ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章4話 イヴ、光を届ける――(4)



 宣言すると、クスッ、と、イヴはある意味一番、この瞬間のイヴらしくはにかんだ。
 可愛いのに美しく、稚いのに大人っぽく、尊いのに儚くて、気高いのに淡くて、明るいのに淑やかに、嬉しげなのに涼しげに、天使らしさと小悪魔チックが織り成す、そんな、心がどうにかなりそうなほど、とても恋しくて、愛おしくて、女の子らしい女の子の表情である。

 男性なら一瞬で心を奪われ恋に落ち、夜も眠れないぐらいドキドキと胸を締め付けられて、女性であっても見惚れて、ほろ酔いのような心地を覚え、思わず熱っぽいため息を吐いてしまうような、そんな純情可憐な天使の微笑み。
 事実としてあっているのだが、恋をしている女の子が意中の男の子に想いを馳せる時、いにしえから永久とこしえまで、此方こなたから彼方かなたまで、かくも幸せそうな表情かおをするのだろう。

 だが――、
 ――流石にそろそろ終わりにしよう、と、イヴは内心でそう囁く。

 1つ目の理由は、単純に魔術的な準備の全てが整ったから。
 2つ目の理由は、そう、再三になるが、これが告白である以上、ロイからの返事がほしいから。YESにしてもNOにしても、今すぐこの場で答えがほしい。もう、我慢なんて、できそうにない。

「――――――」

 翻り、ここにきて魔獣化しているロイでさえ、聖母のように慈愛、博愛、親愛に溢れて、それらが零れても泉のように止めどなく湧き上がるだろう、そんなイヴの優しい笑みを視界に収め、もう、咆哮さえ上げられなかった。

 確かに獅子は兎を喰らう。サメ海豚イルカかじるし、鷹は雀をついばむ。
 だが、例え人間ほどの知性がなくとも、傷付いた時、血を流した時、骨を折った時、優しくされれば開いて受け入れるのが心というモノ。

 それを鑑みれば、今回のロイの敵対行為は不幸中の幸いだった。彼本来の思考能力を維持したまま、催眠や幻覚により寝返っていたら、もしかしたら、イヴの優しさを疑っていたかもしれない。敵から贈られる優しさなんて、信用できないから。

 それはともかく、だが、確かにロイを救うためとはいえ、イヴは彼を攻撃した。

 精神的な表現を使うなら心を許す。
 現実的で物理的な表現、戦闘に際し感情なんて曖昧な基準を用いない表現を使うなら、攻撃をやめる。少なくとも中断する。

 どちらにせよ敵対行為をやめるのには、最後に一歩だけ足りない。

「――――そう、だよね」

 そのロイの考えを、なんとなく、イヴは察した。

 ゆえに、ふと思った。
 ロイを救うのには光属性の魔術を使う必要がある。だが、すでに彼のことを光属性の魔術で攻撃している。救済専用の魔術、その予兆を見せた瞬間、今の彼が獣であることを考慮すれば、間違いなく威嚇的行動を起こすだろう。

 今度は自嘲気味に笑うイヴ。
 イヴの実力的に、失敗なんてまずありえない。
 だが――長引かせる。逃亡を許す。後遺症を与える。手加減をして上手くいかず、結果的に本気を出した時よりも深い傷を負わせてしまう――できるなら、叶うなら、そのような展開は絶対に回避するべきだ。

 失敗は許されない。
 ならば、慢心はいらない。
 99%成功するにしても、最後の1%まで、純真無垢な想いとチカラで救ってみせよう。

「――――往くよ、お兄ちゃん」
「――――――」

 ここに、今回の騒動の全てが終焉を迎えようとしていた。

 真剣な表情、決死の双眸で相対するロイとイヴ。
 そのような2人を祈るように見守るシーリーン、アリス、マリア、ティナ。

 月が、綺麗だった。
 幻想的で、神秘的で、感動的で、情緒的で、なぜか、この世界に生まれてから長く、長く、何年も見続けてきたはずなのに、今宵はやけに心に響いて――。

 星は美しく、きっとまた朝には昇ってくる太陽だって麗らかだろう。
 日は、月は、星は、那由多なゆたにも等しく人の営みと共にあり、きっと、きっと、いつでも、どこでも、誰がその瞳に映しても、篝火かがりびのように道を照らす。

 春――、水面に張った氷が溶け、木々の梢に積もった雪が解け、朝が早まり日が延びて、花が咲き、新緑が芽吹き、遥か遠い日のもう戻れない故郷を懐かしむならば、それは別れの季節であり、そして、世界が変わるかもしれないほどの出会いの季節。
 願わくは、運命の赤い糸よりも絆を感じる銀の指輪を、どうか、いつか、左手の薬指に嵌められますように。

 夜の春風は凪ぎ、灰燼も落ち着き、イヴの心境に至っては明鏡止水にさえ至っていた。
 では、10万年さえ恋い焦がれ続けた運命の旅路、その終わりを告げる、そんな、運命のような始まりを、ここに。


 そして――、
 そして――、


 ついに――、
 ついに――、


 地面に積み重なっていたとある瓦礫の山――、
 その不安定さが限界を迎え、音を立てて崩れてしまうと――、



「――――【代われ、贄となれ、我が蜃気楼】!」
「魔剣…………の、波動ォォォ…………ッッッ!」



 このルミナスは愛の証明。

 イヴは超絶技巧、御前上等、常軌逸脱、人智超越、神業としか形容できないプリズムの再現を行い、ロイは森羅破滅、万象壊滅、有象絶滅、無象死滅、狂おしいほど漆黒に輝く殺戮葬送の斬撃を開放する。
 まさに世界の終幕、時空の終曲、宇宙の終焉を先行体験するかのごとき、自分が死ぬかもしれないのに、眼前の情景が神々しすぎて放心し、それさえも忘れる、そんな破滅的感動、退廃的興奮を呼ぶ純白と漆黒が入り混じったスペクトルのカオスが広がる。

 必然、【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】で内と外に隔絶を生み、被害をその内部に留めるようにしておかなかったら、この区画一帯が世界に存在する法則、理の特異点になっていた可能性すらある。
 要するに、物理法則が正常に作動しなくなる危険性すら、わずかにだが否定できない。

 が、気安く発動してシーリーンたちを驚愕させたとはいえ、本来【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】は非常に高等な魔術である。確かに、他の結界魔術と比べたら破壊の可能性は圧倒的に低い。だが同時に、イヴであってもここまでくると維持が難しいという事実も無視できない。

 上等だよ。
 と、『とあるシミュレーション』を終わらせた結果、イヴは残り7秒でロイを正気に戻すことを心に誓った。

 まず、1秒目――、
 残りは、6秒――、

 ロイの絶技とイヴの神業が相殺という形で収束を果たす。
 同時、イヴは【絶光七色】を自分でも特に同時展開の数値を決めず、ロイに向かって幾重いくえ幾層いくそうと何回も何回も撃ち続ける。まるでどこか歌うように、まるでどこか奏でるように。その後ろ姿はまさに、独唱者ソリストによる福音歌ゴスペルにして鎮魂歌レクイエム、その終楽章フィナーレ反復リピートに次ぐ再演アンコールさえ連想させた。荘厳。旋律に色彩があるのなら、黄金に金箔を貼っても、白銀に水銀を被せても、それでもなお、この果てなき至高のオーケストラのような虹霓の合唱のそれには届かない。いや、そもそも同時に何発撃つかなど、気にする必要などどこにもなかった。イヴはすでに明言している、勝利の条件は整っている、と。

 当然の疑問が1つある。イヴは【代われ、贄となれ、我が蜃気楼】で魔剣の波動を相殺してみせたが、あれは自分の蜃気楼を生み出す魔術、本質から逸脱しない程度に拡大解釈したとしても、光の屈折を操作する魔術だ。どこからどう考えても攻撃に使える魔術ではない。
 だが、忘れてはならない。『イヴがほんの数秒前、結界内部を光で満たしたこと』と『光を利用する形でも魔術を発動できるということ』を!

 先刻の光の充満は最適な環境の構築を意味する。
 よって、屈折操作は構築した環境を十全に活かした効率的戦術に相違ない。
 戦争に参加している者ならば、自分にとって有利な戦場で戦うのは基本中の基本だろう。

 掌握は完了した。
 戦場は完成した。
 リフレクションを弄れば、いかなる詠唱も、いかなる詠唱破棄、脳波による疑似的な詠唱も必要ない。

 この瞬間、結界の内部はイヴの阿頼耶識アラヤシキにさえ接続同調を果たし、事象自在、夢幻理想の神聖擬似心象世界へと変貌を遂げた。流石にすでに修得している魔術に限定されるが、この結界の中で戦っている限り、イヴは触るとか、歩くとか、そういう次元ですらなく、思っただけで【絶光七色】も、【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】も、【光化瞬動】も、【神聖ハイリッヒ・レイネスヴァイス・完全パーフェクト・ウィーダーガヴォーテ】も、本来のイヴの脳のスペック以上の状態で使用できる。
 それをいいことに、イヴは即時使用する分とは別に、まずは10個の【絶光七色】を脳内に貯蔵した。

 一方、ロイは肉体強化の魔術を全開にして、術者本人の視線を見切り、敵ならば王族さえ首を刎ね、神々さえ斬り捨てると言外に咆哮するような、意気衝天の闘志、一騎当千の心得、遮二無二の神速で、戦場を縦横無尽、無辺無碍に駆け巡り、奔り廻る。

 1秒の間に30さえ超越える光速の連撃を躱すのは果たして不可能か?
 否、確かに回避は困難だ。だが、不可能ではない。30だろうが50だろうが100だろうが、その全てを把握、演算、処理、実動しているのはイヴの頭脳だ。コントローラーが1つしかなく、かつ、その操作に必要な情報=ロイという物体の運動、それを把握するセンサーが己の瞳しか存在しえないのなら、やはり、先刻までと対処方法は変わらない。

 自明だろう。銃を撃てば絶対に走っている人間に当たるのか?
 そんなわけはない。拳銃だろうと魔術だろうと、標準を合わせることは絶対だ。

 偏差射撃という手段も存在するし、この燦爛の豪雨を維持できるならそれこそが最善だが、【絶光七色】とロイの疾駆を比較して前者の方が速いのと同様に、ロイと疾駆とイヴの瞳を比較した場合、騎士+魔獣であることも相まって、極限状態が続くことになるが、わずかでも生き永らえることは幻想でも夢物語でもなかった。

 やはり、ロイに勝機があるとすれば、攻撃の速度と脳による処理の速度の乖離、そこにしかない。
 結果として、ロイは最初の1秒を生還し、イヴはその間に37の【絶光七色】を繰り返した。


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コメント

  • HARO

    頑張って下さい

    0
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