ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章5話 シャーリー、辿り着く!(5)



「オイ! 大丈夫か!?」
「感謝――心配ご無用。けれど、1つ、貴方様にお願いしたいことがある」
「お前……」

 ロバートはシャーリーから発せられている魔力反応を感知する。いくら【限定的な虚数時間】でも、術者の魔力までは再生できない。それまで再生してしまうと、【限定的な虚数時間】をキャストした、という事実にまで【限定的な虚数時間】が発動するからだ。

 結果、シャーリーには今、2つの症状が現れている。
 魔力欠乏症と、脳と身体の神経の吐き気を催すほどの齟齬、解離。

 それを見て、ロバートは(クソメンドくせぇが、仕方がねぇ……ッ)と思い、シャーリーのお願いを受けることを決めた。

「チッ……、なんだ? 言うだけ言ってみろ」

 と、そこでシャーリーは『なぜ自分が死神の方ではなく、ロイの方に駆け付けたのか』を改めて思い返す。

(思考――私めは今回、フェイト・ヴィ・レイク様のもとに駆け付けたが、他の特務十二星座部隊の団員のうち数名は、普通、死神の方に駆け付けるはず)

 それは当然のことだ。
 特務十二星座部隊のうち9人がロイ=異世界人ということを知らない。だというのにあの凄惨な災禍を振り撒く死神を無視することなんて、できるわけがなかった。事実、すでにこの段階でニコラスが死神に対して包囲網を敷き、セシリアたちが結界を展開しているのだから。

(必然――なら、そっちは大丈夫。ゆえに私めは謎を解きに行く。死神の狙いは間違いなく妹様のはず。それはあの魔術防壁を見れば明らか)

 それも当然のことだった。
 誰だってこの状況を見たら、死神の標的はイヴ、と、そう結論付けるだろう。死神のもとに他の特務十二星座部隊が駆け付ける、という前提がある以上、シャーリーには多少のセオリーから外れた行動が許されることになる。加えて言うならば、特務十二星座部隊の12人には独断専行の権限もあるのだから。
 ゆえに、シャーリーが出した答えとは――、

(結論――つまり、例え死神と意思疎通できなくても、『同じ目的を持っていた別の魔王軍の軍人』を調査すれば、死神の目的もわかるはず!)

 と、ここでようやくシャーリーはふらつきながらも、立ち上がることに成功する。
 荒くて浅い呼吸を繰り返し、吐き気を催し口元と腹部を1回だけ抑えるシャーリー。
 一応、ロバートも今にも死にそうな彼女を放っておけなかったのか、肩を貸してくれた。

「自嘲――私めは空属性の魔術が貴方様より得意ではなく、まして、今は魔力が欠乏している状態」

「ああ、それで?」
「代替――私めの代わりに、私めを連れて跳躍、空間転移してほしい」

「ハァ!? こんな時にどこへ!?」
「行き先指定――癒しの都、ツァールトクヴェレに」

 確実とはいえないが、恐らくそこに、シャーリーが求める答えがあるはずだった。

 一方で、ロバートは一瞬だけ逡巡する。王都に死神だけではなく【土葬のサトゥルヌス】が紛れ込んでいた以上、あと何人、特務十二星座部隊レベルの敵兵が潜んでいるかわかったものではない。
 流石に自分たちレベルの実力者がそう簡単にいるわけがないが、それでも、あと1人か2人なら可能性はある。それを否定できない。

 だというのに、この自分以上に敵軍の戦力を思い知ったシャーリーは王都の外へ空間転移しろ、と、頼んでくる。否、それはもはや懇願という領域だった。

 しかし、いったん考えるロバート。
 この極めて重要な局面で王都から離れる。その行動が無意味なわけがないだろう、と。

「ケッ、仕方がねぇなァ! エドワードのヤツに、こんな非常事態にどこに行っていたんですか? って訊かれたら、シャーリーに指示されてツァールトクヴェレに行っていた。理由はあいつに訊きやがれ、って言うからな!?」

「感謝――ツンデレ、乙」
「なんだそりゃ?」

「失念――空間転移の前に時間停止を解除しないと」
「そりゃそうだ」

 言うと、ロバートはシャーリーを支えていない方の腕の手で、パチン、と、指を鳴らした。
 瞬間、周囲の景色が一変する。王都の街並みが、一瞬にしてツァールトクヴェレの七星団の要塞の内部に変貌を遂げた。

 これこそがセシリアたちが展開していた【色彩放つファルベシェーン・光輝瞬煌のグランツェント・聖硝子アウローラ】が内側から破壊されて、セシリアが遠視の魔術をキャストして確認したのに、シャーリーを発見できなかった理由である。

 それで、2人の着地点は要塞の廊下だったのだが、周囲に七星団のツァールトクヴェレに配属されている団員たちがいたため、彼ら彼女らは特務十二星座部隊の突然の登場に驚きを隠せない。当然だ。今の王都の状況はツァールトクヴェレにも伝わっているし、表面上、ケガをしたようには見えないが、シャーリーはロバートに肩を貸してもらっているのだから。
 が、今はそのようなことを気にしている場合ではない。

「とりあえず要塞の中でいいか?」
「幸運――そうそう、ちょうどいい、要塞の中に用があった。貴方様はここで10分ほど待機していてほしい」
「チッ! 一応言っておくがよォ、俺様の方が星の序列、上なんだからなァ!?」

 手短にやり取りを済ませると、シャーリーは死に物狂いで要塞の内部、廊下を走り抜ける。正直、体力はもとに戻っているのだが、魔力の欠乏と脳と身体の認識の齟齬、解離のせいで、今にも気絶してぶっ倒れて、10日間は意識を取り戻せないぐらい気持ち悪いのに。

 だが、それでもシャーリーは走る。
 目的の場所は――魔術的司法解剖室。

 それは解剖室、準備室、事務室、死体保管室の4部屋で構成されているのだが、具体的には事務室と死体保管室の2部屋。
 そこの前に辿り着くと、シャーリーは勢いよくドアを開けた。

「なっ!? 特務十二星座部隊のシャーリー様!? なぜこちらに!?」

 と、七星団の男性が強く驚く。もちろん、彼だけではなく、そこにいた全員が。
 あまり確信が持てない推測だが、代表して声を上げた、ということは、彼が司法解剖室で一番役職が上なのだろう。

「恐縮――質問に答えている暇はない。とある男の死体を探している」
「わ、っ、わかりました、すぐに死体保管室にご案内いたします」

 男性はかなり迅速に対応してくれそうであった。
 恐らく、王都の現状を知っており、それに関連することをシャーリーが調べにきた、と、推測したはず。と、いうより、このタイミングでシャーリーがここにくるなんて、それしか理由がないのだから。

「それで、誰の死体を?」

 当然のことを男性は問う。それを知らなければ話が進まないからだ。

 対してシャーリーはついに今――、
 その男の名前を明らかにして――、
 いざ、一連の出来事の核心に――、

「返事――姓は忘れたが、以前、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク殿下と殺し合って敗北した裏切り者、ガクト元小隊長の死体を探している」


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