ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章7話 イヴ、答えを、君に――(2)
――慟哭――――。
獣ではなく、今度こそ人間が狂い哭く。
心が蹂躙されていた。
精神が殺戮されていた。
感情が死滅して、そのあとに無理矢理、グールとして生かされているような感覚だった。
廃人の一歩手前である。
他人に意識を剥奪されて、国の首都で破壊活動を行い、意識を取り戻したのと同時に、その負債が、人間の一生を最低でも10回は費やさないと賄えないかもしれない賠償が、たった1人の少年に圧し掛かってしまう。
発狂してしまわないだけ、ロイという少年は強かった。
そしてそれほどまでに強かったとしても、慟哭は免れなかった。
花と風と光で溢れる天国を焦土に変えられたら、こういう気持ちになってしまうのかもしれない。
畢竟、ロイが『ボクは……ァッッ、っ!』のあとに続けたかった言葉はシンプルだった。そしてシンプルだったからこそ、その意味が強烈だった。
即ち、離婚する、と。
破局を迎える、と。
なるほど、確かにロイの考えは非常に彼らしいモノだ。
が、同年代の学生と比較して聡明なロイが考えた結論としては、非常に馬鹿馬鹿しい。
一考どころか一聴の価値もない。
ゴミに劣る結論だった。
自明だろう。
当然ではないか。
では、それでイヴを始めとするみんなが、うん、そうなんだね――、わかった、バイバイ――、と、そのように納得すると、本気でそう思っているのなら、ロイはみんなの自分に対する大好き! って気持ちを小さく認識してしまっていることになる。
我慢できるか?
いや、我慢できるはずがない。
ゆえに、イヴは強引にロイの身体を突き放すと――、
「ふざけないでよ!!!」
「…………っっ」
――と、彼の頬を本気で叩いた。
尻餅を付いてしまうロイ。
次いで、彼が立ち上がるより早く、イヴはしゃがんで、もう一度、彼の胸倉を掴んだ。
「言ったはずだよ、お兄ちゃん……ッッ!? お兄ちゃんに拒否権はないって!!! わたしは……、っ、わたしはァ……、ッッ、そんなお返事を聞くために、ここまでお兄ちゃんを追いかけてきたわけじゃない! 例えお兄ちゃんだったとしても、なんの権利があって他人の想いを、それは間違っているよ、って、そう断言することができるの!? お兄ちゃんに大なり小なり罰が下ることなんて、わたしもッッ! 他のみんなもッッ! わかっている!!! その上で、それでもわたしたちの想いは変わらないッッ!!! いい!? よく聞いてよ!? 想いが『報われないかもしれないこと』と『間違っていること』は一緒じゃないんだよッッ!!!!!」
「でも……ッ、ボクは罪――、~~~~ッッ!?」
「――――んっ、――ぷ、はぁ。――――これもよく聞いてお兄ちゃんッッ! この世界には罪人しかいないんだよ!!! わたしであってもッッ、お兄ちゃんであってもッッ、生まれてから死ぬまでに!!! 自覚の有無はともかく!!! 絶対に人は罪を重ねるんだよ!!!!! でも同時に、この世界には善人しかいないんだよ!!! どんな罪人だとしても!!! 人生で一回は!!! 必ず!!! 世界のために、他人のために、いいことをするはずなんだよ!!!! ――お兄ちゃんは頭がいいからわかるよね? 悪いことをしたら怒られちゃう、いいことをしたら褒められる。でも!!! 怒られている最中に褒められてもいいんだよ!!! それともなに? この世界の全ての人が罪人である以上!!! そしてお兄ちゃんが、どんなに、何回もいいことをしても、1回でも罪を働いた人は幸せになっちゃいけない、って、考えている以上!!! 誰も幸せになれない世界が完成するけど、ッッッ、お兄ちゃんが救いたかった世界って、そんなくだらないモノなの!?」
「…………ッッ、そんなわけない! ボクはなるべく多くの人たちを幸せにできるように戦ってきた! じゃあ、今回! ボクが裁かれるにあたり、特に4人の女の子が幸せになれ――、~~~~ッッ!?」
「――――っ、ん、――んっ、ふ、はぁ。――――お兄ちゃんが間違ったことを言うたびに、わたしは自分の唇で、何度でもお兄ちゃんを黙らせるよ!!!!! で? なに? 幸せになれない? わたしたちが? 自分のことじゃなくて恋人たちのことを考えています? それともお兄ちゃんの場合、相手のことを思い遣ってあげることが自分のため? もう一度言うよ? ふざけないでよ!!!!! お兄ちゃんは、シーリーンさんと、アリスさんと、ヴィキーさんと、自分はそれなりに善行を積み重ねてきたから、みんなを幸せにする資格があるとか、その資格は罪と罰によって剥奪されるとか、そんなくだらないことを考えて過ごしてきたの!? 資格がなきゃ誰かを幸せにしちゃいけないの!? 逆に、資格がない人と結ばれても幸せになれないの!?」
「そんなことは……っ、だけど……ッッ、――、~~~~ッッ!?」
「――――んんっ、む、ん、っ、――はぁ。言い訳なんて求めていない!!! 好きだから幸せにしたい。好きだから、幸せになれたら最高だけど、そんな見返りを最優先にして好きになったわけじゃない。人を好きになるって、そういうことなんだよ!!!!! 幸せなんて副産物なんだよ!!!!! そもそも、好きな人と結ばれること自体が幸せなんだよ!!!!! お兄ちゃんはわたしたちのことが好きなんだよね? 今さらそれをウソなんて言わせない……ッッ! だから誓ってよ!!! 今!!! ここで!!! ボクはみんなが好きだから、裁かれることになっても、ずっとずっと、みんなと一緒にいたい、って!!!!! それに対して、少なくともわたしは、うん、わかったよ!!! ずっとずっと一緒だよ!!! って、絶対にそう応えるから!!!!!!」
――――号泣。
イヴはすごくすごく悲しそうに、尻餅を付いたままのロイの胸倉を掴みながら、湧き上がり続ける泉のように涙を流す。
零れて、溢れて、そしてとても儚く、痛々しく。
あどけなくて天使のように可愛い美少女の顔が、悲痛に歪む。
それを至近距離で瞳に映し、もう、ロイはなにも言葉を出せなくなってしまった。
と、その時――、
「それは間違っているわよ、イヴちゃん」
「うんっ、ロイくんにそんな嬉しいことを誓ってもらったら、シィも、アリスも、そして絶対にヴィキーちゃんだって、イヴちゃんと同じ言葉で、同じ想いを込めて、その誓いに応えるよ。だって、シィたちもロイくんのことが大好きだから♡」
「加害者が被害者に減刑を望むのは、まぁ、理解できなくはないですが、人として高潔な行動ではありませんよね? でも、被害者の方から加害者に、気にしていないよ、って。またもとの関係を続けよう、って。そう願いを口にするのなら、それに応えることが、罰でもなく、償いでもなく、誠意なんてみんなが呼ぶモノだと、お姉ちゃんは思いますね」
「~~~~ッッ、わっ、わ、っ、た、しも……、っ、先……輩……と、は、~~~~ッッ、友達でいたいっ! …………、です……」
当然のようにかなり時間が経っていたので、すでに4人は地上に降りてきていた。
そして、まずはシーリーンが――、
「――――『今度、ボクがジェレミアに会ったら、シィの代わりに一発殴っておくよ』『待っていてほしい。そして見ていてほしい。ボクは、約束を守る男だ』――」
「…………っっ」
「――――そして『ボクも、シィが好きだ。ずっと、ずっと、キミを守りたい』――。えへへ……、シィ、勉強が苦手で、アリスと比べたら物覚えすごく悪いけど、でもね? 忘れないよ――、この言葉――、この約束――、例えおばあちゃんになっても――。そして、きっと、記憶が失われて、生まれてくる姿も国も変わってしまう、来世でも――」
「――――シィ――」
「約束を守ってくれるシィの王子様は、まだ約束が残っていること、忘れていないよね?」
と、シーリーンはイタズラっぽく微笑んだ。
次いで、今度はアリスが――、
「ロイ、檻は壊すことができるのよ? 抗えない価値観とか、固定観念とか、そういうモノだって、自分では無理だとしても、自分のことを大切に想ってくれる人が壊してくれることもあるのよ? まぁ、現実の牢獄を壊したらダメだけどね」
「――アリス――――」
「私の政略結婚という檻をあなたが壊して、そして私とあなたは結ばれた。なら、あなたの妄執という檻も、イヴちゃんが壊してくれて、だったら、あなたとイヴちゃんのハッピーエンドを妨げるようなモノは、もう、なにもないんじゃないかしら?」
と、アリスは優しくはにかんでくれる。
続いて、マリアが――、
「弟くん――、わたしに、チャンスをください――」
「――チャンス?」
「弟くんは神様に選ばれた救世主。そして、イヴちゃんも、普通に生き物の分類として人間ではありますが、神様に会って、遣いを頼まれた、という意味では、本当に天使と表現することも可能ですよね?」
「う、うん――」
「劣等感なんて、覚えて当然ですよね……? 無力感なんて、今夜だけで一生分、味わいました……。でも……、でも――っ、弟くんがそうなってしまったら、この自分を罵りたくなるような劣等感にも! 自分を殴りたくなるような無力感にも! リベンジする機会が訪れないと思う……っ! わたしは弟くんが大好きですけど、結婚しているとか、告白をすませているとか、そういう関係ではありません。けれど! いつかわたしに、イヴちゃんとまとめて弟くんを守れるチャンスをください! ただの人間が……っ、救世主や天使を守るなんて……っ、荒唐無稽なことぐらいわかっています……っ! でも、でもッッ、イヴちゃんたちとまとめて、わたしにも、ボクはみんなが好きだから、裁かれることになっても、ずっとずっと、みんなと一緒にいたい、って誓ってください! わたしは、弟くんが、わたしを含めたみんなと一緒にいるために、守るためのチカラを、絶対に、絶対にぃ……っ、グス……っ、スン……っ、手に入れて、みせます……、からぁ……ッッ!」
と、マリアは涙を流しているのに、懸命に、強がって、お姉ちゃんとしてのプライドで笑顔の形だけは維持し続ける。
そして、その3人の想いをまとめたのは、嗚呼、やはりイヴだった。
ロイの制服の胸倉を放し、例のごとく、彼のことを抱擁する。
「――――お兄ちゃん、罪人であることは、誰かに愛されない理由にはならないんだよ?」
落ち着いたのか、優しい声音でイヴは言う。
「――――人は罪を重ねちゃう弱い生き物なんだよ。もちろん、それを免罪符にして、だったらもう、なにをしたっていいじゃん、って、暴走することはダメだよ? でもね? わたしたちは、ありきたりな言葉だけど、それでも前を向いて歩いていけるんだよ」
ロイの頭を、髪を撫でながら、慈しむようにイヴは語る。
「お兄ちゃん、答えを、聞かせて?」
すると、ロイの唇が勝手に動く。
場違いな代物だとしても、その時、ロイは、嗚呼、考える前に身体が動くとか、繰り返した動きは戦闘で考えるよりも早く敵を倒すとか、そういうレベルではなく――、これが――、これこそが――、想いが溢れるということなのか、と、そう、初めての感覚に、揺蕩うように感想を抱いていた。
唇が動いたのだ。
もう、声を出すなんて簡単だ。
「――――ボクは――、ボクは――、みんなと、一緒にいたい――」
「うんっ、シィもだよ」
「――――みんなと、別れたくない――、離婚なんてしたくない――」
「当然ね、お父様だって、認めてくれないわ」
「――――悪いことをしてしまったけど、みんなに愛されたい――」
「ええ、愛してあげますからね」
「――――幸せにできるかどうかなんて関係ない。それでもみんなを好きでいたい――」
「は、っ、はい!」
「そして……ッッ、そしてぇ……ッッ、ボクはァ……ッッ、イヴと結婚したい……ッッ! 聖理との、初恋を、どうしても……ッッ、どうしても叶えたいんだ……ッッ!」
「~~~~ッッ、お兄ちゃん!」
抱擁にチカラを入れ直すイヴ。
また、ロイの方もイヴのことを抱きしめ返した。
「――――っ、イヴ……っ、聖理ぃ……、ボクが間違っていた……ッッ! ボクが情けなかった……ッッ! ゴメン……、ゴメン……っ、だけど愛している! 大好きだ、大好きだ。前言を撤回する! イヴと結婚する! いいや、むしろボクの方こそイヴと結婚したい!」
「お兄ちゃん……っ、お兄ちゃん……っっ、会いたかった! 結ばれたかった! ずっとずっと、お兄ちゃんにこうして抱きしめられたかったよ~~~~~~っっ!」
2人で交わした愛おしい抱擁。
きっと忘れない。
この温もりを。
永遠に忘れない。
この刹那を。
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コメント
ノベルバユーザー185904
うーん、(・∀・)イイネ!!
HARO
頑張って下さい