ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章3話 第1特務執行隠密分隊、抗う!(3)
強引に苦悶を押し殺した嗚咽を漏らし、着地と同時に崩れ落ちたシーリーン、彼女の腕から飛んでしまったアリスは自分の失態を猛烈に悔いる。私がロイの魔術妨害魔術を上手く対処していれば、シィが負傷することはなかったのに、と。
しかしその事実に嘆いている時間はない。自分の眼前で音を立て、受け身さえ取れず倒れ、挙句、腹部から鮮血を零し、七星団の制服を無残な真紅に染めるシーリーン。アリスは彼女に治癒魔術をキャストすべく、まずはなんとか綺麗に着地してみせる。
次いでアリスはシーリーンに近付き、横たわらせて、即行で治癒魔術をキャストした。
翻り、マリアは魔剣を構え接近するロイと一定の距離を保つため、建造物の屋上を疾走し、跳躍し、牽制の魔術を連続で撃ちながらシーリーンとアリスから離れようとしていた。無論、シーリーンに対するヒーリングを邪魔されないためである。
(…………っぅ、いくらなんでも救援が遅すぎますね! いったいなにが…………ッッ!)
眼球に遠視の魔術をキャストするマリア。
そして公園の方向を一瞥すると、そこにはいつの間にか岩石で構築された自律駆動魔術兵、いわゆるゴーレムが100体は下らないほど出現していた。そしてその命、意思、自我がないゆえに死を恐れない土塊の敵兵は、第1特務執行隠密分隊を援護、救出すべく駆け付けようとした七星団の団員たちを足止めしている。
「…………ッッ! なんなんですか、あれはァ!? いったい、王都、それも結界の内部に何体の敵兵がいるんですかァ…………ッッ!?」
マリアは苛立ち交じりの咆哮で喉を嗄らす。口の内部には血の味が広がって、援軍の可能性が絶望的と認識したことによって、心臓が強く跳ねて背中に戦慄が奔った。
今のマリアに知る由は皆無だったが、そのゴーレムはゲハイムニスの置き土産だった。要するに、ロイの暴走を邪魔するヤツはそれを妨害してやる、という意味の。
(どうするどうするどうする!? 幸い、弟くんはアリスさんの魔術の効果で、周囲の建物が透明にしか見えていませんからね! わたしのことを追えるのは、わたしが足場にした座標を、同じく自分の足場にしているから! なら…………ッッ!)
マリアは肉体強化、加えて重力操作の魔術を脳内に貯蓄する。
そして適当な屋上に着地して、ロイが追ってきているのを確認したあと、貯蓄していた魔術を解放し、それを全力で発動しながら再度跳躍した。
結果、地面が揺れ、地鳴りが轟き、衝撃と強烈な重力によってその建物は崩壊。
先刻までマリアがいた場所と同一の座標に着地しようとしたロイは、足場が突如消滅してしまったため、崩壊する建物とともに地面に落下してしまう。
が、しかし、完全に墜落する直前、ロイはエクスカリバーの切っ先を伸ばし、それを崩壊していない近隣の建物の壁面に突き刺す。次いで魔剣の刀身を本来の状態に戻した結果、先端は固定されているのにロイの方は自由落下している状態だったので、建物の壁面にロイはまるで吸い寄せられるように機動を果たす。
さらに壁面にもう少しで到達するというタイミングで、魔剣の強引に引っこ抜き、今度はマリアが立っていた建物の壁面に、切っ先を伸ばして突き刺した。
(…………ッッ! 崩落の土煙で透明化された建物の大まかな規模と形状を把握されましたね…………ッッ! そして弟くんは先刻の技術、立体的機動ですぐにわたしのもとに到着する………。今、わたしはだいぶ体勢が整っていて、逆に弟くんはエクスカリバーがあると言っても空中を移動している最中。なら、ここで迎撃ですね!)
マリアは逡巡する。攻撃力を重視するか、手数を重視するか、を。どうせロイの現在の実力を考慮すれば、特務十二星座部隊レベルの実力があるならならまだしも、マリアの魔術ではどんな威力の攻撃であっても致命傷には至らない。それより、ロイのあの反則的なまでの機動力を制限する方が戦闘を有利に進められるだろう。
なら――、
「術式編纂! 【魔弾】! フィフティーンスキャスト! 軌道残留! 加速跳弾! 編纂終了! 往きますね……ッッ! 一斉射出ッッッ!!!」
刹那、マリアの周囲の虚空から、15個にも及ぶ淡い燐光を放つ魔力の弾丸が射出された。全弾、ロイに対して直線的に迫るのではなく、逆に四方の建物の外壁にばかり着弾。ただの1つとしてロイを撃ち抜いた弾丸はなく、しかし、それで問題は皆無だった。
建物、つまりは固体に命中した弾丸は15個全て跳弾し、加速し、さらに別の面に命中すると再度跳弾し、再度加速し、それを繰り返し始め、畢竟、先刻崩壊した建物があった場所は今、弾丸の嵐が支配することに。
しかもそれだけではない。弾丸の軌跡、燐光の残像は具象化を果たし、一種の鋭利なワイヤーとしての役割を担う。ロイが勢い良く飛び込んだら最後、致命傷には至らなくても戦闘不能には確実に陥ってしまうだろう。
ロイとイヴとマリアの両親が王都に来訪した時に明らかになったのだが、マリアは七星団学院の高等教育で魔術開発を専攻していた。具体的には新しい魔術を開発したり、既存の魔術の強化や軽量化、効率化を計算したりする魔術的研究である。
ゆえに、彼女は学院での研鑽を充分に活かし、即興で【魔弾】に従来とは逸脱した特殊効果を宿してみせる。
魔力を揺らし、術式を組み合わせて魔術が発動するのだ。ならば振動を工夫して基本的な術式とは絶妙に違った術式を用意、そしてそれを組み合わせれば特殊効果を宿した魔術の完成というわけ。
それに対してロイは理性を剥奪されながらも瞠目せざるを得ない。
が、しかし、彼の驚愕は一瞬で収まった。
次いで、ロイは建物に突き刺していた魔剣の切っ先を引き抜いて、刀身の大きさを本来の状態に戻した。万物を斬り裂く性能を切っ先に宿せば引き抜くのは至極簡単で、それをしたあとに刀身を本来の状態にすれば、魔剣の先端に引っ張られることはないということである。
最後にロイは自由落下しながら魔剣を構える。腐乱死体に群がる蛆虫のように蠢き、ドブに集る蠅の大群のように騒めき、卵の内部で解放を待つ飛蝗の幼虫のようにひしめき合う漆黒に輝く闇属性の魔力。
それを認識した瞬間、マリアの血の気は一気に引いて、顔面は青ざめ、背中にはこの世のモノとは思えない、ありとあらゆる気持ち悪さという気持ち悪さを厳選し、濃縮した吐き気を催す悪寒が奔る。
実の姉の絶望に染まる表情に感慨など微塵もなく、ロイはそのまま、四方を囲む建物、その1棟に対して空ぶるように魔剣に振り下ろした。
「魔剣…………の、波動ォォォ…………ッッッ!」
単純な話だ。ピンボールがピンボールたる所以は四方が壁に囲まれて、一定領域から跳弾が行方不明にならないことにある。ならば必定、四方を塞ぐどれかを破壊してしまえば済むだけの話でしかない。
が、ここまでは子供だって思い付く攻略法だ。ゆえに、マリアが絶望した理由は他にある。
即ち、魔剣の波動の進行方向には未だ治癒魔術を受けていたシーリーンと、彼女に付き添っていたアリスがいたのである。
魔剣の波動の威力は城壁を穿つほどで、速度は例のごとく蒸気機関車さえ彷彿とさせる。確かに死神の焔より威力は低いが、今、シーリーンとアリスは魔術防壁を展開できる状態ではなく、かといって、アリスがシーリーンを運ぶには魔剣の波動は速すぎる。
迫りくる死滅の斬撃を眼前に控え、シーリーンとアリスが恐怖で思わず目を瞑る。
ロイは本気で2人を殺す気だ。
そして七星団の団員はゴーレムの相手で精一杯。
マリアがいくら肉体強化をキャストしたところで、彼我の距離は50m以上離れている。
つまり、2人の救出はどこからどう考えても絶望的。
それを理解してしまい、マリアが息を呑んだその時だった。
「――――ッッ、Connect my labyrinth !  Vanish my crime !  I deploy bloody artifact ! 繋げッッ、封縛天鎖――ッッッ!」
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