ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章3話 イヴ、光を届ける――(3)



 そして開戦から初めて落ち着いて相対する兄と妹。
 あるいは、幼馴染と幼馴染。

 遠い日の病室から地方や国どころか、惑星や銀河さえ遥かに超越えて、この剣と魔術の異世界で互いに生まれて、育って、かけがえのない青春を送りながら、自分の胸で心臓を動かしている。鼓動が、続いている。


 たくさん走った。
 制限されていないから、体力が続く限り。

 たくさん遊んだ。
 禁止されている遊びなんてないから、故郷ではお母さんに、王都ではクリスティーナに怒られてしまうまで。

 たくさん食べた。
 基本的に決まった献立、用意された物しか食べることはできない、なんてことはないから、レストランにも行けたし、なんなら王族のディナーだって食べることだって。

 たくさん眠った。
 思いっきりはしゃいで、思いっきり楽しんで、疲れた身体で睡魔に身を任せ眠りに落ちるのは、すごく、すごく、心地がよかった。


 学校に行き、友達に恵まれ、あぁ、これが青春なんだなぁ、と、心の底から思うことができた。認めてあげることができた。

 まだ記憶を取り戻して少ししか経っていないが、それでも、思い返せばすごく充実している毎日だった。


 嗚呼。


 死んだ人間が生き返るなんて、世界の理から外れているのかもしれない。
 記憶と精神を引き継いで人生をリセットなんて、自分たち以外の全人類に対する冒涜なのかもしれない。


 人生をやり直すとはどういうことか?
 それは果たしてどういう意味を持っているのか?

 ロイはもちろん、イヴだってこの10万年で考えて、そして、奇しくも互いに一緒の結論に辿り着いた。


 もちろん、努力はしないといけない。
 苦難からは逃げられない。

 やり直しの過程で偶発的にしても、自らの行いの帰結だったにしても、なにか得たモノがあったのなら、それに溺れてはいけない。
 得たモノに振り回される人間ではなく、自らの意思で得たモノを使っていかなければならない。


 強いことと人間として高潔であることは別である。

 なら、そこまで考えているのなら、人生をやり直すことは悪なのか?


 違う。
 少なくとも、ロイとイヴはそのようには考えていない。

 チャンスに恵まれたのなら、それを全力で活かさないともったいない!
 努力も苦難も、やり直しに関する対価の全てを背負ってでも這い上がってみせる!


 なにもこれは転生に限った話ではない。転生なんて、全世界の99・99999%以上の知的生命体には関係ない現象だ。
 だとしても、不登校だったシーリーンが登校できるようになったように、親と家の都合に支配されたアリスが自分の選択を初めて尊重されたように、やり直しは誰にでも許されている。

 ならば必然、答えはこうだ。
 即ち、人生のやり直しなんて険しい道になるに決まっているけど! 楽な道なんてあるわけないけど! チャンスがあったらそれに自分の全てを懸けてみせる!


 それを思い返すと、ふと、イヴは戦闘の最中なのに静かに、穏やかに瞑目した。
 そしてなにかに想いを馳せたあと、今度は静かに、穏やかに目を開くと――、


「――お兄ちゃん。わたしはお兄ちゃんに、お願い、目を覚まして! とか。正気に戻ってよ! 闇の汚染に負けないで! とか。そういうことを言うつもりはないよ」
「…………ッッ」


「戻ってこられないなら、力尽くで戻してあげるんだよ!」
「………………ッッッ!!!」


 その時、ロイの表情かおに動揺が見受けられた。
 正常な時のロイだったら理解できたが、今の彼にこれの理解は不可能だった。


 イヴは殺意ではなく善意でロイを倒そうとしている。
 イヴは憤りではなく優しさを込めて敵である自分を見つめている。


 平和的な目的のために暴力を行使する。その矛盾、その破綻、理性剥奪を受けているロイを動揺させるには打ってつけの思想だった。
 ゆえに、だからこそロイは動けなかった。端的に言えば、蛇に睨まれた蛙、根源的な恐怖を刻まれてしまっていたから。ひるんでいた、臆していた、と、そう表現しても間違いではない。


「1つ、とある女性の意見によると、すでにわたしは特務十二星座部隊レベルの実力を身に付けているらしいし、実際、わたし自身もそれを実感しているんだよ」


 シーリーン、アリス、マリア、ティナの手前、一応、イヴはシャーリーのことを少しだけボカしておく。

 また、イヴの言っていることは事実だった。言語化しづらい感覚的な話ではあるが、2人の前世で、オリンピックに出場するような陸上競技選手が、自分なら絶対に何秒以内に100mを走れるとか、マジシャンが、自分の力量なら絶対にこのマジックは失敗しないとか、経験則という本来曖昧なモノが、なぜかこのような場合、絶対的な根拠になってしまう。

 それと同様に、魔術師としてのイヴには今、自分は特務十二星座部隊レベルの実力が宿っている、という、自惚れでも傲慢でもない、ただの事実が認識できていた。


「2つ、これはお姉ちゃんの方が詳しいはずだけど、魔術は基本的に毎日のように開発されている。中には用途が限定的すぎるモノや、既存の魔術の下位互換でしかないモノもあるだろうけど、それでも、数そのものは日に日に増えているんだよ」


 その発言の意味を理解すると、ロイはもちろん、シーリーンたちさえも戦慄を隠せない。
 特にマリアは正直、イヴが冗談を言っているのかとさえ一瞬思ってしまった。
 とどのつまり、イヴが言いたいこととは――、


「特務十二星座部隊レベルの実力を持つわたしがこのレベルの戦いしかできないわけないし、もう、完成したよ。お兄ちゃんを救うスペシャル魔術」


 確かに、本当にイヴがアリシアやシャーリー、セシリアなどに見劣りしない魔術の技巧を持っているのなら、この状況はおかしい。もっと早くロイを倒していて必然である。
 だが、もし戦闘の最中に魔術の開発を、それも筆記用具さえ使わずに脳内でのみ行っていたとしたら?



「――――もう、勝利の条件は整っているんだよ」


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