ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章9話 イヴ、思い出す――(3)



「――敵の名前は?」
「――開示――――魔王軍最上層部、純血遵守派閥、黒天蓋こくてんがいの序列第6位、【霧】のゲハイムニス、と、伺っています」

「直接見たわけじゃないんですね、だよ?」
「後悔――私めも本来なら、ゲハイムニスは直接視界に入れておきたかった。所用があってツァールトクヴェレに行っていたのですが、帰還した時にはすでにロイ様の暴走は始まっており、その後、特務十二星座部隊の地位を活かして情報をゲットできましたが、本当に悔しい……」

「了解です、だよ!」
「継続――それで、今から貴方様にとある魔術をキャストして現実世界で目を覚ますように促しますが、闇の浄化は私めではなく、貴方様自身がしてください」

「えっ!? あのっ、あのっ、僭越ながら、他力本願で恐縮ですが、シャーリーさんが浄化した方がいいのでは……、だよぉ……」
「否定――私めがやるよりも貴方様がやる方が好ましい。厳密には、意識不明が闇の汚染に対する安全装置の役割を担っていて、起きてから浄化するのではなく、貴方様がこの精神世界で浄化してから、目を覚ます、という手順で、現実世界の情報でわからないことがあれば質問に答えるが――――」

「ぅん?」
「確信――貴方様が私めの魔術をキャストされた瞬間、星の序列第1~12位のどの程度かは判断できないが、一瞬で特務十二星座部隊レベルの実力を手に入れる」

 目を見開くイヴ。
 無論、自分が特務十二星座部隊に匹敵する実力を手に入れられる、と、断言されたから。

 戦慄、否。
 動揺、否。
 不安、否。
 歓喜、否。

 イヴが目を見開いた理由、覚醒を断言されて抱いたのは、自分のチカラでお兄ちゃんを助けることができるんだ、という安堵感だった。

「救済――やることは、わかっていますね?」
「もちろんです、だよ」

 すると、シャーリーはこの精神世界にダイブした時のように、イヴの額に手を添える。
 精神世界で魔術が使えない可能性を考慮して、潜る前に脳内へのストックは終わらせてあった。
 では、シャーリーがイヴにキャストする魔術とは――、

「発動――【想い出のゲデヒトニス蓄音器レコーダー】!」

 そう、奇しくもガクトの記憶を探る時に使った魔術と同一の魔術だった。

 だが、ガクトの時とは違い、今回はかなり珍しい使い方をすることに。
 即ち、イヴの記憶をイヴ本人に見せる。

 異世界人であるロイが異世界人たる所以は前世の記憶を保持していることだ。当然だ。仮に異世界人が王国中に数えきれないほど生活している別段珍しい存在ではなかったとしても、前世の記憶が抜け落ちていたら、いわゆる異世界転生した、という事実を証明できない。

 そこからシャーリーが推測したのは、前世であろうと現世であろうと、記憶は魂ではなく脳に蓄積されるということ。シャーリーはロイの異世界知識を全て知っているため、科学的に記憶は脳に蓄積される、ということを理解していたが、そこに魂、ソウルコードに関する情報は一切なかった。
 理由としてはロイの前世に魔術が存在しなかったからなのだが、シャーリーがここ、集中治療室に到着するまでに自分の脳みそで検証した結果、やはり、記憶に魂との関連性は特になかった。オーバーメイジが検証してこの結果なのだ。当然、まだまだ研究すべきことは山のように多いだろうが、緊急時であることも踏まえて、暫定的にこの結果が正しいだろう、と、シャーリーは結論付ける。それに彼女は補足的思考として、記憶という代物にソウルコードが関連していたら、地球の記憶に関する研究は難航していただろうし、魔術がない惑星でそこまで研究が進んだのだから、それがもうソウルコードが関係していない証拠のはず、と。

 ゆえに、『これ』だ。
 死神が顕現し王都が炎上する直前の特務十二星座部隊の会議では、主にイヴのソウルコードの方に注目してしまい、彼女の記憶なんて、1回も議題にあがらなかった。そもそも、シャーリーが違和感を覚えるまで、誰もイヴ=イヴとしか認識していなかったし、今、この時だって、シャーリー以外の認識は少しも変化していない。
 だから、他の11人が知ったら絶対にシャーリーの行動、選択の正気を疑うだろうが、ソウルコードはいったん、適当に放置して、今はイヴの記憶を呼び覚ます。



 そして――、
 そして――、
 そして――、





「……、……ん、ぅ?」
「目が覚めたようでよかったよ、シャーリーさん」

 シャーリーが目を覚まし上半身を起こすと、そこは集中治療室のベッドの上だった。
 声がした方向に視線を向けると、そこには戦闘で乱れたままだった七星団の制服を着直している最中のイヴの姿が。

 どうやら、精神世界から帰還したのはシャーリーよりもイヴの方が早かったようだ。流石にシャーリーも意味不明だったが、よくよく思い返せばシャーリーは肉体的にはともかく、魔術的、そして精神的に疲弊しまくっているのだ。たまたま睡眠状態に近い状態になってしまい、これを都合がいいと脳が判断し、【想い出の蓄音器】をキャストしたあと、そのまま眠ってしまったのだろう。
 次いでシャーリーが時間を確認すると、まだ10分程度しか経っていなかった。この緊急事態において10分は非常に長い時間として認識されることが七星団では一般的ではあるが、精神世界での体感時間の割には少ししか経っていないことになる。

「確認――浄化は無事に終了しましたか?」
「うんっ、ありがとうだよ――、あっ、無事に終了しました。この度は上官にご足労いただき、誠にありがとうございました……だよ」

「結構――いい機会だから宣言しますが、貴方様にはいつか私めと義理の姉妹になってもらう。だから他の上官にしたら怒られますが、私めに対しては勉強中の敬語を使わなくて結構です」
「? 義理の姉妹? う~ん、シャーリーさんがお兄ちゃんに惚れるようなイベント、時間的に考えてどこにも挟めるはずないのに……」

「結論――敬語は使わなくていい、ということです」
「わかったよ!」

 すると、制服を着終わったイヴは集中治療室の扉のドアノブに手をかけて――、

「ッッッ!?」
「それじゃあ、一緒に行くよ、シャーリーさん」

 流石に本気を出したわけでもなかったし、外部ではなく内部からだし、そもそも今は魔力が欠乏している状態だったのが、それでもあのシャーリーが構築した結界を、イヴはドアノブを捻るついでに無効化してみせた。

「嘆息――病み上がりというか病んでいる真っ最中ですが、仕方がない。一応言っておきますが、ロイ様に闇属性の魔力を流し込んだのは死神ではなくゲハイムニスですから、恐らく、私めでも浄化できません」
「わかっているよ。お兄ちゃんの浄化はわたしがやるよ」
「了解――では、私めは事後処理が少しでも楽になるように、事後処理の事前準備というわけのわからないことをしようと思います」

 そうして、2人の魔術師は最愛のロイが狂い哭く戦場に向かう。

「祈願――貴方様が駆け抜けて、追い付きますように」
「姿は見えていて、声は聞こえていて、伸ばせば手が届く距離にお兄ちゃんはいる。すぐに追い付く。追い付いてみせる。走って走って駆け抜けて、そして自分の想いを告白するんだよ。もう――、我慢できるほど子供じゃないから――――」


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