ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章8話 イヴ、思い出す――(2)



 魔術を発動させた瞬間、シャーリーの視界は暗転した。
 そしてほんの1秒前まで、なにも見えなくなったとはいえ床が存在する集中治療室にいたはずなのに、肉体が自由落下する感覚に襲われる。
 体感時間で10秒、30秒、1分、3分、そして5分程度経った時、松明たいまつもガス燈も用意していない洞窟の中で出口が見えた時のように、遥か彼方に光が芽生え、それは徐々に明るさを増していき――、

「到着――ここがフェイト・ヴィ・レイク様の精神世界、胡散臭くない表現をするならば、多少の語弊は生まれるが夢の中、というわけ」

 シャーリーは周囲――あたり一面の草原を確認する。
 ほぼ確実に敵兵なんて夢の中にいるわけがないが、イヴが今、闇の汚染を受けている以上、痛覚が夢の世界に化物を生んでいる可能性も、メルヘンチックだが否定できない。魔術的な意味ではなく、もともと、人間の夢なんてそのような代物だから。

 この時空が精神世界で、それがイヴのモノである以上、そして激痛に苛まされて程度はどうあれ病んでしまわない人間がいない以上、やはり痛みを偶像化したような敵性の存在の出現は否定できないし。この時空が夢の中だとしても、夢=記憶の整理であると、科学的に結論付けられたわけではないが、ロイの前世で大多数の研究者に支持されている以上、あれだけ凄惨な体験をして意識が途切れたのだから、悪夢を見る可能性が高く、やはり痛みを偶像化した敵性の存在の出現は否定できない。

 が、幸いにもそのようなモンスターの姿はなく、この障害物が一切ない草原では、どこかに隠れている、ということもないだろう。
 そしてそのような草原だからこそ、イヴの姿も早々に発見できた。

「確認――フェイト・ヴィ・レイク様、私めが誰だかわかりますか?」
「あなたは……、特務十二星座部隊のシャーリーさん……、だよ?」

 草の上にじかで体育座りをしていたイヴに、シャーリーは自身も女の子座りをして、目線を合わせたあとに確認した。

 イヴは七星団の入団試験で、シーリーンがジェレミアと戦う前と、そのあとのことを思い出す。
 あの時、イヴはシャーリーとほんの少しだが面識を持ち、シーリーンが話題の中心だったが会話も行った。

 答えが微妙に疑問形だったのは、出会ったのがたった1回、どんなに多くカウントしても入団試験の前と後で2回だった上に、今は意識がボンヤリしているからだろう。

「!? って、わわっ!? わたし、こんなお外で裸になっちゃっているよ!?」
「心配ご無用――私めも全裸、すっぽんぽん。このような機会、一生に一度あるかないかだから、悠長にしている時間はないが、服は着ないでおく。率直に、っていうか時間がないというなら服を着る時間だってないし、そもそもその着る服がどこにもないし」

「ダメだよ!? 誰かに見られたら――」
「それも心配ご無用――ここには誰もこない。私めと貴方様の2人きり」

「えっ……、どういうこと、だよ……?」

 不安そうに瞳を潤ませて、上目遣いでイヴはシャーリーに訊く。

「返答――貴方様は死神の猛攻を全て、少なくとも第1特務執行隠密分隊に降り注いだ分を全て防ぎ切ったあと、医療班に運ばれている最中に意識を失った。今も現実の貴方様は昏睡状態にあり、つまり、ここは現実世界ではなく、貴方様の精神世界、ということになる。私めは魔術を使ってここまできた」

「死神ッッ!? お姉ちゃんは!? シーリーンさんとアリスさんも無事なの!?」
「複雑――結論から言うと、死神は無事、撃退できそう。エルフ・ル・ドーラ様、あっ、アリス様ではなくアリシア様が、王都から死神を吹き飛ばして、人がいない場所で死神を殴ったり蹴ったりしている。あれはもう、ただの消化試合」

「よ、よかったんだよぉ……」
「継続――ただ、まだ続きがあって、死神はどうにかできそうだけど、第1特務執行隠密分隊は今、新たな脅威と戦っていて、十中八九、全滅は免れない」

「なっ……!? ぜ、全滅!?」
「肯定――もちろん、全員が戦えなくなる、という意味の全滅ではない。全員殺される、という意味の全滅です」

「敵は!?」
「真実――敵は貴方様のお兄様、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク様ご本人です」

「………………は? お兄ちゃんが……、敵?」
「補足――厳密には、味方だけど敵の魔術によって暴走し、敵性行動を繰り返すようになった、という説明の方が正しい」

「……そんな…………」
「冷静――ですが安心してください。確かに今、第1特務執行隠密分隊は窮地に晒されていますが、この特務十二星座部隊の【巨蟹】、最強の時の魔術師がなにも対処していないはずがない。幸い、私めにはフェイト・ヴィ・レイク様の事情を全て知っている協力者がいる」

「あっ!? ま、待ってほしいんだよ! お兄ちゃんの事情を全て知っている、って――ッッ!?」
「肯定――私めはフェイト・ヴィ・レイク様……、いえ、ややこしいのでロイ様と呼ぶことにしますが、ロイ様が異世界人ということを知っています。もちろん、彼様の方も、私めが自分の前世を知っている、ということを知っています。秘密裏に知った、というわけではないから安心してほしい」

 呆然とするイヴ。
 あまりにも重大なことを、まるでどこも重大じゃないみたいにサラリと軽く言われたからだ。もちろん、シャーリーだってことの重大さを理解しているので、原因は彼女の認識不足ではなく、独特な喋り方のせいなのだが……。

「そういえば……」

「? 疑問――なんですか?」
「――この草原、なんでだろう? ムズムズ? そわそわ? なんていうか……、思いっきり走り回りたくなってくるんだよ」

「――――」
「あっ、いや! 違うんだよ!? 初等教育の子供みたいに、大人の言うことを聞かないで勝手にどこか行っちゃう感じじゃなくて……、憧れ? に近いんだよ……。でも、まだ、走っても意味がないような気がして……」

「得心――なるほど、この草原はそういうこと。清々しい蒼い空、麗らかな日差し、気持ちがいい優しいそよ風。確かに、爽やかな気持ちで走るのには適している。さらに確かに、この世界は精神世界のようです」

「? どういうことですか、だよ?」
「問題皆無――どうせすぐわかること」

 すると、そこでシャーリーは立ち上がった。
 そしてイヴに手を差し出し、彼女にも立ち上がるように促してあげる。
 イヴがその手を取ると、優しく、シャーリーは彼女が立つのを手伝ってあげた。

「説明――先ほども言いましたが、現実世界の貴方様は昏睡状態にあり、その理由は死神の焔を過剰に浴びてしまったせい。つまり、ロイ様と同様、貴方様は闇に汚染されている。もっとも、皮肉なことに闇耐性が高い貴方様の方に、死神の焔という弱い闇が入り込み、闇耐性が一般人よりは高いはずですが、貴方様と比較すれば子供のようなロイ様に、死神の焔以上の闇が入り込んでしまいましたが」


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