ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章6話 イヴ、答えを、君に――(1)
「――――っっ、聖理……っ、聖理ぃ……、イヴ……、っ、っ、イヴ……っっ」
「お兄ちゃん……っ、お兄ちゃん……、っ、これからはっ、……、ずっと……っ、ずっと一緒だよ? もう、お兄ちゃんをどこにも行かせないよ……?」
ロイとイヴは互いに互いの体温を、存在を確かめ合うように抱き合い続ける。
イヴの身体はこんなにも小さくて、やわらかくて、強く抱きしめたら壊れてしまいそうなぐらい儚いのか、と。
なのにこんなに無理をさせてしまったのか、と。
お兄ちゃんの身体はこんなにも大きくて、少し筋肉っぽくって、仮に離れようとしても放してくれないぐらい逞しいのか、と。
なのにこんなにボロボロになるまで、わたしはお兄ちゃんを救えなかったのか、と。
瞬間――、
――イヴの気が緩んだ。
――張り詰めていた緊張の糸が解けた。
ゆえに、もう、魔術の維持、具体的に言えば【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】の展開の継続は不可能だった。
が、別にそれは不幸でもなければ不利益でもない。
戦いは終わった。ロイも救えた。
だから結界はもういらない。
嗚呼、『それ』は、とても愛おしく、とても素晴らしい光景だった。
嗚呼、【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】が光で構築された多重球体型の結界である以上、それが砕けたらどうなるのか?
自然なことだった。
神秘的な、ルミナスの春風が流れてくる。
幻想的な、オーロラの天気雨が降ってくる。
感動的な、プリズムの氷が砕けて、そして煌めく。
ドラマチックで、プラトニックで、ロマンチックな、完全無欠の2人の世界。
上も、右も、左も、前も、後ろも問わず、2人を中心として砕け散った【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】は、その瞬く光の欠片を宙に舞わせ、そして綺麗に溶かしていく。
映画のワンシーンなんて敵じゃない。
少女マンガだって敵わない。
常世全ての夢幻、遍く奇跡がここに集まっている。
そんな途方もないことを言われても、これを瞳に映してしまえば、きっと誰だって信じてしまうだろう。
それが事実だからじゃない。
事実であろうとなかろうと、これが本物の奇跡であることを信じたいから。
少なくとも、シーリーンとアリス、マリアとティナは、そう思った。
(――けど――――)
ロイは謝罪より先にイヴの告白に返事をした。
理由としては、彼自身が言ったとおり、頭が混乱していて考えがまとまらなかったから。そして追加で、謝罪すべき人たちは他にもいる、と、いうより、王都の住民の全員だから。ここで謝罪をしても、イヴと、そしてシーリーン、アリス、マリア、ティナにしか届かない。よって、それで王都の住民全員に謝罪したことにはならない。
また、ロイは(これは傲慢だね――)と、感じたが、そもそもイヴは彼に謝罪なんか求めていない。ロイがそのように推測しているとか、ドラマチックな展開だからイヴ本人がそういうことにしているとか、そういうわけではなく、世界の真実として、彼女は謝罪なんていらなかった。
だが、逆を言えば――、
――返事を先にしていいけど、あとから謝罪は当然のように迫られる、ということ。
子供でもわかる当然の因果関係である。
本意ではなかったとしても、いや、不本意どころかそもそも意識さえなかったとしても、街を壊し、王族なのに国民に恐怖を植え付け、大切な女の子たちを傷付けた上で、その女の子たち本人に、こうも感動的に救われた。
国には法律があって当然だ。
法律に基づきロイを責めるとしたら、言わずもがな、物理的な破壊も精神的な恐怖も全部ひっくるめて、端的に言うと反逆行為をしてしまった点を。
逆にロイを弁護するとしたら、これも言わずもがな、敵によって闇を植え付けられ、強制的に暴走させられた点を。
死罪にはならないだろう。
でも無罪ということもない。
ゆえに、謝罪は必然、人によっては今すぐ謝罪に走れ、と、考える人だって多いはずだ。
罪には罰を。
罰には審判を。
審判によって、咎人には牢獄と足枷を。
そして牢獄と足枷に囚われながら、己のしてしまった悪行に対価を支払う。
それこそが償いであり、贖いであり、より物理的、より現実的な表現を使うならば、禁錮刑や懲役刑に他ならない。
善人の中でも、特にロイは強迫観念を抱きながら生きてきた。
前世で特殊な環境を生きてきたから。
その上で、死後、さらに特殊な環境下で生きることになったから。
『人として大切なこと』
『人として当たり前なこと』
『人として高潔であること』
『人として知的であること』
『基本的に誰にでも当てはまる道徳』
『普遍的に誰であってもすべき善良な行い』
実害がなく、たまたま社会にとってプラスに働いていただけで、ロイはいつも、病的な妄執に苛まれていた。
次いで、質が悪いことに、社会にとってプラスに働いていたから誰も問題視せず、そもそもこの世界で精神医学は全然進んでおらず、なによりも、彼自身がそれを自覚した上で、その妄執こそが人としての善性の果てだと信じてやまなかった。他人に強制する気はサラサラないが、少なくとも、ロイにとってはそれこそがアイデンティティ、無謬の個我だった。
シーリーンとアリスの騒動を解決した結果、ロイは前向きに生きることを覚えた。
ヴィクトリアと結婚し死者蘇生された結果、ロイは直り始めた。
が、人として罰を求める気持ちは拭えない。
本音を漏らすなら、あのロイだって、本当は罰なんて受けたくない。国民からの視線、教会の人たちからの軽蔑、七星団の人たちからの失望。無論、全員が全員、そういうモノを向けるとは限らない。彼を取り巻く世界は、そこまで残酷にできていない。だが、やはり逆を言えば、全員が全員、その類のネガティブを向けないというわけでもない。
つらいことも、苦しいことも、悲しいことも、全て目に見えている。
だからロイであっても本当は罰を受けたくない。
なのに罰を求める気持ちだけはあるとはどういうことか?
誰もよく知っている言葉だろう。
聞けば拍子抜けする言葉だろう。
その正体は罪悪感だ。
よほどの狂人でない限り、いかなる犯罪者だとしても、捕まりたくないけど、裁かれたくないけど、けれど常に後ろめたさは憑きまとう。それはまるで幽霊のように。
ゆえにロイは――、
「ゴメン……っ、イヴ……、っ」
「――――――――えっ?」
――イヴに、追加でもう1つの謝罪をしなければならなかった。
イヴの表情が凍る。
なにを言っているの、お兄ちゃん……、と、言いたげに。
それでも、ロイは続けるしかなかった。
努力をして報われることが理想的であるならば、それは即ち、起因に対する結果が正常に発生することが理想的であることを意味しており、転じて、悪行をして裁かることも理想的であることを意味している。
思想なんて数式と同じだ。
基本となる公式の代数になにを代入したとしても、公式が覆ることはない。
代入した数によって基本となる公式が変わるなんて、あってはならないことだ。
「ボクは……、ボクは……っ、イヴが大好きだ……っ! 聖理を愛している……っ! 神に誓って本当だ……ッッ! それに、ウソ偽りは1つもない……ッッ!」
存在を確かめるように、もう未来永劫、伝わってこないかもしれない温もりを最後に充分感じるように、強く、強く、ロイは何度も何度も繰り返しチカラを入れ直して、イヴの身体を抱きしめた。
嗚咽交じりに、悲しみの涙を流しながら、それでも、それでも、と。
「なら……っ、なら……ッッ!」
そんな痛ましいロイを抱きしめ返すイヴ。
なんでそんなに内罰的なの、と。
野外? 敵襲が終わった直後? みんなが見ている? 少し離れた地区では血を流している人がいて、骨を折ったかもしれない人もいて、そして死傷者だって出ている?
だとしても、今宵の全ての被害者に対する最上級の冒涜と侮辱だったとしても、この時、この場で、繋がってしまいたいほど――、1つになってしまいたいほど――、ありとあらゆる想いという想いが、どこまでも突っ走ってしまいそうだったというのに。
「でもッッ! イヴとは結婚できない……ッッ!」
「~~~~~~っっ」
「清算しなくちゃいけない……ッッ、自分が招いた破滅を! こんなボクが幸せになることなんて許されない! イヴだけじゃない……ッッ、シィとも! アリスとも! ヴィキーとも! ボクは……っ、ボクは……ァッッ、っ!」
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(・∀・)イイ!!