ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章8話 ロイ、熱を取り戻す。(1)



 2日後――、
 いや、日付が変わったあとにイヴによるロイの救済が行われたことを考えれば、厳密には翌日のことだった。星下せいか王礼宮おうれいきゅうじょうにて、1人の青年が軍靴ぐんかをカツ、カツ、と、静謐せいひつで広々とした廊下に響かせていた。

 ギラついている灰色の双眸。
 同じく灰色の、男性にしては比較的長い髪。

 威圧的で近寄りがたいことには間違いないが美形でもあり、男装の麗人のような男子、という表現が、彼を指す言葉として一番適切のはずである。

 七星団の制服をまとい、彼は程度はどうあれ落ちぶれた己のライバルのもとへ歩みを進める。

 発散できない苛立ちを胸に。
 相手にぶつけるまで、解消する気さえない憤りをこぶしに。

 言いたいことはいろいろあり、そしてどれを一番初めに言うか決めていないが、問題はない。あいつの目の前に立ってしまえば、考えて出した言葉よりも、より自分の本心に近く、その上で自分があいつに最も言うべき言葉が出てくるはずだから。それは端的に言えば一石二鳥だった。

 数分後、彼は目的地の部屋、その扉の前に辿り着く。

 ここは純血ではないとはいえ王族の部屋だ。
 だが、それ以前に自分のライバルの部屋でもある。

 そして今、そいつが引きこもっているのだ。
 なら、礼節は不要――、かつては純粋なモノではないとはいえ、ある種の敬意を払い聖剣と聖剣を重ねた相手であったが、今のあいつにそのような男としての価値はなかった。

 ゆえに、レナード・ハイインテンス・ルートラインは扉を蹴破るように開けて、ロイの部屋に踏み入った。

「レナード先輩!?」

 と、驚いたのはロイではなく、彼の部屋にいたアリスだった。
 他にもシーリーン、イヴ、マリア、クリスティーナがいて、そして肝心のロイはというと、意識があり、上半身は起こしているものの、ベッドの上で安静にしていた。

 主にイヴとクリスティーナが、前者が光属性の魔術を用いたヒーリングという方法で、後者が身体を拭いたり、食事や果物の用意をしたりという方法で、両者、ロイを看護しているようである。またベッドの横に椅子を置き、ロイの手を握ってヒーリングしていたイヴだったが、シーリーン、アリス、マリア、クリスティーナの順番で、4人は彼女の隣に、やはり座っていた。できることが少なくても、せめて、ロイの近くにはいたい、と、言わんばかりに。
 しかし、ロイは部屋に入ってきたレナードの姿を視界に収めると、もはや競い合うように、未だにボロボロの身体に鞭を打って、ベッドから這い出る。

「お兄ちゃん!? まだヒーリングが!?」
「ゴメン――、イヴ、ヒーリングよりも大事なことがあるんだ」

 言うと、白色の病衣をまとっていたロイは、懸命に、もがくようにレナードの方へ歩み寄る。無論、彼は今、万全の状態ではない。局所的な時間遡行による回復はもちろん、神様の女の子に遣いを頼まれたという意味では天使であるイヴ、彼女のヒーリングでさえ、ゲハイムニスに移植された闇のせいで十全の効果を発揮できていない。実は戦闘終了後、ロイが病院に運ばれた際、魔術よりも物理的な手術の方が役に立ったぐらいである。

「よォ、引きこもり。ボクは悪くないのにみんなに責められて、いじけて不貞寝ふてねしていた気分はどうだ? よく眠れたか? 夢は見れたか?」
「御託はいい、殴れよ」

「じゃあ――歯ァ食いしばれッッ!」
「ちょ……っ、せんぱ――」

 瞬間、アリスが止める間もなく、肉を打つ痛ましい音が部屋に響いた。
 今のロイの身体、脚に踏ん張るだけのパワーはなく、倒れ、そして唇を切って血を流した。

「ロイくん!?」「ロイッッ!」
「お兄ちゃんッッ!」「弟くん……っ!?」
「ご、ごご、っ、ご主人様っっ!?」

 慌てて、焦燥感に駆られて、5人が全員、椅子から腰を上げた。
 そして真っ先にレナードを咎めたのはアリスだった。

「~~~~っっ、先輩ッッ! 相手は負傷者ですよ!? それに……っ、引きこもりじゃなくて、正式な七星団からの自宅待機で――」
「アァ!? それがこいつを殴っちゃいけねぇ理由になるわけねぇだろ! 善と悪のどちらにしたって、どう言葉を取り繕ってもこいつがベッドの上にいたことだけは事実だ! ならッッ、アリスがそれを自宅待機って言うように、俺だってそれを引きこもりって言ってなにが悪いッッ!?」

 威圧するようにレナードは怒鳴る。
 まさに鬼気迫る怒声だった。
 だが、だからといってそれを見逃してやれるほど、4人の愛情は薄くない。

「この……っ」

 ベッドを迂回するなんて面倒だ。そう言わんばかりにイヴがベッドさえ汚して扉の近くにいた2人の方へ行こうとする。
 しかし、それを拒む少年がいた。

「――――【聖なる光の障壁】――」
「お兄ちゃん……っ、わたしにそんな魔術が――」

「――先輩」
「――アァ、いいぜ」

 それだけで全てを察したレナードは己が聖剣、アスカロンを顕現して、その切っ先で少しだけロイが展開した【聖なる光の障壁】を引っ掻いた。
 結果、あのイヴでさえ破壊も、【光化瞬動】による透過率の高い物質の通り抜けも、そして魔術の無効化もできなくなってしまう。
 イヴは壁の向こう側に行けなくなると、ありったけのチカラで魔術防壁に拳を叩き付けた。

「アスカロンのスキルを使わせてもらったぜ。現象が現象自体に宿す起こすべき結果の優先順位、物質が物質自体に宿す最もオーソドックスな性質の発生順位、それを弄らせてもらった。もうこの【聖なる光の障壁】には、破壊も透過も無効化も通用しねぇ」

「なんで今のでそれが伝わるんだよ!」
「ロイのことは殴るが謝罪もしておく。すまねぇな、ロイの妹、テメェがロイのことを守りたいのは知っている。が、それと同じように、俺もロイを殴らなければならねぇ衝動に駆られてんだ。理解してやる。だから俺も衝動も理解しろ」

「できるわけないじゃんッッ、だよ!」
「話には聞いているぜ。覚醒したロイの妹と俺とじゃ、戦闘開始5分か10分で、俺は消し炭にされるだろう。けどなァ、俺だって、理由もなく、そしてそれ以上に覚悟さえなく、テメェらの前で、アリスの前で、そして今回ばかりはアリス以上に、イヴ、テメェの前でテメェの兄貴のことを殴っているわけじゃねぇ」

 すると、レナードはイヴから視線を外し、すでに【聖なる光の障壁】に手を付きながらだが、立ち上がっていたロイに視線を向けた。
 ちょうどいいところに、魔術でできているとはいえ壁があるじゃねぇか。いや、絶対に壊れない以上、むしろこっちの方が望ましいなァ――、と、内心、レナードは好戦的で挑発的に吐き捨ててみせた。

 次いで、レナードはロイの胸倉を掴み、彼の背中を魔術防壁に叩き付ける。
 さらにその体勢のまま、レナードはロイに、いや、彼の魂にさえ問いかけようとした。


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コメント

  • HARO

    頑張って下さい
    お身体気おつけて

    0
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