ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章6話 シャーリー、辿り着く!(6)
そう、以前、シーリーンは魔王軍のスパイであった死霊術師、クリストフの情報を脳内で確認したのだったが、その情報はもともとセシリアから提供されたモノ。では、その時、セシリアに情報を提供した『とある男』とはいったい誰だったのか? そう、その答えもガクトなのである。
今となってはだいたいの情報を絞り尽くしたガクトの脳みそであったが、ほんの数週間前までは大切な情報源として扱われていたことは言うまでもない。
もちろん、シャーリーはこれを当然のように知っていた。と、いうより、以前、ロイに『ガクトの死体は今、七星団の情報収集班と司法解剖室の連中が魔術を使い分析して、脳を弄られているらしい』と説明したのはシャーリー本人なのだ。知っていないわけがないだろう。
こうして、シャーリーはその男性に案内されて、解剖室のさらに奥、死体保管室へ。
そこには魔術で強度を底上げされた大きなガラスの円筒があり、その中は培養液で満たされていて、さらにそこには生き物の脳みそが浮いている。で、その強化されたガラスの筒が左右に奥まで何十本も。
「こちらがガクト元小隊長の脳になります。身体はすでに焼却してしまいましたが……」
「感謝――問題ない、ありがとう」
「しかしこいつの脳みそには問題がございまして……」
「疑問――問題とは?」
「恐らく敵軍が情報の漏洩を恐れたのでしょう。死んだ瞬間に特に重要、機密事項とされる記憶が全て消去されておりまして……。復元できるところまで復元したのですが、これ以上はもう……」
つまり、これ以上は有益な情報を期待できない、と、男性は暗にそう言っている。
だが、その程度の問題、オーバーメイジであるシャーリーからしたら些末な事情でしかなかった。
ゆえに、シャーリーは宗教の色が強いグーテランドでは信じられないことを、事もなげにさらり、と、言ってのける。
即ち――、
「単純――なら、時を巻き戻す」
「…………ッッ!? なっ!? そ、そそ、っ、それはシャーリー様! 死者蘇生に該当するのでは!?」
狼狽する解剖室の男性。
しかしシャーリーは真剣な表情のままで、意見を撤回する気はないらしい。
「反論――心臓がないのにどうやって脳みその毛細血管に血液を循環させる? あくまでも私めが今再生するのは、主成分がタンパク質の塊であり、ソウルコードを含んだ魂ではない」
確かにシャーリーの言っていることは理解できる。
だが理解できることと納得できることは別物だ。
シャーリーの方が上官だから反論は基本的に許されないが、その下手すれば、一歩でも間違えれば神様への冒涜にも繋がりかねない大胆な提案に、思わず男性は生唾を呑む。
「だ、大丈夫……なんですね?」
「愚問――それに、仮に禁忌条項に該当しても、罰せられるのは私めであり、貴方様ではない。安心してほしい」
そしてシャーリーはガクトの脳みそが浮いている培養液、それで満たされている円筒型のガラスに手を添えた。
そして――、
「発動――【限定的な虚数時間】! そして【想い出の蓄音器】!」
まずはガクトの脳みそを彼が死ぬ10分前の状態に再生する。その上で、記憶をスキャンするシャーリー。
膨大な量の情報が彼女の頭の中に流れ込んでくる。ガクトの幼少期、彼が七星団に入団した理由、彼が魔王軍にも入団した理由、そしてどのような心境でロイを殺そうとしたのか。彼にまつわる森羅万象がシャーリーの頭の中にドンドン蓄積されていった。流石に、ロイの時のようにそれで恋に落ちる、ということはなかったが……。それを防ぐために今回は情報を取捨選択したし、仮にそれをしなかったとしても、ロイの生き様は他の誰と比べても圧倒的だから……。
と、そこで、シャーリーはひとつの情報に行き当たった。
この時、彼女はイヴに関する真相の全てを知ることになる。
つまり、『こういうこと』だ。
例えばロイがツァールトクヴェレでリザードマンを殺したあと、魔王軍の会議にガクトも参列していたのだが、その時、すでにロイによって殺されているが、当時魔王軍の幹部だった死霊術師は「そして、ロイ少年との戦闘行為は原則として禁止だ。これは返り討ちに遭うかもしれないからではなく、ロイ少年に、ソウルコードの改竄者の守護者としての役割を果たさせないためだ。守護者として絶対に覚醒する! と、断言はできないが、かといって覚醒なんてするわけがない、と、言い切ることもできない。不用意に藪を突くな。ヘビが出る恐れがある」と言っていた。
また、ロイとガクトが殺し合う前、ガクトは念話のアーティファクトでやはり魔王軍の会議に参加していたのだが、その時も、死霊術師は「前回の会議ではロイに対して、不用意に藪をつつくな、蛇が出るぞ、と、言ったが、こうしてイヴと距離を上手く離してしまえばどうということはない。覚醒する恐れはないだろう」「重要度はロイよりもイヴの方が上だ。ロイを殺すよりも、守護者がいなくなったイヴを今のうちに殺しておく、という感覚で作戦に臨んでほしい」と言っていた。
その情報をスキャンした瞬間、戦慄に次ぐ戦慄に次ぐ戦慄。
途方もない違和感を覚えて、シャーリーは身体を強く震わせた。
それを踏まえて、彼女は悩む。答えに辿り着くべく考えて、考え続けて、考え抜く。
(困惑――ソウルコードの改竄者の守護者とはどういうこと!? フェイト・ヴィ・レイク様が覚醒するとはどういうこと!? 覚醒と守護者というワード、今、初めて知った。でも……)
おかしかった。辻褄があわない。なぜならば、前回の大規模戦闘でロイはすでに1回死んでいるから。どこからどう考えても、最終的には助かったが、イヴのことを遺して逝っている。これでは守護者と呼べるわけがないし、それに関しては、魔王軍の策略にハマって守護者としての役割を果たせなかった、と、解釈できるが……ロイはピンチに陥っても覚醒した試しがない。
いや、違う。
むしろ逆なのではないか?
(停止――待ってほしい、覚醒と言われて連想するのは、むしろフェイト・ヴィ・レイク様よりも妹様の方なのでは?)
確かに、むしろ覚醒している状態と呼べるのは、改竄者本人であるイヴの方だった。
例えばトパーズの月の13日の朝、イヴはレナードの聖剣アスカロンを完璧に無効化できていた。しかもあの時、レナードはイヴではなくロイに向かって、それも正面からではなく不意打ちをしたのに。
他には、別荘に魔術で放火された時、明確にイヴの才能が頭角を現し始めたのはこの頃だった。その時まで誰も知らなかったのに、なぜか、イヴは【絶光七色】さえ詠唱破棄でキャストできるように急成長している。
つまり――、
(逆転――と、いうことは、もしかして逆? フェイト・ヴィ・レイク様を守るために、妹様が存在している? もしくはオトリ? アシスト? ――あっ、もっと単純に、ヒーラーでいいんだ! いや! もういっそのこと、守護者でもあるし、オトリでもあるし、アシストでもあるし、ヒーラーでもあるんだ! ソウルコードの改竄の結果、副産物として光属性の魔術適性がカンストしたのではなく、その役割を果たすため、光属性の魔術適性をカンストさせるために、ソウルコードを改竄した。因果関係が逆なんだ!)
加速度的に繋がっていく点と点。
シャーリーはまるでジグソーパズルの終盤、残っていたパーツが連鎖的にハマっていくような爽快感、カタルシスさえ覚えてしまう。
もう少しで、このイヴにまつわるジグソーパズルは完成する。
完成形が今にも見えそう。
(推測――となると、最後に残っている謎は、妹様の正体。ソウルコードの改竄といえば、神様が思い浮かぶけど……、ッッ)
その時、シャーリーは七星団の団員の中で、初めてイヴの正体に辿り着いた。
まるで落雷に撃たれたかのような衝撃がシャーリーを襲う。
今ここに、死神が出現する前、特務十二星座部隊が会議していた時、シャーリーが『私めは間違いなくこのソウルコードをどこかで見たことがある!』と思考していた伏線を回収する。
(判明! 判明! 判明! ――ようやく! ようやく私めが、どこで改竄前の妹様のソウルコードを見たか思い出せた! これは本来、思い出せなくて当然なんだけど! でも、全てが繋がった!)
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