ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章9話 ロイ、熱を取り戻す。(2)



「テメェは俺に騎士としてではなく、男として勝利を飾り、そしてアリスと結ばれた。これに、間違いはあるか?」
「ない」

「で、今回、テメェはアリスをどのような理由であれ傷付けた。こっちこそ、間違いはあるか?」
「ない」

「だろうなァ……ッッ!」

 再度、ロイの頬を殴るレナード。
 壁に押し付けられている以上、ロイにはもう倒れることさえ許されず、一方、彼のことを愛している女の子たちは悲鳴さえ上げて、壁の向こう側に行けないゆえに、ロイの背中に集まった。

「1発目が俺の怒りの分だとしたら、今のはアリスを傷付けた分だ! ナァ!? ツァールトクヴェレの時と今回とじゃァ、意味が違うよなァ!? アリスを泣かせたんじゃねぇ! テメェが! 自分の手で! 傷付けたんだ! …………ッッ、愛していて! 結婚までしていて! 挙句、俺よりもカッコイイところ見せ付けて惚れさせた女を!」
「…………っっ」

「次の質問だ。今回の敵襲において、一番の被害者は誰だ!?」
「…………イヴか、先輩の瞳にはアリ――、ッッ」

 再三、レナードはロイのことを殴る。
 どのような理由であれ彼は負傷、それもかなりの重傷を負っているはずなのに、本気で手加減していなかった。

「アリスなわけがあるか……ッッ! テメェだよ、ロイッッ! アリスは傷付いてしまって、その犯人が不幸にもテメェだっただけで、ロイ以上に魂や尊厳を貶されたわけじゃねぇ! だから今のはテメェ自身に対するテメェの分だッッ!」

「なにを言って……っ」
「ツァールトクヴェレの時によォ、俺は可能か不可能かの問題でさえなく、そもそもテメェを生き返らせることを諦めていた、努力さえしなかった姫様の胸倉を、今のテメェみたいに掴んで言ったんだ……ッッ! 俺の首をねてもかまわねぇ。だが、俺の認めた男を貶める行いは、例え姫、いや、神であろうと許さねぇ――そんなふうになッッ!」

「――――ッッ」
「今のロイにもわかるように情報を追加してやる! 俺の認めた男を貶める行いは、その本人であっても許さねぇ! いいや……ッ、本人だからこそ、一番に許すわけにはいかねぇ!!! この俺が生涯のライバルと定めた男が、なにこんなくだらねぇところで、その男としての格を落としてんだァ!?」

 反論できないロイ。
 厳密には反論ができるか否かで言えばできるのだ。だが、それは負け犬の遠吠えを意味する。ただただ潔くない言い訳を意味してしまう。ゆえに、できないのではなく、してはならない。本質に至ることこそが目的なのに、その手段である反論にこだわってはいけない。嗚呼、レナードの発言に間違いはなく、つまり本質を見抜いているのだから。

 だが、ロイが反論しなかったことにより、別のところから声が上がった。
 無論、結ばれているか否かは置いておいて、ロイのことを愛している5人から。

「レナード先輩! お願いだからロイくんを開放して! シィ……っ、こんなの見たくない……っっ」
「レナード先輩、本気ですか!? ヒーリングすればいいって問題じゃないんですよ!?」

「お兄ちゃん……っ、魔術を解除してよ! アスカロンが邪魔でも、もしかしたらスキルの対象そのものが消えれば……ッッ!」
「お願いします……ッッ、レナードさん! 弟くんを……、弟くんを……、っっ」

「ご主人様! ケジメも大切でございますが、また後日にしてくださいませ!」

 各々、必死に喉をらすように懇願する。
 ゆえに、レナードも特別に考えてあげることにした。

「どうする、ロイ? 壁越しに、お前の背中にいる愛すべきヒロインたちがあんなことを言っているぜ? この一瞬に限り、テメェに選択肢をくれてやる。続けるべきか、やめてほしいか」

 笑わせないでほしかった。
 続けるべきか、やめてほしいか。その言い回しこそがロイを試している証拠だ。前者が必要性、必然性を象徴するのに対し、後者はそれらがあっても自分の思いを優先することを象徴している。だからこそ『べき』と『ほしい』だというのに。。

 普段のロイなら、両者は対等だ。人として当然の行いも、人として大切な、なにかに対してなにかを思うという行いも、無論、譲ることはできない。
 しかしこの瞬間に限って言えば、少なくともロイ本人は――これ以上、無様を晒したくない、と。最後に一回ぐらいカッコつけさせてほしい、と。そう思っていたのである。

 だから――、

「頼むよ――、みんな、静かにしてほしい」
「ロイくん……っ、そんな……」

「アリスはヒーリングすればいいって問題じゃない、って、言ってくれたけど、逆だよ。こんなの、あとでヒーリングさえすればすむ問題だ」
「……ロイ…………」

「――――ボクは今回、ボロ雑巾みたいにボロボロにされた。ゴミみたいにグシャグシャにされた。だからもう、本当はみんなに心配なんてかけたくない。それにみんなも、もうボクの傷付く姿は見たくないかもしれない――」
「当然だよっっ!」

「だけどせめて……っ、最後に一回はカッコつけたい……ッッ! 中身が伴わなくても、大見得を切らなくちゃいけない……ッッ! 望まない傷をこんなにたくさん受けたんだから、最後の最後に、自ら進んで傷を受けたいんだ……ッッ! その相手がレナード先輩だっていうのなら……ッッ! 相手にとって不足はない!!!」
「弟くん…………、っっ」

「…………っっ、女の子は戦うなとか、女の子は男の子の後ろで守られていろとか、この異世界ではもしかしたら馴染みのない考えかもしれないけど、そんな時代遅れなことを、ボクは言わない……ッッ! 知らず知らずのうちにやってしまっているとしても、善処だけはしていきたい……ッッ!」
「…………ご主人……様」

「~~~~ッッ、でもさぁ……ッッ! やっぱりカッコつけたいんだよ、好きな女の子たちの前では……ッッ!」

 もう、レナードはもちろん、シーリーンたちでさえ、これを止められないことを察する。
 前世を含めればだいぶ大人のはずなのに、こういう時、ロイはとことんガキだった。

 そしてそのようなロイに感化されたのか、レナードはまた激情に駆られるかもしれなくても、ひとまず、ようやく落ち着いた声音でロイにあることを訊く。

「やっぱりカッコつけたいんだよ、好きな女の子の前では――ねぇ。ってことは、理解しているようだな? 俺の怒りがどういう理屈かを。そして、なんで男としての格を落としたのかを」
「当然だ。それを理解できなくなるぐらい、ボクの瞳は曇っていない」

「――今回、テメェは――――」
「――ボクは徹頭徹尾――――」



「「――――致命的にダサかった――」」



「ボクは全てに迷惑をかけた。人々に怖い思いをさせた。物理的に街を壊した。……っ、それのどこが誇らしい? 胸を張り、他人に自慢できる? 敵に理性剥奪を受けて、こんなことをしまくり、それでボクはダサくありません、なんて……、……、……、プライドとか、周りからの評価とか、そんなモノよりもっと根源的な、ありきたりな言葉かもしれないけど、無知な子供みたいな無邪気さかもしれないけど、ボクの正義の心が許さない」
「それで? どうやってツケを払う? 汚名を返上して、名誉を挽回する? 正直、俺はもっと、テメェがウジウジウジウジしていると思っていたが……、ハッ、妹にでも救われたか?」

「ああ、そうだ。でも、今、先輩に言った言葉は、すでにイヴに救われた夜に出していた答えだ。――悪いことをしてしまったけど、みんなに愛されたい。――清算するけど、ボクと結ばれたままでいてほしい。でも逆を言えば――、ボクは全員と結ばれたまま、悪業を清算しなければならない。イヴに救われる前には、ボクは罪を犯したから幸せになっちゃいけないって考えていた。次いで、救われたあとには、嗚呼、今言ったとおりだ。なら、レナード先輩に殴られた今、ボクが決意するべきことはただ1つ――、悪いことをしてしまったけど、みんなに愛されたいという願望ではなく、みんなと結ばれたまま、地を這い、泥をすすり、砂埃を味わうハメになっても……っっ、『あいつ』をぶっ飛ばす気概きがいを貫くことだ……ッッ!」

 すでに氷は溶けている。
 ゆえに、マイナスからゼロではなく、ゼロからプラスを体現するように、ロイの瞳は火が点いたように煌々とし始める。

「――――そいつの、名前は?」
「魔王軍最上層部、純血遵守派閥、黒天蓋こくてんがいの序列第6位、ゲハイムニス」

 瞬間、ロイが無力感を誤魔化すように奥歯を軋ませ、翻り、第1特務執行隠密分隊の4人は表情を曇らせた。
 ロイはゲハイムニスが4人を、死神の出現座標の直近に誘導したことを、4人はゲハイムニスがロイに闇を移植したことを、情報の共有ということで、互いに伝え終えている。

 思い返すだけでもはらわたが煮え返る。それはもう、今すぐにでも斬り伏せたいと思うほどに。だが無論、今のロイにそのような実力はない。
 だから――、

「余計なお世話かもしれねぇが、とりあえず3発、勝手ながら気合は入れさせてもらった。足りたか? もっといるか?」
「いや、充分だ」

「イヴたちがロイをマイナスからゼロに引っ張ったから、俺はロイをゼロからプラスに殴り飛ばすことにした。イヴたちがロイを氷結の中から救い出したから、俺はロイに男としての熱をよみがえらせてやることにした。――――そんじゃ、誓え。誓いの内容は、言うまでもねぇよなァ?」
「ッッ、当然だ。ボクはなにがなんでも、ゲハイムニスを斬り伏せる。地の果てだろうが海の底だろうが、ボクの聖剣があいつを斬るまで、ボクの往く道が最強に至ることはありえない…………ッッ!」

「上等だ。なら、それはなにに対する誓いだ? 神か? 自分の魂か? それとも愛する女たちか?」

 レナードがその質問を口にした次の瞬間、ようやく、ロイは自分の胸倉を掴み、身体、背中を魔術防壁に押し付ける彼の右手の手首を掴んだ。

 放せ、と、言わんばかりに、ロイはレナードを攻撃的に睨み付ける。
 一方、レナードはロイのその視線を挑発的で試すような笑みで歓迎してやる。

「確かにボクはあの夜、ゴミクズみたいな醜態を晒した……ッ! レナード先輩に見下されるのも納得だ……ッ! だけどッッ、それ以上は許さないッッ! 神様は確かに存在する。けど! 誰もがその存在を共有できるわけじゃない! ボクの魂に至っては、存在するけど誰の目にも見えないモノだ! シィと、アリスと、イヴと、姉さん、そしてティナちゃんとクリスに誓っても、他の国民に対する償いにはならない! 改めて覚悟を決める以上、ボクは今までの覚悟を超える覚悟しかしたくない……ッッ!」
「…………ッッ」

 レナードは震える。
 無論、それはビビりではなく、それでこそロイだ、という歓喜の震えだった。

「ゲハイムニスは言っていた。――ついでで救えるような世界なら、誰も苦労なんてしないというのに、って。――愛は世界を救うとよく言うが、俺はその言葉に感銘を受けた身なのだ、って。――お前には、強くなってもらわないと困るんだよ。お前にはお前の想いがあるように、俺には俺の悲願、成就すべき愛があるのだから、って」

「――――」
「真実か否かはともかく、可能性の話として、もしかしたら、あいつも救世や、それに近いなにかを渇望しているのかもしれない。限りなく低い可能性、常識的に考えてありえない前提だ。――だけど! あんなヤツにッッ、こんな人の営みを蹂躙するようなやり方でッッ、そうして世界が救われるぐらいなら……ッッ、…………ッッ、あいつよりも先に、ボクが世界を救う……ッッ!」

「ハッ、なるほど、大言壮語じゃねぇか。だが、そうであればあるほど、努力して、足掻いて、有言実行した時、ゼッテェ、清々しいよなァ」
「今の世界があるのは過去があったからだ。だからボクは過去の世界の全てに誓う。ボクが過ちを犯したのは現在だ。だからボクは現在の世界の全てにも誓う。最後に、ボクが救うべき対象は未来の世界だ。だからボクは未来の世界の全てにさえ誓ってみせる。――、――ッッ、文句は?」

「ねぇに決まっている」

 瞬間、レナードは少しだけ右手、右腕のチカラを緩めることにした。
 次いで、それを感じたロイは、レナードの右の手首を掴んでいた右手で、そのまま束縛をバッ、と、振り払う。

 確かにレナードはロイの身体を魔術防壁に押し付けていたが、逆を言えば、それがあったからこそ、ロイは自力ではなくても立てていた。で、それが解消された今、ロイは足から崩れるか? 腰を床に着けるのか? 否、ロイはレナードの支えがなくても立ち続ける。

「…………、ツケなんて、100億倍にして返してやる……ッッ! 汚名なんて、あいつが拒んでも押し付けて……ッッ! 名誉なんて、王国の歴史じゃなく、全宇宙の歴史アカシックレコードに一番大きく名前が載るぐらいのモノを、いずれボクは誇ってやる……ッッ! それが――――」

 一拍だけ、ロイは息を吸って、そして吐いた。
 内心で、このエクスカリバーの使い手に、二言はない、と、呟いて。

 もう、このロイにはヒーリングが必要ないのではないか? そんなこと、どこからどう考えてもあるわけない。
 だというのに、ロイの背中に集まり、そしてそれを見ていた女の子たちには、そう思えてしまうほど、彼の体力とも魔力とも違う、それらと次元さえ隔絶したなにかが回復したように見えたのだ。

 そしてレナードでさえ感嘆するのだった。
 事件終了直後のロイはもちろん、事件が始まる前のロイでさえ、目の前に立っているロイの気迫には瞬殺されるだろう、と。



「――――誰にも文句を言わせない、ボクの贖罪きゅうせいだ……ッッ!」



 聞くと、レナードは【聖なる光の障壁】に付与していたアスカロンのスキルを解除した。
 もともと、ロイの魔力はやり取りをしているうちに全て消費してしまっており、なのにアスカロンのスキルで存在の継続、現象の維持を許されていたのだろう。

 必然、イヴが破壊、透過、無効化のどれをするでもなく、【聖なる光の障壁】は砕け散る。
 そして即行で、イヴはロイに【神聖純白完全再生】をキャストしてあげた。

 もちろん、イヴ以外に、シーリーン、アリス、マリア、クリスティーナも、ロイの身を案じて彼のもとに駆け寄ってくる。

「アリス、イヴ、――、いや、シーリーンとロイの姉貴、そしてクリスティーナも、俺がロイにしたように、思う存分、俺を殴ってくれてかまわねぇ。やりたかったことを好き勝手にやらせてもらった。だから当然、対価は払う。そこに関して言えば、俺もロイと同じ考えだ」

 言うと、レナードは潔く完璧に無防備な構えをするも、しかし、誰も彼のことを殴ろうとも、魔術を使って攻撃しようともしない。
 むしろ、ありえないぐらい釈然としなくて、こんな感覚が世界に存在するのか、と、そのようなレベルで納得がいかない、そんな敗北感を覚えてしまう。

 即ち、最終的にロイをここまで燃え上がらせたのが彼なのか……、と。
 ひとまず、女の子たち5人は今後どうするかはさておき、今はロイを熱くさせるのではなく癒すことに専念することを決めた。

「さて、パンチも飛んでこねぇようだし、邪魔したな。俺が言うようなことじゃねぇが、サッサっと身体を治せ。俺がテメェに勝つ前に剣を握れない身体になったらぶっ殺す」

 それだけを言い残すと、レナードはきびすを返し、ロイの部屋から出ようとした。
 が、その直前に、ロイは1つだけ、彼に一応、訊いておいた方がいいことがあったのを思い出す。

「ちなみに、先輩は今回、なにをしていたんですか? あまり戦闘をしたり、消火活動をしたり、国民の避難の誘導をしたり、七星団の団員としての活動記録が残ってないって聞いたんですけど……」
「――誰からも『観測』されなくて当然だ。時の魔女のお使いをしていたからな」


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