ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章5話 イヴ、光を届ける――(5)



 次に、2秒目――、

 イヴは新たに50に至る【絶光七色】を射出して、福音を轟かし、並行して【聖なる光の障壁】を用いてロイの軌道を妨害する。胴体に3つ、右腕には0だが左腕には2つ、右脚に1つと左脚に2つで、総じて8つの着弾を観測した。
 そして同時、1秒目と同様に【絶光七色】を10個、脳内への貯蔵を完了する。

 翻り、ロイは魔剣に渾身の魔力を贄として捧ぐ。刹那、刀身が小刻みに振動を繰り返し、常識ではありえないことに、剣の内部から異音が鳴った。まるで地獄の最下層から響く怪物の唸り声。幸い、エクスカリバーには破壊の拒絶、要するに絶対に壊れない性能を付与してある。ゆえに、愛剣に対し自壊を前提とした暴挙さえ執行することも可能だった。容量が限界を迎えたなら、詰めるべき魔力を圧縮すればいい。圧縮さえ限界を迎え飽和が起きるなら、闇の深い部分、黒の濃い部分だけを厳選し、抽出し、悪逆罪業の純度を高め、剣の内側に至高の贋造奈落、模造冥府さえ醸成してみせろ。

 燦爛の豪雨、赫灼かくしゃくの嵐の中で胎動を始めた闇の劫火、黒のいかずち
 言ってしまえば2秒目は互いに互いの全力を相手に撃つため、布石に徹する1秒だった。
 言わずもがな、ロイだって察している。このままではジリ貧だ、と。ならば狙うのは超々々短期決戦。果たして奇遇か否か、ロイは終戦の頃合いをイヴと同等に予定した。7秒目に至った瞬間に、至高の一振りで光を裂く、と。

 さらに次に、3秒目――、

 ついにイヴがその身を光に変えてロイに迫る。驚愕の選択、戦慄の行動、即ち、遠距離アウトレンジから【絶光七色】を撃ち続ければ優位性を維持できるはずなのに、イヴはロイの前方10mの座標、ほぼ近距離クロスレンジに着地を果たす。
 理由は明快、例の救済の魔術を十全に発揮するためには、ロイの肉体の『ある部分』に接触する必要があるのだ。

 が、前述のとおり、【光化瞬動】の弱点は着地後の現状認識に時間が必要なこと。0・5秒にも満たない眼球を使った工程だが、それだけあればロイにはイヴよりも一手多い戦術を実行に移せてしまう。
 無論、【絶光七色】と【聖なる光の障壁】の時限発動を展開して光速移動に万全を期したが、それでも1秒前と比較し、攻勢を緩めてしまった事実は否めない。その上追加で、イヴはさらに脳内に【絶光七色】10個分の貯蔵を試みている。理由があるとはいえ、それも当然、ロイにとっては千載一遇の刹那に値した。

 その証明のように、ロイはイヴに向かい疾風迅雷を魅せ付ける。
 いざ、彼我の距離は魔術師の射程から騎士の領域に切り替わった。

 続いて、4秒目――、

 例のごとく、ついに4度目となる【絶光七色】10個分の脳内貯蔵を果たしつつ、イヴだって現状を冷静に理解する。この状況は本来、想定しうる戦局の中で劣悪であることを否定できないパターンだ、と。
 眼前には魔剣の内部に奈落、あるいは冥府を内包したロイが迫っている。長期的、といっても3~5秒程度ではあるが、とにかくその程度の期間で考えれば、イヴの魔術は絶対にあの魔剣に敗北を知ることはない。が、確信を持って言える。ロイはあれを一度に、一斉に開放するはずだ、と。でなければ、ロイはイヴに勝てないのだから。持久力で勝てないから瞬発力を使う。それは当然の判断だ。となれば、1秒間に放てる【絶光七色】の極限、そして進化と深化を果たそうとしている魔剣の波動、恐らく双方の破滅は拮抗するだろう。

 その時、最も危惧するべきは光闇激突の余波を至近距離で直撃すること。
 そうなれば、もう、覚醒したイヴであっても大怪我を負うだろう。

 だが、それは歯牙にかけるに値しない些末なこと。
 冥府の斬撃と楽園の砲撃、その激突が起きた場合に余波の奔流が必定なら、子供でもわかるとおり、タイミングをズラせばすむだけだ。

 問題は、もしこの4秒目の段階でタイミングをズラすように想定戦局を練り直しても、絶対に――、100%――、『それは成功しないこと』である。無論、ロイよりも遅れて魔術を発動すればタイミングをズラすこと自体は可能だが、威力が頂点を迎える道程を考慮するに、それはイヴの敗北を意味する。冥府の斬撃の威力が頂点に達している時、楽園の砲撃は恐らく6割程度の実力しか出せず、その上、激突が発生した時点でそれはすでにロイよりもイヴの方に寄っているのだ。

 だが――、
 ――逆にイヴはこの瞬間、自らの戦闘こくはく勝利せいこうを確信した。

 さらに続いて、5秒目――、

 だが――、
 しかし――、

「これで、お兄ちゃんの負けだよ」

 ――爽やかに優しい微笑みを浮かべるイヴ。
 ――ロイにとっては驚愕さえ生温いだろう。
 ――イヴが5秒目で決着を付けようとして、『残りの6秒目と7秒目は別のことに使おうとしていた』なんて。

 囁くのと並行して、聖母のような表情を浮かべるのと同時に、イヴは4秒のうちに貯蔵していた合計40にも及ぶ【絶光七色】と、さらにこの瞬間、即行で使ってしまうとしても、追加で10個の同一魔術を脳内に貯蔵し、その全てをたった1つの極光――否――神光として練り上げた。
 イヴは最初からこのつもりだったのだ。最後の2秒をフルに使い、どうしても『やりたかったこと』があったから、それを果たすために計算し、計画した。

 4秒目の段階でタイミングをズラすように想定戦局を練り直しても、絶対に――、100%――、それは成功しない。それは確かにあっている。だが、逆を言えば最初からロイよりも速く魔術を撃つことを目標として、彼の思考能力が低下していることさえ利用し、どのような代物であれ、彼が最後の一撃を放つタイミングを誘導していたとしたら?
 それこそがイヴの行った『とあるシミュレーション』に他ならない。

 イヴの策略により、逆にもう、ロイの方こそ攻撃が間に合わない。
 持久戦に勝機がない。それにゆえに瞬発力の行使に懸けた。が、古今東西、『戦闘』には『判断』が、『判断』には『前提』が、『前提』には『情報』が必要不可欠。
 意図的に誤った情報を摑まされた時点で、ロイの勝利は消え失せた。

 イヴの作戦は、勝利は、果たしてギリギリだったか?
 正直、中にはそう思う人もいるだろう。実際、シーリーンたち、特にマリアはハラハラだった。

 だが、誰がなんと言おうと、イヴは、逢坂聖理はそれを否定する。
 痛みの伴わない恋愛なんてあるわけない。

 だからこそ、イヴは自らが危険に晒されることを前提に今までの全てを実行に移した。
 その正気を本人に問えば「? 傷付くこととギリギリであることは別だよ?」なんて、そうキョトンとするのかもしれない。

 傷付くことを恐れない。
 そしてそれはギリギリではない。

 だからだろう――、

 ――聖理イヴが数多の光を右のてのひらに束ね、
 ――バッッ、と、勢いよく前方に突き出し、
 ――それを、腹の底から叫んだのは。



「――――お兄ちゃんっっ!!! 全力全開せかいでっ! 最大出力いちばんっ! 【神光純白あいしている】っっっ!!!!!!!」
「ハーデース・オブ・パラノイア……ッッ!!!!!」



 瞬間、正式名称、【ハイリッヒ・テスタメント:ヴァールハイト・シュトラール】と贋造奈落、模造冥府、いわゆる絶対悪と呼ばれる概念そのもの、それに直結する洞窟の入り口、門扉を開き、血涙のように流れ、溢れ、零れ、そして未来永劫に湧き上がり続ける『具象化した罪業』を放つ魔剣の波動の上位互換、ハーデース・オブ・パラノイアが激突した。

 嗚呼――、

 語るにも至らない。
 そもそも、視認さえあたわない。
 一瞬、それだけで答えは出た。

 その激突は凄絶か? 強大で、深刻か?
 空には轟音、地には振動が響くと思うか?

 いいや――、違う――。お日様が影を晴らす時、ランプが洞窟を照らす時、音も衝撃も生まれないように、優しく、愛おしく、母親が赤子の髪を撫でるように、ハーデース・オブ・パラノイアはスッ、と、どこかに消え去った。

 魔剣の波動の上位互換、それは本来、勝利や致命傷には繋がらないが、例えばエルヴィスや、一応分類としては魔術に属していない以上、あの星の序列第1位、【白羊】のエドワードにさえ無視できない負傷、治療を必要とする流血を与える斬撃なのだ。
 この剣術を使えたなら、ロイはもう、王国で一番強い中等教育上位の騎士を名乗っても、どこからも、誰からも、異議反論を受けることはないだろう。

 それでも、ロイは敗北し、イヴの勝利でエンディングは流れ始める。

 イヴが予想より早く決着を求めたから。
 逆に、自分の至高の一撃が遅れたから。
 準備が整っていないのに無理矢理、迎撃を試みたから。

 確かにそういう側面もある。

 だが、それは本質ではない。
 あるとすれば2つ――、まず1つはイヴの最後の一撃に対する認識が甘かったこと。【神光純白】はおおよそ【絶光七色】の50個分相当する。しかし、結界内部を光で充満させた時と今とでは、同じ【絶光七色】の50個分でも『範囲』と『環境』が違った。1回目が広く薄く、全方位に対する出力なのに対し、2回目は狭く濃く、たった一方向に対する突貫だ。これだけでも充分なのに、戦場の掌握をすませていた以上、1回目と比較し2回目は術者本人の魔術の技量が底上げされていた。決して低く見ていたわけではない。敵の戦力を限りなく高く認めていても、さらにイヴがその上に君臨していただけの話だ。そして、もう1つはそもそも、なぜイヴが決着の前倒しをしようとしたのか。残りの時間で『やりたかったこと』を本当にやる気持ちとはなにか。それを、その全身を突き動かすような衝動を、理解できなかったことだろう。

 そう――、
 ――まだ、時間は少しだけ残っている。
 ――まだ、『やりたかったこと』が残っていた。

「――――――っ」

 イヴは走る。
 聖理は駆ける。

 攻撃の反動によって硬直状態のロイに、逃げ道なんて与えてやらない。
 この時を、この瞬間を、いったい自分は何年待ち続けていたのだろう。

 好きって想いが止まらない。
 溢れ出した涙が止まらない。

 そして、幼馴染いもうと幼馴染おにいちゃんのもとに辿り着くと、必死に、健気に、いじらしく背伸びをして、彼の胸倉を両手で掴んだ。
 ともすれば脅迫に見えるかもしれないが、今からやることを考えると、本当にそれと大差なかったので、もう、もう、気にするモノなどなにもない。

「わたしと結婚してよ、お兄ちゃん! もちろん、お兄ちゃんに拒否権はないんだから!」

 視線があう。
 相手の吐息が自分の頬を掠めるほど近い距離で、互いに互いの顔から瞳を逸らせず、もしかすると、破裂しそうなほどバクバクと高鳴っている自分の心臓の音さえ、相手に聞こえてしまうかもしれない。

 瞳が潤む。
 頬に乙女色が差す。

 それを自覚できるのに、どうしようもなくどうにもできない。
 恥ずかしい、照れくさい、こそばゆい。

 でも、それ以上に――、
 ――お兄ちゃんと結ばれたいという気持ちの方が強いのだ!



「――――っ、ん、――――――ん、っ♡♡♡」
「~~~~~~~~ッッッ!!?」



 胸倉を引っ張って顔を引き寄せ、イヴの唇がロイのそれに触れる。

 幼馴染と幼馴染が初恋を叶えた瞬間だった。
 そして、兄が妹を相手に、禁断の恋を一生貫くことを決めた瞬間でもあった。


 こんなの、誰が予想できるモノか。

 ウソ偽りなく自分のことを殺しにくる相手、そいつと全力で激突する戦闘行為。
 その極限状態の中、死に物狂いで時間をやりくりしたかと思いきや、やりたかったのはお兄ちゃんに自分のファーストキスを捧げることだ。


 一応――、本当に一応――、理に適っていると言えなくもない。
 ギリギリ――、本当にギリギリ――、必ずしも精神論や感情論というわけでもない。

 敵の予想を外すこと、上回ること。相手にとっての常識を壊すこと、乗り越えること。
 絶対に負けられない戦いには、大なり小なり必要な行いである。


 恋のチカラで全てを救うなんて幻想だ。
 でも、全てを救うにあたり、恋のチカラをどうしても使いたい。

 きっと、その考えがあったから、彼女は、この結果に辿り着けたのだろう。


「……ほぇ?」「ちょ、っ、えっ、えっ!?」
「イヴちゃん!?」「は、はわわわ……っ」

 7秒の奇跡はあっという間すぎて、シーリーンも、アリスも、マリアも、ティナも、2人がキスしたあとにようやく反応が追い付いた。

 なにが起きたのかよくわからず、可愛らしく首を傾げるシーリーン。

 アリスは焦りに焦って――、

 マリアは焦るというよりは驚いて――、

 ――そしてティナは刺激が強かったのか、キスをして頬を乙女色に染めているイヴ本人よりも、顔を真っ赤にしてまともな言葉を喋れなくなってしまったようだ。


 シーリーンたちからすれば、7秒間の全ては『世界が壊れると思っちゃうほどの爆発が起きて、それが収まったら爆心地でロイとイヴがキスしていた!』と、本当にその程度の認識である。

 そのように、みんなが歓声か、あるいはそれによく似ているけど別のなにかを上げる中、しかしイヴはそれを気にしない。
 だって、お兄ちゃんとキスしている最中だったから。
 もっと、もっと、お兄ちゃんとキスしていたいもん、と、言いたげに。


 イヴが司る光ではない。
 まして音というわけでもない。

 それは温もりだった。
 薄桃色で、やわらかくて、まるで花の蕾のように可憐なイヴの唇。優しく触れ合うそこから伝わる熱が、ロイの中で沈殿していた闇を溶かしてくれる。

 ただ、ただ、純粋な多幸感で心が満ちる。
 まゆの中で微睡まどろむように、全身が心地いい。
 イヴの愛が、ロイの全身に伝わった。


 嗚呼――、
 この魔術に名前はなかった。

 付ける必要がなかったから。
 名前は、繰り返し呼び、別の表現がないモノにこそ必要だから。


 翻り、ファーストキスは人生で1回きり。
 また術式を編纂へんさんすれば話は別だが、それはともかく、ファーストキスを発動条件にした魔術に、繰り返しなんてありえない。

 だから、名前はいらないのだ。
 もしもいつか、どこかで、誰かにこれを語る時は――この魔術を、わたしとお兄ちゃんのファーストキス、と、そう言っておけばいいだろう。


 それでいい。
 それがいい。


 春の月光。
 夜のそよ風。

 祝福のようなそれらを受けて、ロイは一度だけ目を閉じると、そしてすぐに今度は開いた。
 ロイはそっと、イヴの肩に両手を置き、唇を離す。

 ガラス細工よりも繊細なモノを、壊してしまわないように。
 鳥の羽根よりも軽いモノを、どこかに飛ばしてしまわないように。


 それに倣うように、イヴの方もロイのボロボロになった制服の胸倉を開放して、少し、2人の間隔を開ける。

 キスは続けていたかった。
 でも同じぐらい、視野を広く持って、ロイのことを瞳に映したかった。

 目には、光が差している。
 強い意志も、気高い理性も、なにより、間違いなく優しさがそこにはあった。


 再度見つめ合う2人。

 すると、涙を流し始めながら――、
 痛々しい嗚咽を喉の奥から漏らしながら――、
 今度はロイの方からイヴと距離を詰めて――、


「お、お兄ちゃんっ!?」
「――――正直、っ、なにから言えばいいのかわからない……。っっ、頭が混乱している……。仮に混乱していなくても、冷静な判断ができる軍師のような人でも……、ボクのしたことに対するボクの第一声なんて、わからないはずだと思う……。~~~~ッッ、だから――、だから――ッ」
「――――――」


 イヴを抱きしめるロイ。


「~~~~ッッ、罪を犯したボクが言うべきことじゃなく、罪からみんなを救ったイヴが聞きたいことを、ボクは言う。っっ、音にして、声にする」
「~~~~っっ、うんっ、うん! 聞くよ! 絶対に、忘れないよ!」


 そんなロイを、イヴは抱きしめ返した。


「――――聖理、久しぶりだね。ボクも、君に初恋を捧げていた。イヴ、助けてくれて、ありがとう。ボクも、君のことが大好きだ」


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コメント

  • ノベルバユーザー185904

    もう表現がすき(語彙力

    1
  • HARO

    泣けるね~

    2
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