ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章11話 ロイ、チカラを与えられる。(2)
「なるほど……ッ、なるほど……ッ、そうくるか! そうきたか! 運命はそのように収束するのか……ッ! このような歓喜は数年ぶりだ……ッ! とうの昔に感情なんて死滅したと思っていたが、まだ俺の中に燻っていたなんてな……ッ! 今、俺は世界に愛されている……ッ!」
「な、なにを言って……っ」
「――懐かしいな、久しいな、ロイ」
「は? 懐かしい? 久しい?」
強く訝しむロイ。彼は眼前の魔王軍の軍人に、変人を見下すような視線を向けた。当然だろう。ロイにはこの男との面識がないのだから。と、いうより、ロイはこの男に限らず、魔王軍の軍人と誰ひとりとして知り合いではない。出会って、戦闘に発展すれば、基本的にはどちらかが死んでしまい、次にそいつと会う、ということはなくなってしまうから。
ゆえにこの男とは初対面。
しかし、当の男の方はまるでそれを意に介さず話を続けた。
「――――嗚呼、実に僥倖だ。この出会いは奇跡にさえ相当する。今宵の目的はイヴだけとエルヴィスには伝えたが、前言撤回させてもらおう。なるほど、運命は少なくとも今、俺を味方しているらしい」
「なにを言っている? 頭、大丈夫か?」
男はロイを置いてけぼりにして、1人で歓喜に打ち震えていた。まるで本物の神からの奇跡を目の当たりにした宗教の信者のように。
いや、事実、その男にとっては、ロイとのこの出会いが本当に奇跡だったのだろう。でなければ、これほどまでにどこか感動にも似た興奮、あるいは興奮にも似た感動で嗤うわけがない。
「一応、自己紹介をしておこう」
「――――」
「俺は魔王軍最上層部、純血遵守派閥、黒天蓋の序列第6位、ゲハイムニス」
「…………ッッッ!」
戦慄するロイ。
常識的に考えてありえなかった。意味不明、理解不能だった。七星団は今までの戦争で、誰一人として魔王軍の最上層部の構成員を暴けていなかった。だというのに、そのうちの2人が同じ夜に明らかになって、しかも2人とも王都に侵入を果たしている?
ロイは自分の身体に灼け杭を打つように深く実感した。
歴史が動いた日、というのは、まさに今日のことを言うのだろう、と。
「安心しろ、俺はお前を殺さない。ただ――」
「ただ?」
「1つ、質問したいことがある」
「それは?」
「この世界を、愛しているか?」
率直に思って意味不明だった。もし眼前の男が本当に魔王軍最上層部の一員なら危険極まりないのだが、この質問を鑑みると、頭がおかしい不審者、という意味でも危険に思えてくる。戦いたくない、という意味の他に、あまりこんなヤツと関わり合いたくない、という意味でも。
だが、別に質問の内容を理解できない、という意味ではない。突拍子もないだけであり、きちんと質問として成立はしている。
十中八九、相手は自分よりも圧倒的に強いのだ。質問に答えれば殺さない、と、そういう空気を漂わせている以上、もちろんそれがウソの可能性もあるが、質問に答えても損はないだろう。なにも、軍事機密に関わる質問というわけでもない。
「当然、ボクはこの世界が好きだ。愛している」
それは間違いなくロイの本心だった、一度死んで転生して、もう一度死んで死者蘇生の魔術をキャストされたロイには、この世界を誰よりも美しく認識する感受性が備わっている。よく、病院で患者が病から快復すると、世界が輝いて見える、と、そういう感想を持つことが多いが、ロイの場合はそれの最上級だ。
生きているだけで幸せ。生きていることが最高の喜び。この世界に命を与えられたことは奇跡に等しい。そして、彼にとって生きていること、というのは、当然だが世界に存在を主張する、ということ。
結果、ロイが世界を愛しているのは、なんら不思議ではない事実でしかなかった。
しかし、だというのに、ゲハイムニスはそれを嘲笑する。
「それは、シーリーン・ピュアフーリー・ラ・ヴ・ハートを、ではなくてか?」
「どういう意味だ?」
ロイは本気で意味がわからなかった。なぜそこでシーリーンの名前が出てくるのか?
相手は魔王軍の最上層部の一員だ。シーリーンの本名ぐらい調べる気になればあっという間に調べ終わるのだろう。が、それを無視したとしても、世界を愛しているか否かと、とシーリーンの存在なんて、ロイの頭ではどこからどう考えても関係はなかった。
それを察して、ゲハイムニスは問いを続ける。
「――お前はシーリーン、アリス、ヴィクトリアと結ばれているようだが、仮に、この3人が死んだとしよう。老衰でも病死でも事故死でもなんでもいいが、できるなら戦死を想定してくれるとありがたい。で、だ。お前は世界を愛しているのだから、3人がいなくなっても、当然、3人を亡き者にした世界を恨まないよな?」
ようやく、ここでロイはゲハイムニスに言いたいことを理解した。
つまり、彼がロイに訊きたかったのは――、
「端的に言って、絶望しないか? 世界を呪わないか? 愛する者が死んだあと、慟哭し、懊悩し、後悔し、懺悔し、狂い壊れ咽び泣き、ただの1つでも、この世界に生きている価値、希望を見出せるか?」
刹那、ロイの頭は沸騰したように熱くなる。カッとなってしまった。
反論の余地はまだまだ充分に残っている。その上、相手が強くても、意見の言い合いならそれは関係ないし、幸い、相手はこちらを殺さないと明言しているのだ。反論は現実的に考えて可能だし、むしろ不可能な理由を探す方が難しいだろう。
だが、自分のことを見透かされ、先読みされたのもまた事実。
確かにシーリーンたちのうち誰か1人でも死んだら、自分は自殺を考えるほど思い詰めて然るべきだ。
「…………ッッ、それは、確かに悲しいことかもしれない。でも……ッッッ!」
「でも、それを乗り越える、とでも言うつもりか?」
まるで見下すように、もはや憐憫さえ覚える、と、いった態度で、ゲハイムニスはロイの言うことを先回りする。口角はロイをバカにするように上を向いていて、ロイに向けられている視線は常に冷徹。いかにもロイのことを知ったような口ぶりだった。
それを遠回しな挑発と受け取ったロイ。
必然、彼は憮然とした表情と声音で――、
「それのなにが悪い……ッ」
自分の方が格下ということは重々理解している。それでも、ロイは反論の想いと敵意、殺意を込めてゲハイムニスを睨み付けた。幸いにも自分はなぜか殺されないようだし、この譲れない一線だけは、意地でも守ってみせよう、と。
が、続くゲハイムニスの返事は、ロイの予想をいい意味で裏切るようなモノだった。
即ち――、
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