ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

5章1話 イヴ、光を届ける――(1)



 ――――煌々。
 ――――閃々。
 ――――そして、震天動地の雄偉絶衝。

 あまねく光はここに、世界の終焉さえ彷彿とさせる。
 それはとある宗教の聖典において、天使が鳴らすラッパの音色にも負けず劣らず破滅的に美しい。人智による分析、理解、あるいは直感など、いかなる道理、いかなる方法であっても一端のさらに微塵さえ享受不可能なその福音、それこそはまことに神のみぞ知るクオリアだった。

 イヴ、否、厳密には逢坂あいさか聖理ひじりが永遠にも等しい時間募らせ続けた想い、身を焦がし、心を灼き、三千大千世界さえ凌駕超越する10万以上の星霜、100億以上の光年、そのような正真正銘の全時空を翔け巡るほどの恋を叫んだ刹那、虹霓こうげいを構成する7色が混じり、調和し、完成し、もはや天使の翼の色彩いろと等しい純白としか認識できない、神々しい極光が撃ち放たれる。

 その光度は激越と激越の多重奏。
 その灼熱は熾烈と熾烈の重ね塗り。
 輝き、瞬き、閃き、そして煌めき、有象無象、天地万物をことごとく燃やし尽くすほど、の一撃は、まさに天使が繰り出す御業だった。

 いざ、開戦。
 轟くのは荘厳な爆音、爆ぜるのは凄絶な灰燼。それは天上天下にさえ宣誓する開戦の合図であると同時に、愛すべき者、初恋の男の子を取り戻す決意の号砲でもあった。もう、遠慮も躊躇も懊悩も、一切合切、必要ない。必要なのは恋煩いだけで十二分。現在進行形で展開している【色彩放つファルベシェーン・光輝瞬煌のグランツェント・聖硝子アウローラ】の内部でなければ、その音色おとは王都全域に響き渡り、その色彩いろは王国全土を包み込んだことだろう。

 嗚呼、そうだ。
 自明だろう。
 紛うことなどなにもない。

 地鳴りがするほどの爆音を響かせたとしても、嵐のごとき灰燼を宙に舞わせたとしても、眼前の幼馴染おにいちゃんに届けるのは攻撃ではなく、ただ、ただ、シンプルな告白なのだ。

 いかに高等で高尚な魔術なれど、所詮はそのための手段にすぎない。
 彼女の魔術の才の全て、神様から与えられた光の恩恵の全ては、悉く、余すことなく、好きな人に「お兄ちゃん、大好きだよ!」と伝えるためのアシスタントだ。

 自らを光に変換するなんて超絶技巧を要する魔術を好きな男の子のもとに駆け付けるためだけに使用し。
 数人で集まって使えば王都全域さえ包み込める結界魔術、それを2人だけになれる空間を作るためだけに使用し。
 速度は光速で、闇の住人に当てれば基本的には致命傷を負わせられて、1つの光で世界に存在するあらゆる光の特性を模倣できるアサルト魔術を、告白するにあたり、相手に逃げられないように使用し。

 今、いかなる軍事力を誇る光の魔術だとしても――、
 ――その全て、その神髄、嗚呼、ただ個人、たった1人の少女わたしの恋の成就のために総動員してみせるッッッ!!!

「…………ガ、ァ、ァ……ッッ、アアアアアアアアアアッッ!!!」

 瞬間、ロイは疾走。颶風ぐふうよりもはやく、霹靂へきれきよりもはやく。
 ただの一瞬さえ息をする間隙を強引に捻じ伏せ殺し、必要最低限の動作で戦場を駆けた。
 その形容、その所業、今、この英雄は神話に登場し神々を喰い殺す餓狼にさえ匹敵する。

 必然、例のごとく光速の攻撃を躱すことなんて不可能ゆえに、魔術が発動する一瞬前、イヴの視線を見切ってその時点で回避行動を開始していたのだ。
 ここまでの万象は実に1秒にさえ満たなかった。

 確かに、今のイヴは強い。世界の光、その全てが彼女を味方していて、なによりも彼女本人の役割、転生の意味とは即ちロイという救世主のサポーター。魔術比べをしたら、例え魔獣化しているロイであっても敗北は免れない。
 だが、攻略法がないわけではない。

 いかにイヴの魔術が天才的であっても、彼女の肉体は10代前半のモノで、しかも性別は女性ときている。
 否、それ以前にロイは騎士でイヴは魔術師だ。

 自明、ロイの疾走、それはイヴのもとに向かっていた。神速をその身で体現し、彗星のごとく全ての一歩ごとに地面を踏み抜き、ひび割れを起こし、幼馴染いもうとを満身にみなぎる闇でほふりにかかる。
 そして、迫りくるロイを見て、イヴは悠然と笑みを浮かべた。

「――――いいよ、お兄ちゃん。こんな形、こんな展開になっちゃったけど、現世いま、わたしはもう自由に走れるんだよ!」

 叫ぶと、イヴは意地の張り合いのようにロイに向かって走り出した。

 確かに速い。常軌を逸している。その神速は鏡合わせのように肉薄の挑戦と相成ったロイに匹敵し、少なくとも結界外部で2人の生還を祈っていたシーリーンたちからすれば、目で動きを追うのでやっとである。
 が、控えめに言って、愚行。

 イヴの魔術が神様からの贈り物ならば、ロイのエクスカリバーだってまた、神様からの贈り物に相違ない。ゆえに、ロイがイヴに勝つ可能性だって、皆無というわけではないのだ。
 つまりこれは、接近戦に持ち込めばロイの、遠距離戦を維持すればイヴの勝利、そういう戦いだった。

 なのにイヴ自らロイに駆け寄るなど、端的に言って自殺行為にも等しい。
 が、今さらそれをどうにかできる道理、条理もなく、ただ必然と言わんばかりにロイは銀色の魔剣をイヴに向かって放とうとする。斬撃を放つにあたり軸足で地面に踏み込み、轟ッッッ、という破砕音を響かせて放射状に亀裂が奔った。月に煌めく魔剣の切っ先。それは神秘的な残像を魅せ、風を斬る音さえ鳴らし圧倒的、破滅的、そして絶望的な一撃の全てを際立たせる。当たれば確実に死に至る闇だ。

「イヴちゃんッッッ!?」

 マリアの悲鳴が夜空に木霊す。
 シーリーン、アリス、ティナだって、一様にその光景にハッと息を呑んだ。

 普通の剣であれば、全身、皮膚の表面に沿うように結界を展開すればイヴほどの実力者の場合、十中八九、事なきを得る。
 が、ロイのエクスカリバーが相手ならば話は別だ。万象切断の能力がある以上、例え【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】であろうと、多重階層の分だけ斬撃を喰らわせれば切断できてしまう。

 畢竟、皮膚の表面に結界を展開するのは、ロイが相手の場合は悪手でしかなかったのだ。
 そしてロイが必斬必殺、渾身の一撃でイヴの身体を左肩から右脇腹にかけて切断するが――、

「――【代われ、マイン・贄となれ、アーゲント・我が蜃気楼ルフトシュピーゲルング】――」

 刹那、ロイが切断、完璧に殺害したはずのイヴは雲散霧消して、改めて、彼の背後に彼女が出現した。必然、ロイは戦慄を覚え瞠目し、翻りイヴは狙いが上手くいきニッ、と、笑みを浮かべる。
 訂正、本来、イヴは最初からそこにいたのだ。具体的には【光化瞬動イデアール・リヒツン・ラオフェン】をキャストして。

 が、それと同時に【代われ、贄となれ、我が蜃気楼】、つまり光の屈折を利用して、Aに存在している物質を、その物質が存在していないBに存在しているように映す魔術をキャストして、結果、イヴと彼女の蜃気楼は入れ替わった。
 さらにそれに加えて、光を弄って透明化する【硝子の心得ウィ・エイン・グラス】を本体の方にキャストすれば完璧である。

「――【絶光七色アブソルート・レーゲンボーゲン】! フォースキャスト!」

 詠唱破棄で4つの光を撃ち放つイヴ。
 狙いは無論、両手両足。

 今回は完璧に不意を突けた。囮に気を取られていたからイヴの視線を先読みすることはできていなかった上、勢いよく斬ろうとしたモノがただの空気だったのだ。挽回不可能なほどロイの体勢は崩れている。
 が、しかし――、

「ひ、光を吸収した!?」

 2人の戦闘を見ていたシーリーンが叫ぶ。
 対して、アリスは魔術を解析する魔術を用いてその現象を看破した。

「なるほど……、ロイの方はロイの方で、全身の皮膚に沿うように【必要悪の黒壁シュレヒト・バリエラン】、【聖なる光の障壁バリエラン・ハイリゲンリヒツ】の闇属性バージョンを展開していたわけね」
「それが弟くんにワイヤーが効かなかった理由なんですね……」

 自らの無力を悔やみ、爪が肌に食い込むほど両手を握りしめるマリア。
 つまり、肌にワイヤーが押し当てられた瞬間、接触箇所が闇に飲まれる、と、そういうことである。

 それに気付いたのと同時、シーリーン、アリス、マリア、ティナの4人は一斉にイヴに視線をやった。
 ロイは身体に触れた万象を闇で喰らう。ならばイヴの光が届く道理はあるのか、と。
 そのような彼女たちの不安そうな視線を一身に受け、だが、イヴは事もなげに言うのであった。

「――届くよ。光は届く、絶対に」


コメント

  • HARO

    待ってました!!
    これからも頑張って下さい!

    0
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