇ、わかりました。こちらこそ、兄をバカにするのに少々夢中になってしまったようです。こんな兄を相手に任務のお話なんて、大変とは存じますが――それでは、あたしは席を外させてもらいます」
言うと、レアはリビングをあとにしてキッチンの方へ行ってしまう。
すぐに水の音が聞こえてきたため、時間帯を鑑みるに、どうやらランチで使った食器を洗い始めたらしい。
「さて、まず、話を始める前に、音響を操作する魔術はいいのか?」
「結論――使わない」
「……、理由は?」
「理由――七星団にはシンプルテクニックと総称される技能がある。例えば反響定位というシンプルテクニックは、魔力、術式、魔術、あるいはアーティファクトさえも用いず、舌打ちとか指を鳴らすとか、自身の身体の一部を音の発生源として、そこから広がる音、それが進行方向の物体に当たって起こした反響によって空間を把握するという技能」
「――――」
「継続――反響定位が代表的な例であることには間違いないが、シンプルテクニックにはもっと根本的なモノの方が多い。いや、むしろそれが9割以上を占めている。水中で活動したいから魔術を使うのではなく、たった1回の息継ぎで10分以上潜るとか。敵を暗殺したいから魔術を使うのではなく、ワインに毒を混ぜるとか。本当にそのようなモノばかり。極論を言ってしまえば、遠視魔術に対しての双眼鏡、暗闇を明るくする魔術に対してのランプでさえ、シンプルテクニックに該当する。もちろんその最大のメリットは――」
「魔力反応が検出されない、ってことだな」
「肯定――余談ではあるが、七星団の団員として、今後も貴方様が活躍する上で、勘違いしているといけないので補足を。シンプルテクニックという名称は、単調とか、簡単とか、そういう意味ではありません。特に反響定位なんて、七星団の中でも使える人が10人もいないでしょう。そして、魔術とはこの世界に存在する様々な現象を、術者本人の技能で発動させる行為。つまり、魔術のあとに現象が発見されるのではなく、現象が先にあり、それを人為的に操作したいから、その現象を起こす魔術が開発される。だから最初はこの技能のことを、過去の団員たちは、魔術で起こした現象のオリジナルを魔術を使わないで起こすテクニック、ということで、オリジナルテクニックと呼んでいましたが――」
「なるほどな。それだと1人1人に与えられた、他人には使えないテクニックと誤解することも起きてしまうのか。で、単調でも、簡単でもなく、まぁ、恐らく基本的って意味を込めて、シンプルテクニック、と」
「結論――誰にも聞かれない話をしたいなら、近くに誰もいないところへ行けばいい」
すると、一瞬だけレナードは逡巡した。
そして――、
「シャーリーさん、あなたはウソ偽りなく魔術の天才のはずだ。音響操作をキャストしても、まず間違いなく、普通なら誰にも気付かれないだろう。それは事実上、魔力反応が検出されないのと同義だ。が、お使いを頼まれた時に聞いたが―――『あいつ』だな?」
「肯定――魔王軍最上層部、革命執行派閥、悪十字の序列第5位、【土葬のサトゥルヌス】、あの男がまだ、王都の中に、そして七星団の中に紛れている。現時点では、実力も知識もほぼ互角。だから、彼に勘付かれないように、少なくとも今日は音響操作をキャストしない」
すると、シャーリーはレナードから見えないように、テーブルの下で、強く拳を握った。
あのような屈辱は二度と御免だ、と。
流石にシャーリーにそのような感情の隠蔽を行われてしまっては、レナードにもそれを看破することはできず、ひとまず、彼は会話を続けようとした。
「そして、逆に相手が魔術を使ってきても、人間や幻想種が魔力を感じる理由が皮膚感覚、ほとんどの生物に最初から宿っている五感である以上、こちらこそ相手の足取りを追える、ってわけか」
「説明終了――それで本題に入るが、まずは感謝を示す。ありがとうございました。前回に引き続き2度目なのに……。私めも私めなりに動いているが、どうしても、ロイ様の事情を共有するにあたり、それに適切だと思える団員が見付からない」
「部下が上官の方針に口出しなんて滅多にしちゃいけねぇことだが、進言させてもらう。それは無理だ。現実的じゃない。諦めろ。もし協力者を増やしたいなら、情報の共有はしていないけど、利害の一致で協力だけはしてもらえる、そんな団員を探す方がよっぽど早い」
「自明――それは理解している。まぁ、これも懸念事項であることには変わりないが、本題は別にある。これについてはまた後日、考えることにする」
そう、まだ2人は本題についてなにも話し合っていない。
結果、シャーリーがきっかけを作ると、レナードの方が切り出した。
「んじゃ、確認だ、シャーリーさん。俺はあんたがツァールトクヴェレから帰還したあと、そしてイヴの治療室に行く前、あんたから任務を与えられた。時を遡って、透明化の魔術を駆使して、誰からも観測されず、誰の視線も存在しないところで裏工作をしろ、ってな」
「肯定――昨日いろいろ確認したが、上手いことやってくれたようでなにより。そして、任務を与えた立場なのに、最終的なゴールはあるにはあったが、具体的な手段、過程は考えておらず、貴方様の機転でどうにかしてほしい、なんて、七星団の上層部としてふがいない……。申し訳ない……」
本当の本当に大雑把な説明をするなら、これが今回のシャーリーのやり方だった。
思い返すシャーリー。嗚呼、あの夜は頭がおかしいぐらい高度な時属性の魔術をキャストしまくったな……、と。意識していないのに、思わず彼女はどこか遠い目をしてしまうことに……。
「つーか、なんで過去改変しちゃダメだったんだ? タイムリープとかを題材にしたマジックフィクション小説とかによくある、歴史の強制力とか、運命の収束とか、そんな感じか?」
「否定――運命の収束については、未だ研究を進めている段階。否定されていないだけであり、肯定もされていない。よって、私めが危惧していたのは過去改変によって、『私めが救援に駆け付ける前に、ロイ様が【土葬のサトゥルヌス】に殺されてしまう世界線』『私めが【土葬のサトゥルヌス】に敗北して殺される世界線』『ロイ様がゲハイムニスに闇を移植されるのではなく、殺されてしまう世界線』、主にこの3つのいずれかの世界線に移動してしまうこと。ゲハイムニスの魔術師としての実力は不透明だが、【土葬のサトゥルヌス】に限って言えば、世界線の変動を感知する魔術さえ開発していてもおかしくはない」
流石に会話に支障をきたすので、シャーリーはなんとか復活すると、レナードの質問に対し答えを返す。
「? 世界線ってなんだ?」
「簡単――現実から分岐した可能性の世界。ほとんどパラレルワールドのようなモノだが、パラレルワールドが『存在しているかもしれない分岐世界』なのに対し、別の世界線は『それなりにその世界が存在することが推測されていて、存在しているかもしれない、つまり充分に推測されていないのは可能性だけの分岐世界』だから、厳密には違う、らしい。例として、貴方様がこの惑星から10億光年とか100億光年離れた惑星で、女の子として生きていくのがパラレルワールド。現実に準拠して、例の政略結婚に関する決闘で負けたとか、逆にそのあとのロイ様との勝負で勝ったとか、そういうのが別の世界線。要は『現実に対する空想や妄想』と『本当の意味での現実からの分岐』が2つの差異であり、別の世界線の存在が推測される中、じゃあ具体的にそれはどういう分岐を果たした世界なんだ、って、そういうところまではまだ推測が届いていないのが世界線……とのこと。無論、これは私めの知識ではない」
「わかった。話を続けてくれ」
「了解――とりあえず、死神、そして火災による死傷者は残念ながらかなり出てしまったが、貴方様のおかげで、少なくともロイ様が誰かを死なせるという事態は回避できた。今頃、本人もそのことを知らされてビックリしていることでしょう。ちなみに、どのような手段で?」
シャーリーが問う。
使った道具に大方の予想は付いているが、それをどのように使ったかまでは、シャーリーでさえわからなかった。
「アスカロンを使った。現象が現象自体に宿す起こすべき結果の優先順位、物質が物質自体に宿す最もオーソドックスな性質の発生順位を弄るために、区画一帯に切り傷を付けまくり、暴走するロイからの避難の成功を最上位に、避難に失敗して殺されることを最下位にしたんだ」
「疑問――かなり訊きたいことがある。まず、ロイ様本人に斬撃を喰らわせるならまだしも、なぜ区画に切り傷を付けることがその結果に繋がる?」
「あの状態のロイに斬撃? 無理だろ。命中そのものは可能だが、派手に戦えば俺が誰かに観測される。で、じゃあなんでロイの代わりが区画の地面とか建造物だったのかというと……区画そのものを1つの物として捉えたからだ」
「は?」
と、シャーリーにしては珍しく間抜けな声が出てしまった。
が、それを気にするそぶりもなく、レナードは続ける。
「考えてみれば当たり前のことだ。例えば、俺のアスカロンはノコギリにも干渉できる。そしてノコギリの刃の部分が鉄製なのに対し、取っ手の部分は木製。つまりアスカロンのスキルの対象として有効なのは1種類の原子ではなく、1つの名称を持つ現象αか物質βだ。っていうか、1回の斬撃で1種類の原子にしか干渉できないなんて、使い勝手が悪すぎる」
「継続――なら、なぜ第1特務執行隠密分隊の女の子たちは、あそこまで死にそうになった?」
「まず前提として、俺はたった1回の斬撃で区画を丸ごと掌握したわけじゃねぇ。絶対に100回以上、別々のポイントで斬撃を繰り返している。つまり、その分だけ支配した領域が個数として増えて、面積としても広がる。で、だ、あいつらはそもそも『避難』なんてしていねぇだろ。完璧にロイと戦っていた。莫大な個数と面積を制御しているのに、局所的にスキルで操作する対象を『避難』から『戦闘』に切り替えられるわけねぇよ」
「納得――なるほど」
ひとまず、これでシャーリーの質問に対するレナードの返答は終了。
ゆえに、今度はレナードが質問する番だった。
「で、そっちはどうだ?」
「問題皆無――小説や演劇でよく使われる悲劇のヒロインという表現。ロイ様にはあれの男性バージョンをやってもらう。要するに、悪いことをしたけど、どうしても同情してしまう。そういうふうに全てを仕向ける。【限定的な虚数時間】を使って」
端的に言えば、神様の奇跡を演出してみせよう、と、シャーリーは少しだけニヤっとする。
「キャストの日時はいつにする? あいつが壊した建造物、まだ直してないんだろ?」
「調整中――王都の住民にインパクトを与えるため、できるだけ一夜のうちにすませてしまうことが望ましい。けれど、まだ私めの魔力が完璧にはもとに戻っていない。恐縮ですが、できるだけ早いうちに、としか」
シャーリーは素直に謝るが、少なくともこれで物理的な被害は最小限に留められそうである。
となれば、残るべきは――、
「物理的な被害は、マジで奇跡的にどうにかなりそうだが、国民の負傷は? ロイの暴走による死者は出ていないが怪我人はいるし、なによりも、あいつに対する精神的なマイナス、恐怖なり嫌悪なりの感情をどうやって拭う?」
「回答――イヴ様に手伝ってもらう。国王陛下や他の七星団の団員に知る由はないが、彼女様に手伝ってもらえばよゆーのはず。まぁ、それもあって、陛下には伝言の際に、明確にやろうとしていることを言葉にできない、という失礼なことをしてしまったが……」
シャーリーがロバートにアルバートへの伝言を頼んだ時点で、彼女はイヴの正体をすでに把握していたわけで、だからこそ、あのような伝言をアルバートに、つまり国王陛下に届けることができた。
無論、事情が事情なので、シャーリーの言うとおり、全てを説明することは不可能だったが。
「結果を出せば文句なんて誰も言わねぇよ」
「感謝――慰めてくれてありがとう」
すると、ここで喉が渇いたのか、ようやくレナードがコーヒーを飲んだ。
そして話し合いは最終段階へ。
「最後の用件だ。俺の報酬はどうなる?」
「説明――もちろん、私めとしても最大限の用意をする予定。が、これはいわゆる裏ミッションであり、正規の任務には該当しません。けれど、むしろ貴方様にとっては――」
「あぁ、都合がいい。金もいらねぇ、女もいらねぇ。ほしいことにはほしいが、それは今じゃないし、なにより、自分の実力でどうにかしないといけない問題だ。だから俺は――」
瞬間、少女は水を止める。
そして少年は自分の願いに、一歩、踏み出す。
「――俺の故郷を滅ぼしたヤツの情報が、まずはほしい」
それこそが、レナードが目指す未来、それが本物であることの証明の本当の始まりだった。
ロイが、自分の往く道が最強に至ることを証明しようとしているように、レナードもまた、自分の目指す未来が本物であることを証明しようとしている。
「理解――貴方様は移民でしたね。と、いうことは妹様も――」
「…………、…………、厳密には、妹じゃねぇ。血が繋がってねぇし、つーか、出会った瞬間が家族になった瞬間だった。心を開いてくれるまで、時間はかかったが……。幸い、アスカロンに選ばれたことで今のような暮らしができているが、まぁ、昔はお察しだ」
「――――」
「宿敵がいなくなった世界で、平和になった未来で、俺はレアを故郷に連れて行く。そして実家はもちろん、墓や、そもそも遺骨さえねぇが、それでも、せめて、墓参りはさせてやりてぇんだよ」
「――――」
「俺の両親は俺のことをクソガキだと思っていたはずだから、あぁ、別に、いいんだ。でもレアの両親は違う。あいつは話を聞く分には親に愛されて育ってきたはずだし、俺だって――こんな不良な自分だけど、精一杯、こいつの兄貴をやらせてもらった。そしてこれからも、どうかやらせてほしい――そういうことを伝える義務がある」
「――――」
「ダメか?」
「承諾――ダメなわけがない。では、私めは特務十二星座部隊の権限を活かし、新兵には入手困難な情報を貴方様に」
「俺はその見返りとして、シャーリーさん、あんたの影として働く。ギブ・アンド・テイクってことでいいな?」
「当然――共同戦線ですね」
「実力に開きがありすぎるがな」
全ての話がまとまると、シャーリーは椅子から立ち上がった。
察するに、そろそろお暇《いとま》するのだろう。
が――、
「ん?」
「どうした?」
「意味不明――なんで貴方様はアリス・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー様を好きになった? いや、気持ちを否定しているわけではないのですが、境遇を考えると、貴方様の妹様の方が……、その……」
「あいつだってイヤだろ。生きていく都合でたまたま一緒に生活するようになった好きでもない男に、そんな感情を向けられたら。あいつだって苦労してきたんだから、まぁ、俺のような生意気な男じゃなくて、それこそロイのような男とでも結ばれたらいい。もし誰かと同棲するなら、そっちの方が苦労しねぇよ」
「え、えぇ……」
「ゼッッッタイッッッに、レアに直接伝えることはないが、俺はあいつが大切だよ。レアだって、好かれている自覚はねぇが、嫌われていることもねぇだろう。仮にも家族だからな。が、いくら義理の兄妹だから特に制約もなく結ばれることが可能だからって、あいつ、俺に滅茶苦茶、口が悪いからな。100%、今のやり取り聞かれたら、は? おにぃとあたしが? ないないない! むりむりむり! そしたら舌を噛んで死ぬよ? おにぃが! って、イヤな顔されるのが目に見えているからな」
「はっ! あばばばっば! る、っ、ルートライン様! 後ろ! 後ろ!」
「アァ? ………、…………、あ」
椅子に座りながら半身だけ振り返るレナード。
そこには顔を真っ赤にしたレアの姿があり――、
(やべぇ! 顔、真っ赤だ! ゼッテェにキモイとか超キモイとか死ぬほどキモイとか言われる!)
「~~~~ッッ、おにぃのバカ! 鈍感! 灯台下暗し! もう明日の朝、起こしてあげない! 明後日まで禁止! 反省しろ! 素直になれないんだから素直にさせろ!」
それだけをレナードに言うと、レアはどこかへ行ってしまう。
自宅の別の部屋という意味ではなく、外出という意味で。
「――――」
「――――」
「ハァ……、俺も大概、他人のことなんて言えねぇが、反抗期だな、あれは」
「否定! 否定! 否定! ゼ~~~~~~ッッッ、タイに違う!」
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