ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章4話 第1特務執行隠密分隊、抗う!(4)



 轟音が響き、土煙が舞い、少女の負傷、致命的流血さえ珍しくない戦場、それにあまりにも似付かぬ純真で、透明で、可憐で、いとけなくて、まるで天使の歌声さえ連想するソプラノボイスが聞こえた。

 同時、天空から無数の鎖の先端が接近して、この鎖はアーティファクトなのだろう、自動的にシーリーンとアリスを拘束する。
 先刻よりも殊更ことさら死を覚悟する2人。自明だ。眼前に死滅の斬撃が迫っているのに正体不明の鎖で理解不能の拘束を受けたのだから。

 が、その2人の恐怖と諦念は杞憂に終わる。
 魔剣の波動が直撃する一瞬前、2人の身体が持ち上がり、足が屋上から離れて宙に浮いた。そしてそのまま猛スピードでどこかへ、否、明確な意思を持ってマリアの方まで2人は運ばれてしまう。
 その速度は本当に神速とも呼ぶべき代物だった。馬車や蒸気機関車なんてあり同然で比較対象にさえ使えず、神竜の飛翔速度とさえ、今のこれは匹敵するだろう。

 唖然とするシーリーンとアリス。なにが起こったのか一切理解できないままマリアの近くで足を屋根の上に着けると、なぜか拘束を受けた時と同様、自動的に鎖は解けた。そして鎖は燐光を放つ粒子になって消失する。
 シーリーン、アリス、マリアが安堵して、次に困惑して互いに顔を見合わせた、その時、1人の銀翼をはためかせた少女が3人の近くに着地する。

「ご…………っ、ごご、っっ、ご無事、で……なにより、です…………」
「ティナちゃん!?」

 と、シーリーンは声を大にして驚く。無論、アリスとマリアも似たような感じだった。
 一方、ティナは注目を浴びるのが恥ずかしいのか、初々しく赤面して顔を俯かせる。

「た、たたた…………っっ、助け、っ、ける……の、が遅れて、し、ま、い、ごっ、ゴメン……なさい…………。その…………、ワタ、シ…………、なかなか勇気が………………出せ、なくて…………。っっ……、でも、こ、のまま、じゃ……、ダメだ、って…………、そう、思っ、た、ので……」

 本来、ティナに戦う義務はない。七星団に入団していないし、徴兵の指示を受けていないのだから当然だ。

 必然、ティナがマリアの指示に従い避難所の責任者に報告を済ませたあと、彼女はその責任者から礼を言われ、あとは我々に任せて避難してください、と、新たな指示を受けた。
 七星団の名誉のために明らかにしておくと、別に、結果的にこのような押され気味の展開になったのに、自分たちで充分余裕だからティナに任せて、と、言ったわけではない。王国の平和と秩序を維持し、国民の代わりに剣を振るい魔術を撃つのが七星団の団員だったため、いわゆる正義に駆られてその責任者はそう口にしたのだ。まして、ティナは女性で、しかも子供だから。

 それはともかく、その時、ティナは葛藤した。
 つい数時間前、敬愛していた祖父の墓前でニコラスに、あの戦争の熟練者、歴戦の猛者、特務十二星座部隊の【宝瓶】に語ったばかりではないか。戦争は好きじゃない。ケガするのも怖い。だけど、みんなが頑張っているのに自分だけ頑張らないと、モヤモヤする。そして、自分はみんなより絶対に弱いけど、少しでも力になれたら、と。
 ティナはその時のことを回想する。その発言に嘘も偽りもない。ただ、勇気が持てず、覚悟を決められなかっただけ。死ぬのは誰だって怖いし、ケガしたら誰だって痛いし、それを克服して戦場に立つなんて、そんなことができるのは一握りの英雄だから。

 だが避難所の責任者に指示された時、見てしまったのだ。自分の好きな男の子が苦しんでいる姿を。自分の親しい先輩たちが窮地に陥っている様子を。そしてその数分後にはゴーレムが出現して、それらと戦う七星団の団員たちを。
 ティナは七星団の団員に文句を言うようなことはしない。流石にそれはお門違いということは理解している。確かに自分の知り合いが死にそうなのだから、そちらを助けてほしいという気持ちは強い。が、討伐及び拘束の優先順位を考えた時、避難する国民に対しどちらが距離を詰めているかと問われれば、当然ゴーレムの方で、畢竟、七星団が先に対処するべきはゴーレムということになってしまう。

 その時、ティナは自分の立ち位置を考えた。
 そう、自分は勇気を持てず、覚悟を決めることができず、戦うことから目を背けていた臆病者で、どこからどう考えても『七星団の団員ではない』のだ。

 つまり見方を変えれば――誰の指示にも従う必要はない。

 協力してくれるなら先にゴーレムを倒せ、と、言われても従う必要はないし。
 先輩たちを見殺しにして、好きな男の子が苦しんでいる姿を無視して逃げろ、と、指示されても従う必要はないし。
 最後に、七星団の団員たちに「助けてあげて!」と懇願するなら、それよりも先に、自分の口で「助けにきました!」と言った方が、戦死した祖父も誇らしいだろう。

 残念なことに、自分に親しい人が死ぬのが一度目だったなら、ティナは動くことができなかっただろう。ハッキリと明かすが、ティナの心はそこまで強くないし、性格だって強気とは正反対で気弱だ。自分の強さを裏付ける実績、例えば魔術競技で優秀な成績を修めるとか、模擬戦で100連勝とか、そういう栄光があれば別だったかもしれないが、ティナにはただの1つとしてそういうモノはない。
 だが、ティナはすでに戦争で祖父を亡くしている。もう、祖父のような戦死者を増やしたくない。

 ゆえに、ティナが、葛藤の最後に、辿り着いた結論とは――――自分が死ぬ恐怖が勇気を上回って動けないなら、勇気ではなく、親しい人が死ぬ恐怖で自分が死ぬ恐怖を克服してみせる、というモノだった。
 だからこそ、今、ティナはシーリーンとアリスとマリアに――、

「~~~~っっ、ワ、っ、タシも、微力ながら戦います!」

 緊張しながらも、明確に宣言する。
 それに対し、シーリーンとアリスとマリアは頷いて応えた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッッッ!!!!!」

 ティナの参戦が決定したのと同時、闇の獣と化したロイが原始的な雄叫びを上げる。
 4人が建物の屋上から雄叫びが聞こえた方を見下ろすと――、
 ――そこには四方八方から伸びた鎖によって繋がれているロイの姿が。

「はぅ…………、っ、っ、っっ、封縛天鎖……、……、が…………、ッッ、ち、千切られそ…………うで、す、っっ……」
「あれって、シィたちを助けてくれたアーティファクトだよね?」

「は、ぃ…………、鎖……の、方が封縛天鎖、で……、この翼……の、方が空守銀翼、です……。その……、あの……、えぇ、っと……、おじ……い、ちゃんが、剣術でも、魔術でも、な、く、アーティ……ファ、クト…………を、使っ、て、戦ってい…………たの、で、憧……れて、真似……して、作……り続……けて、い、たんです……」
「と、いうことは、ティナちゃんもアーティファクト使いっていうわけですね」

「ティナちゃん、魔術の方はどれぐらい使える?」
「す、っっ、み、ません…………、【魔弾】が最大フィフスキャスト、【魔術大砲】が詠唱を使ってシングルキャスト、他には…………、魔術防壁、治癒魔術、肉体強化、索敵魔術、重力操作…………ぐら、いです……」

 確かに今、ロイが暴走を再開するまで時間はなかったが、それでもアリスはティナを戦力として迎える以上、彼女が使える魔術を全員で共有しておくべきだと考えた。使える魔術さえわかれば、だいたいの魔術師としての力量、つまり戦闘能力もわかるから。
 この人がゴミみたいに簡単に死ぬような局面で見栄を張ってはいけない。ゆえにティナは正直に答えたのだったが、それでも、自分の実力不足が露呈して恥ずかしかったのか、徐々に声を小さくして、先刻よりもさらに頬を赤らめた。本当はティナだって、アリスとマリアと比べたら弱いが、同年代の学生の中では優秀な部類に入るのに……。

「ティナちゃん……、まさかそれって………、っっ」
「驚愕ですね……っ、まさかそんなことが……っ」

「う、ぅ…………、ゴメ…………ンなさい、ア、リスさん…………。マリアさ、ん……。ワ、タ、シ、役、立、たず、足……手まと…………」

「シィより強いじゃない!」
「シーリーンさんが使えない重力操作を使えるんですね!」

「ぐふぅ……っ」

 精神的に吐血してしまうシーリーン。
 一方、ティナは自分がシーリーンより強いと言われて困惑を隠せない。正直失礼ながらも(シーリーンさん……、どうやって入団試験を突破したんだろう……?)という視線をどうしても向けてしまう。


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く