ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章10話 イヴ、最愛の人と再会する。(1)



「シーリーンさん……ッッ! マリアさん……ッッ! 今、助けに……ッッ!」

 自分でも驚くほど、声が詰まらなかった。それだけ、ティナだってなりふりかまっていられないのである。
 空守銀翼をはためかせてティナは【万象の闇堕ち】に飲まれる2人を救援すべく、信じられないほどの神速で急降下を試みようとした。

 確かに、ティナが2人に命じられた任務は今にも息絶えそうなアリスの回収である。
 が、しかし、それはシーリーンとマリアが健在でこそ成立する話だ。五十歩百歩ではあるが、アリスが本当に死ぬまで、恐らくあと2分か3分はある。翻り、2人が強制的に地獄に逝かされるまで、残り、わずか約30秒。

 厳密にティナは入団を果たしたわけではないが、七星団の団員なら、こういう場合、こういうことを言うだろう。即ち、残念ながらこの戦時中、任務のために仲間を見捨てることも珍しくはない、と。
 だが、それにしたってアリスを回収するという本来の任務を果たすためには、2人にはロイと戦ってもらわないといけない。2人が現世から消えたあと、どんなにアリスの余命を長く見積もっても、3分であのロイから彼女を回収して、さらにそのあとヒーリングするなんて、どこからどう考えても不可能なのだから。

 けれどティナが2人に接近しようとすると、なぜか、誰かが展開した【聖なる光の障壁】に激突してしまう。戦闘に慣れていないため、最早、ティナは周りがよく見えていないのだろう。端的に言って、注意力散漫だ。

「~~~~ッッ、マリアさん……ッッ!? なんで!?」

「ティナちゃんだけでも逃げてくださいね? そのアーティファクトでも、一度接近したら【万象の闇堕ち】の触手から逃げられませんからね」
「まして、ティナちゃんが助けようとしているのは、シィたち2人だもんね? 両方を救うことは絶対にできないし、どちらか片方を選べ、なんて、そんな選択、情けなくて弱い先輩だったけど、それでも後輩にさせることなんてできないよ」

「~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!」

「巻き込んでゴメンね、ティナちゃん」
「イヴちゃんのこと、よろしくお願いしますね?」

 自らの死を悟った2人は心から穏やかに微笑む。

 あとほんの数秒で自分たちは死ぬのだ。しかも2人とも自らが入信していた宗教の神に恥じないように、誇れるように生きていたのに、強制的に地獄に落とされるのだ。もっと錯乱していいはずではあるが、逆だった。もうどうにもならないと理解したから、死は覆せないから、受け入れてしまったのである。
 そう、ロイが前世で死ぬ数週間前から経験した自分の死期に対する『受容』のように。

 だが、いくら自分たちの死を受容しているといっても、流石にそれを他人にまで強制しようとは思わない。そして受容状態にあっても、仲間を脅威から遠ざけよう、という思考能力は保たれていた。
 察しのとおり、魔術防壁を展開したのは、攻撃を邪魔されたくないロイではなく、攻撃から遠ざけたかったマリア、ということ。

 最後に、ティナは今回参戦する直前、3人に話してしまったのだ。自分が使える魔術の種類を。もっと具体的に言うなら、自分が【零の境地】を使えないことを。

「誰か……ッッ! 誰か……ッッ!」

 この世界の存在とは思えない最上級の無力感という衝動に突き動かされ、ティナは握り拳を作って、それを魔術防壁に叩き付ける。
 迂回なんて不可能だった。ティナが魔術防壁にぶつかって一瞬動きを止めた瞬間に、マリアが彼女の上下前後左右を全て魔術防壁で塞いだから。

 ゆえに、ティナが今できるのは、ただ叫ぶことだけ。

「~~~~~~~~ッッッ!!!!! 誰か…………神様っ、助けてッッ! もう…………っ、もうッッ! 親しい人が死んじゃうのはイヤなのオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

 ティナは号泣しながら神様に祈る。
 比喩表現でも誇張表現でもなく、今、ティナは生まれてから一番大きな声を出した。

 自分の声を聞かれるのが照れくさいとか、自分が話している姿を見られるのが恥ずかしいとか、どのような内容であれ自分の発言に自信がないとか、そんなこと、知らない。

 届け、届け、届け。
 この祈りが神様に届くなら、たかが自分の喉、首ぐらい、にえに捧げてもかまわない。

 だが――、
 しかし――、
 けれども――、

 常識的に考えて、神様が降臨してくれるなんてありえなかった。

 なぜならば――、



「――――神様はこないよ。神様は、いつだって天使をお送りしてくださるのだから」



 瞬間、女の子の声が戦場に聞こえた。
 叫んでいるわけでもないのに、不思議と響き、耳に残る声である。

 大人しい声というよりは元気な声。
 綺麗な声というよりは可愛い声。

 その声はここに集まった全員が知っているそれだった。

 いつも元気で――、
 いつも明るくて――、

 いつも兄に甘えて――、
 いつも姉になだめられて――、

 いつも先輩に混じって仲良くさせてもらって――、
 いつも友達と学院で、隣の席に座って勉強をしていた――、

「――【光化瞬動イデアール・リヒツン・ラオフェン】!!!」

 その魔術が発動した瞬間、シーリーンとマリアの肉体は光に変換された。気が付くと、2人はいつの間にか【万象の闇堕ち】を脱出していて、恐らく、『彼女』が地上でロイと戦うつもりだからだろうが、例のごとく地上から多少は距離がある建造物の屋根の上に出現していた。
 厳密には空間転移ではなく光速移動なのだが、それでも人間とフーリーの動体視力を基準にしたら、空間転移となんら変わりない。

 次いで、シーリーンが、マリアが、ティナが、声の主であるその女の子に視線を向けた。

 赤ちゃんのようにサラサラな黒色のツインテール。
 まるで本物のルビーのような紅い瞳。
 白磁のように白い肌と、薄桃色で花の蕾のような唇。

 それを見た瞬間、まず、シーリーンの表情が一瞬で晴れやかになった。
 そして感激のあまり口元を両手で押さえ、声にもならない声を漏らすマリア。
 最後に、ティナは頭でなにかを考えてなにかを言えなくても、純粋に、心に響くモノがあって頬に一筋の涙を伝わせる。

 そして姉であるマリアが、誰よりも先に――、

「~~~~っっ、~~~~~~っっ、イヴちゃん!」

 と、名前を呼んだ。
 最愛の妹の名前を。


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー270971

    長女から見ると 神に選ばれた弟と神が創った(遣わした)妹 劣等感に苛まれる回があるのでしょうか?

    0
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